あるブロードウェイ系列の映画館。
香港では情熱をもったクリエイターに出会うことができた。彼らは今の香港の社会問題を見据えながら、自分の信じる道を進んでいた。今回は香港の音楽人と映画人に聞いてみた香港のカルチャーを取り巻く環境について紹介したい。
音楽人編:香港の消費層とアングラCD屋の苦心、インディ音楽への反日運動の波及、香港クラブ事情(取材日:2011年3月29日)
前回の記事でも紹介したWhite Noise Records(以下WNR)のGary氏は、WNRのマネージャーであり、海外から香港にアーティストを呼びコンサートを開催するオーガナイザー。toeアジアツアーや、World's End Girlfriend、半野喜弘などの香港でのコンサートをオーガナイズした。銅鑼湾(Causeway Bay)のビルの1室で「誰も聴いたことのない音楽」をメインに展開する彼に、「香港の実際のところ」を屋台で飲みながら聞いてみた。私が一番笑ったのは、彼が10代の頃某元おにゃんこ日本人アイドルのCDを2枚ずつ買っていたことを「笑わないでくれ!」と言いながら暴露してくれたことだった。こういう前衛的なショップのマネージャーは頑固なのかと思っていたが、ユーモアにあふれた彼との会話はとても楽しかった。
エレベーターの19Fで降りる。これが入り口。隙間がちらっとあいてたら営業中。
──WNRで一番売れてるジャンルってなんですか?
ポストロックだね。最近のポストロックはエレクトロニカも含むし、いろんなスタイルがあるからジャンルとして枠が広い。その次に日本モノ。日本の音楽には面白いものがいっぱいあるし、WNRでもかなりのスペースを使って日本のアンダーグラウンドを扱ってる。
──確かに日本モノのスペース大きかった。かなりマイナーな日本のアングラ音楽も扱ってますけど、どうやって情報を集めてるんですか?
各レーベルやディストリビューターからのプレスリリースに加えて、日本のアーティストに限らず、ヨーロッパや他の国のアーティストもmyspaceをチェックすることが多い。最近は日本の60年代の音楽もチェックしてて気になってる。ポルノ女優だった池玲子とかすごい面白い音源がある。喘ぎ声とかだけで歌ってない(笑)。これを音楽ととらえると面白いよね。
──池玲子、知らなかった。チェックしてみます!WNRはいつ始められたんですか?
2004年にオープンした。だから今約7年だね。今の場所に移転してからは約1年。前はちょうどそこ(飲んでいた屋台のすぐ前のビル。現在のWNRから数ブロック離れたところ)。でやってたんだ。今よりもっと広かった。ソファもあって、お客さんに座ってくつろいでもらえるような空間だった。
──じゃあなぜ前より狭い今の場所に移動を?
家賃だね。60%も家賃が値上がりした。もし家賃が値上がりしてそのまま今と同じ商品を売っていくなら、確実に生き残れない。例えばRADIOHEADも入荷したり、もっと売れる音楽を扱わないといけない。でも、僕たちはそうはしたくなかった。それが移動した理由。今でもその選択は正しかったと思ってる。
──一気に60%も値上がり?ありえない。
そう。香港の家賃は社会問題。でも例えコマーシャルな音楽を売り始めたとしても売上を良くするのは難しいのが現状。だからショウのオーガナイズもやっているんだけど、簡単にはいかないよね。無料のコンサートと有名なアーティストのコンサートは香港人にもウケがいいけど。もうすぐMGMTが来るけどあれはもうチケットほぼ売り切れだしね。でもアンダーグラウンドなショウをやって客が入らないのは当然だから、オーガナイズを始めた当初は入場無料にして、徐々に香港の人たちにWNRが扱っている音楽を理解してもらうようにした。それから有料にして規模も少しずつ大きくしてきた。それでもなかなか黒字にならなかったんだよね。特にフェスティバルを組んだときなんかは本当に赤字で…。みんなでポケットマネーでなんとかした。そうやって辛い状況が続いたんだけど、toeのコンサートで初めてちゃんと利益を出すことができたんだ。
──toeのアジアでの人気は素晴らしいですしね。
うん。アジアではすごく有名。特にドラムの技術に惚れ込んでる若者が多いよね。今までtoeのコンサートのオーガナイズは2回やったんだけど、昨年10月のtoeのアジアツアーもちゃんと成功できたよ。いろいろと問題はあったけどね。尖閣諸島の問題があったでしょ?toeアジアツアー最初のライブが2010年の10月に上海であった。その頃ちょうど、尖閣問題で日本と中国の関係が悪いとき。「日本嫌いだから日本人のコンサートなんて行かない。好きなバンドだったけど日本人だ」って言ってた人もいる。あの問題がなかったらもうちょっとチケット売れたんじゃないかな。
──若い音楽ファンも、反日運動をしてたんですか?
そう、ライブに行くような若い子、学生たちも反日運動に参加する。チケット買わないだけならいいけど、ごく一部の人が日本人のライブに来て反日を叫んで暴力的な行動に出たりする場合もある。だからあの頃、関係者みんな悩んでいた。最終的には無事開催できて良かったけどね。その頃同じく中国ツアーをしていた日本のBUDDHISTSONというバンドは大変だった。武漢でライブをする予定だったんだけど、会場前ではすでに若者達が集まり「日本人は来るな!」と抗議している。宿泊先のホテルの前でも反日運動が起こっていたという話。すでにメンバーは武漢に到着してたんだけどライブはキャンセルに。toeの場合は幸運だった。上海は外国人が多くてインターナショナルな都市だし反日運動は大きくならなかった。今現在は中国大陸では尖閣諸島の問題よりも日本の地震のニュースのほうが注目されてるけど。
──インディーズ音楽にも尖閣問題が影響していたんですね。驚きました。じゃあ香港の現状について聞きたいんですが、香港のHMVとか大手のCD屋は売上良いんでしょうか?
香港のHMVは「ミュージックショップ」じゃないよ。あれは「エンターテイメントショップ」。音楽だけじゃなくて、Tシャツ、ヘッドフォン、スピーカー、周辺機器とか、プレステ、XBOXといったゲームも売ってる。ゲームも含むエンターテイメント全般。それに運営面で見ても、大きい会社だから僕がやってるような小さいショップと比べて何もかも有利。そういえば、日本にはTOWER RECORDSが全国にあって、チェーン店なのにかなりコアな音楽をそれぞれの店で売っている。あれにはかなりびっくりした。香港にも昔タワレコがあって、コマーシャルなインディーズ音楽は売ってたけど日本のように超アングラ音楽は置いてなかったね。
──日本のタワレコも何店舗か閉店して規模縮小しているようですけどね。それにしても、香港はすべてが大企業に支配されていてるように感じます。日本よりも資本主義が徹底されているというようなイメージです。問題が多いですよね。
ただもう僕たちにとってはこれ以上大きな問題になることはないんだよね。悪い状況が当たり前になってしまったから。香港の一般人にとっての音楽は広東ポップで、広東ポップはカラオケで歌われるためだけにある。僕は音楽って人間のパワーのようなものだと思ってて、ヨーロッパや日本ってそういう音楽が普段の生活にまだ近いところにある。日本でもJ-POPは面白くないだろうけど、まだ日本のほうがJ-POP以外の音楽も受け入れてる。
──なるほど。香港の若いアーティストに聞いたんですけど、香港の若者たちが常に考えていることは「次に何を買うか」つまりは消費することしか考えていない、と言ってました。服とか。
そう!服は一番大事。なぜなら、外に出かけたとき、服は外から見られる。けれど、外にでかけて、イヤホンでどれだけ素晴らしい音楽を聴いてても、どんな音楽を聴いているのか周りから見られることはない。香港の人にとって一番大事なのは「外見」。だからみんな服にはかなり気を使う。みんなiPodやiPhoneを持ってるけど、あれもファッション。みんな音楽なんて購入せずに無料でダウンロードしてる。ただ、iPodやiPhoneを持ちたい、というだけ。音楽が好きだからiPodやiPhoneを選んでいるわけではない。
──そうそう!MTR(地下鉄)乗ってても、道端でもみーんなiPhone触ってますよね!8割ぐらいの人がiPhone!あれちょっと異常ですよね。
みんなiPhone使ってニュース見たりしてる訳じゃないんだよ。ゲームするだけ。それだけ。99.8%ゲームでしょ(笑)。iPhone使って何してるのかなーと思って画面見たら、みっんなゲーム!がっかりだよね。ゲームしたいんだったらPSPで充分じゃない。でも、他の人に見せたいんだよ。「私、iPhone使ってます」って。iPhoneでfacebookやってる人も増えてきたけど、それでもまだまだゲームが主流。それに、facebookってゲームアプリあるでしょ。facebookにゲーム目的で登録している人もかなり多い。
──なんでそんなにみんなゲーム好きなの?
さあ。その辺でゲームやってる子に聞いてみたら(笑)?
香港は歩けば必ずiPhone“カバー"のショップに出会う。ATMの数より多いかも。
──今日、日本のニュースで見たんですけど、大阪で2軒のクラブが摘発されました。どちらも飲食店許可のみでクラブ営業していたということで。日本ではまず飲食物を売るなら飲食許可、ディスコをやるならまずは風営許可取らないといけないんですよ。香港唯一のライブハウスHidden Agenda(前回記事参照)も違法だって言ってましたよね?
なるほど。似ているね。Hidden Agendaはどのライセンスも取ってない。消防法とかもクリアしてないし、アルコールを売る許可も取っていない。もしオーナーがHidden Agendaをもっと有名にしたいと思い大規模に宣伝を行なって集客とイベント回数を増やせば、より周りからの目も厳しくなる。今はあの隠れた雰囲気だから続けられてるんだろうね。難しいよね。まあ今は立地が工場地帯にあってアクセスが悪いから簡単に有名にはならないだろうけど。でも僕は唯一の香港のアンダーグラウンドなハコとしてあそこに存続してもらいたい。
──じゃあ香港にもクラブってたくさんあるみたいですけど、ああゆうのはちゃんと法的にクリアしてるんですか?
中環地区にたくさんクラブがあって、どこも合法のクラブだよ。あの地区自体がポピュラーだし外国人もたくさんいるし、リッチな場所。だからもちろん飲食許可や風営許可の料金を払える。もしHidden Agendaのオーナーにそれぞれのライセンス料を払えるお金があればそりゃ許可取ってると思う。ただ、コストが高すぎるだけ。
香港の人たちもHidden Agendaを知ってても「遠い」という理由で行かなかったりする。Hidden Agendaによく通ってくれているのは実際のところ、香港在住の外国人かもね。外国人が香港の音楽シーンを支えてくれている気がする。肝心の香港人は、バンドマンであっても他のバンドのライブに行きたがらない。日本だったら普通、営業とか勉強の意味でいろんなライブに行くよね?行かないくせに自分のバンドが一番だって思ってる。ほんとワガママ(笑)!もちろん香港のすべてのバンドがそうだとは言わない。一部のバンドやアーティストを除いてね。インディーズである程度有名なバンドこそ、他のライブに行かない。シーンを率先して盛り上げようとしてくれない。むしろもう音楽自体に興味がない。彼らがバンドで演奏する理由は「有名になりたい」ただそれだけ。だから音楽よりも何を着るかってのが大事。いつも服のことは気にしてる。
──えー!また見た目ですか。もうがっかり。
もちろん、全部が全部じゃないからね。なかには良いアーティストもいるから。
──じゃあ、どうやったら香港のシーンを変えられると思います?
変わらないね。
──え!?
そもそもWNRは僕含めて3人で始めた。その3人で店をオープンしたときの理念は「香港で手に入れることのできない音楽を集めて、音楽ファンたちへプレゼンしよう」というものだった。でも、間違ってたよね、完全に。たいていの香港人はいつも「すでに知っている・知られている音楽」を探してる。新しいものを発掘しようとは思ってないんだ。WNRとしてもいつもどうにか購入してもらうようにトライしてるし、イベントのオーガナイズもしてるけど、なかなか。
でもこれ以上考えすぎないように決めたんだ。僕らは店を開けて、香港の消費層が何を考えているのかは気にしない。そして絶対に今やっていることを止めない。香港のカルチャーを変えようと試行錯誤する時間はないし、我が道を行き、自分たちの最善を尽くすだけ。一般の人たちがWNRで扱ってる音源に興味がないなら仕方がない。少ないけれど来てくれる本当の音楽好きのために店をやっていこうと思って。ただ、正直、僕は自分の家族のことも考えないといけない。店を始めた3人のうちの僕以外2人は、今はレギュラーの仕事を持ってるから気にする必要はないんだけど、僕は今は独身じゃないし2ヶ月の娘と妻がいる。これからのことはわからないけど、とにかく自分の道を進んでベストを尽くすだけだね。
今回紹介した彼の話をネガティブに感じる方もいるかもしれないが、日本の状況ともかなり重なるところがあるように感じた。確かに、香港には選択肢が少ない。約700万人が狭い香港で住んでいて、充分に利益のでないアンダーグラウンドのために土地も時間も人も割く余裕がないのかもしれない。普段私は「東京で体験できるけど大阪では体験できないものがある」と不満を感じることもあった。ただ、香港の現状を見ると、大阪のほうが相当ましだ。Garyは「シーンは変わらない」と言い切り、悲観的とも言える超現実主義なのだが、彼は毎日のようにfacebookで自分が気に入った音楽を紹介し、海外アーティストの招聘も常に構想している。私から言わせてもらえば、彼ほど香港のこの大量生産社会に果敢に挑戦しているクリエイターはいない。
香港島名物のトラムはすべてが広告のペイント。バスもしかり。
映画人編:香港映画産業事情と社会問題、遅すぎた最低賃金制定、広がるデモ運動(取材日:2011年4月1日)
香港では香港国際映画祭が3月20日から4月5日まで行なわれていた。
http://www.hkiff.org.hk/
そこで、リンダ・ホーグランド監督の『ANPO』も上映されていたので見に行った。そのときの日記はこちら。 このときに会場の外でリンダ監督とお話したときに出会ったのがエルビー。彼はHong Kong Film Archive(以下HKFA)で編集責任者として働いている。普段は広東語ー英語の翻訳やHKFAで手がける出版物の編集、そして現在は仲間と仏教雑誌を編集中。日本に1年間住んだことがあるため日本語も流暢。大学時代は日本の研究をしており、60年安保についてももちろん知っていた。日本映画も大好きで「ミーハーなんだけど、原節子が大好きなんです!」という彼。香港の映画人である彼に私が香港滞在中に疑問に思ったことをいろいろ聞いてみた。
想田和弘監督作品も大好きなエルビー。香港国際映画祭では想田監督に直接インタビューをし、映画祭中に配布されるニュースレターに記事を執筆。
──日本ではTSUTAYAとかで映画をレンタルすることがメジャー。「映画館に行くよりもDVDが発売されてからTSUTAYAでレンタルしよう」と考える人も多い。そのほうが安いから。香港でそういうレンタルショップって見かけなかったけど、TSUTAYAみたいなサービスあるの?
昔は2、3軒あったけど、今はほとんどない。あるとしても、メインストリームの映画がほとんど。ある時期はレンタル流行ってたけど、中国大陸も香港もインターネットで海賊版を見ることが簡単なんですよ。だってなーんでも見れるんですよ!例えばこれ、(ロウ・イエ監督作品の話をしていた)マイナーだけどインターネットで探せば、大陸のどこかから違法ダウンロードできちゃうんだよね、タダで!だからそれもレンタルショップが潰れる大きな理由だと思います。それに香港ではもうほとんどがブロードバンドで、高速回線が普通。契約料金も高くない。
──ということは、日本では「高い入場料を払って映画館で見なくても安価でDVDレンタルできるから充分」と思っている人がいるのに対して、香港では「タダでダウンロードできるから充分」と?
そう、そうです。うちのおばさんがそう(笑)。
──じゃあもちろん香港の映画館も減っていくよね。
そう。本当に違法ダウンロードが映画産業を壊す。中国大陸にはまだまだ著作権を守る法律がないし、中国政府にも大陸の一般の人にも「著作権」という意識はない。映画や音楽に限らず本やその他の作品に関しても堂々とコピーが作られる。大陸はなんでもアリなんですよ。映画や作品を作っている人に対しての尊敬がない。日本ほどではないですが、香港も少しずつ著作権に対しては厳しくなってきているんだけどね。著作権の無視があるから、なかなか創作活動で食べていけない。アート系ミニシアターは香港にも昔いくつかあったけど、そういう理由もあってほとんどなくなってしまった。だから映画祭でしか見れない映画も多くなってきて、香港での映画祭の価値はぐんと上がってる。
──日本の私の家の近くでは、この不景気の中、新しい映画館がオープンしました。(元町映画館を例に)本当に映画が好きな人が立ち上げた映画館で、スクリーンはひとつ、70席ぐらい。上映される映画はアート映画やドキュメンタリー、マイナーな映画を上映しているしやっぱり経営は苦しそう。でも。今オープンして1年ぐらいの映画館。たとえ経営が厳しいとしても、香港でそういうアート系映画館を作ることは可能?
それは尊敬します!香港ではできない!今、実際に映画館を作るには、大手のグループ会社、UAとかBroadwayとかの系列に入らないと不可能でしょう。例えば僕が映画のファンなので自分個人の映画館を経営したいとしたら、それはリスクが高すぎてとても実現できない話だと思う。考えられない!香港では家賃がとても高いというのも理由の一つ。本当に高い!東京よりも高いって言われることもあるし。現在社会問題にもなっているけど、家賃が高すぎることで人の売買力がついていっていない。若い人が一生懸命働いて貯金してもマンションを買えない。店舗用地も住居もどんどん高くなっている。だから大型チェーンの会社は物件を借りることができても個人事業で借りるということは相当厳しくなってきてる。住宅で言えば香港にも公共住宅はあるけど、条件が厳しいし、抽選のために5年ぐらい待たないといけないことが多い。
──5年経ったら世界が変わってるかもしれない!
そうだよね(笑)。香港人も不幸なんですよ。
──それにしても香港に来てアート系映画館がないのがショックだった。すべてが同じものになっていくように感じたし。そのほうが儲かるのかもしれないけれど、個性がない。
香港は今その傾向がすごく強い。すべてがひとつになってしまう。小さな個人経営店も大きなショッピングセンターのなかに吸収されてしまう。今そういう風に香港の社会は移り変わってきていて、個性が奪われていく。なので、さっき聞いた映画好きが作った映画館の話を聞いて、本当に良いなと思った。香港ではあり得ない。うちのHKFAだって、政府がお金を出さなければ絶対に存続できない。HKFAには香港映画の全歴史が詰まっているけど、一般の香港人に言わせると、あってもなくてもよいことかもしれないし…。
──日本と香港って資本主義の浸透具合とか社会で個性を出すことの難しさとか、いろいろと似ている部分があるように思う。一般の人の意識はどうでしょう?私は、日本人はあまり議論したがらない人が多いと思ってるんだけど。何かについて意見を出し合って話し合い吟味することが苦手。香港の人はどう?議論してる?
香港の人は日本人に比べれば割と議論しているほうだと思う。香港では6月4日の天安門事件の日、7月1日=香港返還の日にデモをするのが恒例。だいたいビクトリア・パークで集まり中国大使館や香港政府の庁舎を目指して歩く。2003年の7.1デモでは「香港基本法23条」の立法をめぐって100万人もの人が集まった。その法律とは、香港政府が中国政府からのプレッシャーを受けて制定しようとしていた、香港住民の自由を脅かすもの。大きなデモの結果、香港住民の反対が激しかったため、その法律の制定は一旦棚上げされた。これはうまくいった例だったね。もちろん、ピースフルなデモ。誰も負傷などしていない。
(注釈:報道では50万人デモとの公式発表だったが約100万人が参加していたとの市民リポートも多い)
──すごい。香港の人は行動を起こすことに慣れてるね。メーデーはどう?
メーデーに大きなデモをするというのは香港ではあまり聞かない。ただ、最近やっと最低賃金の法律ができた。とっても遅かった!
──え、今までなかったの!?
なかった。不思議でしょ?制定された最低賃金は時給28香港ドル(約291円)。ローカルなレストラン等で働いていた人たちは、それよりも遥かに低い賃金で働いていた場合もあると思う。その最低賃金の施行は5月頃から始まる。だから社員の雇用条件や契約を改定するために、今はどの会社も少し混乱している。最低賃金を上げる代わりに、今後休日出勤の分の給料がもらえないという契約に変えたり…。とにかくこの最低賃金に関しては、もう20年以上も議論されてた。どうも香港政府はお金持ちの味方をしたがるしね。香港住民の貧富の差もどんどん開いていく。香港だけでなく世界中の問題だね。それでも香港は中国大陸ほどの貧しさはないし、国際都市だし、まだ恵まれていると思う。ただ土地は狭く人口は多いし、競争は激しくなってきている。その競争が香港人にとっての一番の苦しさではあるかもしれない。
──ちなみに次の6.4デモはどんな感じになりそう?
最近の傾向としては、中国大陸から香港へ6月4日にあわせてやってきてデモに参加する人も増えてる。香港では天安門事件のことについて発言しても問題ないけど、中国大陸では決して言えないから。あと、天安門事件はもう21年も前の事件なので、今の香港の学生は天安門事件についてあまり知らない。そこで天安門事件を生徒に理解してもらうために、6.4デモに生徒を引き連れていく香港の先生も増えている。そういった要因から、ここ5年ぐらいはデモ参加者が増加している傾向。そして重要な事件だから、香港の人たちにとっても忘れまいという意識が強い。政府は経済の発展に目を向けさせて天安門事件についての記憶を薄くしようとする。でも香港人はまだまだそれを忘れないし、忘れるべきではないと思う。
香港では、創作活動と社会問題への意識は必ず繋がっている。芸術と政治が分離しているのではなく、ゆるやかに繋がっている。現在も香港では艾未未に関するアートを絡めた社会運動が広がっている。大多数の人が同じ商業映画を見てiPhoneを使ってファッションを追うんだけれど、この社会に対する問題意識の強さはなんだろうか。中国大陸が間近にあり中国政府に影響を受ける可能性のある特別行政区だからこそ、彼らは自由がないことの恐ろしさを充分に理解していて、今の自由を守ることに懸命になれるのかもしれない。
(取材・文・写真:山本佳奈子)
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■山本佳奈子 プロフィール
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webDICE キューバ紀行(2010.5.11~2010.8.16)
1983年兵庫生まれ、尼崎育ちの尼崎市在住。高校3年のときにひとりでジャマイカ・キングストンを訪れて以来、旅に魅力を感じるようになる。その後DJ活動、ライブハウス勤務などを経て、2010年、念願だったキューバ旅行を実現させる。
世界のすべての人々の最低水準の暮らしが保証されること、世界の富を独占する悪徳企業が民主の力によって潰されることを切に願っており、自ら一つのメディアとなって情報発信することにも挑戦している。