『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスことガンナー・ハンセンが出演する、アイスランドで初めて製作されたホラー映画『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー』が日本でも6月4日(土)より公開される。この作品に出演する裕木奈江さんがレイキャヴィクでの撮影の様子をレポートする連載。いよいよ撮影も大詰めに差しかかった今回は、撮影の合間に実現したLAでのリチャード・ギアの取材について、そしてアイスランドに戻っての撮影現場でのトピックと続きます。
15分走るとまるで別の星──アイスランドの自然の美しさ
撮影も日を追ってゆくにつれ、ペースがつかめてきた。相変わらず天気に左右されスケジュールは混乱していたのだけれど、それでもこつこつ貯金(その日の撮る筈のシーンが撮れない時に急遽別のシーンを撮影して予定を消化して行く)を増やし、多国籍撮影チームは頑張った。しかしこの時期になり日本からリチャード・ギアさんとダイアン・レインさんの取材の依頼が入ってきた(編集部注:NHK『英語でしゃべらナイト』放送)。思案の末プロデューサーに相談すると「行っておいで、でもすぐに帰ってきてね」と快くスケジュールを調整してくださった。ありがとう!
そして帰ったロサンゼルス、暖かい。陽光が金の粉のよう。体を解凍し、衣装合わせ、打ち合わせを手早く終えてフォーシーズンズにインタビューへ。
急な話だったので、友達の衣装さんが集めてくれたドレスを彼女宅でフィッテイング。
疲れてる……時差ぼけでふらふら。「Nae、役で切ったストレート、ショートヘアを生かして、黒のドレスとシンプルなアクセサリーでクールな東洋美にしようね」とスタイリスト嬢。
そして取材。リチャードさん、ダイアン・レインさんとの競演では『運命の女』がとても好きだったのでお会いできて光栄でした。若い頃も今も魅力的。クールに決める筈だったのに、幸せが顔に出てしまった。我ながらなんて素な微笑み:)まいっか。
スタバ、ターゲット、そして渋滞と、とりあえずLAを満喫!タンクトップに裸足でオッケー。暖か~い。
駆け足でスケジュールをこなし、ジャパンタウンで日本っぽいものをお土産に買い、アイスランドへもどり撮影再開。
現場にRedBullの差し入れが入っていて、これは日本で撮影が中盤を過ぎるとユンケルの差し入れが届き始めるのと同じ感覚。船での撮影が終わってから も雨に降られ、順調とは行かなかったがなんとか撮影は終了。一度短い夜の間にオーロラが見えたそう。私は疲れて控え室で眠っていたので見逃してしまっ た……残念。でもこれでまたアイスランドに戻ってくる理由ができたからいいや。今回はスケジュール的に無理だった北部の村やフィヨルドも訪れてみたい。
撮影中に受けた取材が、現地の新聞に載った。イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』はアイスランドでの撮影もあったせいなのか知っている人が多く、私の見出しは「イーストウッドの次はアイスランド」となっている(らしいです、読めませんが)。
ところで、この写真撮影の時の引き絵がこれなのですが、
明かりの作り方が日本ともアメリカとも違う。
日本は2次元的にぺたっと当てて、目の下やハナの影を消すのが「普通」だけれど、アイスランドは新聞用の写真でも明かりがこんな風に、影を恐れないと言うか、ドラマティックなのですね。
これは日頃低い位置からの太陽光が作る景色をみなれているからかしら。日本に置き換えるとだいたい9時、16時位の高さまでしか太陽が昇らない様だから。
ところで、はしごの途中でキュートに微笑んでいる男性が脚本家のシオンさん。
作詞家でもある彼はビョークの『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の「Cvalda」という曲も書いている。
好きでiPodに入れて聞いていた曲だったので、彼の作詞と聞いてびっくり。奥さまは歌手。小さな町の、国で初めて降霊がおこなわれたので有名な“黒い家”でコンサートをした後、彼女が「子供の霊が着いてきて離れないと言ってこまっていてね」とおっしゃっていた……。
取材から数日後、新聞に顔が載った私の写真を見た滞在先のホテルのオーナーさんが、郊外観光に連れて行ってくれた。
昔は漁師をしていて、いまはホテルをやっているのだそう。親子に見えそうな若くてかわいい奥さんはレジを閉めている最中だったので、2歳の娘さんと3人で郊外にあるブルーラグーンへ。
町を出て15分も走るとまるで別の星にきてしまったかのような風景になる。帰り道では何本も虹がかかっていて、それらは地面から健やかに弧を描いていた。 いつまでも見続けていたい、立ち止まっていたい、そして景色に埋もれてその自然美の一部に加えて貰いたい、そんな眺めだった。
とても広い露天風呂、温泉の湖。シリカ?(白いジェルのような泥)のバケツが置いてあり、顔や体に塗りながら青空の下入浴する。
「そんなに深くないところに蒸気がたまっていて危ないから、本当は入っちゃだめなんだけどね。時々地熱で料理しに来る人もいるんだよ」と。
天然スチームが気持ちよい。アイスランドの電気代がとても安いのは地熱発電施設があるおかげだそう。
地球は敵でも味方でもなく、ただ私たちの都合とは違うリズムで生きている。
(写真・文:裕木奈江)
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■裕木奈江 Flickrページ
『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー』
6月4日(土)より銀座シネパトス、新宿K's cinemaほか全国順次公開
監督:ジュリアス・ケンプ
脚本:シオン・シガードソン(『ダンサー・イン・ザ・ダーク』サウンドトラック作詞家)
プロデューサー:イングヴァール・ソルダソン、ジュリアス・ケンプ
音楽:ヒルマー・ウーン・ヒルマソン
出演:ピーラ・ヴィターラ、裕木奈江、テレンス・アンダーソン、ミランダ・ヘネシー、ガンナー・ハンセン、他
2009年/アイスランド/90分/英語
配給:アップリンク
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