ニコニコ動画を中心としたインターネット上で作品を発表する音楽クリエーターたちが新たなレーベルBALLOOMを設立。その第一弾として、これまでもニコ動で記録的な再生回数を誇る「ローリンガール」「ワールズエンド・ダンスホール」「裏表ラバーズ」といったナンバーを作り続けてきたwowakaがアルバムを発表した。
5月18日にリリースされたアルバム『アンハッピーリフレイン』は、彼の音楽の特徴である疾走感に満ちたプロダクションと、十代の女の子の心の揺れ動きを描く世界観が色濃く感じられる仕上がり。彼の言葉にもあるように、作品のオリジナリティとともに、ニコ動をはじめとしたネット上の表現とCDなどのソフトとしての表現活動がリンクしていく動きの象徴的な作品だ。音楽シーンの活性化という視点からも、注目すべき作品であるだろう。
ニコニコ動画の本質は既存の音楽シーンと共通している
──これまでも自主制作でCDは発表されていますが、新しいレーベルのもと全国流通となるアルバムは初なんですよね。
CDのデザインやイラストとか自分で解らない部分は、ネット界隈で知り合った絵を描く人にお願いしたりはしていたんですけれど、音は完全にひとりで完結していました。今回はディスク2がリミックス集になっていてリミキサーから自分とはぜんぜん違うアプローチで、自分の曲を再構築していただいたり、他にもエンジニアや広報、デザインなどなどいろんな方に関わっていただいている、そういうことを含めてひとつ胸を張れるものができたという満足感はあります。
──wowakaさんの活動は、2010年代のミュージシャンならではのスタンスだと感じるところがあります。楽器を演奏するミュージシャンの側面だけでなくボカロというソフトを使って音を作りこんでいくトラックメーカーやプロデューサー的面もありますし、リミキサーとしての役割もある。ニコ動上で作品を発表していくうえで、何か方針はあったんですか。
ニコニコ動画に曲を作って動画を投稿するということ自体、完全に趣味だったんです。一作目を発表した頃は自主制作でCDを出すことすら考えていなかったですし、ちょっと音楽を作れる面白いソフトがある、じゃあひとりでできるから気兼ねもなさそうだろうということで始めたんです。
ボーカロイドというソフトと一緒にDTMも始めたんですけれど、やっていくうちにボーカロイドも音楽制作についても技術的な部分がちょっとずつ身についてきて、じゃあ次はもっとかっこいいものを。自主制作のCDを作るに至ったのも、ボーカロイド界隈で自主制作のCDやイラスト集の即売会というイベントがあることを知って、せっかく音楽を作ってるなら形として残したいと、手を伸ばしてみた。そういうことが積み重ねっていったんです。
──それにしてもいきなりキャッチーな曲ができたんですね。
もともとギターを中3くらいからやってまして。自分で打ち込んでアレンジを全部考えて一曲をパソコンで仕上げるという作業を始めたのが、2009年の一作目をアップした頃なんです。ボーカロイドに出会ったときにはワクワク感はすごいありました。
──ニコ動の存在を知ったのはいつですか。
2008年の末とかぐらいです。最初はいろいろな曲がアップされているなかで、これは誰が作った曲なのか制作者については気にしてもいなかったんですけれど、いろいろ聴いていくうちに、曲のクオリティとしてもすごい高い曲や感動する曲を見つけてきて、これは誰が作ってるのだろうと考えるようになりました。そこで個人が作っていると知って、これがひとりで出来るんだったらちょっと面白そうだなと、2009年の3月か4月に、初音ミクとシーケンス・ソフトを買って、DTMを始めたんです。
──他のDTMのソフトや機材と比べてボーカロイドにいちばん面白いと感じるところはどこですか。
やっぱり一番は歌というか、音に言葉がつけられるというのが大きくて。それから基本的に女の子の声だから、ひとりでやろうと思ったらぜったいできないわけで、それがいつでも使えて、ひとつのパソコンの中で完結して作品を作れるというのはすごく魅力的でしたね。
──歌詞がある楽曲を作るというのはインストを作るときとどのような違いがありますか。
言葉が乗ってるか乗ってないかというのはぜんぜん意味合いも変わってくると思いますね。僕、単純にリスナーとしても日本語の音楽がすごく好きなんです。洋楽も当然音楽としてかっこいいものが多いので、気に入ったのを見つけたらCD買ったりするんですけれど、やっぱり日本人なので直感的にそのまま頭に入ってくるのは日本語なんです。
──初音ミクを中心としたボカロの世界と、ニコ動の様々なアレンジでバージョンがどんどんアップされていく世界に触れて、J-POPのシーンとは違う面白さを感じたんですか。
J-POPのシーンと同じくらい、すごくポップで耳に残る受け入れられやすい作品がレベルの高い状態でいろいろあります。そして、これはボカロにもうちょっと足を突っ込んでから知ったんですけれど、いわゆるアンダーグラウンド・ミュージック的な音楽も数えきれない程上がっていて、そういう曲のなかにもかっこいい曲がいっぱいあって、そういう曲を発見したときの喜びや、こんな制作者がこんな使い方でボーカロイドをいじってるんだなというのが解るとすごい楽しくて。
だから、ニコニコ動画上のボーカロイドのシーンは、今までとは違う特別なものであるとは思うんですけれど、本質というか、作者が作りたいものを作っていて、それに対して聴いている人がいる。それぞれ作者の作っているものもバラバラだし、無数に転がっているという意味では、既存の音楽シーンと共通したものがあるのかなと思います。
──自身でアップした楽曲がいきなりものすごい再生数を記録した、というのはどう分析されたんですか。
実際ライブをして数千人を集めてその前で演奏しているということではないので、数字ほど実感というのはなかったのかもしれない。喜んでいる自分と、外から眺めているポジションとの自分がいろいろ入り交じっている不思議な感じでした。
リフから全体を作り上げていく
──例えばバンドマンがライブハウスでオーディエンスを前にライブをやるときには、こういう人に届けたいという顔が目で見て解ると思うんですけれど、wowakaさんがニコ動上でコメントや実際アップする楽曲を通してユーザーとコミュニケーションを取っていくなかで、リスナー像というのはイメージできていたんですか?
ニコニコ動画に投稿して一番いいのは、レスポンスが直接コメントで見られるということなんですけれど、そうしたコメントや感想のメールをいただいたりすることを通して、ちょっとずつ見えてきました。ボーカロイドのシーン全般に言えることだと思うんですけれど、10代の人、中高生がすごい多くて。若い人たちがこういうシーンの面白さに気づいているってのが素敵だな、って。それを特に実感したのが、自主制作のCDを作ってイベントに持っていったときなんです。そこでありがたくも僕のCDを買うために並んでいただいたり、握手してくださいという人もいたり、そういうダイレクトなふれあいがあったときに、初めてああ、ちゃんと聴いてくれる人がいるんだな、って実感しました。
──どんな感想がありましたか。
「この曲いつも登校中に聴いてます」とか(笑)。僕が中高生だった頃に、好きなバンドや歌手の歌を聴いていた、あれと同じことが起きているのかなと、すごい嬉しいことだと思います。
──客観的に見て、wowakaサウンドのポイントはどんなところだと思いますか。
僕自身としては、それを決めてしまわないようにはしているんですけれど、どうしても出てしまう部分というのはあって。テンポが早い曲が好みなので、ちょっと早めの曲が多かったり、言葉をたたみかけるような曲調が特徴として出ている。それは同じ制作者からも言われたりはするんです。音の並びや譜割り、音の進め方についてもすごい癖があると思うんですが、そういうのが自分らしさとして受け入れられているのかなと思います。
──そうした曲のスタイルは、作り始めた時から自然に出てきていたんですか。
ゆっくりな曲を作ったり、バラード的な曲を作ったり、いろいろ試みたりはしているんです。けれど、一番好きなのはどういう曲かと自分で考えたときに、単純に「早い」とくくりたくはないんですけど、まくしたてるような曲が一番好きなんだろうなと。
──曲作りは、どんなやり方が多いんでしょう、リズムトラックからですか。
リフが強調された音楽が好きなので、耳に残るようなリフを先に作ってそこから全体を組み立てていくというパターンが多いんですけれど、最近これもちょっと変わってきています。昔からギターは弾いてきたんですが、DTMでギターをうまく馴染ませる方法が解らなくて、ギターをほとんど使わないで曲を作ってきたんです。MIDI鍵盤を叩きながらフレーズを探して、それをもとにコードを動かしていく。イントロができたらほとんど曲が完成したような感覚なんです。そこからこのパターンをどうやって展開させていこうと考える。そしてメロディを口ずさみながらちょっとずつバックトラックを作っていく。最初にインストトラックを通して作ってその上に上物を乗せて、最後にメロディと歌詞を作るという順番ではなくて、全部を少しずつ進めていくんです。
──曲の構想ができたときにもう聴かせどころがはっきりしているんですね。
いちばん聴いてほしい、耳に残る部分を決めて、そこからそれを使ってどうやっていこうかというのを考える。最近はそのリフの作り方をギターを使う傾向になっています。
──そうした最近の制作の変化は、今回のアルバムの新曲にも現れているんでしょうか。
新曲もそうですし、アルバムを作るにあたって全曲リテイクしているんですけれど、そのアレンジの部分でも今までと変わりました。全曲ギターを入れて、いま振り返ってみるとDTMをはじめたての頃のアレンジはつたない部分が多かったので、そのブラッシュアップを行いました。
ニコニコを見ている人は隠された意味とか歌詞の解釈をしたがる
──フルアルバムとしての構成については考えていたことはありましたか。
その曲そのものの特徴や特性だけじゃなくて、動画にアップしているという事実自体も曲に付随する意味合いがあると思っているので、アップした曲をすべてひとつにまとめられたというのはすごい大きなことだと思っています。
当然それにプラスして曲調や曲の歌詞について考えながら、曲順もすごい悩みました。今まではその場その場で一曲ごとに作っていたので、音の部分の統一感はなかったと思うので、そういう部分を再録やリテイクやリアレンジをすることでアルバムとしてまとまったものにしようというコンセプトがありました。
2枚組のアルバムをリリースするwowaka
──ファンからは、一般の流通でCDをリリースして活動することについて否定的な声はありませんでしたか。
自主制作のときも感じたんですけれど、僕が作った曲を「もの」として持っておきたいという人がすごく多くて、すごくありがたい話です。そういう方たちは当然ネットで音楽を聴けるわけですし、極端な話をすれば、MP3に落として聴いてたりする。そんななかでも、「いつも聴いてるけどこのCDが欲しいから買いに来ました」とイベントに来てくれる。そういう力はCDにはあると思うんです、というか思いたいんです、これは制作者側としての意見ですが、CDってどうしても好きなんですよね。こちらが感じる価値を、リスナーの方も感じて買いに来てくれるということを、イベントや通販で実感していて、今回もそうした価値を見いだせる作品が作れたと思っているので、動画で見ている方にもぜひ手に取ってほしいですね。
──今回のリリースと同時にBALOOMというレーベルも設立となりましたが、wowakaさんにとって活動しやすい環境ですしょうか。
音楽を作る部分において、制作者主体で、しかもやりたいことをいろんな人の協力を得ながら、かつ、とことん深くまでやることができるような場所だと思って僕は参加しています。どうしても自主制作でやっていくと、手の届かない部分が出てくるので、そういう部分を補って、かつ自主性だったり自由な部分は失わないまま活動できる場所だと思っています。今回参加しているアーティストだけ見ても、お互いの曲のことをお互いにうらやましがっているような感じの関係なんじゃないかと(笑)。みんないい部分があって、でも自分はこの部分は負けないぞという部分もあって、そういういい関係がある。
──wowakaさんの音楽が他のニコ動のクリエーターと比べて、決定的に違うところは、歌詞の強さなんじゃないかと思うんです。リスナーもきっときっと歌詞を深く聴いてるんじゃないかと。通りいっぺんのラブソングはぜんぜんなくて、切ない感情や、世界と私の関係性であったり、考えさせれることが一環して多くて、アルバムとして聴くとよりそれが強調されていると感じました。
曲を作るにあたって、いつも主人公の女の子を用意してるんです。曲ごとに大きなテーマを決めて、そこからぶれないように歌詞を作っていきます。毎回外さないようにしているのは喪失感だったり、焦燥感や、もやもやした気持ち。生きてる世界との間に壁を置いて、斜に構える感じの女の子をいつも頭のなかで想像しながら書いているんです。そういう意味では、アルバムにはひとつのまとまりが出てくると思います。
──いつも女の子なんですか。
ボーカロイドの声が女の子ということもありますし。
──女性シンガーに曲を提供して歌ってもらうなら、という感じですか。
それとは違って、なんていうのかな、僕の場合女性ボーカルなんですけれど、初音ミクが歌っているということで説得力が生まれている部分もあると思うんです。でも、仮に僕が自分で歌ったとしても、こういう世界観はそのままあると思う。僕が今まで聴いてきた音楽の影響もあると思いますし、少女的な部分、思春期や反抗期のちょっとすれた感じが好きで、そういう軸をずらさないように作ってるから。「世界に私はひとりだけなの」っていうような、そんな感じのもやもやを歌詞に入れているつもりです。
──深読みしたくなる、行間を読みたくなります。歌詞に共感しましたというリスナーのコメントは多いですか。
そうですね。ニコニコを見ている人って「この歌詞はこういう隠された意味が込められているんじゃないか」と歌詞の解釈をしたがる傾向が強いんです。それがすごい面白くて、「この歌詞のこの部分はきっとこういう人のことですよね、と」直接メールでいただいたりするんですけれど、全然違うんだけどなって(笑)。でも聴いた人がそれぞれに受け取ってもらうということが曲の楽しみ方になっているというのが嬉しいことで。
でも実は、いざ書くとなると、個人的にはどちらかというと語感のほうを大事にしています。メロディを口ずさみながら歌詞を考えているんですけれど、抑揚に合う言葉や耳障りのいい言葉を選んで最終的に破綻のないようにするというかたちで作っている。だからそれほど深い解釈はない、といえばないのかもしれません(笑)。でも僕自身そこまで考えていないところまで解釈してもらえるというのは幸せなことだと思います。
(インタビュー・文:駒井憲嗣)
wowaka プロフィール
2009年5月より、動画サイトにて、VOCALOIDを使用した楽曲にボカロキャラクターを使用しないオリジナルの平面構成による静止画をアイコンに用いた特殊な投稿形態の動画による活動をスタート。投稿作品から多数のファンムービー(手書きアニメPV)が派生していることはもとよりニコニコ動画上で「200万再生を超える3作品を排出した投稿者」は僅か7アカウントしか存在しておらず、若干2年弱の活動経歴の中、圧倒的なスピードでその名を連ねることとなった。
wowaka公式サイト
BALLOOM公式サイト
wowaka
『アンハッピーリフレイン』
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2,500円(税込)
BALLOOM
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