骰子の眼

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埼玉県 さいたま市

2011-11-09 16:15


挑発的、頭脳的、かつ軽妙なジェローム・ベル作品に、日本で選ばれたパフォーマーたちが挑む『The Show Must Go On』

彩の国さいたま芸術劇場ダンスプログラム『The Show Must Go On』、"フェスティバル/トーキョー11″のクロージングとなる本作、いよいよ上演!
挑発的、頭脳的、かつ軽妙なジェローム・ベル作品に、日本で選ばれたパフォーマーたちが挑む『The Show Must Go On』
『ザ・ショー・マスト・ゴー・オン』(2004年のローマ公演より) ©Mussacchio Laniello

身体表現に言葉を織り交ぜるなど、既存の舞台に批評的な眼差しを投げかける作品で、ダンス界に賞賛と論争を巻き起こしてきた異才振付家ジェローム・ベル。彼の代表作『ザ・ショー・マスト・ゴー・オン』の待ちに待った日本バージョンが、11/12(土)・11/13(日)、彩の国さいたま芸術劇場で上演される。舞台上に流れるデヴィッド・ボウイやクイーンなどの超有名なポップソングと、公募で集まったパフォーマーたち。これらを材料に、ベルのウィットに富んだ視線が加わったこの作品が、観客に問いかけるものとは──。
前回掲載したベルの作品解説ベル本人へのインタビューに続き、演出助手のディナ・エド・ディクとエンリック・ネヴェスの二人に、10/31から始まったリハーサルの状況を聞いた。


──日本版キャストの印象はどうですか。リハーサル開始からこれまでの一週間、どのように進んでいますか?

ディナ・エド・ディク:とても順調に進んでいますよ。一週間でちょうど作品の最後まで通せました。これから細かいところを手直して、調整していくところです。言葉の問題があって、たくさん通訳が必要なことはありますが、馴染むのが早い人と遅い人がいたり、前に出てくる人とシャイな人がいたりするのはどこでもあることで、日本のキャストといってもこれまでとほとんど変わらないです。

──当初のオリジナルキャストでの舞台とこれまで各地の出演者による舞台との違いはあるのでしょうか?

エンリック・ネヴェス:この作品はこれまで少しずつ変化してきていると思います。ただ再演を続けているだけではないのです。例えば『I like to move it』で少しずつ動きが変わってノリがよくなったり、曲自体が差し替わったり、ずっと進化しているのです。

──なぜこの作品は世界中の人々を魅きつけているのだと思いますか?

エド・ディク:いい質問ね! でも、私たちにもわからないわ(笑)。私が個人的に思うところでは、例えばお客さんはダンスだと言われて観に来る、でもダンス作品だと思ってみると期待外れでがっかりしますよね。またオープニングで、「なぜずっと暗いままなのか?」って大きなクエスチョンマークが浮ぶはず。観客の舞台への期待というものが大きく作用するのです。10年前は斬新で挑戦的に受け取られたのが、いまはそれほどでもなくなっています。けれども、確実にお客さんに届くものがあります。コンセプチュアルで頭脳的でエンターテイメントで、でもそれだけではない。何層にも重なったものなのです。皆が何かを感じたり、考えたり、怒ったり、いろんな反応を返してくるような作品だから、いつまでも魅力的なんだと思います。
ネヴェス:それは、やっぱりこの作品がもつ明確さだと思っています。皆がわかる「コード」が散りばめられていますから、とても複雑ではあるけれど、皆が理解できて、自分と関係付けられるのです。ポップアートみたいなもので、背景にあるものを全て理解していなくても、簡単に作品と関係性をもつことができる作品です。

──日本の観客たちに向けて、メッセージをお願いします。

エド・ディク、ネヴェス:リラックスして、楽しんでください! 観客のことが一番興味深いです。キャストは舞台で歌う歌が違うくらいで、それほど変わらないのですが、観客は踊る人が出てきてノリがよい場合もあれば、逆に静かに黙ってしまったり。各地で上演していて、キャストよりも観客の反応が一番違うところなのです! 正直何が起こるかわからないから、それを私達も知りたいです。

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『ザ・ショー・マスト・ゴー・オン』(2004年のローマ公演より) ©Mussacchio Laniello

公募で集まった日本版キャスト

2001年の発表以来、世界50都市以上で上演されてきた本作は、演出家の意図によって、上演する都市や地域社会の多様性を反映したパフォーマーが出演する。今回、日本での上演にあたり、応募者239名の中から17歳から67歳までのメンバーが選ばれた。職業、ルックス、舞台経験、バックグラウンド、国籍も様々。アーティスト、音楽家、ダンス・演劇を学ぶ学生・留学生、フリーター、元サラリーマン、翻訳者、エステティシャン、日本在住のフランス人など多彩。彼らに本作に対する思いを語ってもらった。


「応募の時点では、動画サイトなどでの断片的な舞台のイメージ以外、ベル氏についての知識は殆どありませんでしたが、出演が決まった今年の春、留学先の英国で “あなたは事の大きさにまだ気がついていない、この経験はきっとあなたの世界を変える” とダンス仲間に言われ、ダンスの先生も、“彼は私のアイドルよ!” と興奮していました。氏のテーマである “言葉と動き” がどのように関わり表現されるのか、とても楽しみにしています。」 ──20代・学生

「ジェローム・ベルはとても自己反省能力の高いアーティストだと思います。自身の名をタイトルにしたセルフ・リフレクションの極地みたいな “Jerome Bel” という作品。“踊らない” あの作品の中で、女性パフォーマーが手首を耳に寄せて脈を聴きながら体を動かすシーンがあるんですけど、あの動きほど官能的な踊りを僕は見たことがない。ノン・ダンスどころか、彼はダンスが好きなんですよね。」──30代・ダンス研究者

「とても気さくでユーモアのある方ですね。以前に “シャートロジー” という作品でご一緒しましたが、リハーサルの時もご飯の時も、本番の直前まで冗談ばかり言っています。踊っているところは見たことがありません。いつも真顔で冗談をいって笑わせるのですが、あまりにも迫真の演技なので、どこまで本当でどこから冗談なのかわからなくなってきます。ジェローム・ベルの作品に一度、出演してみたいというプロのダンサーをたくさん知っています。それは何故でしょうか。彼はダンスのテクニックを用いることなく、コンテンポラリーダンスの枠組みを “ジェローム・ベル” 流に簡単に飛び越え、舞台全体を抑制されたユーモアによって包みこみます。観客も、そして何より出演者がそのジェロームマジックを楽しんでいるのを見るとどうにも、うらやましくなるからです。」──30代・アーティスト

「“枠” のない、自由で無限な個性を生きている人。表面や依存ではない、個性の自立、それを為し得てる人!…そんなアーティスト、なのではないかと、“The Show Must Go On” をYouTubeで見て、想像しました。」──40代・エステティシャン

「最初に彼の作品を観たのは、何年も前のウィーンのダンスフェスティバルでした。作品名は、覚えていませんが、衝撃的だったのを思い出します。これ迄のコンテンポラリーダンスのパフォーマンスの枠を超えた予想外な展開でした。その記憶は、その何年後にも鮮明に残っている程。昨年、ローザスのアンヌ・テ レサ・ドゥ・ケースマイケルとのデュオを拝見し、彼の発想の自由さに惹かれ、感銘を受けました。彼の自由でシンプルな都会的な表現が、観客の気持ちを捉えているのだと思います。」──40代・ダンサー・ヨガ講師

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『ザ・ショー・マスト・ゴー・オン』(2004年のローマ公演より) ©Mussacchio Laniello

舞台上に次々と流れるポップソング

舞台では、誰もがよく知っているポップソングを舞台正面に構えるDJがプレイしていく。ビートルズ、デヴィッド・ボウイ、クイーンやミュージカル、映画などの楽曲が流れるなか、その歌詞の一部をモチーフに、パフォーマー達が動き出していく。大衆文化のシンボルともいえる楽曲を用いて繰り広げられるパフォーマンスは、画一化された身体や行動に対する、ベルのアイロニカルで真摯な問いかけといえる。そのセットリストの一部をここでご紹介。


デヴィッド・ボウイ『Let's Dance』

Let's Dance

ナイル・ロジャースを共同プロデューサーに迎え1983年に制作したこの楽曲で、D・ボウイはカルトスターから一躍メジャー・スターに。80年代を代表するシンプルかつゴージャスなロックの名作。


リール・2・リアル『I like to Move it』

I Like to Move It

1994年に発表されたダンス・ミュージック。オーストラリアのナショナル・バスケット・リーグやイギリスのチューインガムなど様々な宣伝や、映画『マダガスカル』にも使用されている。


ロス・デル・リオ『Macarena(恋のマカレナ)』

Macarena

スペイン出身のグループ『ロス・デル・リオ』が1993年に発表し世界的に大ヒット。セクシーに腰を動かす“マカレナ・ダンス”も注目され、日本でも例外なく大流行。



■ジェローム・ベル PROFILE

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 1964年フランス生まれ。世界的に活躍するダンサー、振付家、演出家。身体表現に説明的な言葉を織り交ぜたコンセプチュアルな作品で知られる。92年のアルベールビルオリンピックでは開会式・閉会式の演出を担当したフィリップ・ドゥクフレの助手を務める。94年に最初の振付作品を発表して以来、多数の作品を発表している。2004年パリ・オペラ座バレエ団に招かれ、引退間際のダンサーのモノローグで綴られる『ヴェロニク・ドワノー』を上演し絶賛された。
 日本においては、05年にタイを代表する古典舞踊の名手ピチェ・クランチェンとのコラボレーションで創作した『ピチェ・クランチェンと私』を、08年横浜トリエンナーレに出品。10年、ローザスのアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルと共同制作した『3Abschiedドライアップシート(3つの別れ)』を愛知・静岡・埼玉にて上演。
 01年に発表した代表作『ザ・ショー・マスト・ゴー・オン』は、05年のニューヨーク公演においてベッシー賞を受賞。08年には、『ピチェ・クランチェンと私』の文化的多様性に対し、ジェローム・ベルとピチェ・クランチェンにルート・マルグリット・プリンセス賞が贈られた。
〔Photo:©Herman Sorgeloos〕


ジェローム・ベル
『ザ・ショー・マスト・ゴー・オン』 (The Show Must Go On)
2011年11月12日(土)・11月13日(日)

演出・構成 ジェローム・ベル
出演 日本版キャスト
東丸、足立智美、五十嵐萌、今井尋也、太田ゆかり、岡田智代、川村知也、佐々木香弥、篠田千明、篠村博昭、タケヤアケミ、田代絵麻、鄭順栄、富田大介、直江早苗、長坂美智子、長谷川寧、林亮佑、藤沢紀子、藤田一樹、前澤香苗、ますだいっこう、松澤輝朝、マルタン・ジャン-フィリップ、山口恵理香、リー・アルド
演出助手 エド・ディク・ディナ、ネヴェス・エンリック
主催 公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団/フェスティバル/トーキョー
協力 東京・横浜日仏学院
後援 在日フランス大使館
会場 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール[地図を表示]
時間 各日開演16:00(上演時間約90分、途中休憩なし)
      ※12日(土)公演終了後、ジェローム・ベルによるアフタートークあり
料金 全席指定
     【一般】前売3,000円/当日3,500円/学生(前売・当日とも)2,500円
     【メンバーズ】前売2,700円/当日3,200円


※その他、詳細は彩の国さいたま芸術劇場公式サイトをご覧下さい。


【関連リンク】

コンテンポラリー・ダンス界の「異才」ジェローム・ベルによる、このうえなくポップで反スペクタクルな『The Show Must Go On』 〔ダンス研究者・越智雄磨によるジェローム・ベル作品解説〕(2011.10.14)

ダンスと劇場と現代の身体をめぐる、ジェローム・ベルからの意表を突く問いかけ『The Show Must Go On』 〔ジェローム・ベルが語る“ザ・ショー・マスト・ゴー・オン”誕生から今日まで〕(2011.10.25)



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