プロデューサーのイングヴァール・ソルダソン氏(左)とジュリアス・ケンプ監督(右)
6月4日に公開されたアイスランド産スラッシャー・ムービー『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー』。クリント・イーストウッド監督『硫黄島からの手紙』や、デヴィッド・リンチ監督『インランド・エンパイア』などに出演して注目を集める女優・裕木奈江と、『悪魔のいけにえ』のレザーフェイス役、ガンナー・ハンセンが、まさかの共演を果たしたことでも話題を呼んだ。8月16日のDVD発売を記念して、8月13日から8月19日まで、渋谷アップリンクにてアンコール上映されることが決まった。DVDに特典映像として一部収録されている、ジュリアス・ケンプ監督とプロデューサーのイングヴァール・ソルダソン氏のインタビューをノーカット版で掲載!
──本作はアイスランド初のホラー映画ですが、アイスランドとホラーというジャンルの相性はどう思われますか?
監督:若者にはホラーは人気です。もっと上の世代になると残虐なシーンは怖がって観ませんが。今後もっと製作されていくはずです。ただ、伝統的には日本と同じで、ホラーより幽霊の物語が多いです。
──アイスランドの映画業界にどんなインパクトを与えましたか?
プロデューサー:このくらいのインパクトですよ(とパンチするしぐさ)。まったく新しい映画でしたから、いまなおアイスランドの映画業界は揺さぶられているはずです(笑)。
監督:国際的なプロジェクトだったので、アイスランドの映画がもっと海外にも進出していく契機になったのではないかと思います。
『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー』撮影風景
──監督は従来の作品ではアイスランド人スタッフだけで製作していたのが、今回はイギリス人の音響技師を雇ったそうですね。
監督:はい、ポストプロダクションで。一番の理由は、英国企業との共同製作だったため、CGI、音響、プリントといった類は英国で調達する必要があったからです。『エイリアン3』などの音響効果をやったエンジニアで、巨大なサウンドライブラリーを持っていました。だから、たとえば『エイリアン』で宇宙船に使った効果音を、『レイキャヴィック~』の映画の捕鯨船の効果音に使えました。それと、特にスプラッター映画では、音響効果が非常に重要なので、そこは妥協せずにやりたいと考えました。
──製作時期にアイスランドの金融危機が起きましたが、本作の資金調達に影響はありましたか。
プロデューサー:どんな映画でも資金調達は簡単にはいきませんが、この映画はそれも一通りうまくいっていたところに経済破綻が起きました。英国でポストプロダクションをやっていた時だったのですが、一夜にしてアイスランドの貨幣価値が紙っぺらになってしまった。紙幣(bill)を葬り去さらざるをえなくなって(kill)、まさにキル・ビルです(笑)。でも数多くの国に売れたので最終的に収支は問題ないです。
──現在、アイスランド国内はどのような状況ですか。
プロデューサー:経費削減はあらゆるところで起きています。でも、みんな自分たちでやり方を見つけていっています。だから、いろいろ混じりあった坩堝の状態になっています。
監督:やり方はいくらでもある。
プロデューサー:自分で道を見つければいいのです。文化を止めることはできないのですから。文化のない国は何もない国も同然です。政治家のような物言いになっていますが(笑)。ウィンストン・チャーチルが確か「人々から文化を取り上げたら守るべきものは何もない」と語っていました。だから日本の文化も守らなければならないと思いますよ。アイスランドも英国も同様です。国同士はそうやってコミュニケーションをとるんですから。
──経済破綻の問題があるにも関わらず、アイスランドのアートシーンはかつてなく盛り上がっているとのことですが。
監督:常にアイスランドには演劇とか音楽とか文化的な活動はたくさんありますが、ここ3~4年は新しい才能がたくさん出てきていますね。それは、みんなお金の問題にうんざりして、もっと楽しみたい、クリエイティブなことがしたいという欲求のせいかもしれません。ファッション業界も注目を集めています。
──製作費は200万ユーロ(約2億3千万円)とのことですが、もっと巨額な予算だったら、ここをああしたかったという部分はありますか?
プロデューサー:いいえ、やりたかったことは完璧にできました。往々にして、お金がありすぎると良いものを損ねてしまいます。アイスランドで撮りたかったし、希望通りの俳優陣もそろえられたし。
監督:望んだ船も手に入ったし、天候にも恵まれたし。
プロデューサー:裕木さんとも仕事ができたし。
エンドウ役の裕木奈江さんと
──裕木奈江さんと一緒にお仕事をされてみていかがでしたか?
プロデューサー:彼女は夢のようでした。非常にプロフェッショナルで、すべてにおいて完璧でした。
監督:これまでに僕が仕事をしてきた役者の方々の中でも、特に優れた女優さんだと思います。
プロデューサー:日本国は、彼女を誇り思うべきです。歩く大使ですよ(笑)。
監督:彼女の演技には、撮影中には見えないけれども、編集でテープを見返す度に気づくものがあるのです。通常の演技にプラスαのことをやっているんですね。だから3ヵ月後の編集段階で新しい発見がありました。とくに身体について言えます。つまり彼女の動きですね。
──ガーナー・ハンセン演じるペートゥル船長が、シーシェパードの代表ポール・ワトソンとそっくりですが、これは意図されたのですか?
監督:いえ、まったく意図していませんでしたが、確かに良く似ていますね。でもポール・ワトソンはアイスランドでは歓迎されません(笑)。
プロデューサー:彼は鼻つまみ者です(笑)。
監督:『ザ・コーヴ』は日本で公開されたんですか? アイスランドでの公開は『レイキャヴィク~』の1年後ぐらいでした。
プロデューサー:アイスランドでは「ケッ!」ていう反応でしたよ(笑)。
──日本で『ザ・コーヴ』が公開されたときは、社会論争にまで発展しました。お二人は捕鯨船で働いていたこともあると聞きましたが。
プロデューサー:ええ、学生時代、夏休みにアルバイトの1つで。鯨を撃ってました。
監督:僕はないです。
プロデューサー:その時に僕は日本と初めて接しました。なぜならアイスランドで捕獲された鯨はすべて日本に輸出されていたので、港には鯨の品質をチェックする日本人が必ずいたからです。1980年頃のことです。僕は見た目ほど若くはないのです(と笑ってマスクを取るふりをする)。
監督:鯨加工場はお金が稼げて人気の仕事なんです。3ヶ月働けば1年分稼げるので。24時間労働で苛酷ですが。僕も若い頃、働きたかったけど、捕鯨業を営む一家とコネがないと雇ってもらえません。
プロデューサー:いわば季節労働ですね。
監督:昔は今より鯨肉が安かったので、普段からしょっちゅう食べていました。僕が子供の頃は牛肉の10分の1くらいの値段でした。
──プロデューサーになる前は何をされていたのですか。
プロデューサー:いろいろやっていました。ナイトクラブ、バー、ホテルの経営や、スティング、ペットショップ・ボーイズなどのコンサートのプロモーション、劇場の経営もしていたこともありますし。映画業界に入ったのは偶然で、友人が映画を作っていて手伝ってほしいと言われたのだけれど、その数週間後に彼がロサンゼルスの映画協会に受かって米国に去ってしまった。僕がその映画と残されて困ってしまって、行きがかり上、映画のプロデュース方法を学ばなければならなかった。それが1993年頃のことです。
──それでは最後に、次回作についてお聞かせください。
プロデューサー:この続編が進行中です。
監督:『レイキャヴィク~』と同じシオンが脚本を書いているところで、生き残った裕木さんが主役です。他の出演者はまだ決まっていません。
プロデューサー:アマゾンが舞台なので、ブラジルで撮影する予定です。
『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー』より
『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー』
渋谷アップリンクXにて、8/13(土)~8/19(日)ファイナル上映決定!
【ストーリー】
ホエール・ウォッチングのため、世界中から観光客の集まるアイスランド、レイキャヴィク。あるよく晴れた日、6組の乗客を乗せていつものように観光船は出航した。しかし不慮の事故で突如船長を失った観光船は、帰港する術をなくしてしまう。そこへやってきた家族経営の捕鯨船が、取り残された観光客たちに救いの手を差し伸べるのだが、それが恐怖のシナリオの始まりだった……。
監督:ジュリアス・ケンプ
脚本:シオン・シガードソン(『ダンサー・イン・ザ・ダーク』サウンドトラック作詞家)
プロデューサー:イングヴァール・ソルダソン、ジュリアス・ケンプ
音楽:ヒルマー・ウーン・ヒルマソン
出演:ガンナー・ハンセン、裕木奈江、テレンス・アンダーソン、ミランダ・ヘネシー他
配給:アップリンク
(2009年/アイスランド/90分/英語)
■リリース情報
6月16日(火)、DVD発売!
ULD-614
3,990円(税込)
★作品の購入はジャケット写真をクリックしてください。Amazonにリンクされています。
渋谷アップリンクXにて8/13(土)よりDVD先行発売!
渋谷アップリンクXにて映画をご覧の上、受付でDVDをご購入の方は、通常価格3,990円を2,600円に割引いたします。
▼『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー』予告編
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・連載:裕木奈江のレイキャヴィク・フィルム・メイキング・ジャーニー