都築 響一「ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行」より
見どころ!川崎市市民ミュージアム 学芸員 林司
川崎市市民ミュージアムで5期連続で御紹介してきた「木村伊兵衛写真賞35年周年記念 展」も、今回が最終回となりました。ラストとなる今回の展示は、1997年(第23回)から2003年度(第29回)と、2000年を中心に11作家の受賞作品をご覧いただきます。この時期の日本写真界のキーワードを一つあげるとすれば「カメラ女子」です。最近は女性向けのカラフルなカメラも多数発売され、街中でカメラを構えて撮影をする女性の姿も珍しくなくなりました。その、ガーリーフォトブームの火付け役とも言えるのが、2000年度受賞のHIROMIX、蜷川実花、長島有里枝の3名です。特にHIROMIXは写真作品だけでなく、女子高生写真家として脚光を浴びる姿が、当時の女子学生達の憧れの的でもありました。
そして、2003年度に受賞した澤田知子は、コスプレブームの先駆けとも言える作品で受賞しています。現在も、澤田知子は双子のシリーズやゴスロリ姿で撮影した自らのポートレートを通して、本当の自分と写真に写る自分の差とは何かを問い続けています。また、鈴木理策や松江泰治、佐内正史といった、現代写真を支える写真家達が受賞したのもこの時期です。
20世紀から21世紀にかけて受賞した11名の写真家を通して、よりアクティブに、より軽やかに変化する現代写真の源流を感じ取ってください。
都築 響一
第23回(1997年度)
1956年、東京生まれ。上智大学卒業後、1976年から1986年まで、雑誌「POPEYE」「BRUTUS」で現代美術、デザイン、都市生活などの記事を主に担当する。その後1993年より雑誌「SPA!」で日本各地の奇妙な新興名所を訪ね歩いた「珍日本紀行」の連載をはじめ、それらをまとめた写真集「ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行」(アスペクト)で木村伊兵衛写真賞を受賞した。
東京に住む様々な人々の部屋や、全国の秘宝館、インディーズの演歌歌手、各地の来夢来人(ライムライト)という名前のスナックなど、一つの物事をキーワードに日本全国を取材するスタイルで人気を集め、2010年5月には広島現代美術館で、美術館を一冊の本に見立てて展示構成した「HEAVEN 都築響一と巡る社会の窓から見たニッポン」という展覧会が開催されている。
都築 響一「ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行」
ホンマ タカシ
第24回(1998年度)
1962年、東京生まれ。日本大学芸術学部写真学科在学中に才能が認められ、写真家の篠山紀信や坂田栄一郎を輩出した広告制作会社ライト・パブリシティーに入社する。入社後はアシスタントを経てファッション雑誌のカメラマンとして6年間在籍し、1991年にフリーとなる。独立後は、ファッション誌の仕事をしながらロンドンと東京の往復生活を2年あまり続ける。帰国後、東京郊外の新興住宅街と、そこで生活する子供達を撮影した写真集「TOKYO SUBURBIA 東京郊外」(光琳社)で木村伊兵衛写真賞を受賞する。
2004年には尊敬する写真家、中平卓馬を追った映画「きわめてよいふうけい」を制作しており、近年では2009年に写真の歴史をわかりやすく述べた「たのしい写真 よい子のための写真教室」を出版しワークショップを開催している。2011年1月8日からは金沢21世紀美術館で初の回顧展を開催予定である。
ホンマ タカシ「TOKYO SUBURBIA 東京郊外」
鈴木 理策
第25回(1999年度)
1963年、和歌山県新宮市生まれ。1987年に東京綜合写真専門学校研究科修了後、全米各地を旅行し、帰国後の1990年代前半からグループ展や個展で作品発表を続ける。1998年に、皇居から自分の故郷であり日本を代表する聖地である和歌山県の熊野までの旅を、誰かに読み聞かせるように何枚もの写真で構成した初の写真集「KUMA
NO」(光琳社)を出版する。翌年、同じく聖地である青森県の恐山への旅を綴った写真集「PILES OF TIME」(光琳社)を出版し、木村伊兵衛写真賞を受賞した。その後も故郷の熊野や、奈良県吉野山の桜、北海道の雪などをモチーフに、その場に存在するスピリチュアルな気を独特な空気感でロードムービーのように表現している。
近年は、東京芸術大学美術学部や、立教大学現代心理学部、早稲田大学文学学術院などで講師も勤めている。
鈴木 理策「PILES OF TIME」
HIROMIX(ヒロミックス/本名:利川 裕美)
第26回(2000年度)
1976年、東京生まれ。東京都立鷺宮高等学校在学中に、荒木経惟の被写体となったことがきっかけで、当時、荒木経惟のアシスタントをしていたホンマタカシ(第24回木村伊兵衛写真賞受賞)と知り合う。その後、ホンマタカシから新人写真家発掘公募展への応募を薦められ、1995年にキヤノン写真新世紀優秀賞を受賞する。
受賞後は女子高校生写真家としてカリスマ的な人気を集め、90年代の「女の子写真ブーム」の中心的存在となった。そして、2000年の写真集「HIROMIX WORKS」で木村伊兵衛写真賞を受賞する。
写真以外にも、イラストや、エッセイも手掛けるほか、DJや歌手としてCDも出している。2010年には「magnifique!」展(ヒロミヨシイ六本木)で展覧会のキュレーションも行っており、マルチな才能を発揮している。
HIROMIX「HIROMIX WORKS」
長島有里枝
第26回(2000年度)「PASTIME PARADISE」
1973年、東京生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科に在学中、1993年にパルコUrbanart #2(アーバナート)展で、自分の家族のヌードや自身の肖像を撮影した作品でパルコ賞を受賞し、当時流行していた女性写真家ブームに乗って注目を浴びるようになった。
大学を卒業後、「女の子写真」ブームから距離を置くため、文化庁新進芸術家在外研修員としてアメリカに留学する。
帰国した2000年に、大学時代からこれまでの私写真をまとめた写真集「PASTIME PARADISE」で、木村伊兵衛写真賞を受賞する。
近年では2010年にエッセイ集「背中の記憶」で第23回三島由紀夫賞の候補となり、また、同エッセイで第26回講談社エッセイ賞を受賞している。
蜷川 実花
第26回(2000年度)「Sugar and Spice」
1972年、東京生まれ。父は演出家・映画監督の蜷川幸雄、母は女優でキルト作家の真山知子、姉も女優といった芸能一家の中で育つ。多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科を卒業後、女性写真家ブームもあり早くから才能が注目され、1996年に、ひとつぼ展のグランプリと、キヤノン写真新世紀の優秀賞を受賞する。
そして2000年に出版した写真集「Pink Rose Suite」「Sugar and Spice」で、極彩色の世界を表現し、木村伊兵衛写真賞を受賞した。
写真以外にも女優や映画監督としても活躍しており、2007年には、安野モヨコの漫画を映画化した土屋アンナ主演の映画「さくらん」で初監督を務め、2010年にはアイドルグループAKB48のシングル「ヘビーローテーション 」のジャケットプロデュースとプロモーションビデオの監督を務めている。
松江 泰治
第27回(2001年度)
1963年、東京都生まれ。1987年に東京大学理学部地理学科を卒業する。大学では、人工衛星ランドサットのデジタル画像処理を研究していた。写真をはじめた初期は、35ミリのフィルムカメラで街中の壁や地面、幾何学的に並ぶコンクリート、地面に点在するマンホールといった被写体を追っていたが、次第に高い位置から大型カメラで広く風景を見下ろして撮影するようになった。2002年に出版した写真集「Hysteric 松江泰治」で木村伊兵衛写真賞を受賞する。
大型カメラで俯瞰して撮影した風景を、コントラストを押さえた白黒写真で見せる手法だけではなく、大型カメラで撮影したネガの中では点に見える人々を、約200倍に拡大して見せた写真集「cell」(2008年)や、2010年にはTARO NASU(東神田)で高精細な動画を展示するなど、新しい展開を見せている。
松江 泰治「Hysteric 松江泰治」
川内 倫子
第27回(2001年度)
1972年、滋賀県生まれ。成安女子短期大学(京都)の授業で写真に興味を持つ。卒業後は大阪の広告制作会社写真部に就職し、カメラマンのアシスタントとして務める。会社に写真部が無くなったことをきっかけに上京し、東京でもスタジオマンを2年程つとめていたが、仕事で撮影する広告写真と、自分の写真作品の間にギャップを感じ、その憤りを埋めるべく、仕事の傍ら作品をキヤノン写真新世紀やひとつぼ展へ応募する。1997年に、ひとつぼ展グランプリを受賞し、当時の審査員である浅葉克己より仕事を依頼され、以降フリーのカメラマンとして独立をする。
2001年に写真集「うたたね」「花火」「花子」を、3冊同時にリトル・モアより出版し、「うたたね」「花火」で木村伊兵衛写真賞を受賞した。
川内 倫子「うたたね」「花火」
オノデラ ユキ
第28回(2002年度)
1962年、東京生まれ。桑沢デザイン研究所卒業後、服飾デザイナーとしてアパレル・メーカーに勤めるが、商業ベースの仕事に馴染めずに退職する。その後、独学で写真に取り組み、フォトグラムや二重焼きなど暗室技術を駆使して制作した作品で、第1回キヤノン写真新世紀で優秀賞を受賞する。詩人の小見さゆりの詩と、自身のこれまでの写真作品を組み合わせた「25オンスの猫」(白水社)を出版後、フランスに拠点を置くようになった。
2001年に出版した初の写真集「カメラキメラ」(水声社)はこれまでに発表した9シリーズをまとめたもので、謎めいた浮遊感が高く評価され木村伊兵衛写真賞を受賞した。「古着のポートレート」は、パリのアパートから見た窓の外をバックにし、部屋で発光させた光を古着に当てて撮影している。
オノデラ ユキ「cameraChimera」(カメラキメラ)
佐内 正史
第28回(2002年度)
1968年、静岡県生まれ。1992年頃から独学で写真をはじめ、当時購入したペンタックス67の中判一眼レフカメラを、現在も使い続けている。1995年に新人写真家の登竜門であるキヤノン写真新世紀で優秀賞を受賞し、1997年に、初の写真集「生きている」(青幻舎)を出版した。
商業ベースの出版社では制作できない、ものづくりにこだわった規格外のサイズや装丁で、印刷的にも高品質な写真集を出版することに力を入れており、2002年に限定1000部で出版した写真集「MAP」(佐内事務所)で木村伊兵衛写真賞を受賞した。近年ではプライベートレーベル「対照」で出版した写真集「赤車」が、世界各国で出
版された写真集の中から24冊を選ぶフォトブックアワード2010(ドイツ)で、ベスト24に選ばれている。
佐内 正史「MAP」
澤田 知子
第29回(2003年度)
977年、神戸生まれ。成安造形大学(滋賀)での授業がきっかけでセルフポートレートに興味を持つようになる。卒業制作のセルフポートレートでは、メイクやカツラで別人に扮して400人分の証明写真を制作し、このシリーズ「ID400」で、2000年にキヤノン写真新世紀特別賞を受賞する。
その後、婦警や女将、シスターといった、さまざまな職種の女性に扮した「Costume」で木村伊兵衛写真賞を受賞する。
お見合い写真をテーマにした「OMIAI」、ガングロギャルに扮した「cover」、仲良くロリータファッションを着る女性をテーマにした「Decoration」、双子をテーマにした「Mirrors」など、写真の中の自分と、実際の自分との距離感をテーマにセルフポートレートを制作し続けている。
澤田 知子「Costume」
【関連リンク】
・木村伊兵衛写真賞、歴代受賞作を一挙公開!第1期として石内都、藤原新也、岩合光昭などの作品を展示
http://www.webdice.jp/dice/detail/2473/
・武田花、三好和義、星野道夫などの作品を展示―木村伊兵衛写真賞全受賞作公開、第2期!
http://www.webdice.jp/dice/detail/2531/
・柴田敏雄、瀬戸正人、今森光彦などの木村伊兵衛写真賞受賞作品を公開。11月13日からは最新受賞作品も同時公開
http://www.webdice.jp/dice/detail/2633/
・梅佳代、岡田 敦、高木こずえほかゼロ年代を代表する写真家の木村伊兵衛写真賞受賞作、11/13より企画展開催
http://www.webdice.jp/dice/detail/2703/
・「写真を撮ることは、ある種の決断を伴う行為だった」─木村伊兵衛賞受賞作家・鷹野隆大が語る〈写真を撮る流儀〉
http://www.webdice.jp/dice/detail/2790/
木村伊兵衛写真賞35周年記念展・第4期
2011年1月22日(土)~4月10日(日)
会場:川崎市市民ミュージアム[地図を表示]2階アートギャラリー
料金:無料
時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)
休館日:毎週月曜(祝日の場合は開館)、祝日の翌日(土日の場合開館)