今回Strawberry Music Festivalが行なわれたのは、北京通州运河公园。この門をくぐるとチケットブースがあり、その奥に入場ゲートがある。
当初の予定では、北京には行かないつもりだった。しかし、上海や香港で会う人の多くは、「アンダーグラウンドが見たいならどうして北京に行かないんだ。今このアジア一帯で一番北京が面白いのに。」と私に言った。そこまで言われてはせっかくの機会に北京まで足を伸ばさないのも残念なので、バンコクから中国南方航空で一気に北京へ飛んだ。気候の差が心配だったが、4月下旬から5月初旬の北京はダウンやコートもいらず、かつ暑くもなく、ちょうど日本の秋頃の乾燥した気候のようで過ごしやすかった。さらに、中国大陸では日本のゴールデンウィークと同じ頃に連休があり、イベントごとも多くラッキーだった。
北京のバス車窓から。
私に助言をくれた人たちが言ったように、今の北京には荒削りながらも面白いアーティストやバンドがたくさんいる。膨大なそれらを紹介していてもきりがないので、webDICE読者の方々にぜひ知ってほしい場所や現象の情報をお伝えしたい。
北京の音楽を知るならこのレーベル 「Modern Sky(摩登天空)」
北京を拠点に世界に発信するこのレーベルは、中国国内最大のインディーズレーベルで、所属するアーティストも膨大な数だ。北京でCD屋に行き、中国インディーズコーナーを覗けば約半数がこのレーベルから輩出されたCDだろう。私が香港でライブを見て惚れた北京のHedgehog(刺猬)も、今年のSUMMER SONIC東京のISLAND STAGE -ASIAN CALLING- に出演するQUEEN SEA BIG SHARK(后海大鲨鱼)も、このレーベルに所属している。さらにModern Skyに関して紹介しなければならないのは、中国大陸内で音楽フェスも多数開催しているレーベルだということだ。私が北京滞在中に、Modern Sky主催の「Strawberry Music Festival(草莓音乐节)」というフェスティバルが開催されたので参加してきた。その様子をまずはお届けしたい。
入場ゲートでは、なかなか厳しい荷物チェックを受けなければならない。飛行機に乗るときと同じようなセキュリティチェックを受ける。
会場内の飲食ブース。日本のフジロックやサマソニほどではないが、10店ほど並んでいた。北京らしい羊肉串もあればサンドイッチもある。私が驚いたのはこの写真の生野菜、トマトとキュウリ。草莓音乐节だけあり、ヘタを取っていないそのままのイチゴも販売されていた。キュウリはさすがに丸ごとではなくカットして渡してくれているようだった。
会場内の若者の様子。
私の下手なカメラワークではわかりづらいと思うが、説明すると最近の人気ファッションアイテムはサングラス、革のジャケット、細いシルエットのパンツ、もしくはレギンスなど。砂地や芝生のフェスだけれど高いヒールを履いた子もちらほらいたし、都会型フェスということがファッションから見てうかがえた。私はそういう格好はしないので結構浮いてました。女の子の髪型は重めのショートボブや前髪パッツンが多い。特に前髪を横に流す髪型は圧倒的に少ない。そして日本と違って黒髪が多い。
ステージは全部で5つ。日本の渚音楽祭ぐらいのステージ間の距離なので、それぞれの移動はさほど大変ではない。
軍人に出くわすというポイントも、中国の首都・北京で行なわれるフェスの醍醐味か。
Strawberry Music Festivalは、ロック全般というよりもModern Skyが得意とするディスコロック・ポストロック・パンク・グランジ・シューゲイザー・ノイズ・エレクトロあたりの音のアーティストたちが出演している。日本からはMONOが出演していた。MONOのライブは日本ではなかなか見ることができないし、もちろんこの機会に見てきたわけだが、日本のMONOが圧倒的な人気を得ていたかと言えばそうでもなく、やはり歌があってメロディがあるロックのほうがウケはいいようだった。それは万国どこでも大衆を前にすると同じだろうか。だが、たった4人のMONOで紡ぎだされる繊細な音と音圧に圧倒されている中国の若者も多かった。
3日目のメインステージトリ前、Queen Sea Big Sharkの盛り上がりはすごかった。観客の数がもう彼らの人気を物語っていたし、みんなが曲を知っているようだった。現在Queen Sea Big Sharkは北京を中心に絶大な人気があり、どのCD屋でも店員にQueen Sea Big Sharkを薦められたほど。実は個人的には音源を聴いてもそこまでぐっとこなかったバンドだったが、ボーカルの女の子のライブパフォーマンスには中国の若者を引きつけるものがあるのだろうと思った。そう、特に日本と比べてアジアのバンドに多いのは、ブチ切れたライブパフォーマンスをできる女性のボーカルが多いということ。中国大陸や台湾のバンドには特に魅力的な女性ボーカルが多い。リズム隊の男性メンバーの前に堂々と立ち、バンドを引っ張っているのが彼女達だということがライブを観て一目で一音でわかる。日本からもいつか、パワーがあって観る者も男性メンバーも引きずりこむクールな女性ボーカルがたくさん産まれればなあと思う。
Queen Sea Big Shark(后海大鲨鱼)のStrawberry Music Festivalでのライブ。
北京にもマニアックな映画を上映している場所があった
それでは、webDICE読者の方々の一番の関心であろう、北京の映画情報を紹介したい。映画好きが北京に行くなら知っておいてほしい場所はこの2つ。
・Broadway Cinematheque
・叁号会所
Broadway Cinemathequeは香港編でも触れたBroadway Cinematheque(以下BC)と同じ企業。北京にもBCの映画館がある。そしてBCの目の前には、香港と同じく、アート本・雑誌・DVD・CD・カフェの店舗KUBRICK北京がある。
MOMAと言っても現代美術館の略称ではなく、単にこの変わったビル群の名前。タクシー運転手にMOMAと言っても伝わらない。
香港に本拠地のあるKUBRICK。もちろんここのスタッフのほとんどは英語での接客が可能。
香港ではほとんどアート系やマイナーな映画は上映されていなかったBCだが、北京のBCではほとんどがアート系映画やメインストリームではない映画のラインナップとなっている。特筆すべきは、ここ最近続けられている企画「青年导演新影像(YOUNG CHINESE FILMMAKERS)」だ。その名の通り、中国の若手~中堅の監督が撮った映画を放映している。数本観たのだが、その中でも特に面白かった2作品はこちら。
『碧罗雪山』(DEEP IN THE CLOUDS) 監督:リウ・ジエ(刘杰)
(FILM BUSINESS ASIAによる作品紹介)
中国の死刑問題を描いた『再生の朝に -ある裁判官の選択-』監督のリウ・ジエによる最新作だ。私が北京に滞在していた頃は、この企画の中で、さらに「村が政府の計画によって消失する」というストーリーをベースに進んでいく映画に絞られていた。この『碧罗雪山』も同じく、環境保護計画を理由に退去を迫られている雲南省のある村が舞台となっている。北京語ではなく雲南の言葉でストーリーが進むため、字幕には中国語と英語が並ぶ。村の信仰、村の若者の恋、行政との仲介を担う村長の孫の苦悩、村の結婚、貧しいがゆえの違法売買。小さなきっかけが連なり、退去を迫られる村がどんどんと崩壊していく……。非常に重い空気が漂いながらも、雲南の自然の美しさや伝統の業の美を見せられる。果たして、政府に対して疑問を呈するような映画を上映し続けても大丈夫なのだろうか。しかも、観客は少ないのだろうと思っていたが、満席。映画の上映が終了したとき、映画に対してはもちろん、こういった映画を上映し続けているBroadway Cinemathequeにも大きな拍手を送ったつもりだ。
BCの2つあるスクリーンのうちのひとつ。上映終了後に監督が登場し、質疑応答が行なわれることもあった。
もう少し軽めなタッチでおすすめしたいのはこちら。
『トーマス、マオ』(Thomas Mao / 小東西 ) 監督:チュウ・ウェン(朱文)
(※2010年東京フィルメックス上映時の作品紹介)
ファンタジーとユーモアが散りばめられ、現実と虚構が交錯する作品。しかし現実を描いていると予想される最後のシーンでは抽象的、揶揄的ながらも現在の中国を憂うような会話が繰り広げられる。もちろん、ユーモアは残したままだ。この映画に対して特筆すべきは、音楽をLi Chin Sungという中華圏を代表するサウンドアーティストが担当しているということ。彼の別名義「Dickson Dee」なら、大友良英氏とのコラボレーションなどで名前を聞いたことがある人はいるかもしれない。Dickson DeeことLi Chin Sungは実験音楽、電子音楽などを得意とするアーティストで、レーベルの運営やプロデュース、海外レーベルの香港や中国大陸でのディストリビューションも手がける。映画音楽はもとより、舞台音楽なども手がけており、アジアを代表するサウンドアーティストだ。
Dickson Dee(Li Chin Sung)
http://www.dicksondee.com/blog/
この「青年导演新影像(YOUNG CHINESE FILMMAKERS)」という企画はまだ現在も続いているようなので、もし北京に滞在することがあればぜひ1作品でも観ることをおすすめする。
そして、もうひとつのスポット「叁号会所」。ここは、紹介するべきかどうかも悩む場所なのだが、かなりマニアックな映画の上映会が開催されている。5月下旬にはバンクシーの『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』も上映された。6月下旬には『ザ・コーポレーション』も。私はここでモンサント社に関するドキュメンタリーを見た。叁号会所は、地鉄4号線人民大学駅から10分ほど東に歩いたところにひっそりとある、モダンな建物のサロン。スクリーンがぶら下げられていてプロジェクターで投影されるのはwindowsの画面!ということは、おそらく、違法ダウンロードした作品を上映しているのである。なので決しておすすめすることはできないのだが、北京にそういう方法でマニアックな映画を上映している場所があるということは驚きだった。
ちなみに映画に対する料金設定はなく、カフェの1ドリンクで観ることができる。香港でもバンコクでも、メインストリームでない映画を映画館で見ることは非常に難しい。だが、北京ではこの叁号会所でかなりマニアックな作品を毎週見ることができるのだ。みなさんは叁号会所についてどう考えるだろうか。中国大陸での著作権の無視は言うまでもなく世界で有名な話だ。中国大陸内でも著作権の法が整備されると同時に、良い作品には対価を支払うという習慣が成立することが理想ではあるだろう。いまや日本人でさえも中国大陸のサイトを通して違法アップロードされた音源や映画を違法ダウンロードする時代だ。シェアとクリエイティブコモンズとアーティストへの支援。無法地帯と化している中国大陸と周辺地域を見て、熟考するべき問題であると感じた。
中はカフェのように椅子とテーブルが配置されている。
他にも、北京では舞台やコンテンポラリーダンスも見ることができるし、小さなアートギャラリーは山ほどあるし、ライブハウスやクラブだって日本ほどではないが点在し、それぞれ北京のアーティストと海外からのアーティストがうまく交流しており、クオリティもすでにインターナショナルなレベルに達している。実際に北京を訪れないとそれらの現象を知ることができないのだろうか。いや、それが実はそうでもない。インターネットをうまく使えば中国大陸内の情報を得ることも難しくない。ネット検閲があると言えど、大陸内ではfacebookやtwitterが使えず、一部のサイトがブロックされていて閲覧できないというぐらいで、それぞれの場所やアーティストの自サイトは中国語と英語のバイリンガルに対応しつつあるし、私のように中国語がわからなくても、ある程度英語が読めればなんとか情報を汲み取っていくことができる。例えば、Beijingerというこのサイト。
これは、北京に住む欧米人のためのカルチャー系ポータルサイト。英語で北京のイベントやアート・カルチャーの最新情報を簡単に集めることができる。さらに、中国大陸内のインディーズ音楽を知るには、Douban(豆瓣)がおすすめだ。Facebookとよく似たSNSである。中国大陸のバンドはFacebookページはやはりなかなか持っていないが、Doubanにはたいていファンページが存在する。それぞれの「ファンページ」=「小站」を「Like」=「喜欢」すれば、それぞれのアーティストがアップする最新情報を受け取ることができる。そしてfacebookと同じく音源のアップもできるようなので、わざわざMyspaceなどに飛ばなくても、Douban内で音源の試聴も可能。
これがDouban(豆瓣)。これはサマソニ東京8月14日に出演する、北京出身の「Re-TROS(重塑雕像的权利)」というバンドのファンページ。強いて形容するなら北京のBattles。私はまだライブは見れていないけれどおすすめ。音・ライブとも定評あり。こちらも女性が活躍するバンドだ。
インターネットを利用することで北京への旅はもっと濃くなるだろうし、日本にいながら北京のアングラを押さえることだってできる。現に、北京で出会ったLA出身の旅行者は、HIPHOPが大好きで中国大陸をメインにアジアのHIPHOPアーティストを発掘していた。ガイド本で観光地を巡る旅も良いが、今は十人十色のアート・カルチャー探索旅をつくることがインターネットというメディアにより簡単にできてしまうのだ。
では最後に実際に私がGoogle検索やMyspaceやDoubanを使って見つけて見に行ったユニットWHITE+のライブの様子を。北京大学近くのD-22という実験的なハコにて。
(取材・文・写真:山本佳奈子)
私が今回の旅で訪れた場所をすべて網羅した地図をGoogleマイプレイスにアップしました。▼Discovering Art and Culture in Asia 2011
より大きな地図で Discovering Art and Culture in Asia 2011 を表示
■山本佳奈子 プロフィール
http://www.yamamotokanako.net/
webDICEユーザーページ
http://www.facebook.com/yamamotokanako
http://twitter.com/yamamoto_kanako
webDICE キューバ紀行(2010.5.11~2010.8.16)
アジアや海外の最先端アートやアンダーグラウンドカルチャー情報を発信するサイト「Offshore」
1983年兵庫生まれ、尼崎育ちの尼崎市在住。高校3年のときにひとりでジャマイカ・キングストンを訪れて以来、旅に魅力を感じるようになる。その後DJ活動、ライブハウス勤務などを経て、2010年、念願だったキューバ旅行を実現させる。
世界のすべての人々の最低水準の暮らしが保証されること、世界の富を独占する悪徳企業が民主の力によって潰されることを切に願っており、自ら一つのメディアとなって情報発信することにも挑戦している。