骰子の眼

world

2011-04-02 08:35


アジアン・カルチャー探索ぶらり旅【第1回】:上海で衝撃を受けた日本のアニメの浸透度とライブハウス・シーン

コントリビューター山本佳奈子さんがアジアのサブカルチャーをレポートする連載、今回は上海におけるジャパニーズ・アニメの隆盛とライブハウス/クラブの現場について。
アジアン・カルチャー探索ぶらり旅【第1回】:上海で衝撃を受けた日本のアニメの浸透度とライブハウス・シーン
これがアニメショップ街が連なる文廟前の通り。もちろん、軽食屋台もあり。

アジアのアート・カルチャーの勢いを見てみたくなった

今回は、カルチャーをテーマにアジアを旅行している。
再びこのwebDICEにて連載を始めさせていただくにあたり、軽く自己紹介しておこう。自分が今までどのようにしてカルチャーというものと関わってきたのかを簡単に。
高校時代にさかのぼると、当時新しく導入された総合学科(大学のように単位制で自分でカリキュラムを組む学科)に入学したも関わらず、ルーズソックスを履き、やれ透明ピアスだのやれ目を二重にしたいだの、フツーの女子高生たちにかこまれてうんざりしていた。そんな高校時代の私の楽しみは、放課後、定期券で途中下車して三宮や元町のレコード屋に寄って、訳もわからずハードコアを聴いてみたりフレンチポップを聴いてみたりすることだった。その頃流行っていた音楽は、Hi-STANDARD、GREEN DAY、SCAFULL KING……そんなバンドをみんなが聴いていた時代。もちろん私もそのあたりのライブにはよく足を運んでいた。その後ジャマイカのオールディーズ・スカに興味が移行し、高校卒業前にはジャマイカのキングストンを訪れてオールティーズのレコードを掘った。音楽専門学校に通い裏方の勉強をしていた頃に、UKダブ、テクノ、民族音楽、エレクトロ、ノイズ、実験音楽と幅広く音楽の世界を知り、バンドやDJも経験した。さらにはライブハウスのスタッフとして働いたこともあったが、うつ病になりうまくいかなかった。それからは、音楽にこだわらないこと、音楽以外のカルチャーも柔軟に吸収していくことを決め、実験音楽もメディアアートも映画もアニメもサブカルも現在のコミュニケーションツールにも興味を持っている。ひとつに固執せずに縦横無尽に飛び回って情報を集めているつもりだ。

今年も海外へ旅すること決めた私は、予算と興味を考え、アジアに行くことに決めた。幸い昨年のキューバ渡航によりマイル旅行で大阪─上海の往復チケットは手に入る。物価も比較的安い。そして重要なポイントだったのが、最近のアジアのアート・カルチャーに勢いがあるということだ。それはwebDICEを読まれている方ならもちろんご存知なようにアジア発の素晴らしい映画に代表されるだろうし、実は日本出身のアーティストもよく日本以外のアジアでエキシビションやコンサートを行っている。日本国内でのキャリアに関わらず、多数の日本人アーティストがアジアで活躍していることを知り、物理的距離は近いけれども具体的に見えてこなかったアジアの様々なシーンを見てみたくなった。今回訪れる都市は、上海・香港・バンコク・北京・台北。ジャンルを限定するのでなくやはりクロスオーバーしたルポにしていきたい。テーマは幅広く「カルチャー」としておく。美しいものであれ、滑稽なものであれ、小さいものであれルポしていきたい。どうか気軽に読んでもらえればと思う。
そして今回は、1週間滞在した上海での「アニメ」と「ライブ」を紹介しよう。

上海編/アニメ:「日本のアニメはほとんどインターネットで見ます」

連載のしょっぱながいきなりアニメになると、「萌え」や「オタク」に不快感を持っている人は今後いっさいこの連載を読んでくれないかもしれない。ということは、第一回目はやはりインテリジェンスでスマートでクールなカルチャーを紹介するべきだろうか?と、少し悩んだのだが、萌えもオタクもアニメもカルチャーの一部というのが私の持論。上海での日本のアニメの浸透度について書いてみる。
前にも日記で書いたことがあるのだけれど、もう一度主張しておこう。現在流行しているテレビアニメのクオリティは素晴らしい。確かに、最近のテレビアニメは一様にして登場する女の子のエロを排除しない。部員にバニーガールの格好をさせる女の子、生徒にメイド服のコスプレをさせる女教師、自ら男子高校生の前で下着姿になる女子高生。また、本編でエロがなくてもオープニングやエンディングで多少エロを強調する画が見られることは多い。だが、テレビアニメの場合はあくまでテレビ放送なので、さほど過激で不快な表現はない(不快になるとすれば、それらのアニメから派生して登場してくる非正規のグッズ類だ)。今のアニメをすべて出不精の男性のための性的欲求緩衝剤だと捉えていると、度肝を抜かれるだろう。すべてのアニメがそうではないにしろ、一部の作品に見られるすばらしく巧妙な脚本と細かい演出、背景美術の繊細な美しさ。ストーリーには伏線が至る所にはられ、登場人物の詳細な性格まで見えてくる。たった1秒ほどのカットの仕草、目線、行動で見えてくるキャラクターの性格。そしてその性格は複雑だ。正義のなかの悪も描くし、ジレンマ、二面性など、実際の人間のように葛藤する。正義感だけで突っ走れる人間などいないように、最近のアニメの中の登場人物は迷い、間違った判断や決断もし、逃げることだってある。宮崎駿アニメのように必ずしもハッピーエンドを用意することもない。
熱く語ったところで萌え嫌いの人に届くかどうかはわからないが、素直に日本のアニメブームを受け入れられないのはもしかすると日本人自身かもしれない。上海で、日本のアニメの浸透度を見て衝撃を受けた。

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上海で流行っているキャラクター・アイドルたち。よく見ると「けいおん!」唯ちゃんの肌の色が少し濃いので非正規だろう。
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どこだったか忘れたが、上海市内の地下鉄構内の改札外にあるフィギュア・プラモショップ。見えるだろうか。特大のアラレちゃん。日本ではもうほとんど見ないアラレちゃんグッズ、ここに健在。

上海ではいたるところで日本のアニメグッズを目にすることができる。地下鉄の駅構内に唐突にフィギュア・プラモショップがあることもある。道端にあるキオスクの多くには、ずらっと日本の漫画やアニメ関係の本が並んだりする。
今回の上海滞在において活用させていただいた上海ナビ( http://www.shanghainavi.com/ )によると、どうやら文廟という孔子をまつるお寺周辺のアニメショップ街がすごいらしい。有名どころのアニメは一通り予習した私が見た文廟周辺をルポしてみよう。

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団地が並ぶ閑静な街の道のキオスクに、ハルヒ本。確か50元(約600円)ぐらいだったか。ONE PIECEなども。
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さっきのキオスクの外側、アクリルの壁にずらっと漫画や雑誌が並ぶ。反射して見えにくいと思うが、左側の「大方」という雑誌、「村上春樹」の文字がある。
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文廟の最寄り駅、老西門を出てすぐ見えるのは、このようにいかにも上海チックな高層ビルの景色。

いざ、そのアニメ地区に入ってみると、秋葉原や日本橋というよりかは原宿か下北沢。いや、でも実は私は原宿も下北沢も過去1回ぐらいしか行ったことがないのでこの例えは不適当かも。通りの両側に露店や店舗がずらーっと並び、売られている商品はアニメのVCDやDVD、日本のジャニーズを含むアイドルグッズ、フィギュア、プラモデル、ぬいぐるみ、シール、携帯やPC関連グッズなどなど。ファンシーショップというのが私の世代の女子の間で流行ったことがあったと思うのだけれど、それに近い感じ。アニメにこだわらず、すべての世界中のキャラクターが網羅されている。写真には撮れなかったが、あるおばちゃんの露店は小さなワゴンにぎっしり日本の音楽CD・アニメDVDをつめていた。しかも全部日本語、どうもスキャンしてプリントしたような色合いなので、おそらく海賊版?露店ではなく店舗を持つ店は、それぞれたった4~6畳ぐらい。そして5軒に1軒ぐらいの割合で、いわゆる「萌え系」フィギュア・プラモショップがある。

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中学生ぐらいと思われる女の子たち。人が多そうな日曜日を狙って行って正解。この世代の女の子と、男の子はもう少し上の世代が多い印象。
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ガチャガチャ専門店もあり、みんな必死でガチャガチャしていた。1回300円前後で日本とあまり変わらない。フィギュア類の値段も日本と同等。ただ、日本ではもうネットオークションで高額になり始めている商品が、ここではほぼ定価で手に入るかも。
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相当見にくいですが、左:化物語、右:ぷちえヴぁ。ガチャガチャの中身を説明するポップは日本語で日本仕様。いちいち翻訳版は作らないようで、実は香港でもガチャガチャの説明はほとんど日本語。

サンリオやディズニーなどの王道を除き、多く見かけられたキャラクターは以下(順不同)。

・初音ミク ならびにボーカロイド系
・新世紀エヴァンゲリオン
・ワンピース
・ガンダム(ガンプラはだいたいどの店もベーシックに押さえている。)
・ドラえもん
・アラレちゃん
・とある魔術の禁書目録
・とある科学の超電磁砲
・涼宮ハルヒの憂鬱
・けいおん!
・銀魂
・黒執事
・俺の妹がこんなに可愛いわけがない
・化物語

多いと思ってたBLEACH、NARUTOは意外に少なかった。

店のスタッフに話を聞いてみたいと思い、数軒、店のスタッフにDo you speak English?と聞くが「は?」と反応される。
後から思えば、ここでは英語より日本語のほうがスタンダードだったかも。
あるフィギュアショップで何かを購入して出てきた2人組の男の子に、思い切って話しかけてみた。英語もしくは日本語話せますか?と。
1人が流暢に日本語を話せたので、少し話を聞いてみた。

私:あなたたちのあいだで人気な日本のアニメはどれですか?また、あなたはどのアニメが一番好きですか?

男の子:うーん、難しい質問ですね!たくさんあるので1つに絞れません。

私:今日は何を買ったんですか?

男の子:あ、これ。すーぱーそに子です。

私:あ、そうなんですか(すーぱーそに子って知らない。でも知ってるフリ)。ちなみに上海に他にこういうアニメグッズ売ってる所ってあります?

男の子:たぶん上海はここが一番だと思います。

私:社会人ですか?学生ですか?スーパーソニ子(約400元=約5,000円)、高くない?

男の子:学生です。うーん、そうですね、高いですけど、たまには買っちゃいます。たまにです。あなたは日本のアニメどれが好きですか?

私:難しい質問ですね (笑) 。私は『エヴァンゲリオン』はもちろん、『化物語』とか、今放送しているアニメでは、えーと、『魔法少女……

男の子:まどか☆マギカ』ですね!私も好きです。見ています。

私:え!?日本で今放送中なのに!(2011年3月現在。当時は第10話が日本で放送された頃)インターネットで見ているんですか?

男の子:そうですね。日本のアニメはほとんどインターネットで見ます。

と、今放送中のアニメをリアルタイムで追いかけているアニメ好きと話すことができた。彼らは照れくさそうにしながらも喜んで質問に答えてくれた。テレビアニメの著作権が守られていないのは残念だけれど、この日本のアニメ人気の凄まじさ。

009shopinside
店内が狭いので、がんばって引きで撮ってもこれが限界。
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大量購入もちらほら見かける。
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携帯電話やPC関連のアクセサリショップも多い。

実はこの文廟の周り、アニメショップが数多く立ち並びながらも、古い家々が残っていて、人々の生活もある。一歩裏に入れば、おばあちゃん達が麻雀をしていて、おっちゃんは家の前で包丁で肉を切り料理をしていたり、子供は道端で遊んでいるし、タイムスリップしたような懐かしい様子の街が、そこにある。
そのギャップが面白く、上海に再び訪れる機会があれば、数時間かけて歩き回りたいお気に入りの場所となった。

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フィギュアショップの目の前に、古びた食堂。
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おばあちゃんたちの麻雀大会
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裏通りののどかな風景

上海編/音楽:アート・カルチャーの密集するDream Factory周辺

と、第一回目をオタク系アニメレポートだけで終わると自分としても消化不良なのでもうひとつ、音楽について紹介しておこう。

実は上海には海外アーティストが多数コンサートなどに訪れている。数日上海に滞在するなら、有名なアーティストを見ることはそう難しくない。
直近の上海で行なわれる海外アーティストのコンサートで、私が把握しているものを紹介すると、
4/2 World's End Girlfriend
4/8 ボブ・ディラン
4/9 石野卓球
など。
私は3/14にベルリンで活動するThe Whitest Boy Alive(以下WBA)のライブを見ることができた。
上海のライブハウス・ホールでは、育音堂やMao、Dream Factoryが有名。Eaglesのような超有名アーティストは、上海万博のときに建設された「メルセデスベンツアリーナ」で行なわれた。今回のWBAのライブはDream Factoryで見ることができた。
このWBAのコンサートは、北京・上海で同時開催されていた「JUE」というアートフェスティバルの一環で、他にもVITALICや多くの海外・国内アーティストが各地で出演している。
今回行ったDream Factoryは私の印象ではスタンディングでキャパシティ500人ぐらいのライブハウス。一番後ろにバースペースがあり、縦長の長方形。ステージは高め、後ろのほうでもステージ上のアーティストがよく見える。実はWBAは超人気なようで、この日はもうパンパンにお客さんが入っていた。おそらく600人以上!
そして驚くべきは、上海在住と思われる外国人の多さ!欧米出身と思われる人が5割ぐらい、地元の中国人と思われる人が5割ぐらい。そう、上海で行なわれているライブやコンサートは、地元っ子のためだけじゃなく、駐在している外国人にも向けているのだ。これぞ国際都市!なのでWBAのMCでも、「みんなどこ出身なの?上海だけじゃないよね?アメリカから来てる人!イギリス!ドイツ!韓国!」と手を挙げさせていて、「ベネズエラ出身は?」と聞くと明らかにアジア系の数人が手を挙げていて、「いや、うそだ!(笑)」と突っ込んでいたりもした。こんなMCも、上海独特。
ちなみにこのWBAのライブが行われたDream Factory、なんとBattlesや少年ナイフも来ているらしい!

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WBAライブ中。一番前から一番後ろまで満員で、かなりの盛り上がり。
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Dream FactoryのPAブース。

育音堂やMaoには行けなかったので比較はできないが、このDream Factoryの周りには他にもクラブやギャラリーが集合しており、こういったアート・カルチャーの集合地区となっているようだ。WBAのライブが終わり、外に出ると近隣のクラブからの重低音。まだ飲み足りない、遊び足りないという人はそちらへ流れることができるという仕組み。なるほど、と感心した。ちなみにShelterというクラブ(VITALIC出演のパーティーはここで行なわれた)の近隣にも欧米人向けのバーが数軒ある。

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Dream Factoryの隣のクラブ「MUSE」。こちらも日本人DJや海外からのDJがよく登場するようだ。

異国で海外のアーティストや日本人のアーティストのコンサートを見るというのはなかなか面白い体験だ。上海に行く予定のある音楽好きは、ぜひコンサートやライブ、クラブを上海で体験してほしい。日本より安い料金で見ることができるし、設備や音質のクオリティもなかなか素晴らしい。

今回名前を挙げたライブハウス・クラブのURL(公式webがない場合は、ポータルサイトなどでの紹介ページを案内しておく)
Dream Factory( http://www.cityweekend.com.cn/shanghai/listings/nightlife/bars/has/zhi-jiang-dream-factory/
育音堂( http://www.yuyintang.org/
Mao( http://site.douban.com/maosh/
Shelter( http://www.smartshanghai.com/venue/3174/The_Shelter_shanghai

あと、Eaglesやボブ・ディラン、石野卓球など有名どころとなれば、上海在住日本人のためのフリーペーパーや日本語サイトでも紹介されているのだが、VITALICやWBAなど少しマイナーになると日本語での上海ライブ情報は皆無だったりする。もちろん英語サイトではどんどん見つかる。
私のおすすめの上海カルチャー情報のサイトはこちら。
・SmartShanghai(英語のみ)
http://www.cityweekend.com.cn/shanghai/listings/nightlife/bars/has/zhi-jiang-dream-factory/
今回WBAのライブにご一緒させてもらいお世話になった上海在住かつ音楽通の日本人お二人のページを紹介しておく。上海でのライブ・音楽情報を日本語で知ることができるかも。
・yo-suke さん(ブログ)
http://blog.livedoor.jp/yosuke5426/
・Yasudaさん(LAST.FM)
http://www.lastfm.jp/user/syrsghf

ちなみに私は現在香港に滞在中。4/2にバンコクへ発つ。次回は、黒川良一氏の香港でのコンサートルポをお届けする予定。

(取材・文・写真:山本佳奈子)



■山本佳奈子 プロフィール

http://www.yamamotokanako.net/
webDICEユーザーページ
webDICE キューバ紀行(2010.5.11~2010.8.16)

1983年兵庫生まれ、尼崎育ちの尼崎市在住。高校3年のときにひとりでジャマイカ・キングストンを訪れて以来、旅に魅力を感じるようになる。その後DJ活動、ライブハウス勤務などを経て、2010年、念願だったキューバ旅行を実現させる。
世界のすべての人々の最低水準の暮らしが保証されること、世界の富を独占する悪徳企業が民主の力によって潰されることを切に願っており、自ら一つのメディアとなって情報発信することにも挑戦している。


キーワード:

上海 / 旅行記 / アニメ / / アジア


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