骰子の眼

dance

東京都 渋谷区

2011-09-10 10:00


「流出し忘れ去られていく場所から始まる」新作を携え大橋可也&ダンサーズ「ハードコアダンスファクトリー」Vol.3開催

9/17から、こまばアゴラ劇場で『OUTFLOWS』上演、大橋氏に聞く「ハードコアダンスとは?」
「流出し忘れ去られていく場所から始まる」新作を携え大橋可也&ダンサーズ「ハードコアダンスファクトリー」Vol.3開催
『ウィスパーズ』より(photo:GO)

日本のダンス界の極北を突き進むハードコアコンテンポラリーダンスカンパニー、大橋可也&ダンサーズが新作『OUTFLOWS』を9月17日(土)からこまばアゴラ劇場で上演。その1週間前である9月11日(日)に、渋谷アップリンク・ファクトリーでハードコアダンスファクトリーが開催される。
ハードコアダンスファクトリーは、音楽家たちとダンサーズによるパフォーマンスやゲストによるトークから、ダンスの中核を参加者とともに作り上げようとする意図で今年4月から隔月でスタート。今回で3回目となる今回は、8月に上演された『ウィスパーズ』の記録映像の公開や、『ゴダール的方法』で知られる横浜国立大学准教授の平倉圭をゲストに迎えたトーク、そして大橋可也&ダンサーズのメンバーである古舘奈津子と国枝昌人のパフォーマンスも上演する。待望の『OUTFLOWS』の一端を垣間見ることができるだけでなく、ダンス界の外部にいるミュージシャンやクリエーターとのコラボレーションを積極的に行っている大橋可也&ダンサーズが「やっていること」と「やろうとしていること」を体験することができるワークショップだ。
webDICEでは大橋氏にあらめて新作のコンセプトやハードコアダンスの定義について話を聞いた。

人と一緒にできるってことが素晴らしい

── 大橋可也&ダンサーズは近年、バンド「空間現代」とのコラボレーションのみならず、『帝国エアリアル』ではミュージシャンとして参加していたハードコアパンクバンド「GAUZE」のドラマーHIKOが前作『深淵の明晰』ではダンサーとして出演するなど、ダンスカンパニーとしては異例ともとれる複雑かつ豊かな前進を実現されているように思います。今回の作品『OUTFLOWS』では、BABY-Qのキーパーソンとしての印象が強いロカペニスこと斉藤洋平が映像で参加し、スライムを用いて空間と時間を異化させるようなパフォーマンスを行うゾルゲルプロの鈴木携人が美術を担当し、そしてダンサーズ作品では馴染み深い関係なものの、作品に音楽を提供する形は今回が初めてになる大谷能生が音楽を担当するとのことですが、大橋さんの作品作りにおいて、そういった人選はどのように行われているのでしょうか?

そうですね。コラボレーションとかダンス業界とか、というのは意識していなくって、まあ、そういう表現も助成金の申請のときとかは使うのですけど、自然にそうなっているのだと思います。言ってみれば、ダンサーとの関係もコラボレーションなのですよね。もちろん、関係のあり方は違いますけれど。全部コラボレーションじゃん、だと思います。

人選が先か、作品が先か、というと、人選が先ですね。これも大人の事情で助成金申請時にあらかた関係者を決めておかなくてはいけないというのがありまして。別の理由としては、僕の作品づくりはボトムアップなのですよ。あらかじめ作品のコンセプトとかイメージなどがあるわけではなくて、やっていきながら、他人と稽古しながら会話しながら作っていくので、人が先に来るのはある意味、必然かなあと。

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大橋可也(photo:GO)

で、どうして、今回この3人なのかというと、組み合わせにはほとんど意図が無くて、それぞれの人と作品を作りたいな、という思いがあって、それも感覚的なものですが、こういう機会があったので、組み合わせてみたと。適当でごめんなさい、皆さま。

もう少しいいことを言おうとすると、僕は絵が描けなくて、楽譜も読めなくて、つくりものはほぼ全般的にだめな人なのです。ダンスもできるとはまるで思っていないですけど。そういうことはある意味ではコンプレックスではあったのですが、だから人と一緒にできるってことが素晴らしいと思うのですよ。ポジティブシンキングな俺っていうか。

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『深淵の明晰』より(photo:GO)

──異なるジャンルのアーティストとのコラボレーションは、大橋さんがパフォーミングアーツのシーンに何がしらかの硬直を感じていることから生まれているのでしょうか?

先の答えと重複するかも知れませんが、ほとんどシーンとかはどうでもよくなってきています。そもそもシーンがあることすら疑わしいし。ただ、シーンというか、そういうジャンルがあることで、僕たちもお金を得ているってことはあって、それはそれで恩義は感じています。とはいえ、そんなものもなくていいと思うし、webDICEでもパパ・タラフマラの解散を取り上げていたけど、金が出なくて、やめたい人、続けられない人はやめればいいと思うのですよ。一度、焼け野原になったほうがよい、そういう思いはあります。

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『Action, Sound, Conflict』より(photo:GO)

今回の作品が向かう先には、僕たちの未来が見える

──『OUTFLOWS』は流出という意味だそうですが、これは直ちに尖閣諸島で起こった事件のビデオ流出を想起させるタイトルです。『帝国エアリアル』、『春の祭典』といった作品タイトルからも伺えるように、社会、ひいては国家を強く意識させるネーミングが意図的に行われているように思います。そしてそれは、作品のテーマと直接紐づけられてゆく言語だと思います。実際に、作品のテーマは現実社会で起こる事件から着想されることが多いのでしょうか?

おお、すっかり尖閣諸島のやつは忘れていましたよ。sendogku何とかでしたっけ。僕の場合、すぐ忘れてしまうので、最近のことぐらいしか関心がないのかも知れません。ということで、今回は福島第一原発の放射能流出からのインスパイアなのですが、インスパイアって使いたいだけですが、今の日本社会の最大の問題は人が流出してしまっていることですよね。優秀な研究者にせよ、事業家にせよ、海外にいってしまう。日本でちょっと目立とうとするとホリエモンみたいに捕まるしね。企業も海外に拠点を移している。日本はいずれ忘れ去られた島になるでしょう。日本の未来がそうであったとして、別に僕はそれは悪いことばかりではなくて、忘れ去られた島には新たな植生が育つるかもしれないし、きらびやかな鳥たちが飛び回っているかもしれない。そう、放射能で突然変異した動物も、人間もね、生まれるかもしれないですよ。それって輝かしい未来じゃないですか。

今言ったことと今回のダンスがどう結びついているか、誰にもそれが見えるかどうか分からないですが、僕には今回の作品が向かう先には日本の、というか、世界の、といっていいと思うけれど、僕たちの未来が見えますよ。

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『帝国、エアリアル』より(photo:GO)

──あらためて大橋さんの定義するハードコアダンスを言葉にするとしたら?また、活動を重ねるにつれてその定義は変化していますか?

僕がやっていることはハードコアダンスです。それだけでもいいのですが、もう少し補足しますね。ハードコアって中核ってことですね。中核派です。ダンスの中核派なわけです。じゃあ、ダンスって何、ってことになりますが、人が動くってことでしょう、止まっていることも含めて。動くことって、人間が生きていることそのものじゃないですか。言葉を替えれば人間の仕様といってもいいでしょう。人の運動であり、行動であり、生存そのものであり、さらにその中核派ってことで。

活動を重ねても定義自体は変わっていません。その都度考えているので、表現は変わっていると思いますが。

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『春の祭典』より(photo:GO)

──現代でハードコアであリ続けること、の難しさを感じることはありますか?

ハードコアである、といいますか、生きることはつらいですね。それが現代だからかどうかは、僕には分かりません。現代しか知らないですしね。僕が何を持って生きているのか、生きようとしているのかは、歳を重ねるごとに分からなくなってきました。もう不惑を過ぎているのですけど。生きるみちを探ること、それがやっぱりダンスってことで、ハードコアってことでしょうか。とはいえ、幸せだと思います、とても。あ、質問とはずれてしまいましたね。

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石川雷太展でのパフォーマンスより(photo:GO)

──最後に、ハードコアダンスファクトリーはダンスのみならず舞台作品が宿命的に抱えている問題をあぶり出す企画だと思います。その意図についてお話をお聞かせ下さい。

舞台作品といってもいろいろありますが、僕たちがやっていることは、ある意味、身内の世界ですよね。やる人が見る人で、お互い知り合いだという。もちろん、そうでない人もいますが。狭い世界だと思いますが、それも悪いことじゃない。みんな身内になってしまえばよい。なので、参加する人、観客でもゲストでも身内にしてしまいたいのです。今日からお前も俺の仲間みたいな。

ということで、気軽に、かつ、慎重に考えた上で、参加していただきたい、そんな場にしたいと思います。

(質問作成:倉持政晴、構成:駒井憲嗣)



大橋可也(おおはしかくや) プロフィール

振付家。1967年、山口県宇部市生れ。1989~1990年、イメージフォーラム付属映像研究所にて映像制作を学ぶ。1991年、カナダヴァンクーバーにてパフォーマンス活動を始める。以後日本国内・海外を問わず積極的に活動を展開。1999年、ハードコアダンスを提唱し、「ダンスとは何か」という根本的な問いかけに立ち向かうことを、その活動の主題とする「大橋可也&ダンサーズ」を結成、振付作品の発表を開始する。コンピュータシステム開発に従事しながら、日常生活と遊離することの無い活動を続けている。
http://dancehardcore.com/




大橋可也&ダンサーズ「ハードコアダンスファクトリー」Vol.3

ゲスト:平倉圭
パフォーマンス:大橋可也&ダンサーズ×大谷能生、国枝昌人×古舘奈津子
映像上映:大橋可也&ダンサーズ+空間現代『ウィスパーズ』

日時:2011年9月11日(日)18:15開場 18:30開演
会場:渋谷アップリンク・ファクトリー
[地図を表示]
料金:¥2,000(+1ドリンク別/予約できます)
※10代の参加者は¥1,000(+1ドリンク別)
※UPLINK会員は¥1,800(+1ドリンク別)
※2回目以降の参加者には工員手当(¥500リピーター割引・要申込み)あり。
※UPLINK会員¥1,800(+1ドリンク別)
http://www.uplink.co.jp/factory/log/004120.php


OUTFLOWS

出演:皆木正純、山田歩、唐鎌将仁、山本晴歌、阿部遥、長洲仁美、小松杏里、石本華江、板垣あすか、後藤ゆう、檀上真帆

日時:2011年9月17日(土)20:00開演
2011/9/18(日)14:00/17:00/20:00
2011/9/19(月)14:00/17:00
会場:こまばアゴラ劇場
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料金:¥3,500(前売・30才以上)¥4,000(当日・30才以上)
¥2,500(前売・29才以下)¥3,000(当日・29才以下)
日時指定、自由席、各回50名限定
※チケットのご購入にあたって、年齢の確認はおこないません。
※ハードコアダンスファクトリー参加者には工員手当(各¥500割引・要申込み)あり。
http://dancehardcore.com/


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