2010年10月、一人の映画人がひっそりと息を引き取った。
元プリマ企画社長、藤村政治。
現在公開中の映画『YOYOCHU SEXと代々木忠の世界』で生前のインタビュー映像を見ることが出来る藤村氏は、60、70年代にピンク映画を中心に数多くの作品にプロデューサーとして携わった。彼自身は後年映画の世界を離れることとなるが、藤村氏が代表を努めたプリマ企画がピンク映画の歴史に残した足跡は決して小さくない。
そして彼は奇跡とも言える小さな偶然により亡くなる直前にそのプリマ企画によって制作された10本の映画を我々に残していった。
そのきっかけを、最初にこれらの映画をDVD化した株式会社アートポートの制作配給宣伝部統括部長の米山さんに伺った。
「そもそものきっかけというのは会社の近くに私がたまに食べに行く高松といううどん屋さんがあります。ちょっとした座敷もある雰囲気のいい店だったんです。ある時そこのご主人に何気なく当時私が製作していた映画のポスターを貼ってくれませんかとお願いしたところ、“ふうん、お客さん、何やってるの?映画作ってるんだ。実は僕も昔映画を作っていたんだよ。”と。その方が藤村政治さんだったんです。それで、どんな映画を作ってらしたんですかと尋ねたら、“にっかつロマンポルノの3本目を作っていたんだよ”というお話でした」。
実は僕は学生の頃に3本だけですがピンク映画の現場で助監督のアルバイトをしていまして、藤村さんが映画を作っていた頃とちょうど同じ時期だったんです。僕が初めてついた監督は監督名は秋山駿、俳優名は津崎公平さんでした。人間的に大変魅力的な方で、ゴールデン街でよくお酒をご馳走になりました。そして、その時のチーフ助監督は浜野佐知さんでした。大変精力的な方で、カチンコの打ち方から教わりました。その他には、梅沢薫監督について何も分からないまま新潟にロケに行ったりもしました。そんな話を藤村さんにしたところ、“じゃあ僕の映画もやったことあるかもしれないね”と話が合いました」。
『ドキュメント・ポルノ 痴漢(秘)レポート』より
「それからうどん屋のご主人と客という関係ではなく先輩プロデューサーとして親しくさせて頂くようになりました。会う度当時のピンク映画の話や、お互いの共通の知人の話で盛り上がりましたね。その中でふと藤村さんから“僕の作品がたくさんあるんだけど、DVD出せないかな?”という話が出たんです。実は以前他の会社から権利を一括で買い上げたいという話もあったそうですが、藤村さんはそれをお断りされたそうです。そんな経緯の中、そこまでおっしゃって頂けるなら承りますということになりました。
それから発売に向けて準備を進めていたところ、ある日藤村さんから“入院したんだよ。”と急にお電話頂きました。病院にお見舞いに行きまして、DVD化の進行具合などを報告すると大変喜んでくれました。
そうして一度退院されたんですよ。それで良くなったのかなと思っていたところ奥様から亡くなったという知らせがありました」。
「今から考えると、藤村さんが“米ちゃん、DVD出してくれないか”とおっしゃったのは、どこかに何か予感のようなものがあったのかもしれませんね。体調の変化とか。それまでは“俺のシャシンは絶対誰にも渡さないよ”とおっしゃってた方だけに…。数々の嵐の中を生き、有名な裁判も闘われ自分の作品を守り続けた方でした。私に作品を託して頂いたということは、オールドファンには懐かしい思い出を、そして若い人たちにはあらためて“当時日本には、こんな素晴らしい人たちがいらしたんだよ!”という事実を残しておきたいというお気持ちだったのかなと思います。あの頃のピンク映画は今見ても面白いですよ。当時の成人映画出身者が、今の日本映画を支えているわけですからね。本当に素晴しいことだと思います」。
『ドキュメントポルノ 続・痴漢』より
藤村氏が米山氏に託した10本の作品の中から、まずは2本がアップリンクより2月4日(金)に発売される。
ドキュメンタリーも話題の代々木忠監督が1973年に監督した『ドキュメント・ポルノ 痴漢(秘)レポート』。
作品の見所をライターのモルモット吉田さんに解説して頂いた。
「『ゲバゲバ90分!』でもおなじみの大辻伺郎が生真面目にレポーターを務め、「あまりにも人間的な行為への偽らざる記録である」と堂々と宣言するだけあって、時折明らかに作り物めいたものが介在しようとも怯むことなく見せ切る代々木忠は、ポルノ映画とも後のAVとも異なる全く別の映像表現、ドキュメント表現を追求。虚実の境界も無効になった先に現れる何度捕まろうとも売春を繰り返す名もなき少女のたくましい姿が美しい」。
『ドキュメント・ポルノ 痴漢(秘)レポート』より
もう一本はコミカルな作風でピンク映画界に一時代を築き挙げた山本晋也監督による1973年作『ドキュメントポルノ 続・痴漢』。こちらの吉田さんによる見所は。
「ナンセンス喜劇を得意とする山本晋也の手にかかればドキュメントポルノも抱腹絶倒の爆笑喜劇に。「絶対ヤバくないスカートめくりをご紹介しましょう」と『愛のむきだし』も驚愕の手法が披露され、「痴漢もできないような男性に出世の見込みはありません!」と繰り出されるあの手この手は、後ろめたさの陰りもない実にアッケラカンとした見せ方だけに引け目なく観ることができる。撮影は若松孝二作品や『愛のコリーダ』で知られる伊藤英男」。
一度は映画史の闇に消えかかった貴重な作品たちをどうか見逃さないで頂きたい。
(取材・文:上原拓治)
『ドキュメントポルノ 続・痴漢』より
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・「石岡正人監督が撮ってくれたからこそ、ウツから戻ってくることができた」(代々木忠監督)─『YOYOCHU SEXと代々木忠の世界』を両監督が語る(2011-02-02)
■リリース情報
『ドキュメント・ポルノ 痴漢(秘)レポート』
2月4日発売
ULD-581
3,990円(税込)
アップリンク
監督:代々木忠
インタビュアー:大辻司朗
ナレーター:西原徳
制作:藤村政治
企画:渡辺忠
構成:池田正一
撮影:稲田昌平
1973年/日本/66分/カラー
『ドキュメントポルノ 続・痴漢』
2月4日発売
ULD-582
3,990円(税込)
アップリンク
監督:山本晋也
ナレーター:都健二
制作:藤村政治
企画:渡辺忠
構成:山田勉
撮影:伊藤英男
1973年/日本/63分/カラー
関連商品
『ピンクリボン』
発売中
ULD-265
3,990円(税込)
アップリンク
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