テアトル新宿で行われたトークショーより、左から今泉力哉監督、鈴木卓爾監督、山下敦弘監督。
現在テアトル新宿でロードショー中の映画『たまの映画』の劇場イベントとして今作が劇場映画第1作となる今泉力哉監督に加え、鈴木卓爾監督と山下敦弘監督が登壇し、トークショーを行った。
『たまの映画』は1980年代から90年代に起こったバンドブームにおいて特異な存在感と優れた楽曲で人気を誇ったものの2003年に解散したバンド、たまの元メンバーたちの現在の音楽活動や表現への姿勢を追ったドキュメンタリー。今作のキャッチコピーである「やりたいことだけ。」をテーマに、ともに自主映画から活動を開始した監督が自身の映画制作のなかでの「やりたいことだけ」をやるための思いを語った。
『たまの映画』は「死」というキーワードで取材している(鈴木卓爾)
──まず「たま」にまつわる思い入れをおきかせくださいますか。
鈴木卓爾(以下、鈴木):サイバーニュウニュウというバンドが昔あって、友人だったんです。そのころぼくは、ライブハウスとか全然行ったりせずに、家で音楽を聴いているような内向的な音楽ファンだったんです。それがサイバーニュウニュウというバンドと知り合って、彼らのライブのビデオをいつも撮影するようになって。サイバーニュウニュウは『未開派野郎』というアルバムを出していて、その中の「ひねりつぶせ!」という曲があって、その曲でイカ天に出演したら1勝したんです。1勝して、その2週目に、「たま」が出てきて、サイバーニュウニュウが負けたんですよ。まわりの友達から『おまえサイバーニュウニュウより「たま」のほうが好きなんじゃないのか』って言われたのが、「らんちう」っていう歌を歌っていた「たま」で、こんなバンドがあったなんて僕は知らなくて。それがすごく衝撃だったので、それから「たま」にハマってしまったんです。
鈴木卓爾監督
──鈴木監督は、今日のイベントのために久しぶりに「たま」を聴かれたということですが。
鈴木:夕べ久々に聴いてみて、再度衝撃を受けて。やっぱりうまいなと思いました。生々しい記憶が蘇りました。「たま」の映画を数日前に観たのですが、今泉さんという映画作家の映画というよりも、自分の時間みたいな感じで、とても良かったです。
──山下監督は、ご自身の作品で、『たまの映画』にも出演していましたパスカルズの楽曲を使用されているということで、そのあたりのお話をお聞かせいただけますか。
山下敦弘(以下、山下):『松ヶ根乱射事件』という映画を作っているときに、映画のプロデューサーからパスカルズの音源を聴かせていただいて、せひお願いしたいということになりまして。その時は、リーダーのロケット・マツさんと打ち合わせをしていたんですけど、『松ヶ根乱射事件』を作ってるときに、「妖怪っぽい音楽」を注文していたんです。もともとあるパスカルズの楽曲も使用していたんですけど、新曲も書いていただいて、それのレコーディングに僕も見学させてもらったときに、知久さんと石川さんを見て、「あっ、妖怪っぽいな」と思って(笑)。なおかつ、すごくおもしろい音楽を作っていただいて、それが最初のきかっけですね。実は僕が「たま」を聴いたのが、中学一年とかだったので、「さよなら人類」という曲しか聴いたことなくて、だけどあのビジュアルと音楽は、すごく強烈に残っています。
山下敦弘監督
──『たまの映画』をどのようにご覧になりましたか?
山下:(たまが)解散した理由が解ったような、解らないような感じもありつつ、そんなこともあんまり関係ないのかなって、最後まで楽しく観たって感じです。そういうことよりも、知久さんが猫のシッポを引っ張って、よくわからないことをやって、猫がニャーって鳴くとことか、そういったシーンも「たま」の解散というキーワードと同じくらいの力があって。ああいう瞬間がすごい映画っぽいなって思いました。それから、結局「たま」の解散ってよくわからない感じがするんですけど、なんとなく解散が自然に感じましたね。
鈴木:知久さんのお父さんの話が出てきますよね。あれが数日こびりついていて、「死」というキーワードで取材しているんだなと思ったんです。今泉さん自身も、「たま」へは距離を置いて訊ねていて、アプローチとして今泉さんが質問していることが、状況とかかなり今泉さんが直面している状況に照らし合わせて質問していて。生活面の話とか、誰に聞いたって同じようなことを(笑)。そこが独特でしたね。
解散については断定はしたくなかった(今泉力哉)
今泉力哉(以下、今泉):まず、脱退や解散という部分についてですが、きっとたったひとつの理由で脱退したり解散したりはしていないと思うんです。映像や映画って言うのは強い部分もあるので、映画で「こういう理由で脱退しました。解散しました」ということは、自分にはできないなと思いました。断定はしたくないなと。わからないことはわからないままにしました。あと、お金とか生活面のことを聞いたのは、あれは、本当にやりたいことをされている方たちがいることは、すごく羨ましいことだし、みんなの理想ではあると思うけど、それで、あの人たちが風呂なし四畳半で生活していたら、夢がないなと思ったんで、普通に生活していることや、生活面や家族の話とかを聞きました。そこは、みんなが気になることかなと思っていたので聞きました。
今泉力哉監督
──『たまの映画』といっても、実際の4人の演奏は、出てこないんですけれども、元メンバーのみなさんのお話の中から匂い立ってくるものは、間違いなくたまの音楽の匂いであるというのがすごい興味深いものでしたね。
山下:「さよなら人類」は使おうという案はあったんですか?
今泉:ありました。編集の最後のほうまで、入っていて。解散のときのライブの「さよなら人類」の映像です。
山下:最後まで、やっぱり使わなかったんだなと思いながら観てました。入るのかなって途中で思っていて。
今泉:12月30日に、知久さんが映画を見に来てくださって、その後の打ち上げで飲んでいた時に、「『さよなら人類』を使わなかったことはちょっとうれしかった。」みたいなことを、言ってました。もともと、この映画出演についてメンバーの方々を口説く際に、「過去の活動より、今の活動を撮りたい」ということを、言っていましたね。
やりたいことよりも、やりたくないことはやらないという感覚なんです(山下敦弘)
──「やりたいことだけ。」という言葉が今回の映画のキャッチフレーズにもなっているんですけど、今回の映画で元たまのみなさんを通して描かれる「やりたいことだけ」で生きていくっていうことには、自由もあるけれども、いろんな葛藤もあるという部分が描かれている映画だと思います。この機会に、みなさんそれぞれの「やりたいことだけ。」をやっていくためのエピソードをお話いただきたいなと思います。
鈴木:やりたいことだけやってきてないと思うんですよね。でも、やれないことは全然できない人っていうのはあるかなって思うんです。映画以外のことはできないと言ったら、かっこつけすぎかもしれないですが、やりたいことだけやってきてないというのは、無きにしも非ずかな。
山下:知久さんの言葉にもありましたが、「たま」っていうのは、メジャーデビューして、ある種、アイドル的なことになって、音楽活動っていう部分でやりたかったことと、やりたくなかったことを何年か経験した上で、初めて出てきた。それはやりたいことなのかなって。
今泉:ひたすらCDのキャンペーンをしたりとかはやりたいことではなかったんでしょうね。
鈴木:イカ天で売れたことによって、すごく不自由になったんだなってよく解りましたね。そのあとCM出たり、音楽番組出たりしたりしても、どこかで演じなきゃいけないというか、「たま」というイメージに絡め取られたりして。そのころ、僕の見ていた映像の記憶よりも、この映画のほうが、お三方は自由に見えたし、ライブ…パフォーマンスもずっと良かった。
今泉:編集で使っていない部分なんですけど、当時回りにいた方々に聞くと、当時、知久さんは知久っていう役を演じているってぐらい大変だったときもあったって言ってました。そういう意味では、今は逆に、その時よりも本当にやりたいことやれてるんだなって思いましたね。
鈴木:僕は音楽やってないので、ついつい想像で比較しちゃうんですけど、音楽って楽器一台と場所だけあれば、表現できるわけですよね。でも、映画だといちいち複製化した何かに託して、DVDを売って観てもらうとか、映画館で観てもらうとか、それをやるためには、一人ではできないところっていつもあって。でも、映画をやるとこに自分はいなくてもいいから、自分が立場を背負うってことはないわけだから。そういうところでは、音楽のほうがダイレクトにやりたいことと、やりたくないことの選択が常に目の前にあるというか。あと、映画はこういうことがしたいっていうよりも、ロケなんか特に、その通りになんないじゃないですか。思い通りにいかない中で映画を作ってるところってあるでしょ。だから、音楽の方が映画よりダイレクトですよね。
山下:今、映画を作り始めて11年ぐらいですけど、やりたいことっていうのが、最初は明確にあったような気がしていて。20代の頃は、なんでもやりたいってパワーがあったんですけど、でもそこから仕事に変わってくるときに、判断基準が、やりたいことよりも、やりたくないことはやらないという感覚なんですよね。一夜にしてスターになってしまったということではなく、僕はコツコツきたタイプではあるので、知久さんみたいに、やりたいことだけやるって言えないなって思います。なかなかそこの境地は、まだ解らないですね。ただ、本当にやりたくないことは、やってないというスタンスかな。
今泉:やりたいことっていうのがきちんとあるだけでもすごいことだと思うんです。そんなの自分にはない。でも、やりたくないことはたしかにある。でも、もしやりたいことがあっても、それをやるために、他人に迷惑がかかるようなことは違うと思うんです。それは「やりたいこと」じゃなくなってしまいますから。また、そのために「がんばる」っていうのも違うと思うんです。がんばりたくないですし。
まあ、気楽にだらだら無理せずにというのが、自分には合っている気がします。譲れないところは譲れませんが。
(2011年1月14日、テアトル新宿にて。構成・文:駒井憲嗣)
『たまの映画』
テアトル新宿にて公開中。ヒューマントラストシネマ渋谷、大阪第七藝術劇場ほか全国順次公開。
出演:石川浩司 滝本晃司 知久寿焼 たま
echo-U-nite、パスカルズ、ホルモン鉄道、斉藤哲也、UooB、中野直志(MANDA-LA2)、今井次郎 オジュドゥイ・イル・フェ・ボー、関島岳郎、山下由、上田誠(ヨーロッパ企画)、ワタナベイビー、大槻ケンヂ、ケラリーノ・サンドロヴィッチ ほか
監督・編集・撮影:今泉力哉
撮影:藤岡大輔、堀切基和
整音/宋晋瑞
製作:鈴木ワタル、張江肇
プロデューサー:磯田修一、三輪麻由子、宮田生哉
製作:パル企画、日本スカイウェイ
配給:パル企画
2010年/カラー/111分
公式サイト