骰子の眼

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東京都 港区

2011-09-18 16:00


「電力やエネルギーを使って音楽をやるとは─作り手として問いかけ、挑発している」三輪眞弘が『作曲家の個展2011』で新作を発表

10/2(日)サントリーホールにて、オーケストラとガムランをテーマに近作そして新作『「永遠の光・・」オーケストラとCDプレーヤーのための』を披露。
「電力やエネルギーを使って音楽をやるとは─作り手として問いかけ、挑発している」三輪眞弘が『作曲家の個展2011』で新作を発表

メディアアーティストであり作曲家の三輪眞弘がサントリー芸術財団によるコンサートシリーズ「作曲家の個展」に参加。10月2日(日)にサントリーホールでコンサートを行う。「作曲家の個展」はサントリー芸術財団が法人アーティストの振興を理念に日本の優れた作曲家に焦点をあて、その代表作を紹介するコンサートで、31回目を迎える。今年は三輪氏が、指揮に野平一郎氏、そして管弦楽に東京都交響楽団そしてガムランアンサンブル・マルガ・サリとともに委嘱新作と近作を披露する。昨年度の芸術選奨や、「逆シミュレーション音楽」でメディアアート界において権威あるアルスエレクトロニカ ゴールデン・ニカ賞を受賞するなど、世界的に注目を集めている三輪氏に、オーケストラそしてガムランという今回のコンサートのテーマについて、そして3月11日の震災を契機に生まれたという世界初演となる『「永遠の光・・」オーケストラとCDプレーヤーのための』について話を聞いた。

同じ音しかしないオーケストラへの挑戦

──今回開催される『作曲家の個展2011』の選曲はどのような経緯で決まったのですか?

原則一任されているんですが、ひとつだけ決まっていたことは、このコンサートのために新作を書くということ、委嘱されるということが条件としてありました。それから『作曲家の個展2011』のシリーズはオーケストラや管弦楽作品を集めて行うのですが、僕はオーケストラにそれほど興味を持ったことがなかったので、作品は少ないんです。初めて書いたのは2003年の『村松ギヤ・エンジンによるボレロ』という作品で、エジプトのカイロ交響楽団で日本の作品の募集しているのに誘われたのがきっかけで作り、実際にカイロのオペラハウスで演奏しました。

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『作曲家の個展2011』に参加する三輪眞弘氏

──三輪さんにとってオーケストラの作曲というのは、それ以外の作品とどのような違いがあるのでしょう?

たしか近藤譲さんも言っていますけれど、オーケストラは同じ音しかしない。よっぽどソロ楽器のほうがいろんな音が出せると思うんです。オーケストラは今から100年前に三管編成の大編成というフルスペックになった時点でフリーズしたんです。たとえばマーラーの作品をきちんと弾けるだけの楽器と人員を揃えているけれど、作曲家は完全にマーラーの時代のままの編成のなかで新しい作品を書きなさい、と強いられる。ソロの楽器だったら演奏家の技量とかやる気でいろんな挑戦ができるけれど、オーケストラは組織になってしまっているから融通が効かない。パワフルな音を出すとか、ダイナミックな音を出すときにはどういう風に音を出せばいいかが決まってしまって、どこにもあるような響かせ方しかなくて、それ以外のことをやってもよく響かない。そういうオーケストラの生理みたいなものにくじかれるんです。

ソリストやアンサンブルだったら「こういうことをやってみたいんだ」と直接話をして解ってもらえたうえで、人間的なコミュニケーションの上で作っていけるんだけれど、オーケストラの場合には、指揮者が解ってくれない場合、指揮者を飛び越えて直接団員に語りかけるというのは制度上あまりできないんです。だから僕は必死に指揮者を説得するんですけれど、指揮者に最初からやる気がないとお手上げですよね。オーケストラは僕にとって非常にリスクが大きいのです。

──それでも今回チャレンジされるのは?

『ボレロ』を書いたときにはもうやるべきことはやったから「もうやることはない」と思っていたんですけれど、次の委嘱があって、さらに今回もう1回機会を与えられて、まだやれることがあるとすればそれは何か、という自分に対しての問いがあったからです。

ガムランという共同体社会を反映した世界の魅力

──今回『ボレロ』と一緒に演奏されるのが2007年の作品『愛の讃歌-ガムランアンサンブルのための』ですが、三輪さんがガムランに興味を持ち始めたのは?

これもまたマルガ・サリというガムランアンサンブルの中川真さんから「このアンサンブルのために書きませんか」依頼されたんです。そのときは僕は「逆シミュレーション音楽」(ある一定の計算の繰り返しをあらかじめコンピューターで検討し、その計算を音の繰り返しとして移し変えて演奏する)というコンセプトで作品を書いていて、「ありえたかもしれない音楽」とか発想の仕方というものを考えていた時期だったんです。もちろんガムラン音楽はそもそもあるものですが、西洋音楽からしたらありえないことをやっている。僕個人が考える「ありえたかもしれない音楽」みたいな、そんなおおざっぱなものじゃなくて、厳然として宇宙があるガムランという体系にどういうアプローチができるのか。西洋音楽に対してアンチとしてやろうとしていることが、ガムランでは完全にそこにあるわけだから、それに対して自分がどうするのかというのは、大きなチャレンジでやりがいのあることでした。

──三輪さんがこの曲について解説した文章のなかに「西洋音楽はトップダウンなのだが、ガムラン音楽はボトムアップの思想である」とありますが、このことについてもうすこし詳しく教えてください。

もちろん見た目の形態からして、指揮者がいて指揮棒の元で全員が息をあわせてやるというヒエラルキーですよね。さらにその上には作曲家がいて、作曲家のメッセージをお客さんが感じる、みたいな神話がある。その神話のもとに一音足りともおろそかにするなよという圧力があって、そういう中で西洋の近現代の音楽は扱われたし、考えられてきたんです。

ガムラン音楽とは、実際には一つ一つのパートを聴けば単純なことしかやってないけれど、その総体がグルーヴを生み出していく。例えばイメージとしては、音楽が常に鳴っていて、それを拾い上げる共同性みたいなもの、というところで、もちろんガムラン音楽でも指揮者にあたる人、しいて言えば真ん中の太鼓の人がいて、リズムをキープする。それでも、お互いに聴き合って行う形態というのは、西洋音楽も昔はそうだったかもしれないけれど、基本的には発想が違うと思うんです。それはまさに社会というものをそのまま反映しているというのがポイントだと思います。ガムランのような共同体社会から生まれた音楽に対して、西洋音楽は、キリスト教や王政など強力なパワーが全体をまとめあげる、という社会の仕組みを反映している。もちろん西洋音楽とガムラン音楽のどちらが正しいということではないけれど、これだけじゃないんだ、というのはあってほしいと思うんです。

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ガムランアンサンブルのマルガ・サリ

──そうしたガムランに対する考えを、ご自身の作曲法のなかにどのように組み入れていくのでしょう?

4ビットガムランという、4桁の二進数を人の手で叩くというグンデル(ガムランの鉄琴)のための技法を考案しました。それを2つのグループにより行うのがこの曲の基本にあります。そこに踊りも入ってくるのですが、音に関しては僕が指定しますし、ダンスのほうにはその構造を視覚的に見えるようにしてほしいという要望は伝えますが、僕は振付には関わらず、どんな風にやってくれても僕の曲なんです。僕のやるアプローチとしてはこういうものだろうし、演奏者が理解できたからといって4桁のバイナリーナンバーを間違いなく演奏するにはかなり身体化してもらわないといけない。オーケストラには期待できないけれど、こうしたガムランのグループだったら、それが可能なんです。その技法以外はジャワのガムランの感性を壊さずにそのまま入れてくれていて、それでいて僕の曲であるという、同時の状態を作るが僕のいちばんの目標でした。

ガムラン音楽だと、基本的には初めての人でもとりあえず演奏に参加するのはわけないことなんです。確かにガムラン音楽の高度な演奏というのはあって、ガムラン音楽の巨匠というのは歴史的にはいなくはない。けれど他の民族音楽と比べても、シタールとかウードとか日本の三味線のような名人芸の音楽じゃないんです。ガムランは、まさに社会を反映しているという意味での共同体の世界の魅力なんだと思います。

震災と原発事故の時期に作られた新作

──今回のコンサートで初披露される『「永遠の光・・」オーケストラとCDプレーヤーのための』とはどんな曲なんでしょうか?

ひとつの旋律を断片化して演奏するホケット(hocket)という技法があって、2つめのタイミングの音は僕がやるし、3つ目の音は彼が出す、とひとつの旋律を複数の人が受け持つやり方を用いています。ガムランでもこのアイデアで作曲しましたし、この新作では徹底的にシステマチックに12パートに分かれてひとつの旋律をピチカートで弾くということを行なっています。

曲全体は40分近くあって、そのうちの前半20分はCDから出る音響で、その後20分は人間が人力で弾くオーケストラ曲です。4分の4拍子でテンポが120なんですけれど、16音の16分音符を12パートが分散して弾く。ピチカートで弾くのでその間と音域も分けてあって、1小節を4人が担当する。楽譜や理屈ではできるんだけれど、それがほんとうにできるのか。誰も「できるはずない」と言わないのが僕としては心配なんですけど(笑)。

──この曲は以前から構想されていたんですか?

まず震災と原発事故の時期に作ったということがあります。あの時点ではいくつか、こういう作品にしようというアイデアがあったんですけれど、今回これをやるしかないんだろうとひとつの方針に固まりました。

問題意識として「中部電力芸術宣言」というのを1年前に書いていて、電力やエネルギーによって社会や人間の生存そのものが成り立っていて、それを使って音楽をやるということはどういうことなのか、そして一切人力でやるってどういうことなのか、ということを考えてきました。たとえばアルスエレクトロニカでは、ハイテクを極めたコンサートがある一方で、ホールのなかでスピーカーひとつ使わずやる音楽があるけれど、両者の関係は日本だけでなくドイツでもオーストリアでも他の国でもお互いに知らんふりしている。そうした両者が交わらない状況があります。

もうひとつは、僕は現代音楽の作曲家だから、ポップスとは(私は)関係有りませんと言うことはあり得るけれど、これだけ現在の社会で強大なパワーを持ち影響を与えているポップスに、関係ないですと済ませて一生を終えたくないんです。同じ音楽と呼ばれている以上、じゃあポップスとはなんなんだ、というところからはじまって、「フォルマント兄弟」(三輪と佐近田展康氏とによる人工音声合成パフォーマンスユニット)のような、僕らにとっての思考実験を作品化し提案し発表するという活動に結びついています。10年前から活動を初めていたんだけれど、ここ数年で僕自身の気持ちが変わってきて、もっとはっきりさせなきゃなという意識が働いて、今も積極的に取り組んでいます。

そんなときに震災があり、僕の作曲自体がコンピューターを使って音を選んでいるし、音響を合成したり、シミュレーションしたりしながら曲を作っている。夏だったらエアコンを使いますし(笑)、そのなかで生まれる作品とはどういうものなのか。そして究極的には音楽とは何か、テクノロジーとは何か、もっと言えば人間とは何か、という話にもなるわけです。もちろんそんなとてつもない話はすぐに解るわけではないですが、自分の能力の範囲で解っていきたいというのが僕の作品であり、活動なんです。僕の作品に対して「こんなの音楽じゃない」と怒る人がいてもおかしくないと思っているんだけれど、この日本社会ではいつもあたたかい拍手をもらうだけで、誰ひとり批判してくれない。僕は作り手としてはできるだけ多くの人に問いかけ、挑発しているつもりで、批判されることを覚悟して常に作品を作っているんです。

(インタビュー・文:駒井憲嗣)



三輪眞弘 プロフィール

1958年東京生まれ。1978年渡独、国立ベルリン芸術大学で作曲をイサン・ユンに師事。1985年より国立ロベルト・シューマン音楽大学でギュンター・ベッカーに師事する。1995年よりケルン・メディア芸術大学でコンピュータ音楽の講座を担当。2004年『オーケストラのための「村松ギヤ・エンジンによるボレロ」』で芥川作曲賞、 2007年音楽についての独自の方法論「逆シミュレーション音楽」がプリ・アルスエレクトロニカ、デジタル・ミュージック部門でグランプリ(ゴールデン・ニカ)を受賞。2009年佐近田展康と共にフォルマント兄弟として「フレディーの墓/インターナショナル」が再び同賞デジタル・ミュージック部門で佳作入選。コラボレーション作品、創作・講演活動、様々な作品やCDアルバムの発表など、その活動は多岐にわたる。現在、情報科学芸術大学院大学(IAMAS)教授。旧「方法主義」同人。
http://www.iamas.ac.jp/~mmiwa/




サントリー芸術財団コンサート 作曲家の個展2011「三輪眞弘」
2011年10月2日(日)
サントリーホール 大ホール

開場14:00/開演15:00
プレコンサート・トーク 14:20~ 聞き手:中ザワヒデキ(美術家)
【演奏曲目】
三輪眞弘(1958-):
●村松ギヤ・エンジンによるボレロ(2003)
●愛の讃歌-ガムランアンサンブルのための(2007)
●「永遠の光・・」オーケストラとCDプレーヤーのための(2011)(サントリー芸術財団委嘱作品・世界初演)
指揮=野平一郎
管弦楽=東京都交響楽団
ガムランアンサンブル=マルガ・サリ

【入場料】
S席=4,000円/A席=3,000円/B席=2,000円(全指定席/税込)
【お問い合わせ】
東京コンサーツ 03-3226-9755

【プレイガイド】
サントリーホールチケットセンター 03-3584-9999
チケットぴあ 0570-02-9999[Pコード:142-662]
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主催=公益財団法人サントリー芸術財団
協賛=サントリーホールディングス株式会社
助成=芸術文化振興基金


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