骰子の眼

cinema

東京都 新宿区

2011-10-27 20:40


[CINEMA]『天皇ごっこ 見沢知廉・たった一人の革命』クロスレビュー「熱い血潮に身をまかせたひとりの純粋な人間の激しさとはかなさが綴られている」
『天皇ごっこ 見沢知廉・たった一人の革命』より (c)『天皇ごっこ』製作委員会

学生運動全盛の時代からバブル期に至るまでを生き、2005年に飛び降り自殺を図り46歳でこの世を去った作家・見沢知廉。監督・脚本・編集を手がけた大浦信行は、様々な関係者へのインタビューを軸に、当時の映像、そして想像力を喚起させるショットを挟み、懐古的でなく、三沢が残した言葉を蘇らせようとする。革命家として事件の渦中にいながら大声でアジテートするイメージが薄く、言葉の力を信じて活動を行った三沢の影響力の理由を追いかけていく。三沢の〈妹〉あべ あゆみを全編のナビゲーターとする構成に、いわゆるオーラル・ヒストリー的な素っ気ないドキュメンタリーを予想した観客は面食らうかもしれない。しかしその独特のリズムは、この破天荒な人物の内側にどんどん入り込んでいくような魅力を持っている。

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『天皇ごっこ 見沢知廉・たった一人の革命』より (c)『天皇ごっこ』製作委員会

なかでも友人である設楽秀行が、1982年に起きたスパイ粛正の事件の模様を、死体が埋められる凄惨な現場に至るまで生々しく語る場面はショッキングだ。何かに突き動かされるように執筆活動、そして政治活動を止めなかった三沢について、設楽をはじめ証言するすべての人物が、聞き分けが悪い友人を見守るような、厳しくも愛情を持った眼差しを持っていることが伝わってくる。今作を観終わっても、見沢知廉が右翼だったのか、左翼だったのかということについて答えは明かされない。ただ、尋常でない母親の愛情を受けながら、自らの生き辛さを自力で克服しようとした三沢作品と言葉から、いま学ぶことは少なくないはずだ。

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『天皇ごっこ 見沢知廉・たった一人の革命』より (c)『天皇ごっこ』製作委員会

▼『天皇ごっこ 見沢知廉・たった一人の革命』予告編





映画『天皇ごっこ 見沢知廉・たった一人の革命』
10月29日(土)より新宿K's cinemaにてロードショー
他全国順次公開

監督・脚本・編集:大浦信行
撮影・編集:辻智彦
録音:川嶋一義
出演:あべ あゆみ/設楽秀行/鈴木邦男/森垣秀介/針谷大輔/雨宮処凛/蜷川正大/田村泰二郎/多田脩真/西林未羽/漣圭佑/中島岳志/高橋京子
特別協力:高木尋士(劇団再生)/濱田康作
製作:国立工房
配給:太秦
2011/日本/HD/カラー/115分
公式サイト


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