VENUS IN VERGOのReiko.A(右)と有馬純寿(左)
ヴォイス&ダンスパフォーマーReiko.A/東玲子とサウンド・アーティスト有馬純寿によるユニットVENUS IN VIRGOがアルバム『AURORA(アウローラ)』をリリース、12月4日(日)落合SOUPにて発売記念ライブを行う。10年以上に及ぶふたりのコラボレーションを経て初のアルバムとなる今作は、Reiko.Aの声が紡ぐ物語と有馬の音響との組合せにより、ふたりの幅広い活動の中でもとりわけ言葉にフォーカスが当てられた表現となっている。
ステージ上の表現は、体の動きとは切り離せない(Reiko.A)
──このユニットはどんな構想から生まれたのですか。
Reiko.A:VENUS IN VIRGOは私のヴォイスをフィーチャーするために生まれたユニットです。ほかには私自身がエレクトロニクス演奏をするユニットもありますし、ほかの人のサウンドで私がダンスパフォーマンスだけをするような場合もあります。でも、今ではステージ上でなにをやっても、体の動きがついてきてしまいますね。もはや、ステージ上の表現は、私にとって体の動きとは切り離せないようです。
有馬:これまでさまざまな実験音楽や現代音楽などをやってきていますが、ヴォイスパフォーマーとのユニット、しかもいわゆる歌ものではなく声そのものや言葉が大きな位置を占めるのはこれだけです。演奏者として関わることが多い現代音楽以外では、普段は器楽との即興やコンピュータ・ミュージック系のセッションが多いので、自分の中でもVENUS IN VIRGOは他にはない位置付けにあると思います。
──こういったアルバム作品にしろライブ演奏にしろ、お二人はいつも即興で演奏されるんですか?
有馬:お互い即興演奏の分野でやってきたので、ライブの時でも大きな枠組はあっても細かいところは即興です。今回のアルバムでも、構成をあらかじめ考えた曲もあれば、即興的に演奏したものを編集した曲もあります。
──このアルバムは何回か聞いてみたんですけど、ナラティブで物語性があるっていうか、映画にはよくあるテーマですけど、音楽作品としてはいわゆる一般的ではないですよね。有馬さんは東さんの言葉の生み出す意味に引っ張られることはないんですか?
有馬:ものすごく考える一方で、言葉の意味から完全に離れてみようということを同時に意識しています。いわゆる一般的なラジオドラマであれば、主役は明らかに語りやシナリオや演じている声であり、音楽は常に付随物、しかも語りの意味内容に沿うことがほとんどだと思うんです。しかし、僕はVENUS IN VIRGOでは声を多彩な音響を持つ素材として捕らえ、それがエレクトロニクスの音響と対等な関係となればと考えています。言葉の意味だけでなく声が持つ音響そのものをどう活かすかということを、加工・変調方法や声をどう扱うかを含めて、さまざまな可能性の中で考えています。僕の中でのこのユニットは「声の実験室」として捕らえているところがあります。
Reiko.A:私にとっては、もはや「声の実験室」というわけではないかな。VENUS IN VIRGOのスタートは確かにそうだったかも知れないけれど、意味を伝えることのほうが重要になってしまいました。私にとってはこれは、聴覚で味わう文学作品なんです。ただ、発話される言葉を使うのであれば、そうでなければできないことをやるべきだとは思っています。そういう意味では、私のかつてのソロ作、ポエトリー&トークの『光の…』の方式もモチーフも引きずっているかも知れませんね。例えば最後の『よのはて』という曲には死ぬことを考える女性が出てきますが、そこで描かれているプロセスは、普通に聞いたら4人の登場人物によるものだと感じられるかも知れませんが、実はひとりの人の頭の中でのせめぎ合いを表現しているんです。この曲のように心中の食い違う思いを同時に表すのは、平面上の文章表現ではなく、同時に音を鳴らせる音響作品でないとできません。
声はテキストをしゃべる言葉でもあり、ノイズを発する音響発生体でもある(有馬)
──その最後の曲の中の女性は死を考えているわけだけれど、なぜ死にたいのかという具体的な理由が僕にはどうしても捕らえられなかった。社会と適応ができないというよりも、まず自分自身との適応ができないというように感じられるんですが。
Reiko.A:自分自身との適応とはどういう意味でしょうか。この世で100パーセント自分を活かして生きることができないという、生きづらい感覚というのは誰にでもあるものだと思います。この世に肉体を持って生まれてくれば、当然制約があるわけですから。それが我慢できずに死を選ぶ人々は確かにいると思います。妥協して生きるくらいなら死んでしまいたいというようなせっぱ詰まった思いは、本来なら誰もが心に抱く原初的な思いではないでしょうか。
──生きづらいとか、生きたいけど自分の生き方ができないというのは、非常に思春期的な感覚だと思います。
有馬:東さんは永遠の思春期だから……。
Reiko.A:思春期的な感覚を表すことがなぜ問題になるのですか。私がそうするのは、思春期的な感覚が人間にとっての普遍的な感覚だと信じているからだと思います。大人になるとそういったものを忘れてしまう人もいますが、その一方でいつまでもそういう感覚が残っている人がいてもおかしくないんじゃないですか。
──歳をとってくると肉体的な死に近づくから、死について考える大人たちは多いと思うし、そういうことについての映画は多く作られています。でも、東さんは、社会とか自分ではなく、生命体としての自分自身が受け入れられないという適応不適応の問題を歌詞にされているように思ったんです。そこの感覚をどうして東さんが持っていらっしゃるのか、どうしてそこを言葉にしたかったのかを聞きたいです。
Reiko.A:どうして持っているのかと言われても。持っているから持っているのだとしか言いようがない。ただ、どうしてそれを言葉にしたいのかというと、私のほかにもそういう人がいると信じているからです。どうやって生きていったらいのかの答えが見つからない人に、答えを見つけるきっかけを指し示したい。それから、今は最後の曲の『よのはて』のみが問題になっていますが、実はこれがこの作品の中で私の一番言いたかったことではありません。それに、ここで描かれているのは必ずしも私のリアルタイムの感情でもありません。確かに私の経験してきた道かも知れませんが、かなりわかりやすい言葉で、ある種の感情を客観的に描いているつもりです。ただしその分、浅井さんの言うように観念的になり過ぎたかも知れませんね。
有馬:サウンドの面からいうと、この曲では電子音を主人公の少女を取り巻く社会と考えてみました。主人公の心的葛藤が4つの意識=声として展開していきますが、社会そのものはそれとは関係なく淡々と存在しています。また彼女は社会から疎外されていたり適応できないと感じるが、一方では社会は彼女自身を映す鏡でもあるわけです。そうした複雑な関係を音で表わそうとして、電子音の部分は東さんの声をもとにコンピュータによる特殊な音響合成法によってうつしとった、不協和と協和を繰り返しつつ微細に音程がずれながら進んでいく音響素材を作りました。そして語りの部分と音楽のどちらかが主従ではなく、違うふたつのものがパラレルワールドのように存在していることを狙ってみました。唯一両者がリンクする点があるとしたら、最後に出てくる鳥の声で、そこは東さんのアイディアなんです。
Reiko.A:どうしてふたたびそこに戻るのか、どうしてまた最初に立ち戻るのか。それは、聞いた人に感じ取ってもらいたい。
有馬:声というのはテキストをしゃべる言葉もあれば、ノイズを発する音響発生体でもあるし、歌を歌うこともできるなど、いろんな側面がありますが、VENUS IN VIRGOではそれらのさまざまな要素をなるべく組み入れたいと思っています。
Reiko.A:そうですね。文学と言ってみたところで私の言葉は直裁的過ぎるので、そういった点では有馬さんが音響的な工夫をこらしてくれることによって、それこそ文学的な陰影が醸し出されればと思っています。
(インタビュー:浅井隆 構成:駒井憲嗣 写真:Rei Ludens)
■リリース情報
VENUS IN VIRGO『AURORA』
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TRCD-08
2,000円(税込)
都内一部レコードショップ・Amazon等で発売中
Amazon購入ページ
Reiko.A/東 玲子 プロフィール
90年代に、主にノイズ・プロジェクトMERZBOWでヴォイス及びエレクトロニクスを担当。 MERZBOWに参加していた頃よりソロ活動も始めるが、そのステージ・パフォーマンスはダンスを伴う肉体を強く意識したものである。
有馬純寿 プロフィール
1965年生まれ。エレクトロニクスやコンピュータを用いた音響表現を中心に、現代音楽からノイズ・ミュージックまでジャンルを横断する活動を国内外で展開する。また現代美術グループ「昭和40年会」など美術家とのコラボレーションも多い。
<VENUS IN VIRGO webSITE>
http://www.40nen.jp/arima/viv/index.html
<VENUS IN VIRGO ライブ映像>
■ライブ情報
VENUS IN VIRGO 1st album「AURORA(アウローラ)」
リリース・パーティー・ライブ
2011年12月4日(日)
会場:落合SOUP(東京都新宿区3-9-10松の湯B1 03-6909-3000)
出演:
VENUS IN VIRGO/Reiko.A (vo.)×有馬純寿 (electronics)
Hair Stylistics/中原昌也 (electronics)
ヒグチ ケイコ(vo.)×TOMO(hurdy gurdy)
それ以染に/TAQACY (vo.gt.)×YUTAKA (ba.)×4233 (dr.)
ライティング:Liquidbiupil (dbqp+mi)
18:30開場/19:00開演
料金:1,800円(drink別)
http://ochiaisoup.tumblr.com/#13008504053