骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2011-08-19 00:07


いとうせいこうと川勝正幸が語るバンクシーのアート「心にボムされちゃってる」「テーマ毎にいろいろなスタイルを発想して意表を突く」

『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』8月20日(土)より渋谷アップリンク、下北沢トリウッド、立川シネマシティにて拡大公開!
いとうせいこうと川勝正幸が語るバンクシーのアート「心にボムされちゃってる」「テーマ毎にいろいろなスタイルを発想して意表を突く」
渋谷シネマライズで行われたトークショーの様子。左から川勝正幸さん、いとうせいこうさん。右はミスター・ブレインウォッシュの作品『Juxtapose』。

東京都渋谷区のシネマライズにて、作家、クリエイターのいとうせいこうさんとエディターの川勝正幸さんによる『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』のトークショーが開催された。アート、カルチャー、政治など様々な分野に造詣が深く、川勝さんいわく「ふたりともお笑い出身だから」というふたりによる、バンクシーと『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』を深く、そして面白く読み解くトークショーとなった。なお、このトークは本編上映後に行われ、ラストを含む映画のディテールを詳しく解説している内容のため、未見の方はご注意いただきたい。

語れば語るほど、語っている人がバカに見えちゃう(いとう)

川勝:今夜は映画を観終わったばかりの方々の前でトークショーをするということなので、昨日メモを取りながら改めて観たんです、映画の最初のほう、ティエリー・グエッタ(のちのミスター・ブレインウォッシュ)が、シェパード(・フェアリー)がビルの屋上でポスターを貼ってるところを撮っている。ところが、途中からフレームにティエリーが入ってきて、ハシゴに上って手伝いをし始めるんだけれど、ズッコケてしまう。そのタイミングがうまいんですよ。あと、ピンクのペンキをこぼすところね。

いとう:うまいですよね!あんなことできないよ、よほどの芸人じゃないと。

Juxtapose
ミスター・ブレインウォッシュ『Juxtapose』(2011年)

川勝:あれを演出でやってるとしたらすごい。となると、ティエリーはやっぱり天然なのかなって……また眠れなくなっちゃう(笑)。

いとう:演出でできるものではないですよ。明らかに笑いの神が降りてますよね。

川勝:そして、最初の展覧会の3週間前にまたはしごからずっこけて怪我する。あれはちょっと〈作り〉なのかなって。一応レントゲンとかこれみよがしに出すでしょ。あれがホントだったら、それはそれでまた映画の神が降り過ぎてますね。

いとう:確かにあの脚を折って大変になっていくところが作為であっても、素人ならこなせるかもしれない。ただ、作為だったとして「今からペンキこぼすよ」って言われたら一瞬待っちゃうと思う。でもティエリーはすんごい速さでこぼすわけ、あれはできないですよ。

川勝:ペンキのシーンはポイントですね。

いとう:それから、前半に「あれ?」って思うシーンがあって、フランスのゼウスというストリート・アーティストの周りを撮っているティエリーがいて、それ自体を誰かが撮っていますよね。さて、これは誰が撮ってるんだ?って。

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『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』より (C) 2010 Paranoid Pictures Film Company All Rights Reserved.

川勝:そうした“ほころび”をわざと残して、いとう君や僕みたいに映画について語る人々をひっかけているような気もします。

いとう:だからそこを語れば語るほど、語っている人がバカに見えちゃうみたいな。ミスター・ブレインウォッシュの愚かさと変わらなくなってしまう。

川勝:バンクシーに笑われているわけですよね、僕らも。

いとう:でも議論しないでじゃあ見過ごしていいかというとそんなこともない。うまい罠なんです。僕のイメージでは、バンクシーにとってこのティエリーという人が(マルセル・)デュシャンにとってのレディメイドみたいなものじゃないかと。このひとりの人間を持ってきただけで、どんどんアートができていって、しかも「これアートじゃないじゃん!」「いや、アートだ」という論争を延々することができる。そういうすごい人間作品を生み出しちゃった。

観終わった後でいろいろ想像できる(川勝)

川勝:編集も、オープニングから絶妙なうまさがあります。タイトルデザインに流れるのは、ブリット・ポップのアーティスト、リチャード・ハーレイの「Tonight The Streets Are Ours」という曲。スイートなポップスが流れている間に、カウズからバリー・マッギーまで、そして、バンクシーも含めて、ストリート・アートとは何か? というのが短時間でひと通り解るような構成なっている上に、曲終わりで、グラフィティを描いていた男が警官に追われるシーンになだれ込む。それから、ラストは『アメリカン・グラフィティ』風に、ミスター・ブレインウォッシュが『セレブレイション~マドンナ・オールタイム・ベスト』(09)のアートワークを手がけたとテロップが出ます。バンクシー的には「マドンナがジャケットに使ったら、アート双六のあがりかな」ということで編集の方向が決まったのか? それとも、マドンナがバンクシーにジャケットを依頼したら逆提案されたのか? などなど、とにかく、観終わった後でいろいろ想像をたくましくせざるをえないところが、この映画の面白さだと思います。映画全体に、イギリス人ならではのユーモアが流れているのでは? とも、感じました。

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『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』より (C) 2010 Paranoid Pictures Film Company All Rights Reserved.

いとう:シニカルなユーモアですよね。モンティ・パイソン的な視線がある。

川勝:電話ボックスをデタラメに“破壊”して、新しい作品として街に戻すシーンで、その騒ぎを見ていたおばあさんが「よっぽど電話会社に恨みでもあるのかしら」って言う。あれって、モンティ・パイソンだったらエリック・アイドルが女装してしゃべっているところですよね。

いとう:フィクションとノンフィクションの境目がない感じですよね。バンクシーはちょっとありえないような構造を作り上げる天才的な頭脳を持ってる。普通だったらどう捻っても、フィクションで撮って、後から記録を混ぜて作る。それをティエリー・グエッタという人ひとりを入れることで、この映画で描かれていることが本当なのか嘘なのか最終的に解らなくしてしまうし、そしてストリート・アートがぜったいいい!と言いながら帰ることができなくなってしまう。だってブレインウォッシュみたいなものもあるわけだから。観終わった人もアートの価値ってなんなんだよ、ということを思い続けることになる。そういう心に引っかき傷を残していくやり方、バンクシーに心にボムされちゃっているわけよね。

川勝:そうですね。僕も観ながらメモを取ってる時点で、みうらじゅんさん言うところの「どうかしてるぜ」状態になっているという自覚がありました(笑)。

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『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』より (C) 2010 Paranoid Pictures Film Company All Rights Reserved.

いとう:世界には、いまだにタグをいろんなところに描くような、バンクシーみたいに進化していない状態のグラフィティもある。そういう描き方は字のクセだとみんな思ってしまうけれど、よくよく考えると「書」もそうなんだよね。美術館で空海の書を観て、どこまでが絵でどこまでが文字なのか惹きつけられる。「空海」と書いていなくてもその書体自体で誰が書いたか解る。グラフィティの世界にもそういうものはあるんじゃないかな。タグだけ書くというこの不思議な文化からヒップホップのなかのグラフィティ・アートは始まって、そこまで突き詰められたカリグラフィの側面があるということを押さえとかないと。

グラフィティに現代美術的なコンセプトを持ってきた(いとう)

川勝:いとう君が『ユリイカ』8月号の大山エンリコイサム氏との対談のなかで、バンクシーの壁の選び方と、そこになに描くかという行為が、日本における借景と通じると語っていましたけど、あれは、すごい面白い見方だと思ったんです。

いとう:通常は遠くの山を庭の一部として取り込むようなことが借景だけど、いつもの普通のお茶室の花器にイガ栗をひとつ差すだけで周りの世界は秋になる、というように、途方も無い季節を一個のものだけで表すのも借景の延長だと思います。その部屋の向こうには確かに山が紅葉しているから、どこまでが自分の作品で、どこまでが借り物かが解らない。それはすごく日本的な見立ての面白さなんだけれど、バンクシーには圧倒的に見立てがある。最小限のものを描いて、最大限の効果を得るのが借景の面白いところだから。壁の向こう側が海になっているというグラフィティを、渋谷の壁に描いてもインパクトないわけですよ。イスラエルとパレスチナを分離する壁に描くということに意味がある。しかも痛快なのは、どう考えたって兵隊に狙われるわけだから、命がけでそれをやる。

川勝:覆面とはいえ、チームとして無事入国するための作戦は? 塗料をどう手配するのか? 事前に下見に行ったのか? 大型のステンシルを現地で製作するのか? などなど、実際の用意周到な準備の部分は映してないんですよね。そこもこの映画の骨太なところだと思いました。

いとう:そこで「あぁ大変なんだな」なんて思ってもらったら、それは無粋だろうって。その美学は圧倒的にありますよね。

川勝:グラフィティには、いかに危険なところに描くかというアスリート的な部分もありますよね。一方で、バンクシーの“CCTV”シリーズでいえば、監視カメラの下にスカル&ボーンズの旗をくわえたカラスの人形を設置した作品など、いとう君が言うところの借景に近いセンスですよね。

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『Wall And Piece』より(2004年、トッテナム・コート・ロード、ロンドン)

いとう:バンクシーが登場するまで、グラフィティは基本的にコンセプチュアルなものではなかった。彼はそこに圧倒的な現代美術的なコンセプトを持ってきたんだけれど、この映画でとうとう、こんなところまで至ってしまった。彼は、アルタミラの洞窟の壁画を描いた作品のように、価値の転倒みたいなものを常に考えて描いていると思うんです。衝動的なパッと描く良さもグラフィティにはあるけれど、絶えず吟味して、ジャストなところにジャストなものを描いて、そこでの議論をずっと耐えなくしてしまうという面白さは、バンクシー特有のものです。オツなもんですね。

バンクシー自身も“壁”と戦っている(川勝)

川勝:昔はグラフィティを消すためのお金を請求されたのが、今ではバンクシーがグラフィティを描くと資産価値が上がるので、アクリルで保存したりするようになったと聞いています。そんな現在の彼を取り巻く状況や、セレブリティが高価で作品を買うという報道で知名度が上がる状態などに絡め取られないように、ひとつの突破口としても、この映画は強いパワーを持っていると思います。映画の前半はストリート・アーティストにとって必要な壁が、後半はミスター・ブレインウォッシュが無理やり埋めなくてはならない広大な会場の壁が描かれます。『イクジット・スルー・ザ・ギフトショップ』は、“壁”についての映画だと言えるかもしれません。

いとう:普通の人だったら、この映画に『The Wall』ってタイトルをつけちゃうと思うんです。いちばん解りやすいし、美術と壁の関係について単純に象徴できる。それを『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』というタイトルにするところが、食えないタマだなって。このタイトルは、どういう意味なんですか?

川勝:「出口は売店の先」という、美術館の展示会場でよく見かけるインフォメーションからの引用だと思います。順路に沿って、作品を見終わると、出口の手前に、展覧会のカタログや、アーティストの作品をポストカードなどグッズにしたものが売っていることが多いですよね。この映画は現代アーティストとお金だけでなく、バンクシー自身も含むストリート・アーティストとお金の問題にも踏み込んでいます。そういえば、特殊翻訳家の柳下毅一郎氏は7月23日のツイッターで“「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」って「お代は見てのお帰り」って意味だよね?”とつぶやいていました。ちなみに、アップリンクの公式サイトに掲載されているインタヴューで、バンクシーは「商業的なギャラリーで僕の作品の展示会が開催されても僕にはまったく関係ないんだ。Tシャツにせよ、マグカップにせよ、絵葉書にせよ、僕には一銭も入ってこない」と語っていたことを思い出しました。

いとう:そうして自分を追い詰めている。すると今度は、今までのように壁に描いていることが自分としても許されるのか、あるいは、観た我々にとってももっと欲望が膨れ上がって、違うかたちの仕掛けをつい期待してしまう。もちろん彼はそれを重々解ったうえでこの映画を発表している。近々で言えば今のイギリスの暴動に関して必ず何かを描いていると思うんですよね。だって彼は、何かひとつの抽象的なテーマに従って現代美術をやってる人と違って、時代と常に呼応して描いてるから。

川勝:現代アーティストの場合、むしろ作風を変えないことでアートマーケットにおける価値が上がっていく場合もあると思います。ですが、バンクシーは現在性の高いテーマ毎にいろいろなスタイルを発想して、みんなの意表を突いていく。

いとう:バンクシーは次作を最も知りたくなるアーティスト。社会的な問題とともに歩んで、何かを描いていく人で、今回は映画という手法でアートの世相を切ってみせた。じゃあ次はどんなメディアで会えるのか。ワクワクもするし不安でもありますね。

(2011年8月10日、渋谷シネマライズにて。取材・文:駒井憲嗣)
BANKSY Wall and Piece
First published by Century, one of the publishers in The Random House Group Ltd.
Japanese translation rights arranged with Century, one of the Publishers in The Random House Group Ltd.,
London through Tuttle-Mori Agency, Inc., Tokyo



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『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』
渋谷シネマライズテアトル梅田にて公開中、渋谷アップリンク下北沢トリウッド立川シネマシティにて8月20日(土)より拡大公開

監督:バンクシー
出演:ティエリー・グエッタ、スペース・インベーダー、シェパード・フェアリー、バンクシー、ほか
ナレーション:リス・エヴァンス
音楽:ジェフ・バーロウ(Portishead)、ロニ・サイズ
2010年/アメリカ、イギリス/87分/英語
提供:パルコ
配給:パルコ、アップリンク
特別協賛:SOPH.Co.,Ltd.
公式HP
映画公式twitter


関連イベント

映画で知るストリートアートの現在 ─
『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』+『インサイド/アウトサイド』二本立て上映(+ゲストトーク)

日時:2011年9月24日(土)19:00開場/19:30上映(上映終了後にトークショー)
料金:予約¥2,300 当日¥2,500(共に1ドリンク付)
上映作品:『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』(2010年/アメリカ、イギリス/87分)
『インサイド/アウトサイド』(2005年/デンマーク/57分)
ご予約方法、詳細は下記まで
http://www.uplink.co.jp/factory/log/004106.php

▼『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』予告編



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