骰子の眼

cinema

東京都 新宿区

2011-12-10 12:04


雄弁にアルゼンチンの歴史を物語る瞳

軍事政権下の日常生活の背後に潜む不穏な空気を捉えた『瞳は静かに』クロスレビュー
雄弁にアルゼンチンの歴史を物語る瞳
『瞳は静かに』より

冒頭より、くっきりとした色彩で描かれるこの国の人々の生活感に心奪われる。独特の形状をした容器とストローでマテ茶を飲みながら、やんちゃな子供たちと歌を忘れない母親、そして優しい祖母が集う家庭。しかし一見平和に見える家族の中に秘められていた事実について、ダニエル・ブスタマンテ監督は8歳の男の子アンドレスの視点を通しゆっくりと明らかにしてく。共同体の平穏を見出そうとする異質な言論に過度に過敏になり隠そうとする力が働いてしまう。アルゼンチンのみならず、日本にも当てはめることができるそうした問題を、あくまで家族の物語のなかに潜ませることで、この作品は、ひたひたと身の回りに押し寄せる恐怖を表現することに成功している。

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『瞳は静かに』より

そしてなんと言ってもアンドレス役のコンラッド・バレンスエラのビクトル・エリセ『ミツバチのささやき』のアナ・トレントを思わせる澄んだ眼差しと自然な演技は刮目に値する。家族の愛情に見守られながら、いろんなことを知りたいのにそれが叶わズに満たされない気持ちが募る様子が手に取るように伝わってくる。彼と祖母役のノルマ・アレアンドロとの心温まるやりとりがあるからこそ、偶然アンドレスが見てしまった事件の奥深い問題をさらに深く心に刻みつけることができるだと思う。アルゼンチンの人々の気質と形容される自己主張の強さは、2001年の経済破綻や1983年まで続いた軍事独裁政権など、様々な社会変革により築きあげられたと言われているが、アンドレスが過ごした1年を通して、そうした国民性が形成される風土の一端を感じ取れるのではないだろうか。

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『瞳は静かに』より



映画『瞳は静かに』
2011年12月10日(土)より、新宿K's Cinema渋谷UPLINKにてロードショー(全国順次公開)

1977年、軍事政権時代のアルゼンチン北東部の州都サンタフェ。やんちゃでイタズラ好きな男の子アンドレス(8歳)は、母の突然の死で、兄のアルマンドと共に、祖母オルガと父ラウルが住む家で暮らし始める。なぜか母の持ち物を焼き、家まで売ろうとするオルガとラウル、親しげに近づいて来る謎の男セバスチャン。好奇心旺盛なアンドレスは、大人たちを観察し、会話を盗み聞きながら、何が起こっているのかを探ろうとする。そして、ある夜、部屋の窓から恐ろしい光景を目にするのだが……。

監督・脚本:ダニエル・ブスタマンテ
撮影:セバスチャン・ガジョ
音楽:フェデリコ・サルセード
出演:ノルマ・アレアンドロ(1985年カンヌ国際映画祭主演女優賞)、コンラッド・バレンスエラ、ファビオ・アステ、セリーナ・フォントほか
製作:カロリーナ・アルバレス
原題:El Ansia Producciones
2009年/アルゼンチン/HDCAM/カラー/108分/Dolby Digital SRD
日本語字幕:比嘉世津子
後援:駐日アルゼンチン共和国大使館 協力:スペイン国立セルバンテス文化センター東京ほか
公式HP

イベント情報

トークイベント決定!
12月11日(日)14:00の回上映後
ゲスト:星野智幸さん(作家)
会場:新宿K's Cinema
http://www.ks-cinema.com/information.html

▼『瞳は静かに』予告編




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