「こんばんは。第一回目のド評を始めます。ド評って初めて聞く言葉だと思いますけど、なにせ初めて言っていますので。DJとはディスク・ジョッキーの略ですね。ジョッキーってそもそも競馬の騎手、つまり馬を乗りこなす人のことですけど、ディスク・ジョッキーはディスクを二つのターンテーブルでかけ合いながら乗りこなす人です。私の知り合いにはフード・ジョッキーをやっている人もいますが、多分、ド評というのは本の騎手。DJ式に言うならBJ…? 連想ゲームのような、書評のようなド評です」
と、五所純子さんは表情を変えることなく淡々と語り始めた。テーブルの上にはレコードが乗せられたターンテーブルと大量の本。そして、無造作に盛られた土くれと綱。言語の現場に身を置きながら、領域侵犯的に──しかし、どこにも着地することを望んでいないかのように──あらゆるメディアを行き来しながら飄々とした活動を展開し、注目を集めている文筆家の“書評のライブ・パフォーマンス”が始まった。
「近年、モノローグという手法の可能性に興味を持っている」という五所さんの言葉が発端となって実現することとなったこの『ド評』。この日はその第一回目ということもあり、“女性”と“モノローグ”という二つのテーマに焦点を当て、以下の12冊の書籍が選出され、紹介された。
『話の終わり』
著:リディア・デイヴィス
翻訳:岸本佐知子
作品社
『金毘羅』
著:笙野頼子
河出書房新社
『雪の練習生』
著:多和田葉子
新潮社
『呪われた愛』
著:ロサリオ・フェレ
翻訳:松本楚子
現代企画室
『十四歳―見失う親 消える子供たち』
著:井田真木子
講談社
『明治 大正 昭和 不良少女伝─莫連女と少女ギャング団』
著:平山亜佐子
河出書房新社
『贖い』
著:アンドレア ドウォーキン
翻訳:寺沢みづほ
青土社
『ティナ・ターナー、愛は傷だらけ』
著:ティナ・ターナー
翻訳:大河原正
講談社
『PLATONIC SEX』
著:飯島愛
小学館
『マリリン・モンローという女』
著:藤本ひとみ
角川グループパブリッシング
『マンガ マリリン・モンロー―愛に飢えた魂の伝説』
著:森園みるく
原作:桐野夏生
講談社
『私は生まれなおしている─日記とノート 1947-1963 』
著:スーザン・ソンタグ
編:デイヴィッド・リーフ
翻訳:木幡和枝
河出書房新社
男子生徒との恋愛を述懐する女教師、人間の中年女性の体に宿った神、母親に育児放棄されたシロクマ、家出娘との対話を繰り返すノンフィクション作家など、語り手の設定によって様々なバリエーションを持ち得る表現としてのモノローグの数々を一つずつ丁寧に紹介しながら、同時に、五所さんは自らの記憶に深く潜り、そこから持ち帰った幾つもの言葉を並べ、即興的に紡いでいくことで、個々がそれぞれに強固な体系を構築する一冊の本からもう一冊の本へ向かうための指針を探ろうとする。その様は、まさしくディスク・ジョッキーならぬブック・ジョッキー。
2011年4月26日渋谷アップリンク・ファクトリーで開催された『五所純子のド評』第一回目より
そして、これに耳を澄ませ、思索に興じる観客の頭の中にのみ、書籍に記録された書き手の記憶と五所純子個人の記憶に満たされた、他者性や時間という概念から切り離された新たな世界が立ち現れることとなる。その世界を旅するために必要なパスポートの在り処は、他ならぬ観客個々人の記憶の中に──という図式を伴って。
『五所純子のド評』は毎月最終火曜日に開催。5月31日(火)に行われる第二回目は、実験動物達の反抗を描いた物語『ドクター・ラット』という書籍の紹介を皮切りに、「反世界」としてのSF、寓話、幻想文学が特集されるとのこと。眼前に広がるすべての事象や状況といったものが、3.11以前と以後に分断されて読み解かれることの少なくない昨今において語られる「反世界」とは何か。乞うご期待。
(文:倉持政晴)
『ドクター・ラット』
著:ウィリアム・コッツウィンクル
翻訳:内田昌之
河出書房新社
五所純子のド評
2011年5月31日(火)渋谷アップリンク・ファクトリー
19:00開場/19:30開演
出演:五所純子
料金:1,500円(1ドリンク付/予約できます)
※UPLINK会員は1,300円(1ドリンク付)
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