骰子の眼

cinema

2011-12-11 16:50


在日コリアン3世の若きストライカーを追ったドキュメンタリー

12/10より公開の映画『TESE』監督インタビュー
在日コリアン3世の若きストライカーを追ったドキュメンタリー
©2011「TESE」製作委員会

川崎フロンターレに所属していたJリーガー時代には、リーグ戦通算40以上のゴールを記録するフォワードとして活躍し、昨年ドイツ・ブンデスリーガのVfLボーフム移籍した鄭大世(チョン・テセ)選手。1984年名古屋生まれの在日コリアン3世で、朝鮮学校で教育を受け、父と同じ韓国籍だが本人は北朝鮮を祖国とみなしている。2007年に念願の北朝鮮代表入りを果たし、2009年には北朝鮮を44年ぶりのワールドカップ出場へと導いた。その大世選手を3年半にわたり密着したドキュメンタリー映画が公開される。監督は大世選手と同じ在日コリアン3世の映像ディレクター、姜成明(カン・ソンミョン)氏。本作の製作に至った経緯を姜監督に聞いた。


──監督はテレビ番組の映像ディレクターが本業ですが、本作『TESE』を映画にしようと思ったきっかけを教えてください。

僕は高校まで12年間、朝鮮学校に通っていたんですが、今、柏レイソルにいる安英学(アン・ヨンハ)選手は同級生でした。彼は在日として初めて北朝鮮代表のレギュラーになった選手で、映像の仕事を始めてからずっと彼の取材をしたいと思っていました。それでいざ調べてみたら在日の選手が、ここ10年でかなり増えていたことがわかったんです。その中で、かたや李忠成(現在サンフレッチェ広島に所属)のように、帰化して日本代表になる選手もいれば、鄭大世のように北朝鮮代表になる選手もいる。その2人の選択が、現在の在日コリアン3世の状況をまさに表していると思い、今これを取材しておこうと考えたんです。日本に渡ってきた1世・2世が残した民族教育とコミュニティーの中で、自らのアイデンティティーを選ばなければならない現実に直面している3世・4世の姿を、早く撮っておかないとすぐに時代は変わってしまうと思ったのがきっかけです。

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『TESE』の姜成明監督

──ナレーションを使わないと最初から決めていたのはなぜですか?

観る人にいろんな意味で捉えてもらえるようにしたかったからです。もちろん編集や演出をすることで、ある程度の物語性が入ってきてしまうのは避けられませんが、彼の表情や真剣な言葉のみを選んで、意図的な編集をしないようにしたつもりです。観る人によっては意味がわからないところもあるかもしれないですが、明確な答えは出したくなかったし出すことができませんでした。どちらかというと、自分に何か伝えたい思いがあって作ったというより、鄭大世のある時期を記録したという感覚の方が強いです。ちょうど大世への注目が高まっているときに、僕がたまたま居合わせただけというか。この間の[※今年11月15日に平壌で開催された]日朝戦を観た人の中にも、なぜ北朝鮮代表の中に日本語をしゃべるストライカーがいて、なぜ彼は謝ったんだろう[※「君が代」斉唱の大ブーイングに対して大世選手が試合後ツィッターで心痛をつぶやいた]と関心を抱いた人は多かったと思うんです。そういうタイミングで公開に至ったのは幸運ですし、たくさんの人に観てもらいたいです。

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©2011「TESE」製作委員会

──大世選手の父親は彼を日本人学校に通わせたがったけれど、母親の強い意向で大学まで朝鮮学校に通いましたが、監督のご両親はどんな方針だったのですか。

二人とも民族学校の先生をしていました。父とは2歳の時に死別しているんですが、死に際に『私の学校』という本[※1982年/同時代社刊。混血の朝鮮人教師を主人公に在日朝鮮人社会の複雑な様相を描いた小説]を書いて残したんですね。それを父親だと思って小さい頃から何度も読みました。父はその中で、在日コリアンとして何を選択すべきか結論を出していません。民族心の持ち方がすごく柔軟だったんだと思います。そういう父の影響は受けているはずだと思います。父が死んだあと母は子供2人を連れて東京にやってきて、子供のそばにいられる仕事をと考えて、書道教室を開くために資格を取るところからはじめて僕たちを育てました。うちの母は大世のお母さんのように口でバシっと言うタイプではないですが、2世の人たちというのは強い教育を受けているので、芯の部分では北朝鮮に対する憧憬は多かれ少なかれ持っていると思います。

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©2011「TESE」製作委員会

──これが初の劇場公開作品ですが、今後も映画を作り続けていく予定ですか。

はい。映画はテレビよりも表現の幅が広いですし、やはり受け身で観るテレビと違って、大きなスクリーンで暗闇の中、一定時間拘束される映画の方が真剣に観てもらえるので。テレビはわかりやすく伝えることが何より優先されるんですけど、実際にはわからないことばかりじゃないですか。だから自分の意図していない、いろんな解釈をしてくれる映画という表現の方がやりがいがあります。

──映像制作にはいつから興味を持ったのですか。

小4ぐらいの時に、スティーブン・スピルバーグに手紙を書いた記憶があります(笑)。英語で一生懸命“My name is…”って。昔から映画が好きでたくさん観ていました。

──次回作のアイデアはありますか?

今度ミャンマーに行くんですが、民主化の動きを見てこようと思っています。最近観た『ビルマVJ』(2008年/アンダース・オステルガルド監督)という映画の中でミャンマーの僧侶が語っていたことも印象深かったので、会えれば取材したいと思っています。仏教の取材も平行してやっているところで、作品作りにつなげるべく、いろいろ種を蒔いているところです。

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©2011「TESE」製作委員会
(インタビュー・文/隅井直子)

■姜 成明 (かん・そんみょん) PROFILE

1979年東京都出身。映像ディレクター。早稲田大学人間科学部卒業後、「ヒストリーチャンネル」番組制作でキャリアをスタート。2008年に鄭大世と李忠成のドキュメンタリー「祖国の選択」を演出。主に海外ドキュメンタリーを中心に活動を行う。


『TESE』
12月10日(土)より、渋谷アップリンクほか、全国順次公開

これまで数々の在日サッカー選手が北朝鮮代表に名を連ねたが、ほとんどの選手が「お客様」扱いで主力として考えられてこなかった。そんな状況下で現れた待望のストライカー、鄭大世。日本では攻撃的な重量型選手として、日本代表に彼がいればと願うサッカーファンは多かったはずだ。しかし、彼は北朝鮮代表を選んだ。スポットライトに照らされた日本代表選手たちの影で必死にゴールを求めてきた男を、カメラは深く見つめ続ける。日本・韓国・南アフリカ・ドイツ・ベトナム・北朝鮮。撮影時間1000日、世界6ヵ国で撮影された魂のドキュメンタリー。

映画公式サイト

12/24(土) 舞台挨拶&サイン会決定!
◆10:45の回上映後 登壇:鄭大世選手
◆14:25の回上映後 登壇:鄭大世選手、姜成明監督

詳細はこちらをご覧ください。

▼『TESE』予告編


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キーワード:

鄭大世 / チョン・テセ / TESE / 姜成明


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