科学者としてそして作家として活動を続け、1960年代、最も早い時期に化学物質が環境に与える危険性を告発。ベストセラーとなったその著書『沈黙の春』(1962年)をはじめ、その著書で自然の美しさと大切さを啓蒙してきた彼女の遺作『センス・オブ・ワンダー』の映画化『レイチェル・カーソンの感性の森』が2月26日(土)より渋谷アップリンクにて公開される。主演のカイウラニ・リーは、カーソンのメッセージを伝えるため自身で脚本を執筆し、18年間にわたり一人芝居を演じてきた。今回はライフワークとしてレイチェル・カーソンの魅力を伝えんとする彼女が、カーソンが提唱した人と自然の調和の必要性について語る。
「自然界の一員として、私には使命があります」カイウラニ・リー、インタビュー
レイチェル・カーソンの著作との出会い
1950年代半ば、私がまだ小さかった頃に毎年メイン州で家族と夏を過ごしていました。その地域の女性たちは口々に、「蚊の除去のためにDDTを飛行機で散布しているけど、レイチェル・カーソンはよくないと言っているそうよ」と言っていました。父はおかしな女性たちだと言っていましたが、私の記憶にはその会話が強く残りました。多くの人はカーソンのことを『沈黙の春』で知っているかと思いますが、私は海の三部作を読んだとき、なんて美しい本なんだと感動しました。それが私にとって最初のカーソンとの出会いであり、自然と触れ合うことへの入り口でした。毎年訪れていたメイン州が舞台になっていることもあり、身近に感じたのです。強烈な体験でしたね。
写真提供:森本二太郎
一人芝居を始めたきっかけ
この脚本を書いた一番のきっかけは、私の夫の存在が大きいのです。彼はそれまでの仕事を辞めて環境専門の弁護士になり、環境破壊や地球温暖化、クローン技術などの話題を私とするようになりました。20年前の話です。私はその時、子どもの頃に私が享受したような自然を地域の子どもたちにも残したいと思い、彼らにリサイクルやコンポストについて教えるようになりました。でもそれは、私の家族、私の地域単位の話であり、社会全体が高度な技術や機械によって支配されることを考えると恐ろしくなったのです。自然界の一員として、私には使命があります。まずは人々に外へ出かけることを促すということ。自然と触れ合えば皆、自然と恋に落ちます。それこそが、地球を守る唯一の方法なのです。自然の中に身を置けば、自分がその一部だということを実感できるでしょう。自然のシステムは、人間のシステムとは違います。独特のリズムやサイクルがあり、私たちには到底理解の及ばないバランスが取られているということだと思います。それを守って行かなければなりません。こういったことがきっかけになり、この劇を始めることになりました。
写真提供:森本二太郎
劇の制作について
この脚本のためにリサーチをして、書き上げるまでおよそ3年半かかりました。本を読んだだけではわからないカーソンのプライベート、風刺、笑い、黙認を嫌う性格などをどのようにまとめればよいのか、かなり悩みました。どうやって髪型を作っているのか、ということもそうです。ニューヨークのバーでジミー・デュランテといるところを撮影したすばらしい写真を参考にしましたね。そうやって劇をつくり上げていきました。
写真提供:森本二太郎
プライベートのカーソン
このプロジェクトの途中、私は誰もカーソンの人生について知らないのだと気づきました。彼女の私生活は世間にもあまり知られていなかったのです。皆に自分の本を読んでほしいと思っていましたが、読者が自分について知りたがるとは思ってもみなかったようです。シャイだったのではなく、プライベートを大切にする人でした。そして調べていくうちに、一人の人間の成長のストーリーとして、勇敢な女性の物語として、とても感動的なものだと思いました。彼女はとても貧しく、校友とのつながりなどもありませんでした。そして重い病気を抱えていたのです。大学を卒業してから死ぬまで、ずっと家族の面倒を見ていたので彼女自身には何もなかったのです。それでも歴史の流れを変えた。とても美しい人生だと思います。
映画『レイチェル・カーソンの感性の森』より
カーソンの魅力
カーソンは当時はスキャンダラスなジャーナリストとして見られていましたが、実際には自然界を守る戦士だったといえます。しかしそこで立ち止まってはいけません。詩人や哲学者など、他にも自然を守る戦士は多くいましたが、彼女のすごいところは、彼女自身が変わったということです。そのことは著作においても明らかですが、たとえば広島の原爆投下に関して「私は世間知らずでした。天国には人類の過ちを包み込むだけの広さがあり、海には深さがあり、大地はその過ちを修復することができると思っていました。原子力の使用により、私たちがそのすべてを破壊できるだけの力を持っていることに気づかされました」と言っています。そこがカーソンのすばらしいところです。
(PBSビル・モイヤーによる、カイウラニ・リーのインタビューより)
カイウラニ・リー プロフィール
1950年、ヴァージニア州アーリントン生まれ。35年以上に渡る演劇・映画・TVドラマの経験を持つ。また彼女は、オン・オフ双方のブロードウィエイで10回以上の主役を演じてきた。ブロードウェイではドラマ・デスク賞にノミネートされ続けており、オフ・ブロードウェイではその突出した業績によってオビー賞(その年にニューヨークで上演された、優れた舞台に与えられる賞)を受賞している。また、多くのテレビドラマにもゲスト出演してきた。映画では『クジョー』、『シビル・アクション』などに出演。また、映画『A Midwife's Tale』 では主人公を演じた。一人芝居『センス・オブ・ワンダー』での成功は、彼女のキャリアに花を添えることになる。過去18年間、世界中で『センス・オブ・ワンダー』を演じてきた彼女には、1999年、ボードイン大学からその素晴らしい演劇技能に対する栄誉博士号が与えられている。
『レイチェル・カーソンの感性の森』
2011年2月26日(土)、渋谷アップリンクほか全国順次公開
監督:クリストファー・マンガー
エグゼクティブ・プロデューサー、脚本、出演:カイウラニ・リー
プロデューサー:カレン・モンゴメリー
撮影:ハスケル・ウェクスラー
編集:タマラ・M・マロニー
2008年/アメリカ/カラー/16:9HD/英語/55分
配給:アップリンク
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