シンガーソングライター、ゆーきゃんが新作『ロータリー・ソングズ』をリリース、東京での発売記念ライブを渋谷アップリンク・ファクトリーで行う。今作は、京都在住の彼が東京に拠点を移していた2009年に、高橋健太郎氏の旧宅にてレコーディングされた。シンプルな弾き語りをベースに、音響的なサウンドメイキングとリリカルな歌ものを溶け合わせたサウンドを紡いできた彼が、持ち前の触れたら切れてしまいそうな繊細に加え、ほの暖かい包容力を新たに獲得した作品である。現在は京都に戻り活動を続けている彼に聞いた。
自分の歌の孤独に光が射しているような部分を意識した
──今回の新作は東京にいるときに録音されたんですよね。
全6曲のうち5曲は2009年の春から秋にかけて作りました。僕がブログで、ニック・ドレイクの『ピンク・ムーン』みたいなアルバムを作りたいなぁって書いたら、健太郎さんが、ちょうどうち(大田区にあった旧宅)が取り壊しになるから、そんな感じで一度録ってみようよと言ってくださったんです。けれど、録るだけ録って仮でミックスをしたところでふたりとも満足してしまって。それで、実質1年半くらい寝かしていた音源に、京都に戻って最初にやったライブテイクを入れて、このアルバムにしました。
ソロ作品としては7年ぶりとなる『ロータリーソングス』を発表したゆーきゃん
──リリースすることさえ考えていなかったんですか。
録ったときは、パーソナルな感じで、あまり世間と無関係に鳴っているというか、自分の内面をそのまま投影したような弾き語りのアルバムを作りたかった。なので、1回目のミックスは剥き出しで、彼岸めいた感じがあるものにしようと思っていたんです。ただ、3月11日があって、あの一連の騒ぎを受けて、そのときに考え方がだいぶ変わりました。どちらかというと自分の内面の暗い部分にフォーカスを当てるということを止めて、僕の歌がちょっとだけ持ってる、柔らかくて温もりがあって、孤独に光が射しているような、その部分を意識しました。
──東京での生活は、ソングライティングの面への影響は少なくなかったのでは?
そうですね、黙示録的なものが減りました。というのは、どちらの街にいても生活はあるんですけれど、現実というものの圧倒的な力にさらされる度合いが東京のほうが高かったような気がして。なので、いま自分の書いた曲を振り返ってみると、歌の内容に関しても、東京に出てくることによって、歌詞の世界が観念的な世界から、少し肉体的なものになったんじゃないかなという気がします。
言葉遣いに関しても、強い言葉というか、例えば「死んでしまいたい」という言葉を包み隠さずに使うというか。東京に出てくる前のほうが、なんとなく言葉をいっぱい重ねて、その重ねた輪のなかに言いたいことをくるもうとしていた。でも、生きていくなかで、あまりにも遠まわしな表現をすると、何が言いたいのか解らなくなっていく。それを、ほんの少し、まっすぐに言おうとする努力というか。それはメッセージということではなくて、モチーフがあって、イメージがあって、それを言葉でどう表現するかということを考えたときに、もうすこし単刀直入になったかな。
──もっとストレートな表現をしないと、東京では伝わらないなという気持ちがあったのでしょうか。
お客さんの反応を見て自分の表現を変えたという意識はないんです。それよりも、東京で出会ったミュージシャンや、音楽仲間の影響はあると思います。一緒によくライブや話をしたりする人たちの態度が、知らず知らずに自分にも伝わっていったんじゃないかなという気もしますね。
東京に出て、いちばん影響を受けたのは、前野健太くんです。京都で最初に歌を歌いはじめたときだったら、前野くんに会っていても、たぶん好きじゃなかったと思う。その頃はいわゆる音響歌ものが流行っていた時期で、僕はやっぱり山本精一さんとか渚にてとかラブクライとか、関西のサイケデリックな歌ものの影響を受けて育ったので、その価値観からすると、前野くんの詞の世界はリアリズムというよりも、あけすけすぎると感じていたと思うんです。それが東京に住んでみて、彼がなぜこういうことを歌うのかというのが身をもって解った。だから、前野くん、それから三輪二郎さん、スイセイノボアズに昆虫キッズにシャムキャッツもみんなそうですが、大都会で生きている感受性たちが自然と紡ぎだす言葉みたいなもの、その作法は東京に出てこないと解らなかったかなと思います。
言葉だけで追いつけないものを言い表すために音楽をやっている
──街で生きていくことや、そこで感じたことをどう歌にしていくか、考え方が変わったということですか。
歌い始めたときから一貫して自分の歌のテーマなりトーンは、自分の心に映った世界をどうやって反射させるかということに尽きます。それが、京都から外の世界が東京に変わって、おのずと自分の心にはね返って出てくる歌のカラーが変わったということだと思います。
──プライベートなものから開けたもの、というのは具体的にはどんな音作りを?
地に足をつけた感じが必要だとベースを足して、歌に膨らみを持たせるためにコーラスパートを加えて、ギターも録り直して、アレンジではささくれだったとんがった部分を減らし、ミックスについても、歌がまず前に出ることは変わってないんですけれど、より安心感というか、その歌のなかにあるほんのちょっとの明るさや柔らかさをより伝えやすいミックスにしました。マスタリングにも時間をかけて、すこしひしゃげたローファイな感じのマスタリングで、まろやかな部分をいちばん響くようにしてもらいました。歌詞がアンビバレントな内容で、ともすると言葉の強さというか悲しい部分とか厳しい部分が突出していると思っていて、言葉の意味に音のぬくもりが追いつくようにミックスとマスタリングをだいぶ変えてもらったんです。
言葉だけで追いつけないものを言い表すために歌なり音楽なりをやっているので、ここに到達するために言葉よりも、なにかを積まなくちゃいけない。その作業を今回は念入りにやりました。その積むときにいちばん大事にしたのは享楽性というか、最終的にはどれだけ気持ちいいかということを意識しました。
──そんな風に新たな手を加えて、いま出す意義がある楽曲たちであると思われたのですね。
ひとつには、月並みなんですけれど、明日世界が終わるかもしれへんっていうときに、そう感じたということに対して僕なりにレスポンスなりリアクションをしないとだめだと思った。もうひとつには、復興とか脱原発ということを音楽で自分なりの回答をだそうとしている人が増えているなかで、自分なりの答えを言わなきゃいけない、と。そのときに録った音源をもういちど聞きかえしていて、これはいまなにも関係ないところで録られた音源ではあるけれども、これをもう一度作りなおして今出すということはそれなりに意味なり力を持ちうるんじゃないかと思ったんです。そのときに、今聞こえなければいけない音として出す、というのはマストだったんです。それが伝わるかどうかは別なんですが、でも、伝わってほしいと、願っています。
(インタビュー・文:駒井憲嗣)
ゆーきゃん プロフィール
富山県生まれ、京都在住のシンガーソングライター。USガレージ・フォーク/サッドコアの影響を受けた音楽性と、日本語の豊かな響きを生かした文学的な歌詞を武器にした、唯一無二な空気感をもつ弾き語りを身上とする。近年では不定形なユニット形式でのライブも多数行っており、サポートメンバーにはエマーソン北村、山本達久(NATSUMEN)、須原敬三(ex.羅針盤)、田代貴之(ex.渚にて)など名うてのミュージシャンが名を連ねる。あらかじめ決められた恋人たちへの池永正二とユニット「シグナレス」としても活動を続けている。また、山本精一、JOJO広重(非常階段)といった関西アンダーグラウンドの巨人たちとコラボレーション形式での共演も盛ん。京都にて2002年より続くDIYフェス「ボロフェスタ」をロボピッチャー、Limted Express(has gone?)、MC土龍らと共に主催。ジャンル・シーンを越えた音楽の理想郷を現出させるべく、10年間に渡って心血を注ぎ続けている。
http://akaruiheya.moonlit.to/
■ライブ情報
ゆーきゃん 3rd Album「ロータリー・ソングズ」発売記念ライブ 東京編
2011年12月2日(金)
渋谷アップリンク・ファクトリー
出演:ゆーきゃん+エマーソン北村+田代貴之+足田メロウ、長谷川健一、アニス&ラカンカ(見汐麻衣from埋火+mmm)
18:30開場/19:00開演
料金:予約2,000円/当日2,500円(予約ともに1ドリンク別)
http://www.uplink.co.jp/factory/log/004202.php
■リリース情報
ゆーきゃん『ロータリー・ソングズ』
術ノ穴
sube-019
1,680円(税込)
発売中
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▼ゆーきゃん「サイダー」PV