骰子の眼

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東京都 新宿区

2011-02-01 11:34


ロシアやマレーシアに伝わるクロサワの遺伝子、そしてベトナムのアニメ作家まで。世界の文化事情を知るウェブマガジン『をちこちMagazine』

最新号特集は「日本映画に魅せられた世界の映画人」、日本のポップ・カルチャーが世界へ及ぼす影響を探る。
ロシアやマレーシアに伝わるクロサワの遺伝子、そしてベトナムのアニメ作家まで。世界の文化事情を知るウェブマガジン『をちこちMagazine』
六本木の21_21 DESIGN SIGHTにて、「クリストとジャンヌ=クロード展」を見学するフィン・ヴィン・ソン氏。

文化芸術交流や海外における日本語教育、そして日本研究・知的交流を目的にした独立行政法人・国際交流基金(本部:東京・四谷)が発行するウェブマガジン『をちこちMagazine』の2月号が発行される。
webDICEと同じく、紙の雑誌『をちこち』として2004年に創刊。2009年12月に休刊となったが、2010年8月からオンラインマガジン『をちこちMagazine』としてスタートした。雑誌『をちこち』のバックナンバー記事と新しいオンラインの『をちこちMagazine』記事を横断して検索し、読むことができるのが特徴で、毎回様々なカルチャーを取りあげ、国際文化交流を身近に感じることができる内容となっている。

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をちこちMagazineのトップページ

最新号となる2月号の特集は「日本映画に魅せられた世界の映画人」。国際交流基金の黒澤明監督生誕100周年事業などから生まれたテーマだという。

「昨年が黒澤明監督の生誕100年だったので世界各地でイベントや上映会が行われ、国際交流基金も『黒澤明監督生誕100周年記念映画祭』として海外で上映会を実施したのですが、そのなかで彼の作品に影響を受けたという人がこんなにたくさんいるんだというのを感じたんです。例えばロシアでは、日露共作で『デルス・ウザーラ』(1975年)という作品を撮っています。そのときの助監督のウラジーミル・ニコラエヴィッチ・ワシーリエフ氏の来日に合わせ、国際交流基金本部で、撮影時の話や、ロシアでの黒澤明人気についてお話をしていただきました。私たち日本人も知らない黒澤明への評価や、影響を受けて次世代の映画人たちがたくさん育っている状況を知って、世界での日本映画の与えているインパクトをもういちど見直してみようと思い、今回の特集を企画しました」(情報センター 吉本紀子さん、以下同)。

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2010年12月に来日、黒澤監督作品『デルス・ウザーラ』の撮影を語るウラジーミル・ニコラエヴィッチ・ワシーリエフ氏

世界のクロサワとして多大なる影響力を持つ黒澤作品が、昭和の時代から現代に至るまで世界の映画作家にインパクトを与え続けている理由はどこにあるのか、国際交流基金の活動のなかで感じたことはなにかをあらためて聞いた。

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韓国のソウル・釜山で開催された「黒澤明監督生誕100周年記念映画祭」の看板。ソウルでは22日間でのべ15194名が黒澤作品を観た

「作品自体にとても魅力がありますが、それを支えているのは黒澤監督のこだわりではないかと思います。ワシーリエフ氏のお話にあったのですが、『デルス・ウザーラ』のときも、その季節のシーンはその季節に撮りたいと、秋のシーンはそれが夜であっても秋に撮られていたそうなんです。通常はロシアはひとつのシーンは1台のカメラで撮っていたそうなのですが、黒澤監督はこのシーンは3台で撮ると決めて膨大なフィルムを使ったり。そうした映画に賭ける姿勢が、観る人の心を打っているのではないかと感じます。黒澤監督作品の影響を受けた監督や演出家は数限りないと思います。今回の特集案のひとつでもあったのですが、2009年にマレーシアの映画監督クリス・チョン・チャン・フイ氏と日本の森永泰弘氏が組んで、『天国と地獄』からのインスピレーションで『HEAVENHELL』という映像インスタレーション作品を作っています。欧米だけでなく、アジアの若手監督にも影響を与えていたりという、こういった動きも面白いと思います」。

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クリス・チョン・チャン・フイ + 森永泰弘『HEAVENANDHELL』 Photo:Danny Lim - from Karaoke feature film

2月号の特集では、日本のアニメに影響を受けたベトナムのアニメ作家、フィン・ヴィン・ソン氏が『虹の光を受けて舞う花びら―ベトナムのアニメと今監督の思い出』を寄稿。

「ベトナムではアニメ作家は非常に数が少ないそうです。社会主義なので検閲が厳しかったり、国内の市場がまだ大きくないなど、作家にとっては日本よりも厳しい状況のようです。彼はまだ30代の若手ですが、国際交流基金の若手文化人招聘の事業で、昨年3月に来日しました。その際にマッドハウスの今敏監督を訪問し、とても感銘を受けたのですが、今監督はその後すぐ、8月に亡くなられました。それを知ったフィン・ヴィン・ソン氏は、今監督へのオマージュとして作品を書き下ろし、その脚本を国際交流基金に送ってくださり、今回『をちこちMagazine』で取りあげさせていただくことになったのです。
他にも中国の映画事情ということで、中国人の日本映画研究者の劉文兵氏に原稿を書いていただきました。日本ではあまり知られていませんが、中国では山口百恵や高倉健がすごく人気があるんです。その理由やバックグラウンドなどを書いていただきました。今回の特集は、黒澤明から現代のアニメーションに至るまで、新旧含めて日本映画が海外でどのようなインパクトを与えているのかを少しでも知ってもらいたいという思いで作りました」。

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故・今敏監督と記念撮影するフィン・ヴィン・ソン氏(2010年4月)。

「今回の特集のなかでは、ロシア、ベトナム、中国への影響をとりあげていますが、それぞれの国の映画事情というのは、日本ではあまり知られていない情報だと思います。ですので、『ロシア人が黒澤を知っているの?』『ベトナムにアニメがあるの?』といった興味をもってもらえるだけでもうれしいですね。国際交流基金の本部がある東京・四谷のJFICライブラリーには、そうしたいろいろな作品を来館者の方々が観られるようにしています。今回の記事を見て、足を運んでいただいたり、何らかのアクションを起こしていただくきっかけになれたら嬉しいと思います。
また、JFICライブラリーでは黒澤作品のロシア語訳など、他ではあまり見ることのできないような本も読んだり借りたりすることができます。国際交流基金のサイトから文献の検索も可能なので、記事を読んで面白かったら、そこから調べてライブラリーの本を読んでみたり、雑誌『をちこち』のバックナンバーを読んだりと、関心の幅を広げていただければなによりです。『をちこちMagazine』は昨年の8月からスタートして、どんな記事が興味をもってもらえるか、まだ試行錯誤しながら作っていますので、webDICEの読者の方にもぜひ読んでいただいて、いろんなご意見をいただけたら嬉しいですね」。

今後は、海外での日本語教育や舞踏、食文化、ファッションなど、様々な切り口で国際文化交流をとりあげていきたいという。『をちこちMagazine』を通して、映画や音楽など、身近な楽しみやエンターテインメントから国際文化交流の機会が生まれてくることを期待したいし、ぜひ積極的に利用してみてほしい。

(取材・文:駒井憲嗣)



をちこちMagaznine

2月号「特集006 日本映画に魅せられた世界の映画人」は2月1日より公開。
http://www.wochikochi.jp/

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