骰子の眼

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東京都 品川区

2011-04-21 15:02


アースデイ、フジロック、高円寺デモ…イベント会場のエコ発電を担う、株式会社ユーズの染谷ゆみ社長インタビュー
植物油からバイオエネルギーVDFが再生されるしくみ(TOKYO油田2017オフィシャルサイトより)

VDF(ベジタブル・ディーゼル・フューエル)という、ディーゼルエンジン用の代替燃料をご存じだろうか。料理に使った植物油をリサイクルして作られる燃料で、毎年4月に開催されるアースデイ東京では、音響・照明ほか会場すべての発電がVDFでまかなわれている。また、フジロック・フェスティバルでも、2005年からVDFを一部導入。去る4月10日に高円寺で開催された反原発デモでもVDFが電力に使用された。軽油と比べてVDFには、呼吸器障害の原因になる黒煙が半分以下、酸性雨の原因になる硫黄酸化物がほとんど発生しないといったメリットがある。このVDFを製造販売しているのが、東京都墨田区に本社がある社員9名のユーズ。下町の小企業が世界初の使用済み食用油によるバイオディーゼル実用化に道を開いたのだ。


未来をつくる足がかりの一つとして、このバイオ燃料を発信していく

──そもそも当社アップリンクがユーズさんを知ったのは、今年の2月に偶然ネット上で、アースデイ東京のブース出展団体をユーズさんが募集していたのを見て申し込んだからです。正直なところ、それまで社内の誰もVDFについて知りませんでした。詳しく知っていくうちに非常に興味がわきました。アースデイ東京2日間の発電すべてがVDFという代替燃料によるもので、しかも燃費・価格も軽油と遜色なく車が走ると聞き、ぜひ染谷社長にお話をうかがいたいと思いました。まず、会社のキャッチコピーを「東京油田力」とされていますが、これはどういう意味ですか。

全国で年間に出る使用済み食用油は40万トンで、東京だけで約4万トンあるといわれています。そのうち業務用・家庭用の割合はおよそ半分づつです。業務用はほぼ回収されているのですが、家庭から出る使用済み食用油は、量が少ないため、各家庭で固めて捨てたり新聞紙に吸わせて捨てたり、ひどい場合は排水溝に流されてたりと、回収ルートにのせるのが難しいのです。東京の570万世帯から出る使用済み食用油を集めるしくみを構築すれば、大油田を掘り出すのと同じだと、ある時ひらめいたのです。それで1997年に、会社のブランディングと家庭の使用済み食用油リサイクル推進のために、染谷商店から独立したユーズを起業し、2007年に「TOKYO油田2017」というプロジェクトを立ち上げました。10年で東京すべての使用済み食用油を資源化することを目標にしました。

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株式会社ユーズ代表の染谷ゆみ氏

──祖父・権五郎さんが終戦後に使用済み食用油処理業の染谷商店を興し、二代目の父・武男さんが1993年にVDFを開発され、BDF(バイオ・ディーゼル・フューエル)とともに商標登録されたそうですね。

VDFは使用済み食用油の約95%を再生できるので、効率も大変いい燃料です。ただ今のところ、回収した使用済み食用油からVDFを作る量は1割で、9割は飼料や塗料になっています。うちは新しいベンチャーではなく古い会社なので、特に原材料が減ってきている今、昔からの商品のニーズがあるからです。だからこそ回収量を増やさなければならないのですが。VDFはすべてのディーゼル車に使用できて、車検証燃料欄に「廃食油燃料併用」と申請して運行できます。エコツーリズム専門の旅行会社リボーンさんでは、「天ぷらバス」というVDFを燃料にしたバスのツアーで活用していただいています。

──アースデイ東京には、いつからVDFを発電燃料として供給しているのですか。

アースデイ東京は2006年から実行委員として「天ぷら油リサイクル発電大作戦」と題し、エネルギーの自給自足をミッションとしています。回収ステーションや会場で集めた使用済みてんぷら油をVDFに再生し、毎年使用してきました。そして去年、会場内で使用するVDFに必要な使用済みてんぷら油を100%集めることに成功しました。今年も2日間で計1600~1800リットル用意します。そのため、2月下旬から「2011人(団体)より、2011リットル」の目標を掲げて回収していて、すでに1600リットル集まっています[4/15時点]。去年、アースデイ当日に会場の代々木公園に持参して下さった方々からは215リットル集まりました。一番本気で考えて持ってきてくれるのは、20代~30代の子供がいるお母さんたちです。それと20代の一人暮らしの方も、熱心に親や実家に教えたり、ツイッターで広めてくれたりします。私が20代の頃はそんなことを言っている人はいなかったので、感心することしきりです。今年のアースデイ東京でもぜひ多くの方に、ご家庭の使用済み天ぷら油を持ってきていただきたいです。もちろん、おいしく食べて消費することが一番なのですが。

──ホームページで週ごとに東京全域の回収量を発表されていますが、現在は月100トンほどの回収量ですね。

月100トンのうち家庭の廃油は2トンで、残りは飲食店から回収している業務用です。家庭からの廃食油は、東京、埼玉、千葉、神奈川で「回収ステーション」を設置して、ペットボトルなどに入れて持ち込んでもらえるようにしています。今のところ計120ヵ所ほどですが、2年後には2000ヵ所に増やす予定です。回収ステーションの設置場所は、カフェや花屋さんや薬局など地域のお店なのですが、当社が設置手数料を払うのではなく、逆に年会費1万円を当社に払ってもらうしくみを取っています。店舗さんにとっては地域への貢献という面でCSRにつながるし、新しいお客様を呼べる魅力もあるからです。越ヶ谷のイオンレイクタウンさんは、オープン当初から参加していただいていて、毎週70リットル以上集まります。最近ではマンションのディベロッパーなどとも協力して、集合住宅でも分別ゴミとして回収することも進めています。ただし、単に分別して捨てればいいと思われないように、回収されたものが何になるのかという発信も必要なんです。バイオエネルギーを作れるとわかれば、原発を減らせるんじゃないかという発想につながるでしょう。たとえば今、原発に30%依存しているなら、そのうちの1%でもVDFに替えていこう、そして次に29%をどうするか考えよう、という流れが重要だと思うのです。つまり単に油集めをしていきたいのではなく、次なる時代のエネルギーのデザインをしていきたいのです。

回収トラック 3

──社員の皆さんで救援物資を届けに被災地へ行かれたそうですが、被災地ではVDFのニーズはあったのですか。

震災後、会社のトラックとバイオ燃料を使って、支援物資を運ぶお手伝いをしたいと申し出ていました。すると台湾からの支援物資が横浜の本牧埠頭に着くので運んでほしいという依頼を受けたので、トラック4台で4/1~4/2に行ってきました。自分たちの車に給油する分のVDFはドラム缶で持って行きましたが、多くの被災地の方々が必要とされているのはガソリンや灯油です。VDFはディーゼルなので、重機やトラックには使えますが、代替燃料のことを知らない人は、本当に天ぷら油で動くのかとか、これを給油して壊れてしまったらとか、やはり不信感や抵抗感があるのです。だから今回は支援物資を届けることに専念するべきだと考えました。ただ、私たちが「天ぷら油再生燃料使用車」と書いた車を走らせているだけで、「もしかすると、こんな社会が実現可能なのかな」という一筋の希望を見い出してくれるのではないかと思うのです。そういう未来への想像力を持っていれば、人間は生きていくことができますから。実際、気仙沼への道中でも、皆さん車を見て「へぇー、すごい!」と反応してくれました。

──VDFをもっと普及させていくには、どんな点をクリアしなければならないのでしょうか。

今までは石油が安かったので、価格的にどうしても意識の高い人しか関心を寄せなかったこともあります。いわばオーガニックの野菜を食べるのと同じで。といっても、今は軽油1リットル125円~135円、VDFは1リットル130円でほとんど変わりません。今後、石油は値上がりしていくはずですから、食料もそうですがクリーンエネルギーの自給を真剣に考える時代にいやがおうでもなるでしょう。VDFは軽油と混ぜても問題ないのですが、現状、バイオ燃料は軽油に5%しか混ぜてはいけないという規制があります。それも人々の意識が変われば、必ず変わると思っています。30年前には、電気で動く自動車なんてピンとこなかったですよね。でも今はクリーンエネルギーのハイブリッド車が現実味を帯びてきている。そういう未来を作る足がかりの一つとして、このバイオ燃料を発信しています。ディーゼルはガソリンに比べて燃費が良く、ヨーロッパでは乗用車の半数以上がディーゼル車です。日本では現在ディーゼル規制が進んでいますが、近い将来、太陽光や風力などで発電したエネルギーとディーゼルエンジンを組み合わせて、リッター100km走るハイブリッド車もできるかもしれません。実は11年前のコンピュータ2000年問題で原発が止まるという噂があった時、社員みんなで「自分たちはトラックも燃料もあるから移動は大丈夫だね」と冗談まじりで言っていたのです。今回の震災が起きて、給油できない状況が現実になってしまいましたが、当時からもっともっとネジを巻いて早く普及に向けて進むべきだったと反省しました。まだまだ力不足で広まっていない。以前は広めたいという希望だったけれど、今は使命と感じています。なぜなら原発はもうたくさんだからです。人間はプルトニウムとは共存できないと思います。単位が違いますから。半減期が何万年といわれても、われわれ人間には為す術がない。だから少しでも多くの人にこのバイオ燃料を知ってもらい、発信してもらう。そうすれば選択肢の一つに入ってくるでしょうし、それが社会を動かしていく力になると思うのです。

(インタビュー・構成:隅井直子)


染谷ゆみ プロフィール

1968年、東京都墨田区八広生まれ。高校卒業後、アジアへ自分探しの旅に出て環境問題に目覚める。1991年、環境問題の解決を軸にした社会変革を目指し、油リサイクル業の実家「染谷商店」に入社。1997年、株式会社ユーズ設立。2007年、TOKYO油田2017プロジェクト発足。2017年までに東京から出る廃食油すべてのエコ資源化を展開中。著書に『TOKYO油田物語──天ぷら油 まわりまわって世界を変える』(一葉社/2009年刊)がある。

TOKYO油田2017オフィシャルサイト

アースデイ東京2011公式ページ

アップリンクも2011年4月23日(土)、24日(日)に開催されるアースデイ東京に出店します。場所は代々木公園会場ケヤキ並木沿いの東京油田力ブースです。6月25日公開の地球環境の未来を見つめる人々の姿を追った映画『セヴァンの地球のなおし方』のプロモーションのほか、DVDもスペシャルプライスで販売しますので、ぜひお立ち寄りください!

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