東京都都知事選の投票日である4月10日、高円寺で大規模な反原発デモが行われる。『高円寺・原発やめろデモ!!!!!!』の発起人となったは、高円寺を拠点にリサイクルショップ運営をはじめ、様々なイベントを企画し集いの場を設けることで社会への問題提起を続けてきた松本哉さん。素人の乱は高円寺で、地震直後から被災地救援の緊急チャリティーBARを開き義援金を募るなど、東日本大震災に対するサポートを続けている。東北へ送るための救援物資が続々と届けられているなか、素人の乱5号店で店番をする松本さんに聞いた。
ライフスタイルを変えなくてはいけない
──webDICEで今週、都知事選の候補者へのアンケートを掲載した記事が大きな反響を呼びました。同じ日に松本さんが高円寺でデモを企画されたということで、ぜひお話をおうかがいしたかったのです。取材のお願いをした際に、今回のデモが4月10日になったのは選挙のためではない、とおっしゃっていましたが?
いや、でもまぁ今原発というのは世の中でいちばん大きな問題となっていて、そんなときに選挙なんてやってる状況じゃないと正直思うんですよ。くだらない候補者ばっかり出ているのに、都知事が誰になるか選んでいる場合だないだろ!と(笑)。それだったら、もちろん妨害するという意味ではなく、同じ日にぶつけることで、原発の問題をこの日に高めないとしょうがないんじゃないかという気持ちはすごくあったんです。
素人の乱の松本哉さん
──松本さんは反原発を掲げている候補に入れたいですか。
そうですね、今回はとりあえず共産党に入れようと思ってるんですけどね。小池さんだと思います。
──準備を続けていて、市民の力でほんとうに原発を止めることができるのか、実感することはありますか。
もちろんそうなったらいいと思ってやっていますが、当日を迎えてみないと解らないし。でもほんとうに盛り上がることがあったら世の中ぜったい変わる。だから可能だとは思うんです。
──今回のデモは、「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」など、松本さんと素人の乱が行ってきたいろんな動きのなかのあくまでひとつと言っていいのですか?
いつもとは全然規模が違います。今まではこの高円寺の人たちで飲んだり雑談しながら「これ気に入らないな」と思ったらデモをやろうと、割と近いところで準備をして、近い人がくるという感じだったんです。今回も、最初は原発とんでもないからやろうよ、という感じだったんですけれど、いつもは一緒にやっていない人たちがどんどん参加してくるんです。例えば会議だけでも50人くらい来たりする。
──放射能の問題で不安が高まっているときにいまデモを行うことの重要性について、あらためて教えて考えていることを教えてください。
ライフスタイルを変えなくてはいけない、ということを他のインタビューでも言っているんですけれど、原発に反対することは当然できるし、大きな声を上げて原発を止めることは可能だと思う。ただ、今の世の中って消費社会が進んでいて、みんな無駄な生活スタイルになっちゃってる。街並みをみても自販機が何十個も並んでいたりするし、みんなひとりずつ住んでいて、みんなが家に帰ると冷蔵庫を使ってテレビを観てる。昔は映画館とか銭湯とか共有するものがいっぱいあったのが、どんどん個人で浪費していく世の中になって、生活自体が電力をたくさん使うことになってしまう、それが原発に頼らざるを得ない状況の一因だと思うんですよ。そんなときに、これまで日本の流れのなかで失われてきたものをもうちょっと考え直してみることによって、原子力に頼らなくていい生活になる。特に今回は、原発が安全だというのがぜんぶ嘘だというのがほとんどの人が解ったと思うので、いちばん最初に削る発電手段は原発。生活スタイルが変わっていくなかで、電力もいらなくなったら、自然と原発はなくしていけるんじゃないかなっていう気がします。
──それでも、原発の在り方の世論調査で増設と現状維持を合わせて半数近くという結果も出ていたりするなかで、どうしたらもっと原発はいらないということを伝えられるのでしょう?
この後に及んでそういう意見の人は、電気が点かなかったら困る、とか、原発がない世界というのをあまり想像できていんじゃないかな。原発は必要だという人も、原発は危ない、ということは認めているはずなので。原発がなくてもいい生活のイメージをこちらがどれだけ広く伝えることができるかということかなと思うんです。
そして、自粛は気分的な問題だけでほんとうに意味がない。人が集まることってエコなんですよね。何百人が集まって電気使いまくっていても、トータルで考えたらひとりひとりが家にいるよりも電気使わないですからね。だから花見なんてぜったいやったほうがいいですよ!裸電球2個くらいしか使わないじゃないですか。
──ネオンサインが消えた渋谷の街も別に不便ではないですしね。いかに今まで、必要のない電気で消費の欲望をかきたてられていらないものを買わされていたかということを思い知りました。
ほんとそうですよ。「暗くてどうですか」ってテレビの街頭インタビューでも「馴れたらこんなものですね」っていう人ばっかりじゃないですか。でもそれでいて原発の必要性については世論調査ではそういう結果が出ているって、矛盾しているんだけれど。原発がなくてもやっていけるってことが、そろそろ明かになっていくんじゃないかな。
いろんな場所で遊びまくっていることが大事
──10日のデモはツイッターをはじめとしたネットを介して、どんどん告知されていますが、どんなことが行われるのかあらためて教えてください。
14時に集合して、15時から集会があります。その後高円寺1周のデモに出発して、17時くらいには高円寺北口広場で解散で、そこで義援金を集めます。あとはそれぞれいくつかライブイベントなどを予定しています。ジンタらムータが公園の出発前にライブをやって、その後出発してからは、トラック2台を用意していて、DJカーとバンドカーがあって、移動しながらパフォーマンスします。
──アーティストからの反応はどうでしたか?
すごかったですよ。どんどんメールと電話で「出してください」という人が来て。特に今回は目立ちたいとか外で音楽をやりたいという人たちじゃなくて、反原発という趣旨だからやりたいという意志がすごく強い人が多くて、ロフトグループも全面的に応援してくれたんです。後から来てくれた人は申し訳なくて断らなくちゃいけなかったり、絞るのが大変でした。でもその一方で、オファーをした大物のアーティストのなかには、本人は出たいと言ってるけれど、芸能活動をやるうえで出演できない、という人がいっぱいいたと聞きました。圧力がハンパない、やっぱり東京電力の力の巨大さを実感しました。
──松本さんとしては、ここから新しくみんなの考え方が変わっていく、という期待は大きいですか?
変えなきゃしょうがないんじゃないかなという感じですね。ほっといても変わらないと思うんです。うちらって反原発の団体でもないし、原発の問題なんて正直深く考えたことがなかったんです。こういう消費社会は良くないと、場所作りを基本的にやってきたんですけれど、ほんとうにこの問題を早くなんとかしないと世の中どんどんだめになっていくんだということをあらためて感じたんです。
──デモの運動を拡大することで、選挙の投票に消極的だった人を投票に向かわせることってできるでしょうか。
選挙とデモをむりやり絡めなくても、自然と解ると思うんです。例えば都知事選のときに反原発デモがあるんだったら、盛り上がれば盛り上がるほど推進派に入れる人はいなくなっていくだろうし。今の世の中って選挙の争点がマスコミとか政治家が決めているじゃないですか。選挙がはじまるとよく解らない争点が急に浮上して、自民党や民主党が勝ったりする。そうじゃなくて、こっち側で争点を作っていくことをやっていかなければいけないと思うんです。例えば原発の問題が盛り上がっていれば、原発が自然と争点となって「あいつは原発をどう思っているのか」を気にしはじめる。それで結果的にいい方向に向けばいいのかなって。
──10日は同時多発的にいろんなところでデモが行われるようですね。
相当いろいろありますよ。沖縄や札幌、広島、新潟でもやるし。フランスやドイツ、韓国、ニューヨークでも行われますが、それが高円寺から発信して呼応してくれた人たちですからね。最初は大きく出て「よし、全世界へ呼びかけようぜ」と言ってたのが現実になって、すげえなって。
──twitterをはじめとしたネットの力が大きいんでしょうね。
ネットだけだと無理で、日頃うちらはいろんな外国に出かけて遊びまくってて、いろんな場所に飲み友達が死ぬほどいる(笑)っていうのが大事だと思うんです。そういう人たちに連絡していくと話が通りやすいから。そうした土壌があったうえでネットを使うことでさらに広がっていくんです。みんなが孤立していると、ネットを使っても、ネットの上でしかなにもやらないから。
それから今回、初めてデモに参加します、と言う人がものすごく増えているんですよ。だから「はじめてのデモ」というパンフレットを作りましたので、これをぜひみんなに読んでみてほしいです。
(取材・文:駒井憲嗣)
『はじめてのデモ』
『高円寺・原発やめろデモ!!!!!!』
2011年4月10日(日)
14:00 高円寺中央公園(駅南口徒歩1分)集合 高円寺南4丁目31番7号
15:00 デモ出発
新高円寺駅、東高円寺駅を通り、一周して高円寺駅北口解散
* 雨天決行 ただし、雨の降り方によっては、サウンドカーが出動出来なくなる可能性があります。
DANCE BLOC!!!!
DJ:
MAYURI、AXEMAN (SMALL AXE)、YAHMAN (Tribal Connection/CHAMPION BASS)
MC:
RANKIN TAXI、RUMI
PERFORMANCE:
BABY-Q
Sound System:
コバヤシステム(S.K.Y./WEEKEND)
LIVE BLOC!!!!
LIVE:
The Happening、パンクロッカー労働組合、フジロッ久(仮)、どついたるねん、pinprick punishment、PPP
ジンタらムータ
大熊ワタル(cl/シカラムータ)
こぐれみわぞう(チンドン太鼓/シカラムータ)
河村博司(g/ex:ソウルフラワーユニオン)
JIGEN(b/桃梨、ソウルフラワーユニオン、頭脳警察)
関島岳郎(tuba)
ギデオン・ジュークス(tuba/シカラムータ、渋さ知らズ)
関根真理(per/渋さ知らズ)
多田葉子(sax/こまっちゃクレズマetc.)
吉野繁(sax) ほか
Sound System:
みかん
SILVER BLOC(楽器隊)!!!!
アングリー・マーチング・コレクティヴ
(誰でも参加可能。楽器・鳴り物をご持参ください)
松本哉 プロフィール
1974年、東京世田谷区生まれ。94年、法政大学入学後「法政の貧乏くささを守る会」結成。卒業と同時に「貧乏人大反乱集団」結成。貧乏人のための雑誌『貧乏人新聞』を創刊。05年、友人と共同で古着&リサイクルの店「素人の乱」を高円寺に出店した。現在、素人の乱5号店店長を務めながら、様々なイベントやデモ活動を続けている。
素人の乱HP