南米アルゼンチンの伝説的サイケデリック・エキスペリメンタル・バンド『Reynols(レイノルズ)』の中心人物、アンラ・コーティスが6年ぶりに来日し、日本ツアーを敢行する。
今回、彼との再会を果たす山本精一、湯浅湾、Acid Mothers Templeの川端一と田畑満、川口雅己、秋山徹次といった日本人ミュージシャンたちの名前の並びをみれば察しがつくように、アンラ、そしてレイノルズの動向を常に気にしている人間は、ここ日本のアンダーグラウンドなロックのネットワークの中にも少なくない。
ダウン症の青年ミゲル・トマシンとメンバーたちによる音を媒介とした交流が、やがて前人未踏のサイケデリックの領域まで到達するに至ったレイノルズは、真に奇跡的なバンドであった。そして、彼らがその活動を休止した2004年以降、アンラ・コーティスはソロ活動を世界中で精力的に展開し始めることとなる。今日まで続いている、その旅人のような音楽生活を経て、彼の奏でる音はどのような次元にまで達しているのだろうか。
来日を目前に控え、現在もツアー中でニュージーランドに滞在中のアンラ・コーティスにメール・インタビューを行った。
「レイノルズが何だったのか」ということについて感じることが出来るはず
──こんにちは。あなたは今もツアー中とのことですが、何処で、どのような人たちとライブをしているのですか?
あなたは世界中をひとりで旅しながら常に音楽を演奏しているというイメージがありますが、最近の活動に ついてお聞かせください。
今はニュージーランドをツアー中です。クライストチャーチ、ウェリントン、ダニーデン、アックランドと色々な街を訪れ、ブルース・ラッセル (The Dead C)、アンソニー・ミルトン、ピーター・ライト、キャンベル・ニール(Celebrate PsiPhenomenon)といったニュージーランドの音楽家たちと演奏をしています。
つい先日までは、実験映画と音楽のフェスティバル「Now Now Festival」に出演するために訪れたオーストラリアでもツアーをしていました。 オーレン・アンバーチ(SUNN O))))やマッツ・グスタフソンのやっている「The Thing」と一緒にね。
そうですね、確かに僕はヨーロッパやアメリカ、そして南米でもかなり多くの旅をしてきましたが、今回、また再び日本へ帰ることが出来てとても嬉しいです。最近のソロパフォーマンスでは、僕はギターやエレクトロニクスの演奏をメインに、時々ボーカルを入れるという感じです。そして、アップリンク・ファクトリーで「三人湾」と一緒にやるように、地元のミュージシャンとともに即興演奏を行うというのが僕の基本的なスタイルかな。
──あなたが送ってくれたDVD、『BUSCANDO A REYNOLS』を観ました。2004年に既に作られていた、レイノルズを追ったドキュメンタリー映画ですよね。意外にも、自分がこれまでに想像していた通りのレイノルズがそこには映っており、驚きました。ミゲル・トマシンへのインタビューのシーンで、「レイノルズはいくつあるの?」という質問に対してミゲルが「4つだ」と回答していたように、僕の頭の中で思い描いていたレイノルズもきっと存在すると言うことなのでしょう。つまり、映画を観た今も尚、レイノルズは自分にとって謎めいた存在のままなのです(笑)。
この映画がどのような経緯で作られたのか、可能な範囲で構いませんので、教えて頂けませんか?
今回UPLINKで上映するドキュメンタリーは、バンドにとって最後の年に作られたものです。そして、それは我々(レイノルズ)が行ってきたことの、ある種のポートレートのような内容です。この映画はアルゼンチンの映画館で何度も上映され、国営テレビやケーブルテレビでも放送され、いくつかの映画祭に招待されました。日本で上映されるのは初めてのことですね。映画を観るだけではバンドのことを正確に知ることができないと思いますが、しかし少なくとも「レイノルズが果たしてどのような現象だったのか」ということについて感じることが出来るはずです。もし、あなたが望むならより深くレイノルズについて知ることが出来るでしょう。とはいえ、レイノルズの映像アーカイブはまだまだたくさんあるので、将来たくさんのドキュメンタリーが作られるんじゃないかな?
『BUSCANDO A REYNOLS』より
──レイノルズは現在活動休止中とのことですが、あなたにとって印象的なエピソードがあれば教えて頂けませんか?
ここ日本では、ミゲル・トマシンの発言の全てが翻訳されている訳ではないので、伝え漏れてくるあなたたちの行動は直ちに神話化されてしまうおそれがあります。例えば、植物や鉱物のためのコンサートを開催した、と聞いていますが、その時の状況や経緯、そしてそもそもなぜそういったことが行われたのかという発想の源泉について興味があります。
レイノルズでの出来事に関する全てのプロセスは1993年より始まりました。音楽を介して、新しいことをいつも探していた僕たちはそれまでにも色々なやり方を試していたのだけれど、ある時、ミゲル・トマシンに出会いました。彼はダウン症ですが、実験的な音楽を演奏すると驚異的な才能を発揮するミュージシャンだということがすぐにわかりました。私たちは毎週集まってレコーディングをするようになり、それは時に週3~4回のペースで行われ、それら自然発生的な記録の数々は全ての物事から“やってきた”のです。私たちはレイノルズとして100枚以上のレコードを作り、世界中のレーベルからリリースされました。それは膨大なエネルギーを必要とする大変な仕事でした。私たちは既存のバンドの楽曲を一切コピーしませんでしたし、それは私にとってとても魅力的なプロジェクトだったのです。私たちは、私たちの道をただ歩き続けただけ、ということですね。
アンラによるドローイング作品
──前回の来日はちょうど6年前でしたね。今回はどのような経緯で実現することになったのでしょうか?
今回、日本へ行くことを決めたのには、いくつかの理由があります。私には多くの日本人の友人がいますし、以前よりずっと形にしたいと考えていた、川口雅己と田畑満とのCD「Aum Air」がPSFからリリースされることになりました。僕はこれまでにも、日本の素晴らしい音楽家たちとの共演盤をリリースしています。山本精一、YOSHIMIとの「Live at Kanadian」や、川端一と六弦琴との「KOKURA」、他にもKouhei Matsunaga、Kazuya Ishigamiとの共作もあります。僕たちが作品の中で重ねてきた実験を、ライブで披露する時期にきていると思ったのです。今回の日本ツアーの中には、広島、浜松、田川、大分、横浜といった初めて訪れる街がいくつかあります。また、今回は自分のドローイング作品を少しだけ持っていきます。それらはUPLINK GALLERYに展示されます。映画のような作品をお見せする準備がやっとできました。日本で新たにレコーディングもする予定ですから、忙しくなると思います。
──2月11日にUPLINKで開催されるイベントでは、湯浅学さんと対談しながら映画を観た後に、湯浅さんのバンド「湯浅湾」のメンバーたちとあなたによるセッションが予定されていますね。前回の来日時にも、UPLINKで湯浅さんとバンドメンバーの松村さんとあなたによるセッションが行われました。湯浅さんたちとは久しぶりの再会になりますね。何か期待することはありますか?
湯浅学と彼のバンド「湯浅湾」とは2005年に日本でとても良い演奏が出来たし、今回も良い時間が過ごせると確信しています。その時も、僕たちは特に事前に打ち合わせることもなく演奏しましたが、音楽が僕たちのコミュニケーションのすべてだったから、今回も力強い音を通して自分たちを表現できるんじゃないかと 思っています。
──ツアー中の忙しいところ、質問に答えて頂いてありがとうございました。最後に、あなたの活動を熱心に追っているファンの方や、今回の来日であなたのことを始めて知る人たちへ、何かメッセージがあればお願いします。
皆さんとお会いできることを楽しみにしています。音楽が僕たちを何処かへ吹き飛ばしてくれるでしょう。少なくとも、暫くの間は。そこにはいかなる境界線も存在しません。
(取材・文:倉持政晴 構成:駒井憲嗣)
▼映画『BUSCANDO A REYNOLS』予告篇
『アンラ・コーティスと一緒に観る「Reynols」ドキュメンタリー映画、そしてミニライブ。』
日時:2011年2月11日(金・祝)19:00開場/19:30開演
会場:渋谷アップリンク・ファクトリー
出演:アンラ・コーティス+三人湾(湯浅学、松村正人、山口元輝 from 湯浅湾)
上映:「BUSCANDO A REYNOLS」(英語字幕/日本語訳レジメを配布)
展示:アンラ・コーティスによるドローイング作品数点
詳細はこちら
ANLA COURTIS- JAPAN TOUR 2011
2011年2月12日(土)西荻窪「Zen Pussy」
出演:アンラ・コーティスDJセット(ラテン・アメリカン・サイケ)、田畑満、川口雅巳
http://zenpussy.uuuq.com
2011年2月13日(日)高円寺「ペンギンハウス」
『アンラ・コーティス +田畑満+川口雅巳☆CD発売記念ライヴ』
ゲスト:長谷川静男、コサカイフミオ
2011年2月14日(月)横浜「試聴室その2」
出演:アンラ・コーティス、マルコス・フェルナンデス
http://cafe.taf.co.jp/sono2/index.html
2011年2月15日(火)六本木「SuperDeluxe」
『Dirty Love Night!』
出演: アンラ・コーティス、秋山徹次、中村としまる、ヘア・スタイリスティクス
http://www.super-deluxe.com
2011年2月17日(木)渋谷「映画美学校」
レクチャー、ワークショップ
http://www.eigabigakkou.com/
2011年2月18日(金)浜松「Lucrezia」
出演:アンラ・コーティス、UP-TIGHT
http://lucrezia.web.infoseek.co.jp/frame/frame.htm
2011年2月19日(土)名古屋「DAYTRIVE」
アンラ・コーティス、Kruucrew、2Up、The Futures、The Act We Act
http://day-trip.info/contents/
2011年2月20日(日)田川「alternative space haco」
アンラ・コーティス、六弦琴
http://mizonobowfura.web.fc2.com/
2011年2月21日(月)岡山「ペパーランド」
出演:アンラ・コーティス、村岡充、村岡ゆか
http://www.pepperland.net/
2011年2月22日(火)難波「BEARS
」
出演:アンラ・コーティス、河端一
http://home.att.ne.jp/orange/bears/
2011年2月23日(水)神戸「KATAKAMUNA」
出演:稲見淳、炭鎌悠、石上和也
http://www.kata-kamuna.jp
2011年2月24日(木)福岡「art space tetra」
『AGAINST 2011: ANLA COURTIS / REYNOLS DOCUMENTARY SCREENING』
http://www.deterra8.com
2011年2月25日(金)福岡「キースフラック」
『AGAINST 2011: FUKUOKA EXTREME MUSIC FESTIVAL』
出演:アンラ・コーティス、Pain Jerk、Hard-Ons、Damage Digital、Eevee、Magie Giaaaaaa
http://fukuokaextrememusic.blogspot.com/
2011年2月26日(土)大阪「Shangri-la」
出演:アンラ・コーティス+山本精一+YOSHIMI (BOREDOMS)、カヒミ・カリィ with
大友良英、ジム・オルーク、山本達久、石橋英子
http://www.shan-gri-la.jp
2011年2月27日(日)京都「アバンギルド」
出演:アンラ・コーティス、山本精一、サイケデリックジェットセッツ(g:山本精一,ba:須原敬三,dr:taiqui,syn:西滝太)、dub marronics、津山篤 solo
http://www.urbanguild.net
2011年2月28日(月)広島「OTIS!」
出演:アンラ・コーティス、三宅珠穂、寺内大輔
http://homepage2.nifty.com/live-otis/
2011年3月1日(火)大分「AT HALL」
出演:アンラ・コーティス、他
http://www.athall.com
2011年3月2日(水)高円寺「Club Mission」
出演:川口雅己ニューロックシンジケイト with アンラ・コーティス、IV STORY、ぐーすふれっしゅ、indigo highschool、UNDER THE BRIDGE
http://www.live-missions.com/