骰子の眼

cinema

東京都 新宿区

2011-07-02 13:05


[CINEMA]「4人の感情と傍観者である〈私〉の思いが交錯して、ジェットコースターのようにスリリングで忙しい」『ふゆの獣』クロスレビュー

第11回東京フィルメックス最優秀作品賞受賞、ロッテルダム国際映画祭2011コンペ正式上映を果たす愛憎劇
[CINEMA]「4人の感情と傍観者である〈私〉の思いが交錯して、ジェットコースターのようにスリリングで忙しい」『ふゆの獣』クロスレビュー
(c)映像工房NOBU

2010年の東京フィルメックスでワールド・プレミア上映され、並居るアジアの新鋭監督たちの作品を押さえ、最優秀作品賞の栄誉に輝いた今作。わずか4人の登場人物の人関係の修復を、ざらりとしたタッチのカメラの躍動感で収めている。手持ちによる、それとは感じさせない人物との距離感は、アパートの中で4人が鉢合わせする場面の丁々発止のやり取りを、まさに獣同士の本能的な衝動として描くことに成功。前半の仕事場の屋上、シゲヒサの部屋など、極めて限定されたシチュエーションで物語を描くことに注力することで、後半の屋外の荒涼とした風景が際立ち、たわいもないカップル同志のもつれというプロットをぎりぎりのところで映画的な醍醐味として発展させている。

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(c)映像工房NOBU

とはいえ、やはり見どころは誰もが一度は経験したことがあるに違いない、恋愛における微細な会話や心情吐露のリアリティだろう。相手を思うことの空虚さ、空回り、自暴自棄、執着といった、愛する行為におけるあらゆるネガティブな感情を丹念に集積したかのような4人の言葉の羅列。そして、虚飾をかなぐりすて涙でぐちゃぐちゃになった4人の表情は、痛々しくも、美しい。舞台と登場人物が抱える問題のあまりのミニマルさゆえに、「映画史上最も暴力的で、最も美しい恋愛映画の誕生。」というコピーを大げさと感じる方もいるかもしれないが、限定されたわずかな制作費でも、創意工夫と気迫があればこれだけの共感を得ることのできる表現ができるのだということは、多くの映画作家に勇気を与えるだろう。

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(c)映像工房NOBU

▼『ふゆの獣』予告編





『ふゆの獣』
2011年7月2日(土)より緊急レイトショー! テアトル新宿 他順次全国

出演:加藤めぐみ、佐藤博行、高木公介、前川桃子
監督・編集・構成&プロット・撮影・音響効果:内田伸輝
製作:映像工房NOBU 
2010年/日本/カラー/ステレオ/92分/(c)映像工房NOBU
公式サイト


キーワード:

フィルメックス / 内田伸輝


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