骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2011-08-01 20:54


「デヴィッド・バーンってどういう人なの?」「温和で優しいオーラが出ていて、逆にそれがtoo muchで何考えているか解らない」『ライド・ライズ・ロウアー』劇場公開!
映画『ライド・ライズ・ロウアー』より

8月27日(土)より渋谷アップリンクXでレイトショー公開となる、デヴィッド・バーンの最新ライブ・フィルム『ライド・ライズ・ロウアー』。公開に先行して、音楽評論家の湯浅学さん、80'sパンク~ニューウェイヴに詳しい美術家の伊東篤宏さん、2010年12月にバーンのアート作品を展示した原宿VACANTの代表・永井祐介さんを迎えてのトークショーが行われた。トーキング・ヘッズ時代からロックにおけるリズムの革新性や独創的なライブ・パフォーマンスのスタイルで世間をあっと言わせてきた彼の音楽的変遷、そして人間性に至るまで話は広がった。

『ライド・ライズ・ロウアー』はバーンの音楽性だけでなく人となりも解る(湯浅)

湯浅:『ライド・ライズ・ロウアー』はとてもよく整理されていて、デヴィッド・バーンの音楽性だけでなく人となりも解る。この映画に収められているツアーの日本公演を観たんだけれど、みんな白い衣装でよく動いて面白かったし、昔の曲をこうやって聴けるのも楽しい。

伊東:トーキング・ヘッズ時代の、中期以降はまんべんなく演奏してますよね。

湯浅:このライブの時のアルバム(2008年にリリースされたブライアン・イーノとの共作『エヴリシング・ザット・ハプンズ・ウィル・ハプン・トゥデイ』)が非常に好きだったので、聴く方の心構えとして、もっと新曲を聴きたいとおもいつつ耳慣れている曲に引っ張られちゃうから、後で反省してました。この映画でもやっていた「ロード・トゥ・ノーウェア」(1985年作『リトル・クリーチャーズ』)は大好きなんだけど。

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渋谷アップリンク・ファクトリーで行われたトークショーの模様。湯浅学さん、伊東篤宏さん、永井祐介さん(右→左)

当時ディスコとは違うかたちでブラック・ミュージックを取り上げていることは新しかった(伊東)

湯浅:70年代デビュー当時のトーキング・ヘッズはパンクのサークルにいるように聴かれて、俺もイアン・デューリーの『ニューブーツ・アンド・パンティーズ』(1977年)とリチャード・ヘルの『ブランク・ジェネレーション』(1977年)とトーキング・ヘッズのファーストの3枚を友達の家で聞いていたんです。だからその3組は同じ仲間なんだよ、俺にとっては。そのなかでいちばんパンクのイメージから遠かったのがこの人たちだった。

伊東:みんながポロシャツに普通のズボンはいて、ハッシュパピーを履いて、ラモーンズやピストルズのパンクのイメージとはちょっと違った。

湯浅:セカンドの『モア・ソングス』(1978年)からブライアン・イーノとの共同プロデュースになるから、パンクのなかのオルタナティブという、ちょっと違った存在になってしまうけど、最初はライブバンドなんだなと思った。そして『モア・ソングス』を聴いたとき、この人たちはプログレに行くのかな、と感じたんだけれど、最後から2曲目に「Take Me to the River」というアル・グリーンのカバーをやっていて。この頃にオルタナティブとかニューウェイヴの人がメンフィス・ソウルをやってることにすごくびっくりしたんだ。

伊東:黒人音楽の解釈というところに踏み込みはじめた頃ですよね。当時ディスコとは違うかたちでブラック・ミュージックを取り上げていることは新しかった。それまでパンクはその前にあるものを否定してかかるものだったのに。

湯浅:南部のソウルのバックビートを最初から好きで取り入れていたから、ああいう曲ができた。そこにイーノも惹かれるところがあったのかな。

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映画『ライド・ライズ・ロウアー』より

湯浅:アメリカはよくメルティング・ポットというけれど、文化の棲み分けが明確にあるから、実は国内での文化交流があまりないんだよね。それぞれがぜんぜん違うコミュニティで暮らしているから。それぞれは対立することはあっても、融合することは少ないんだ、ということをキッド・クレオールのオーガスト・ダーネルが言っていた。それをあえて強引に統合したり混ぜたりすることでアメリカの音楽は発展してきたわけじゃん。特にニューヨークはそれが激しい。
ジェリー・ハリスン(トーキング・ヘッズのギタリスト/キーボーディスト)にインタビューしたとき、デヴィッド・バーンのことを「オーガナイザー」と形容していたけれど、そういう役割をわざわざ担ってきたところがバーンには確実にある。いろいろな国の音に目配せして、自分でレーベルを立ち上げてリリースすると、どうしても植民地的視点と言われがちになる。日本の洋楽を聴く人ってマジメだからさ。俺もポール・サイモンの「母と子の絆」(1972年)でスカとかブルービートを知ったし。そこで、白人が現地に行ってミュージシャンを使って音楽制作をするにあたって、いかに黒人に利益を還元しているか、みたいな姿勢を問うところが日本の洋楽ファンにはあって。それはまた別の機会に話をしたいと思う。

湯浅:3枚目のアルバム『フィア・オブ・ミュージック』(1979年)(「I Zimbra」「Air」「Life During Wartime」「Heaven」収録)で、この人たちはひとつの到達点に達したと思ったのね。実は今でもよく聴くアルバムのひとつで、どうしてかというと、歌詞がシンプルに削ぎ落とされてここにきているという感じがあったから。デビュー当時から煎じ詰めていって、ダダイズムとか俳句とか、フォークとかブルースの歌詞の問題とかを含めて、パンクでもないし、当時流行っていたロックでもない、すごく新鮮な感じがしたんだ。

伊東:個人的にはこの頃が一瞬トーキング・ヘッズが解らなかった。次のアルバムが決定打だったこともあるし。

湯浅:そこがインパクトあったんだよね。次の『リメイン・イン・ライト』(1980年)(「Once In A Lifetime」「The Great Curve」「Houses In Motion」収録)は、(アフリカ音楽のリズムをロックバンドにここまで導入することって)やりたくても誰もやってなかったからね。このCDのリイシュー盤にはアウトテイクとして「Fela's Riff」という曲が入っていて、フェラ・クティから影響を受けていることがもろに解る、かっこいい曲だったよ。

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映画『ライド・ライズ・ロアー』より

伊東:『トゥルー・ストーリーズ』(1986年)というアルバムと『デヴィッド・バーンのトゥルー・ストーリー』(1987年)という映画があって。デヴィッド・バーンが司会をする摩訶不思議な映画なんです。彼が当時興味を持っていたアメリカ南部、それからサバービアというアメリカ新興地方都市の暮らしと、古きよきアメリカを行ったり来たりする。

湯浅:今思うとこの映画、のちのブッシュ政権時のファナティックな世界を統括的に描くという画期的な映画だった。ブッシュ政権ってバイブルベルトが支持層として重要だったんだけれど、その不穏な南部の白人や、チカーノなどのオルタナティブな文化、そしてアメリカのいちばん保守層の、本人たちはぜんぜんのんびりしているんだけれど危険な匂いのする人たち。そういうところにこのとき既に目を向けていた。であるがゆえに、このアルバムはバンド内ではちょっと勘弁してほしい……というのがあったのかもしれないです。

伊東:結局『トゥルー・ストーリーズ』の後にもう1枚出して解散ですからね。

温和で優しいオーラで、逆に何を考えているか解らない人(永井)

永井:VACANTで昨年行った展示『DAVID BYRNE ART EXHIBITION』は写真の拡大解釈のような手法でした。

湯浅:デヴィッド・バーンってどういう人なの?

永井:いやほんとうに温和で優しいオーラが出ていて、逆にそれがトゥーマッチで何を考えているか解らない。でも基本的に静かな人で、急に怒ったりもしないですね。

湯浅:『モア・ソングス』のジャケットもアートスクール出身っぽいよね(インスタントカメラで撮った数百枚の写真を組み合わせて1枚の絵にしている)。

伊東:インテリジェンスがそこはかとなく匂う人ですよね。バカができない感じ。

湯浅:やっぱマジメなんだと思う。

永井:マジメな変人ですよね。

(取材・文:駒井憲嗣)



▼『ライド・ライズ・ロウアー』予告編





デヴィッド・バーン プロフィール

70年代半ばにニューヨークで結成されたバンド、トーキング・ヘッズの中心人物として知られる。レコードやコンサートは批評家たちやオーディエンスから絶賛され、80年代の音楽シーンを牽引する存在となる。ブライアン・イーノと組んだ名盤『ブッシュ・オブ・ゴースツ』などソロ作品も多数。また、ワールド・ミュージックへの造詣が深く、自身の運営するレーベルを介して欧州圏には属さない世界の音楽を紹介し続けている。ジョナサン・デミ監督によるコンサート・フィルム『ストップ・メイキング・センス』など、彼が関わった映画の評価も高い。2010年末にはアーティストとして来日し、東京でアート・エキシビジョンを行った。




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『ライド・ライズ・ロウアー』
2011年8月27日(土)~9月16日(金)
渋谷アップリンクXにて21:00よりレイトショー

料金:¥1,500一律(1ドリンク付)

監督:デヴィッド・ヒルマン・カーティス
出演:デヴィッド・バーン、ブライアン・イーノ
(2011年/89分)




デヴィッド・バーン&ブライアン・イーノ
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