ニコニコ動画の「演奏してみた」カテゴリーで人気を集め、今年SUMMER SONICに出演するほどの実力を持ったギタリスト、おさむらいさんがアルバム『かえしうた』を発表した。ギター一本でメロディ、バッキング、リズムを同時にプレイしてしまう演奏法により、ニコ動上のヒット曲をはじめ、RADWIMPS「おしゃかしゃま」などジャンルを問わない楽曲に巧みなギターアレンジを施しプレイするそのスタイルは、これまでのソロギタリストのイメージを塗り替える新しさを持っている。
歌とメロディを忘れずにアレンジしたい
──これまでほぼひとりで活動をされてきて、今回の初の全国流通となるアルバムは、完成しての満足感も違ったのではないですか。
今までの作品はほとんどを一人でやっていましたが、このCDではじめてプロのエンジニアにミックスやマスタリングをして頂くなど、いろんな人が関わるようになり、進め方が全く変わりました。かたちになってよかった。アルバムタイトルの『かえしうた』という言葉は、和歌の言葉で、歌を詠んで相手が歌で返すという意味なんです。ニコニコ動画でアレンジやカバーから『おさむらいさん』は始まり、オリジナルの作品でSUMMER SONICに出演できるまでになりましたが、最初のメジャーアルバムはまず今までの活動を集大成するような、アコギでロックしてみたという言葉がついているアレンジ作品を中心にしました。自分なりの歌で返す、ということです。一方で大震災があって、被災地へ向けて優しい歌を届けられたらいいな、という気持ちもありました。バラードの「Alice」や「かくれんぼ」はそう思いながら弾いています。また、ニコニコ動画だけではなく、もっと大きな世界に翔んでいきたいという希望でRADWIMPSの曲も弾きました。
──最初に「演奏してみた」というカテゴリーを見たときはどんなことを考えて、投稿しようと思ったのですか?
最初に観たのはキーボードの通販番組のデモで、ドラムの音色のキーボードを指で弾いてドラムパターンを叩く動画でした。それがやたらうまいおじさんでなんだこれは!と笑ったことを覚えています。そこからだんだん多彩な楽器を操って同時演奏する中村イネさんや、アコギで多重録音してメドレーで作っていたへっぽこ六弦使いさん(いずれもニコ動上の演奏者)などを見て、こういうことが自分にもできるんじゃないかと思って。ただ、同じじゃつまらないですし、ソロギターという僕にとっては一番シンプルなやり方で始めたんです。もともと音楽はピアノから始めましたが、ゆずや山崎まさよしさんが好きで弾いていたアコギが単純に得意で、自分にとって表現しやすい楽器でした。しかし演奏には自信がありましたが、パフォーマンス的な要素は苦手だったので、人気が出るとは全く思っていませんでした。
──オリジナルもありつつ、J-POPのいろいろな曲をカバーしていますが、おさむらいさんならではのこだわりをお聞きしたかったんです。アレンジという部分ではどんなことをいつも念頭に置いているんですか?
ギターを歌わせる、ということです。普段リスナーとしては歌ものばかり聴いていて、インストにしても歌ごころのあるものが好きです。メロディありきというか、むしろ歌詞ありきぐらいのイメージで、ギターを弾いているんです。ソロギターのオリジナルを書くときも、歌詞を書いたり、ソロギターに引っ張られないようイメージを作ってからソロギターにアレンジすることが多かったりします。
──ニコ動でアップし続けているときも、うた心ある曲、というのが演奏する曲のテーマだったんですか?
それは前提で、あとは、ソロギターだとどうしても制限されるので、ラップみたいな曲はできないし、ギターに合う曲とか、このタイミングでいちばん聴いてもらいたいなと思う曲を選ぶときもあれば、やりたくなったからやるみたいに気分で選ぶときもありました。
──アレンジしやすい曲と難易度の高い曲との違いはあるものですか?
アレンジの仕方にもよるんですけれど、違いますね。ソロギターのアレンジ大抵はゆっくり弾けばどうにかなりますが、それだけでは曲の良さも、ソロギターアレンジの良さも出せないと思うし。いろいろな要素を考慮しつつ、ソロギターでやるからこそ、おさむらいさんが弾くからこそ、という部分がないといけないな、と。また、音楽の中心にある歌とメロディを忘れずにアレンジしなければいけないと思っています。そのため、歌の音域が広かったり、早くて言葉が多いと難しいです。
ポップスやロックをソロギターのフィールドに持ってきたい
──今作収録のオリジナル「かくれんぼ」はとてもノスタルジックな曲ですし、琴線をくすぐられます。
都会育ちなので故郷への憧れがあります。加えて大好きなジブリの世界観、過去の自分の経験などから生まれた楽曲だと思います。吹奏楽をやっていて、クラシックだけしか聴かなかった時期があったので、メロディそのものや歌わせ方に影響があると思います。とはいえクラシックだけではなく、普段聴くロックやポップスとか、クラブミュージックの四つ打ちを取り入れた楽曲を作ったりもしているので、ギターを歌わせるというコンセプトの中で、ジャンルは問わずに楽曲制作していきたいと思っています。
──とても透明感のあるアレンジが特徴ですけれど、凛とて時雨や椎名林檎など疾走感のある曲も見事に自分のものにしていますよね。
今はロッキン系の音楽を一番聴いて、ライブに行っています。アコギのないバンドを 羨望の眼差しで見つつ、アレンジしているところがあります。全く同じことはソロギターではできない、ソロギターにアレンジしようとする人もいないので、自分がアレンジしてうまく表現したい。ソロギタリストって、クラシックか、フュージョンだったりメタル系みたいな技巧的なところに行くか、それかソロギターしか聴かない、そういう人が多いように感じます。僕はポップスやロックが好きでそれをソロギターという、自分が表現しやすいフィールドに持ってきたいというのがあります。
──ことさらテクニックをアピールするというよりは、あくまで原曲の解釈のしかたの面白さがありますよね。
それは意識しています。ある程度は技巧的なこともできますが、そうすると大道芸に近くなってしまうので、それは表現として方向が違ってきてしまう。かといってまったくテクニックがないと面白くないので、演奏に必要だったり、メロディを際立たせるものであれば使っていきます。ライブでできる範囲で(笑)。
(インタビュー・文:駒井憲嗣)
おさむらいさん プロフィール
2008年より、ニコニコ動画の「演奏してみた」カテゴリーで、自身撮影のアコースティックギター演奏動画を発表し始める。インターネット上で投稿動画の総再生数は500万を超える。1本のギターを駆使したプレイテクニックが注目を集め、現在、「演奏してみた」カテゴリーの中で最も注目を集めるプレイヤーの一人である。2011年は、日本全国・台湾でのワンマンライブのほか、夏フェス「SUMMER SONIC 2011」に一般投票枠で2位に1000票以上の差を付け1位を獲得して出演。逗子海岸の夏フェス「音霊」や、寺岡呼人、ピエール中野主催イベントにも参加。今後の活動がとても楽しみな逸材ギタリストである。
公式HP http://osamuraisan.com/
おさむらいさん
『かえしうた』
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