骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2011-02-04 23:58


「誰かが未来をバラ色にしてくれるということはない。今やることが未来に反映していくのだから」鎌仲ひとみ監督が世界に投げかける3部作

『ミツバチの羽音と地球の回転』公開を記念し、アップリンクにて『ヒバクシャ―世界の終わりに』(03年)、『六ヶ所村ラプソディー』(06年)を連続上映!
「誰かが未来をバラ色にしてくれるということはない。今やることが未来に反映していくのだから」鎌仲ひとみ監督が世界に投げかける3部作
『ミツバチの羽音と地球の回転』より

環境とエネルギーの視点から核の問題を追い続けてきた鎌仲ひとみ監督が、3部作の完結編として制作した『ミツバチの羽音と地球の回転』は、原子力発電所の建設計画で揺れる山口県の瀬戸内海に浮かぶ祝島の島民と地域単位で自然エネルギーによる自立を実践するスウェーデンの人々を追ったドキュメンタリーだ。
この映画を撮るに至るまでに、世界のヒバクシャたちの声を追った『ヒバクシャ―世界の終わりに』、そして試運転が始まった青森県・六ヶ所の核燃料再処理工場を巡って反対・中立・推進など多様な人々の想いを描いた『六ヶ所村ラプソディー』を撮っている。
また鎌仲ひとみ監督は、これまで劇場上映にこだわらない、市民による自主上映という形で、映画というオルタナティブメディアでしか語りえない現実を作品として届けてきた。『六ヶ所村ラプソディー』は650か所以上で上映され、10万人以上を動員し、社会的反響を呼んでいる。地に根をはる人々に寄り添い、その声を映画というメディアにのせて発信し続ける監督・鎌仲ひとみさんに話を伺った。

『六ヶ所村ラプソディー』は、誰が悪いとかそういうことで描いていません。

──新作『ミツバチの羽音と地球の回転』は映画三部作の完結編ということですが、環境やエネルギー、核の問題をテーマにして作品を撮り始めたきっかけは何だったんですか。

1998年に、湾岸戦争直後からイラクへ赴き医療援助を続ける日本人女性と出会い、イラクの子供たちにガンや白血病が多発している上、経済制裁が治療を阻んでいることを知りました。テレビ番組の製作をしていた私は、それがどれほど大変な状況なのかを現地の普通の人々に会って話を聞きたいと思い、取材を始めました。湾岸戦争の劣化ウラン弾が子供たちの病気や夥しい数の障害児の原因になっているかもしれないということでしたが、戦争から7年が経っているし、半信半疑でイラクへ行きました。イラクに到着した私は、真っ先に白血病病棟の子供たちに会いに行き、子供たちが実にあっけなく死んでいく現実に直面しました。
白血病を発症して2年の14歳の少女・ラシャは出会って数日もたたないうちに感染症にかかり、抗生物質も輸血用の血液もない病院で、なすすべもなく死んでいきました。まだ元気だったとき、ラシャは小さな紙切れに「親愛なるカマ、どうか私のことを忘れないで」と書いてくれた。私は日本に帰っても忘れないよ、と返しましたが、ラシャの死によって、この言葉はまったく違う意味になってしまいました。

──帰国後、鎌仲さんが撮影したイラクの現状は日本でどう受け止められたんですか。

そのときの取材で劣化ウラン弾との関連をはっきりさせることはできませんでしたが、放射能との関連が疑われる病気がすごく増えていて、イラクの医師たちは困惑し、病気の子どもを抱える親たちは苦しんでいる、というような日本に全く伝わっていないイラクの現実を撮影することができました。けれど日本のマスメディアが報道してきたイラクのイメージと、私が撮ってきた現実が違いすぎて、放映できないと言われた。私はどんな妥協をしても最小限、イラクの子供たちが治療されずに亡くなっていく事実、経済制裁の非人間性を番組で伝えたかった。結局、編集をし直して、お蔵入りは避けて放送しましたが、番組放送後、何の反応もなかった。何百万人もの人が見ているはずの番組なのに。日本の人たちの関心を喚起することができなかった。それがすごくショックでした。私は、知らせることで変化があるんじゃないかと考えていた。知らせることで、薬がより多く届くとか、あるいは経済制裁が緩和されるような助けになると。イラクの人たちにもそうやって説得して撮ってきたのに。

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『ヒバクシャ―世界の終わりに』より

──マスメディアの限界、壁にぶち当たったと。

最も根本的な問題を描くことができなかった私は、改めて、現在進行形の「ひばく」と「ヒバクシャ」についての作品を作り直すことにしました。けれどそんなものをテレビが放送するわけがなく、映画にするしかないと。「ヒバクシャ」では、イラクだけでなく、プルトニウムを製造する過程で世界でも最大量、高濃度の核廃棄物の汚染にさらされてきたアメリカのハンフォードに住む“ヒバクシャ”となった住民、そして人類史上稀に見る被爆体験をした日本のヒバクシャを撮影しました。放射能汚染が、いかに世界中を覆い尽くそうとしているという絶望的な現実を描いています。イラクの子どもたちが死ぬべきじゃないのに死んでいっているのを変えたいという思いで撮っていました。けれど原因を明らかにしないと変えられない。問題の構造を知る必要がある。そして「ヒバクシャ」の取材過程で、劣化ウラン弾が私たちの生活ごみだということが分かったんです。

──原因を究明する過程で『ヒバクシャ』から2作目の『六ヶ所村ラプソディー』につながっていったのですね。

『六ヶ所村ラプソディー』では、六ヶ所村に暮らす人が自分たちの暮らしの根っこに核があるということ、しかも、とてもやっかいな放射性廃棄物が生み出されているということをどう見るか、にフォーカスしました。ですから、誰が悪いとかそういうことで描いていません。私は当初、六ヶ所村の状況を知らなかったし、多くの人はそうだと思います。だから、どうやって解決策を見つけたらいいかは考えず、何が起きているかを知ってからみんなで一緒に考えよう、と。結論もないし、すごく公平に原子力と共に暮らす日本の内実がさらけ出されているだけなんです。それを見た人は「で、どうしたらいいんだ」と思う。何かしないといけないということはみんなが感じてくれたんです。

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『六ヶ所村ラプソディー』より

未来を待たずに、今、未来をつくるんだ

──『ミツバチの羽音と地球の回転』では、具体的な解決案を示していますね。

前2作品で問題は開示されましたが、本質的な解決は、放射性物質を出さないということ、つまり「脱原発」という選択。原発に頼らず、放射性物質と核というものを環境の中に人間が持ち込まないことを目指してやっていく。けれど、実現するにはただ反対じゃなくて、代替案を示す必要があります。代替案に本気で取り組んでいる所を探したら自然とスウェーデンに行き着いた。調べてみると、スウェーデンでは地方自治体レベルで再生可能エネルギーの目標があって、それを積み重ねて国全体の目標が作られている。本当に脱原発が実現可能なんだと、それを実践するスウェーデンを撮ることを決めました。けれどスウェーデンだけを撮っても「スウェーデンだからできるんじゃないの?」ってみんな言うに決まっている。日本のどこかを撮らなければならないと思っていました。
ある時、祝島で『六ヶ所村ラプソディー』の上映会を開いてくれて、初めて島へ行きました。そのとき、この島には日本のエネルギーの矛盾が詰まっていると同時に、希望があるかもっと思ったんです。しかも風景が美しいし、平均年齢75歳の島のおばちゃんたちも、画になる。
スウェーデンと日本を対比するために祝島を撮ったわけではなく、祝島から見ている未来も、スウェーデンから見ている未来もその眼差しは重なっている。『ミツバチの羽音と地球の回転』の中で描いたのは、エネルギーシフトという未来の可能性。すごく大変なことのようだけど、ウシの糞で発電したり、小さな川や風・波を使ったり、ちょっと頑張れば、きっと誰にでも出来る。現にスウェーデンの農村が有効に暮らしに取り入れているのだから。それを「ミツバチ」みたいにみんながぶんぶんやり始めると、日本が変わる。日本全体の1億2000万人がいきなり100パーセント自立するのは無理だけど、小さなひとつひとつのコミュニティが、自分たちの足元から自立を目指していくことはできるんじゃないでしょうか。

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『ミツバチの羽音と地球の回転』より

──「自分が生きている間は大丈夫」「自分には関係のないこと」という集合的無意識があって、変えることってなかなか難しいですよね。

スウェーデンの高校生・大学生に「あなたは自分で社会を変える力がありますか?」と聞いたところ、75パーセントが「変えることができる」と答えたそうです。日本人の高校生・大学生に同じ質問をしたところ、65パーセントが「無理」だと答えた。自分たちは何もできない、何をやっても無駄だと。変えることができないと思わされているんです。子どもは大人の鏡ですからね。
この映画は「未来を待たずに、今、未来をつくるんだ」と言っています。誰かが未来をバラ色にしてくれるということはない。今やることが未来に反映していくのだから、今、自分たちでやるということがすごく大事。それがこの映画のメッセージです。
映画関係者から、「鎌仲が映画を作っているのは、映画ファンのためではない」と言われることがあります。実際、そうなので言われてもしょうがないんですが。私は、一人でも多くの人に観てもらい、気づき、変わってもらえたら、と思って映画を撮り、これからもそのために撮り続けていきます。

(構成:駒井憲嗣)




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■鎌仲ひとみ プロフィール

大学卒業と同時にフリーの助監督としてドキュメンタリーの現場へ。文化庁の助成を受けてカナダ国立映画製作所に滞在し、米国などで活躍。1995年の帰国後はNHKで医療、経済、環境をテーマに番組を多数制作。2003年にドキュメンタリー映画『ヒバクシャー 世界の終わりに』を、2006年に『六ヶ所村ラプソディー』を発表。現在は大学等で教えながら、映像作家として活動を続けている。著書に『ヒバクシャードキュメンタリー映画の現場から』影書房、共著に『内部被曝の脅威』(ちくま新書)『ドキュメンタリーの力』(子供の未来社)がある。
最新作『ミツバチの羽音と地球の回転』が2011年2月19日に公開される(渋谷ユーロスペース)。





映画『ヒバクシャ~世界の終わりに~』
渋谷アップリンク・ファクトリーにて2月5日(土)連日10:30

2月6日(日)上映後、鎌仲ひとみ監督のトークショーあり!!
監督:鎌仲ひとみ
プロデューサー:小泉修吉、川井田博幸
撮影:岩田まき子
制作・配給:グループ現代
写真協力:森住 卓
2003年/117分

映画『六ヶ所村ラプソディー』
渋谷アップリンク・ファクトリーにて2月5日(土)~2月11日(金)連日12:45、
渋谷アップリンクXにて2月12月(土)~連日11:00

2月13日(日)のみ、10:30からの上映となります。
上映後、廣川まさき(ノンフィクションライター)×鎌仲ひとみ監督のトークショーあり!!

プロデューサー:小泉修吉
監督:鎌仲ひとみ
撮影:大野夏郎、松井孝行、フランク・ベターツビィ
音楽:津軽三味線奏者 倭(やまと)〔小山内薫、永村幸治、柴田雅人〕、ハリー・ウィリアムソン
編集:松田美子
助監督:河合樹香
上映配給:巌本和道
編集スタジオ:ネオ P&T
録音スタジオ:東京テレビセンター
支援:文化庁
制作・配給:グループ現代
2006年/119分

映画『ミツバチの羽音と地球の回転』
渋谷ユーロスペースにて2月19日(土)よりロードショー

製作:小泉修吉
プロデューサー:鎌仲ひとみ
音楽:Shing02
撮影:岩田まきこ、秋葉清功、山本健二
録音:河崎宏一、服部卓爾
編集:辻井潔
制作・配給:グループ現代
2010年/135分
公式サイト

ユーロスペース公開中 毎週土日トークイベント開催

※すべて12:40の回上映終了後
2月19日(土)鎌仲ひとみ(監督)
2月20日(日)Candle JUNE(キャンドルアーティスト)×鎌仲ひとみ
2月26日(土)中沢新一(人類学者)×鎌仲ひとみ
2月27日(日)鎌仲ひとみ
3月5日(土) 堤未果(ジャーナリスト)×鎌仲ひとみ
3月6日(日) 上杉隆(ジャーナリスト)×鎌仲ひとみ
3月12日(土)池田香代子(翻訳家)×鎌仲ひとみ
3月13日(日)飯田哲也(環境エネルギー政策研究所所長)×鎌仲ひとみ


「未来のエネルギーをどうするのか?環境とエネルギーをすこし本気で考えてみる」バトルトーク!

日時:2011年2月16日(水)開場19:00 開演19:30
出演:福島みずほ(社民党党首)×飯田哲也(環境エネルギー政策研究所所長)×重信メイ(ジャーナリスト)×鎌仲ひとみ
会場:阿佐ヶ谷ロフト
料金:前売1,300円 当日1,500円(共に飲食代別)
前売チケット:ローソンチケット【L:36696】、ロフトA電話予約:03-5929-3445(17:00~24:00)

『ミツバチの羽音と地球の回転』渋谷ユーロスペース公開 前夜祭トーク!

日時:2011年2月18日(金)開場19:00 開演19:30
出演:鎌仲ひとみ監督×廣川まさきさん(ノンフィクションライター)
会場:旅の本屋のまど (西荻窪)[東京都杉並区西荻北3-12-10 司ビル1階]
料金:500円 ※要予約
TEL:03-5310-2627


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