[監督]溝口健二×[音楽]望月京 無声映画『瀧の白糸』 写真:東京国立近代美術館フィルムセンター
サントリーが1987年より毎夏に、20世紀の音楽や最新の作品を紹介するシリーズ・コンサート「サマーフェスティバル」が今年も東京都港区赤坂のサントリーホールで2011年8月22日(月)から30日(火)まで開催される。世界の大作曲家から日本の若手まで最新の音楽を「映像と音楽」「テーマ作曲家 ジュリアン・ユー」「サントリー音楽賞受賞記念コンサート〈大野和士〉」「第21回 芥川作曲賞選考演奏会」の4つのカテゴリーに分けて紹介する。
今年の特別企画「映像と音楽」では、サマーフェスティバル初めての試みとして、映像とライブ・パフォーマンスのコラボレーションが3公演行われる。
まず映像と管弦楽(オーケストラ)とのコラボレーションとしては、ロシア・アニメ界の大御所アンドレイ・フルジャノフスキーの幻の作品(制作後検閲を通らずお蔵入りになっていた)で、アルフレート・シュニトケの音楽とともに世界初演される『グラス・ハーモニカ』や、エドガー・ヴァレーズの音楽のためにビデオ・アートの巨匠ビル・ヴィオラが映像をつけ、半世紀を経たのちに作り上げた映像作品『砂漠』など、今なお色褪せないアヴァンギャルドな映像と音楽との融合が楽しみな作品が揃っている。
Photo:Kira Perov
『砂漠』15人奏者、打楽器奏者とテープのための
ビル・ヴィオラ×エドガー・ヴァレーズ
(1994製作/1950-1954作曲)(35mmフィルム、カラー)映像・日本初公開
8月22日(月)19:00 大ホール
『グラス・ハーモニカ』
アンドレイ・フルジャノフスキー×アルフレート・シュニトケ
(1968、35mmフィルム、カラー)映像・世界初公開/音楽・日本初演
8月22日(月)19:00 大ホール
出演:指揮=秋山和慶、管弦楽=東京交響楽団
そして「無声映画のための音楽」として、1933年に溝口健二が泉鏡花の戯曲を入江たか子主演で映画化した恋愛劇に、作曲家の望月京氏が音楽をつけた『瀧の白糸』が日本初演となる。
これはルーヴル美術館が2007年に企画したプロジェクト「シネ・コンセール(*)」シリーズの一貫として望月氏が作曲をしたもので、同館で行われた最初の上映が好評を博した後の、待望の日本初演となる。尺八、三味線、筝、打楽器、ハープ、ヴァイオリンといった編成に、効果音として、またストーリーテリングを引き立てるエレクトロニクスが加わり、サイレント映画として大ヒットを記録した今作に新たな息吹を与えている。
写真:東京国立近代美術館フィルムセンター
無声映画『瀧の白糸』
[監督]溝口健二×[音楽]望月京
(1933製作/2007作曲)音楽・日本初演 (35mmサイレントフィルム(一部デジタル復元版)、白黒)
8月24日(水)19:00/8月27日(土)16:00 ブルーローズ(小ホール)
出演:指揮=杉山洋一 尺八=藤原道山 箏=後藤真起子 三味線=辻英明 打楽器=池上英樹 ハープ=篠﨑和子 ヴァイオリン=野口千代光 エレクトロニクス=有馬純寿
最後に室内楽とのコラボレーションとしては、近年オノ・ヨーコと小山田圭吾(コーネリアス)が音楽を担当した作品が話題を呼んだ久里洋二が、前衛音楽家・一柳慧の音楽からインスパイアされた『G線上の悲劇』にも注目したい。音楽をアニメ映像化したというプロセスは、当時画期的であっただろう。なお、この作品にもナレーションとしてオノ・ヨーコが参加している。1969年の作品。
また『薔薇の葬列』『ドグラ・マグラ』などで知られる映画監督であり映像作家の松本俊夫が、現代音楽の作曲家・湯浅譲二とともに制作した『オートノミー《自律性》』は、現在のようにコンピューターで映像にエフェクトをかける手段が少なかった1972年に、波の自律的運動を医療用や工学用に開発された電子的なビデオ測定装置を使って、白黒の画像に着色をして映像化したもの。実験的な映像そしてミュージック・コンクレートそれぞれの分野の大家による試みが結実した作品だ。
『G線上の悲劇』
久里洋二×一柳慧
(1969/35mmフィルム、カラー、モノラル)映像×音楽
8月27日(土)19:00 ブルーローズ(小ホール)
『オートノミー《自律性》』
松本俊夫×湯浅譲二
(1972/16mmフィルム、カラー、モノラル)映像×音楽
8月27日(土)19:00 ブルーローズ(小ホール)
現代音楽、フィルムアートなどそれぞれの時代の先駆的なクリエイターたちの間でどのようなコラボレーションが生まれていたのか。現代において前衛的な表現とは、メディアアートとは、現代アートとは何か。改めて問いかけてくるこれらの作品の「復元」は、テクノロジー化された芸術への警鐘を鳴らすものになるであろう。
(*)シネ・コンセールとは、演奏会と上映会とが一体化した公演スタイルで、90年代以降フランスではポピュラーな人気を博している
(文:駒井憲嗣)
サントリー芸術財団 サマーフェスティバル2011〈MUSIC TODAY〉
2011年8月22日(月)~30(火)
サントリーホール
1.映像と音楽
8月22日(月)19:00 大ホール〈管弦楽〉
アルノルト・シェーンベルク:映画の一場面への伴奏音楽
アンドレイ・フルジャノフスキー×アルフレート・シュニトケ:グラス・ハーモニカ
ビル・ヴィオラ×エドガー・ヴァレーズ:砂漠 15人奏者、打楽器奏者とテープのための
8月24日(水)19:00、8月27日(土)16:00 ブルーローズ(小ホール)
無声映画『瀧の白糸』
[監督]溝口健二×[音楽]望月京:無声映画『瀧の白糸』
8月27日(土)19:00 ブルーローズ(小ホール)〈室内楽〉
久里洋二×一柳慧:G線上の悲劇
松本俊夫×湯浅譲二:オートノミー《自律性》
加藤到×藤枝守:ゴーランド
フォーリング・スケールNo.2
中村滋延:《哀歌》ソプラノとコンピュータ音響・ビデオのための
飯村隆彦×鈴木治行:フィルム・ストリップスII-生演奏版
マン・レイ×望月京:理性への回帰
理性の迷宮 無声映画のための音楽
山口智也×藤倉大:フルイド カリグラフィー ヴァイオリンとライヴヴィデオのための
出演:指揮=佐藤紀雄 ピアノ=砂原悟 ソプラノ=持松朋世 ヴァイオリン=花田和加子 音響=有馬純寿 演奏=アンサンブル・ノマド
演奏順未定
2.テーマ作曲家 ジュリアン・ユー
8月23日(火)19:00 ブルーローズ(小ホール)
レクチャー『作曲家は語る』
8月25日(木)19:00 大ホール〈管弦楽〉
ジュリアン・ユー:ウーユー
湯浅譲二:芭蕉の情景
田中聰:沈黙の時~オーケストラのための[日本初演]
湯浅譲二(ジュリアン・ユー編曲):内触覚的宇宙[世界初演]
ジュリアン・ユー:交響組曲 我らの自然界のために[サントリーホール委嘱][世界初演]
出演:指揮=山田和樹 管弦楽=東京都交響楽団
8月30日(火)19:00 ブルーローズ(小ホール)〈室内楽〉
ジュリアン・ユー:ビーバーによるパッサカリア~ヴァイオリン独奏のための[日本初演]
閃光II~ピアノ、2台のヴィブラフォンとグロッケンシュピールのための
シャコンニッシマ~4人の打楽器奏者とピアノのための
フィロペンタトニア~室内アンサンブルのための
ムソルグスキー(ジュリアン・ユー編曲):組曲「展覧会の絵」(2002)
出演:指揮=板倉康明 ヴァイオリン=山本千鶴 演奏=東京シンフォニエッタ
3.サントリー音楽賞受賞記念コンサート〈大野和士〉
8月29日(月)19:00 大ホール〈管弦楽〉
グスタフ・マーラー:交響曲第2番「復活」
出演:指揮=大野和士 ソプラノ=並河寿美 アルト=坂本朱 合唱=国立音楽大学、東京オペラシンガーズ 合唱指揮=田中信昭、永井宏、宮松重紀 管弦楽=東京フィルハーモニー交響楽団
4.第21回 芥川作曲賞選考演奏会
8月28日(日)15:00 大ホール
藤倉大:オーケストラのための「トカール・イ・ルチャール」[日本初演]
(第19回芥川作曲賞受賞記念サントリー芸術財団委嘱作品、日本ベネズエラ音楽交流支援委員会(Friends of El Sistema,Japan)共同委嘱)
第21回芥川作曲賞候補作品(演奏順未定)
清水卓也:アンサンブルのための「三十六角柱の表面にある宇宙」
田上英江:ドゥブル・カレ~オーケストラのための
山内雅弘:「宙の形象」ピアノとオーケストラのための
指揮=大井剛史 ピアノ=石橋史生 管弦楽=新日本フィルハーモニー交響楽団
司会:白石美雪
選考委員:伊左治直/新実徳英/湯浅譲二
【入場料】
大ホール公演〈映像と音楽〉〈テーマ作曲家〉
8月22日(月)、25日(木)
各日共 S席=4,000円 A席=3,000円 B席=2,000円
ブルーローズ(小ホール)公演〈映像と音楽〉〈テーマ作曲家〉
8月24日(水)、27日(土)、30日(火)
各日共 3,000円(全自由席)
サントリー音楽賞受賞記念コンサート〈大野和士〉
8月29日(月)
S席=9,000円 A席=7,500円 B席=6,000円 C席(学生のみ)=3,000円
芥川作曲賞選考演奏会(大ホール)
8月28日(日)
2,000円(全席指定)
作曲家は語る
8月23日(火)
無料(聴講希望者は事前に下記までお申し込みください。)
http://www.tokyo-concerts.co.jp
●セット券
〈映像と音楽〉 7,000円(大ホール公演はS席)
〈テーマ作曲家〉 5,000円(大ホール公演はS席)
お問い合わせ・電話予約
東京コンサーツ 03-3226-9755
サントリーホールチケットセンター 03-3584-9999
チケットぴあ 0570-02-9999 〔Pコード:135-516〕
イープラス
東京文化会館チケットサービス 03-5685-0650
監修※1 岡部真一郎、白石美雪
監修※2 湯浅譲二
主催 サントリー芸術財団
共催※3 東京国立近代美術館フィルムセンター
協賛 サントリーホールディングス株式会社
協力 サントリーホール
協力※4 (社)日本作曲家協議会、(社)日本音楽著作権協会
助成 芸術文化振興基金
公益財団法人ロームミュージックファンデーション
制作協力 東京コンサーツ
※1 サントリー音楽賞受賞記念コンサート、芥川作曲賞選考演奏会を除く
※2 サントリーホール国際作曲委嘱シリーズのみ
※3 『瀧の白糸』のみ
※4 芥川作曲賞選考演奏会のみ
詳しい情報はサマーフェスティバル公式HPまで