[+]プログラム Ben Russell 『TRYPPS #7 BADLANDS』より
8月5日(金)から渋谷アップリンク・ファクトリーにて3日間にわたり、世界各国の実験映画を一挙上映する“[+]25FPS”が開催される。これは、映像作家である牧野貴氏自らがキューレーションした実験映画の祭典。今年3回目を迎える実験映画上映会[+]が、クロアチアの国際実験映画祭“25FPS”とコラボするに至った経緯を、[+]主催の牧野氏に聞いた。
[+]と“25FPS”の共同開催である今回の上映会について
今回は“25FPS”というクロアチアの映画祭に協力していただき、彼等からプログラムを1つ、丸ごと輸入しました。25FPSは、クロアチアという、今まさに始まりの雰囲気に包まれた国の首都ザグレブで開催されている、実験映画専門の国際映画祭です。この映画祭の面白いところは、選ぶ作品に過激なものが多いということ、主催者がほとんど若い女性だという事だと思います。すごく活気と愛に満ちている、クリエイティブな映画祭は、世界中の実験映画作家から熱烈に支持されています。
2009年に僕の映画『still in cosmos』がグランプリを受賞した事と、現在[+]上映会のメンバーである葉山嶺さんが、2010年にフジフィルム賞を受賞した事がきっかけで、[+]と25FPSの交流は深まりました。「[+]という、新しい上映会を日本で発足させようと思っている」という連絡をすると、25FPSのディレクターは、快く協力を申し出てくれました。「今、僕を含めて、日本人は新しい映画に飢えている」などと僕が口走ったせいか、かなりラウドで激しいプログラムを送ってくれました! [+]と25FPS、両方のプログラムを見ると、[+]上映会の意義が、より明確に見えてくるのではないかと期待しています。
The Best of 25FPS プログラム Telcosystems 『Scape_Time』より
The Best of 25FPS プログラム Thorsten Fleisch 『Kosmos』より
The Best of 25FPS プログラム Johann Lurf 『Endeavour』より
[+]上映会の始まり
[+](プラス)を実験映画の上映会を企画する組織として立ち上げたのは今年の4月なのですが、実は2009年から[+]名義で上映会は開催していました。2009年に、神楽坂にあるアユミギャラリーと美術家の青柳龍太より、上映会の企画をしないかと誘いを受けた事が、そもそものきっかけです。2004年から2009年まで、僕は一人で上映会を開催してきたのですが、このとき初めて複数の作家の映画を上映しました。これは僕にとって全く新しい事でした。それまで、作り手である僕が、人の映画を上映するというのは、その必要性も感じなかったし、考えた事も有りませんでした。しかし、ごく自然に出来たのです。その背景には、やはり2008年、2009年に参加したロッテルダム国際映画祭で受けた衝撃と感動があったのだと思います。
僕は1997年に映画を創り始めたのですが、初めから劇映画にもドキュメンタリーにもアニメーションにも傾倒する事無く、もっと自由な映画は無いものかと夢想し、実験し、奇妙な映画ばかり創っていました。もちろん大学で普通の劇映画の基本的な勉強はしましたが、ついには自分の創っている映画というのは、何と呼べば良いのか、わからないまま成人してしまいました(笑)。何人かに、「それは映像詩である」「それは実験映画である」などと言われ、当時やっていた大小の実験映画上映会にも頻繁に足を運んでいたのですが、どれも全く、自分の思っていた映画とは異なるタイプの作品、上映会ばかりでしたので、これが「実験映画」なら、僕は自分の映画を「実験映画」と呼ぶのはやめようと心に誓っていたのでした。
[+]プログラム Nikolaus Eckhard 『Space Time Dog』より
[+]プログラム Nova Paul 『This is not dying』より
[+]プログラム Ben Rivers 『Slow Action』より
既存の実験映画を覆す作家との出会い
それで、僕は単独上映会を始め、2008年にはロッテルダム国際映画祭に招待されました。その時はまだ、「実験映画」という言葉に強烈な偏見を持っていたのですが、その愚かな偏見は3人の若い作家により、完全に破壊されたのです。イギリスのBen Rivers、アメリカのBen Russell、オーストリアのJohann Lurfの3人の作家の作品は衝撃的でした。何もかも、感覚も技術も構成も新しくて、アクティブで、過去の映画を知りながら創っているという知識も見て取れる、すごく頭の冴えた人たちだと思い、見ていて嫉妬を感じたほどです。こういう映画をもっと早く見たかったのに、日本では全く紹介されてこなかったんだいう事実も、その時にはっきりと認識しました。
その時くらいから、自分がもし上映会を企画するならば、今まで日本で見て来た実験映画の上映会とは異なったタイプのものにしようと考え始めたのだと思います。映画マニアだけでなく、現代美術が好きな人も、音楽が好きな人も、自然科学が好きな人も気軽に見に来られるような、開かれた上映会を夢見ました。幸いな事に、2009年に初めて開催させて頂いた第1回[+]上映会は、想像以上の反響で、本当に驚きました! 僕以外にも、このような上映会に関心が有る人はいるんだ、と大きな勇気をもらい、可能性を感じました。また、Ben Rivers、Ben Russell、Johann Lurfの3人の映画を上映できた事も、大きな喜びでした。彼らは[+]上映会の趣旨を理解し、快く参加してくれたのです。
2010年も、友人に手伝ってもらいながら、なんとか開催していた[+]上映会ですが、1人ではもう手に負えなくなってきていると感じていましたので、2010年の冬に有志を集い、[+]上映会を組織として始める事にしました。すごく単純に言いますと、僕ひとりの上映会に、友情と作品がプラスされた、というのが[+]上映会の語源でもあると思っています。
The Best of 25FPS プログラム Fred Worden 『1859』より
The Best of 25FPS プログラム Daichi Saito 『Trees of Syntax, Leaves of Axis』より
The Best of 25FPS プログラム Siegfried A. Fruhauf 『Night Sweat』より
牧野 貴 (まきの・たかし) プロフィール
映像作家。1978年東京生まれ。2001年、日本大学芸術学部映画学科撮影コース卒。同大在学中より多数の8ミリ映画を制作。2001年、単身ロンドンに渡り、ブラザーズ・クエイのアトリエで音楽と照明について学ぶ。帰国後もフィルムによる映画製作を続け、2004年以降、ライブスペースやギャラリーで個展上映を続けている。フィルムからHDまで、あらゆる映像フォーマットを駆使し、イメージを多重化する事により生まれる、激しく抽象的な光を創り出し続けている。2009年、『still in cosmos』が、世界最大の実験映画祭「25FPS国際実験映画祭」でグランプリを獲得。同年、初の中篇作品『The World』が劇場公開される。2011年に実験映画上映組織[+](プラス)設立。国内外の映画祭の他、美術展への出品も多数。フィルムとビデオ、二つの方法、技術を最大限に活用し、映像と音楽を同価値に捉えながら、映画を制作、発表している。
[+]25FPS 世界各国の実験映画を一挙上映
2011年8月5日(金)~8月7日(日)
渋谷アップリンク・ファクトリーにて、豪華トークゲストも登場!
◆8月5日(金)
[+]プログラム──18:30開場/19:00開演
トークゲスト: 石田尚志(美術家)
◆8月6日(土)
The Best of 25FPS プログラム──15:30開場/16:00開演
[+]プログラム──19:00開場/19:30開演
トークゲスト: 阪本裕文(映像研究家)
◆8月7日(日)
The Best of 25FPS プログラム──15:30開場/16:00開演
[+]プログラム──19:00開場/19:30開演
トークゲスト: 中原昌也(作家/音楽家)
料金:1プログラム1500円(1ドリンク付き)
※Best of 25FPSのプログラムに関わっている全ての方々の願いにより、Best of 25FPSの配収は全額、震災復興の為に寄付させて頂きます。
ご予約方法はこちらをご覧ください。
[+]プログラム作品解説
今回の[+]プログラムは、「未知の可能性をつなぐもの」をテーマに、全6作品を選出しました。(牧野 貴)
◆Nova Paul 『This is not dying』 (2011/20分/ニュージーランド)
今年のロッテルダム国際映画祭で、ひときわ華やかな光を放っていた感動作。シンプルながら熟練された3色分解のイメージは、まるで愛するもの全てを、夢のように、儚く、愛おしく撫でるように展開して行く。
◆Nikolaus Eckhard 『Space Time Dog』 (2011/6分/オーストリア)
18世紀に発明されたフォトガンにより撮影された映像を彷彿とさせる雰囲気の中、現代の技術をあえて駆使しし、新たな、そして皮肉な実験に挑戦します。果たして、犬は空を飛べるのか?
◆Johann Lurf 『Endeavour』 (2011/16分/オーストリア)
NASAのスペースシャトルに搭載された3つのカメラにより撮影された映像を用いた、ファウンド・フッテージ。Johannの軽やかな編集技術により、映像はやがて音楽となり、大気圏に突入し、新たな宇宙を発見する。
◆Ben Rusell 『TRYPPS#7 BADLANDS』 (2010/10分/アメリカ)
Ben Russellのトリップ映画最新作は、もはや人体実験映画と呼べる領域に突入。バッドランズの荒涼とした砂漠に立つ女性は、少しづつ、LSDの幻覚に堕ちて行く。
◆牧野貴&石田尚志『光の絵巻』 (2011/16分/日本)
石田尚志が35ミリフィルムの上に直接描いた、細密かつ膨大な量の素材を、牧野貴が独自の手法で動画化、編集した作品。フィルムのフレームを飛び越え描かれた線が、炎や海へとその姿を変貌して行く、フィルムを絵巻化した、超抽象映画。石田尚志の即興ピアノ演奏も美しい。
◆Ben Rivers 『Slow Action』 (2011/45分/イギリス)
世界にかつて存在したといわれる、4つのユートピアをめぐる、Ben Riversの新たな冒険。映画の存在自体が奇跡的と言わなければならないほどの、超怪作がついにアジア初上映。Ben Riverのカメラに収められた「4つの架空の風景」は、鑑賞者の中に取り返しのつかない映画的な傷跡(記憶)を残して行く。
The Best of 25FPS プログラム作品解説
25FPSのメインプログラマー、Mirna Belinaによるプログラム。近年の25FPSを湧かせた作品群を“The Best of 25FPS プログラム”として一挙上映。牧野貴の代表作とも言える『still in cosmos』の最大のライバルと言われ、多くの映画祭で賞を争った、Jürgen Rebleの『Materia Obscura』や、デジタル・フリッカーの傑作『1859』、オランダ実験電子音楽/ビデオインスタレーション集団、Telcosystemsの破壊的音響/映像装置『Scape_Time』、フィンランドのPekka Sassiによる、人間の狂気をむき出しにした、アヴァンギャルド・ホラームービー『Sisäinen lähiö』など、全8作品から成る、まさに強烈なプログラム。実験映画という言葉でくくるのは到底不可能な、ノイジーかつハードコアな作品群です。(牧野 貴)
◆Fred Worden 『1859』 (アメリカ/2008/original format:Video/11'00")
◆Karl Lemieux & Claire Blanchet 『Trash and no star!』 (カナダ/2008/original format:16mm/06'45")
◆Jürgen Reble 『Materia Obscura』 (ドイツ/2009/original format:HD/14'00")
◆Thorsten Fleisch 『Kosmos』 (ドイツ/2004/original format:16mm/05'15")
◆Telcosystems 『Scape_Time』 (オランダ/2007-2011/08'21")
◆Daichi Saito 『Trees of Syntax, Leaves of Axis』 (カナダ/2009/original format:35mm/10'00")
◆Siegfried A. Fruhauf 『Night Sweat』 (オーストリア/2008/original format:35mm/10'00")
◆Pekka Sassi 『Sisäinen lähiö』 (フィンランド/2009/original format:Video/11'20")