映画『100,000年後の安全』より
フィンランドの放射性廃棄物の最終処分場の内部に初めて潜入したドキュメンタリー『100,000年の安全』が6月18日(土)より福島県福島市の映画館・フォーラム福島で上映されることになった。3月11日の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故後、4月2日より渋谷アップリンクでの朝1回の上映から緊急公開を開始し、現在全国で60館を超える劇場で公開が決定。また今作品を観たいという各地からの声に応え、5月13日にはニコニコ生放送での有料生配信が行われたが、被災した福島県では初めての上映となる。
『100,000年後の安全』は、原発から生まれる放射性廃棄物は10万年管理しうるのか?をテーマにマイケル・マドセン監督が、フィンランドのオルキルオトに建設中の最終処分場“オンカロ(隠された場所)”と呼ばれる施設の撮影に成功。たとえ原発が止まったとしても残るゴミの処理をどのように考えなければいけないのか、原発の是非とは別の次元で放射性廃棄物を人類はどう処理するべきなのかを、この作品は問いかけている。
震災からまもなく3ヶ月が経とうとする今も、いまだに事故に関しての情報公開や被害対策の遅れが指摘されるなか、福島第一原発から半径60キロに位置する福島市での公開にあたり、フォーラム福島の阿部泰宏支配人に話を聞いた。
今、かつてないほど、原発や放射能について知りたい、情報が欲しいと、多くの県民が思っている
──フォーラム福島は3月11日の震災と原発事故から現在まで、どのような営業をされてきましたか。
映写機がずれた程度で、建物はほとんど実害もなく、無事でしたが、結果として、3月11日から4月1日まで休館を余儀なくされました。
原因はさまざま。停電が二日間、断水が一週間で3月19日以後は、水も電気も復旧したものの、水道から放射性物質が出たという報道がでたこと、依然、ガソリン事情が好転せず、物流ラインも交通網も寸断されていた、物資もフィルムも届かなかった、社員が出社できなかった。等々。とても営業再開できる状況ではありませんでした。
3月下旬頃になってようやく、物流が動き始め、店々もじょじょに営業を再開しはじめてきたところで、弊館も再開の準備を始め、4月2日に再オープンできました。
フォーラム福島の阿部泰宏支配人
──4月2日の営業再開以降、お客様からどのような反響がありましたか。
「このような大変な時期に映画なんて、不謹慎ではないのか」という類のお叱りも覚悟していたのですが、まったくそういうことはありませんでした。むしろ、「待っていた」「こういう時期だからこそ、明るい話題が必要」といった肯定的な反応がほとんどでした。激励の声も多々いただき、とても励みになりました。
──今回『100,000年後の安全』が、6月18日から7月1日まで開催される『特集上映:映画から原発を考える』の第一弾として上映されます。この特集上映を企画されたきっかけを教えてください。
原発事故当初は、立地県の映画館だからこそ、原発、放射能に関連する作品の上映は慎重にかまえるべきと思っていました。でも考えが変わったのは一ヶ月も経ったころ。このころになると、県民レベルでもようやく「国も東電も(事態の収拾を)どうしたらいいのかわからないのだということが、はっきりとわかった」という意識が浸透し、自覚的な人は自ら積極的に関連の情報を集めはじめるようになってきたのです。
とくに、明らかに政治判断的な思惑で、大人も児童も年間20m/mシーベルトまで被曝線量基準を引き上げたことは子供を持つ親のみならず、一般的な良識からみても明らかにおかしいと誰もが感じています。今、かつてないほど、原発や放射能について知りたい、情報が欲しいと、多くの県民が思っております。原発問題を契機に、建設的な議論を喚起する映画を上映することはむしろ、福島県においてだからこそ必要だと思ってます。もちろん、いたずらに不安や恐怖を煽り立てる作品を無自覚に上映することのないよう、選定には配慮が必要だと思っています。
福島県福島市の映画館・フォーラム福島
──『100,000年後の安全』の他にも『黒い雨』『ナージャの村』『アレクセイと泉』といった作品がラインナップされていますが、特集の作品選定のポイントについて教えてください。
第一弾の『100,000年後の安全』は、放射性廃棄物についての作品、第二弾『黒い雨』は、原爆がもたらしたもうひとつの「内部被曝」を題材にしています。第三弾となる『ナージャの村』『アレクセイと泉』は、避難区域に生きる人々を通じて価値的な生とは何かについて考えるというテーマです。第四弾として上映される『東京原発』は原発立地をめぐる考え方の欺瞞について描いています。そして第五弾『みえない雲』は、原発事故直後のパニックと情報操作、そして差別についての映画です。この後も、第六弾の鎌仲ひとみ作品の再上映はじめ種々、検討中です。
──福島の映画興行の方々や映画ファンの皆様のなかで、復興へ向けて、どのような運動や活動が起きていますか。
被災地で避難生活を送っている方々のビデオレターの仲立ちや無料巡回上映を行っています。また、復興映画祭で旧作を上映し売上の全額や、入場料おひとり10円を義援金として寄付させてもらってます。
──『100,000年後の安全』を福島の方々にどういう思いで観てもらいたいですか。
何万年もなくならない放射性廃棄物をほんとうに人類は管理できるのか。という基本的な問いかけに、じつは誰も本気で「できる」なんて思っていないことが少しずつ露呈していく映画です。
手に負えなくなるリスクが背後にあることは百も承知なのに、それでも「それ」に手を出さずにはいられない。捨てられない……。地球温暖化による環境問題もしかりですが、単視眼的にしか生きて来なかった人類がいまはじめて本質的に、百年、千年レベルで後発の世代に、どうしたらこの世界を手渡していけるのか、判断を迫られている時がきていることをフクシマを通じて、誰もが実感しています。
この映画に映し出されるフィンランドの巨大埋設施設オンカロは、暗くて冷たくて、静謐。まるで人類すべての心の闇をこの一箇所に集約したような、まさにパンドラの匣。それは、美すら湛えていて、どこまでも不気味。安心を得るためにこういう施設を建設せざるを得ないわたしたちの社会は何なんだろう、と根源的に問い直させるひとつのテクストにしていただきければ、嬉しいです。
(取材・文:駒井憲嗣)
映画『100,000年後の安全』
フォーラム福島にて2011年6月18日(土)より公開
渋谷アップリンクほか全国公開中
〒960-8051 福島県福島市曽根田町6-4
TEL 024-533-1717
公式サイト
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監督・脚本:マイケル・マドセン
脚本:イェスパー・バーグマン
撮影:ヘイキ・ファーム
編集:ダニエル・デンシック
出演:T・アイカス、C・R・ブロケンハイム、M・イェンセン、B・ルンドクヴィスト、W・パイレ、E・ロウコラ、S・サヴォリンネ、T・セッパラ、P・ヴィキベリ
配給・宣伝:アップリンク
(2009年/79分/デンマーク、フィンランド、スウェーデン、イタリア/英語/カラー)
▼『100,000年後の安全』予告編