骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2010-12-20 06:30


激動の北朝鮮、貧窮にあえぐ人民の姿を生々しく捉えた『金正日花/キムジョンギリア』リアル!未公開映画祭で上映

アン・ヨンヒ、加藤博両氏によるレビュー。12/25(土)渋谷アップリンク・ファクトリーにてロードショー、全国順次公開
激動の北朝鮮、貧窮にあえぐ人民の姿を生々しく捉えた『金正日花/キムジョンギリア』リアル!未公開映画祭で上映
(c)22009 Green Garnet Productions LLC, all rights reserved

先頃、金正日総書記に変わる後継者に三男の金正恩氏が公表された北朝鮮。依然人民の間には食料難をはじめとした生活への不安が叫ばれるというが、普段のニュースからはなかなか垣間見ることのできない北朝鮮の市民たちに肉薄したドキュメンタリーが遂に公開される。1992年から2006年に脱北した人々の証言により構成された『金正日花/キムジョンギリア』は、映画評論家の町山智浩とオセロの松嶋尚子のパーソナリティーによりTOKYO MXで放送中のテレビ番組『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』で紹介され、ついにスクリーンで12月25日から渋谷アップリンク・ファクトリーを皮切りに全国で開催の『リアル!未公開映画祭』でも上映される。信じがたいほどの弾圧を受けた人たちの悲痛な声を、あなたはどう観るだろうか。




作品情報
『金正日花/キムジョンギリア』

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(c)22009 Green Garnet Productions LLC, all rights reserved
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地球上で最も隔絶された国である北朝鮮の秘密のベールを取り払う作品。北朝鮮の刑務所を生き抜いた人々のインタビューやプロパガンダ映画の記録映像、日々の生活を描いたオリジナル映像もふんだんに盛り込んでいる。

2009年/アメリカ・韓国・フランス/75分
監督:N.C. Heikin
製作スタッフ:ヨン・サン・チョー、デビッド・ノヴァック





世界でもっとも閉鎖的な国の実体の片鱗を覗かせる

── アン・ヨンヒ

映画のタイトル「金正日花」は、実在する花である。ベゴニア科の真っ赤な大輪の花で、北朝鮮では「不滅の花」とも呼ばれる。日本人の加茂元照が改良し、1988年金正日(キム・ジョンイル)の46才の誕生日に献上した。金正日花は金正日を称えるためのツールとして使われ、花言葉は「愛、平和、知恵、正義」。映画ではまさに「金正日王国」を象徴している。

監督のハイキン氏は、「逆説的な北朝鮮の現実を伝えるためにあえて『金正日花』をタイトルにした」という。北朝鮮は世界でもっとも閉鎖的な国としてその実体がつかめない。そうした意味でこの映画は北朝鮮の実体の片鱗を覗かせる。ドキュメンタリー映画は、作り手の意図によって編集されるため、すべてが正しいとは言えない。しかし、脱北した者たちの生の声を伝えることで、少なくともそうしたことがあったという事実は否めないからだ。

彼らの証言は、聞く人の耳を疑う。「苦しい」とか「酷い」のレベルではなく、聞いていてやるせなくなる。あまりにもむご過ぎて現実味にかけるほどだ。具体的な再現映像はなく、証言の内容に合わせて象徴的な映像や一見関係なさそうな女性が登場する。淡々とした口調で語る彼らは時には薄笑いさえ浮かべる。すでに安定した暮らしを得ているという証拠かもしれない。ただし、一人の例外がある。あまりにも恨みが多すぎて、まだその悪夢から抜け出せない老婦人。彼女は話しの途中「金正日は絶対に許せない」と泣き叫ぶ。

ここには、1992年から2006年まで脱北した者たちが登場する。韓国では脱北者のことを純粋な韓国語で「セトミン」という。「新しい場を探す人」という意味だ。彼らの韓国での処遇は一概に同じではない。まず彼らが北朝鮮で何をしていたかによって、大きく分かれる。さらに、韓国政府が「太陽政策」を始める前の1996年までは、脱北者に対する韓国民の視線は温かかった。しかし、太陽政策が始まると北朝鮮との緊張緩和により、脱北者たちの立地は狭くなった。いくら北朝鮮のひどさを訴えても聞き入れてもらえない状態が続いた。また、韓国民も際限なく援助することに不満が募った。

現在(2010年)の北朝鮮では、この映画が発表された2009年にはなかった二つの現象が現れている。金正日の後継者となる「金正恩(キム・ジョンウン)」の浮上。そして、北朝鮮の国の理念の骨格となる主体思想を考案した黄長燁(ファン・ジャンヨプ)の死である。
こうした変化がこれからの北朝鮮にどういった影響を及ぼすのか、それは監督のいう「金正日花」第二弾で語られるかもしれない。

(『松嶋×町山 未公開映画祭』ホームページより)

■安暎姫 アン・ヨンヒ プロフィール

梨花女子大学中国文学卒業。韓国外国語大学同時通訳学院日本語修士課程卒業。現在、同時通訳、執筆業、および韓国梨花女子大の日本語講師、韓国ソウル外国語大学大学院講師。著書に『シナブロ(知らぬ間に少しずつ)』(小学館)がある。

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すぐ隣の国で起こっている悲惨な現実を知ってほしい

── 加藤博

北朝鮮の悲惨な人権状況をかなり正確に深く捉えている映画だと思います。
7月から8月にかけて起きた洪水は、北朝鮮で甚大な被害を出しています。 北朝鮮の穀倉地帯の黄海南道、北道をはじめ、北の咸鏡北道、南道でも被害が出ています。
中国、北朝鮮の国境の川・豆満江でも、普段は30-40メートルの川幅が、降り続く大雨によって100メートルまでに広がっています。濁流と化した河には、1日に水死体が何体も目視できる異常な事態が続いています。この機会を利用して、食料を求めて決死の覚悟で中国側に渡ろうとして失敗し、溺死した者と思われます。

北朝鮮は昨年11月の紙幣改革(デノミ)の失敗で、これまで軌道に乗りかけていた市場経済が打撃を受け、市場に品物はなく、物価はいずれも2-3倍になり、購買力がなく人の姿もまばらな状態が続いています。羅津先峰を往来している中国人のビジネスマンの話によれば、11月までは活気のあった羅津先鋒の市場は、火が消えたようで、品物も、人の数もほとんどない状態だと語っている。

また、病院には薬がなく、これまで医師が処方箋を書いて、患者が市場でその薬を探していたが、今ではそれもない。病院の薬剤倉庫にも薬はなく、医師が処方箋を書くのをやめたという報告も届いています。薬がないため患者に対して病名を告げることしかできません。危機感を抱く人民保健省は、貿易部を通じて必死に薬を手に入れようとしていますが、これまでの北朝鮮の債務不履行のため、中国をはじめ、関係各国の製薬会社が出荷を控えているので、状況は悪化の一途をたどっています。このまま推移すれば、病人は薬がなく死に、一般の人間は食糧がないために大量死は避けられないだろうと中国側の北朝鮮貿易関係者は解説しています。

北朝鮮国内では極端に食糧が不足しているもようで、緊急の食糧援助が必要です。中国政府は自国の洪水被害のため、自国の食糧の確保のため、米の輸出を許可制にし、事実上輸出禁止措置をとっている。拉致被害者問題を抱える日本、哨戒艦・天安の爆沈問題を抱える韓国、六者協議問題でのUSはそれぞれの立場から食糧支援を控えているため、問題解決は悲観的です。

このような状況下でも、北朝鮮の独裁政権はこの映画に見られる通りの人権侵害を一向に改めようとはしていません。私どもが2004年に刊行した「Are they telling the truth?」(邦題「彼ら言っていることは本当か」)の中のイラストも、この映画で多用されていますが、国連、各国政府、そして世界中の多くのNGOの非難や勧告にも拘わらず、政治犯収容所の状況も一切変わっていません。一人でも多くの方にこの映画を見ていただき、すぐ隣の国で起こっている悲惨な現実を知っていただきたいと思います。

(『松嶋×町山 未公開映画祭』ホームページより)

■加藤博 プロフィール

北朝鮮難民救援基金 理事長
公式サイト:http://www.asahi-net.or.jp/~fe6h-ktu/toppage.htm




★リアル!未公開映画祭イベント情報
開催にあわせて、渋谷アップリンクにてスペシャルイベントを開催!毎回、多彩なゲストをお迎えします。

『ジーザス・キャンプ』
2010年12月25日(土)13:30の回
ゲスト:辛酸なめ子さん(漫画家・コラムニスト)×島田裕巳さん(宗教学者)
予約・イベント詳細はこちら
『ビン・ラディンを探せ!』
2010年12月25日(土)18:30の回
ゲスト:松江哲明さん(ドキュメンタリー監督)×岩田和明さん(映画秘宝)
予約・イベント詳細はこちら
『ステロイド合衆国』
2010年12月26日(日)13:30の回
ゲスト:板垣恵介さん(漫画家)
予約・イベント詳細はこちら
『フロウ』
2010年12月26日(日)18:30の回
ゲスト:吉村和就さん(グローバルウォータ・ジャパン代表、国連環境技術顧問)
予約・イベント詳細はこちら
『カシム・ザ・ドリーム』
ゲスト:下村靖樹さん(フリージャーナリスト)
2011年1月8日(土)20:30の回
予約・イベント詳細はこちら
『金正日花/キムジョンギリア』
ゲスト:土井香苗さん(国際NGO ヒューマン・ライツ・ウォッチ 日本代表)
2011年1月8日(土)13:30の回
予約・イベント詳細はこちら
『ジャンデック』
ゲスト:佐々木敦さん(批評家)×湯浅学さん(評論家)
2011年1月9日(日)20:30の回
予約・イベント詳細はこちら
『クルード』
ゲスト:藤岡亜美さん(スローウォーターカフェ有限会社代表 / 環境NGOナマケモノ倶楽部共同代表)
2011年1月9日(日)13:30の回
予約・イベント詳細はこちら
『ビーイング・ボーン』
ゲスト:堀口貞夫さん(産婦人科医)
2011年1月10日(月・祝)13:30の回
予約・イベント詳細はこちら




『リアル!未公開映画祭』
2010年12月25日(土)より渋谷アップリンク・ファクトリーほか全国順次公開

TOKYO MXで絶賛放映中の人気番組『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』で紹介された、政治、宗教、人種、教育、ビジネスなどなど、様々な題材を扱った日本未公開の海外ドキュメンタリーの中から厳選した9本を劇場で公開!
『リアル!未公開映画祭』公式サイト

『金正日花/キムジョンギリア』上映日時:
12/25(土)18:30、12/27(月)20:30、12/29(水)16:30、1/2(日)10:45、1/3(月)20:30、1/5(水)18:30、1/6(木)10:45、1/8(土)13:30、1/9(日)16:30

★『金正日花/キムジョンギリア』イベント情報
日時:2011年1月8日(土)13:30の回『金正日花/キムジョンギリア』
場所:渋谷アップリンク・ファクトリー
ゲスト:土井香苗さん(国際NGO ヒューマン・ライツ・ウォッチ 日本代表)
予約・イベント詳細はこちら

★追加上映が決定!
『カシム・ザ・ドリーム』1/15(土)1/19(水)各日13:00~
『ステロイド合衆国』1/18(火)13:00~ 1/20(木)11:15~
『ジーザス・キャンプ』1/16(日)1/19(水)各日11:15~
『ビン・ラディンを探せ!』1/15(土)1/18(火)各日11:15~
『金日正花』1/16(日)1/20(木)各日13:00~
『クルード』1/12(水)11:15~
『ジャンデック』1/12(水)13:00~
『フロウ』1/13(木)11:15~
『ビーイング・ボーン』1/13(木)13:00~
場所:渋谷アップリンク・ファクトリー

▼『リアル!未公開映画祭』予告編





松嶋×町山『未公開映画祭』
1作品ワンコインで72時間、VOD配信中!

『金正日花/キムジョンギリア』もVODにて配信中。『未公開映画祭』は、1作品ワンコイン500円で購入することができ、全39作品フリーパス(10,000円)や、5作品選べるコース(2,000円)も用意されている。
松嶋×町山『未公開映画祭』公式サイト

『金正日花/キムジョンギリア』VOD配信購入はこちら
一括購入ページはこちら




書籍
『松嶋×町山 未公開映画を観る本』

過激でアブない危未公開映画を大公開!
TOKYO MXでオンエア中(金曜23:30~24:30)の「松嶋×町山 未公開映画を観るTV」がついに単行本化!NO.1映画評論家にして人気コラムニストの町山智浩とお笑い界の"迷言女王"ことオセロの松嶋尚美が過激でアブない未公開映画をおもしろまじめなトークで大公開!! 町山氏セレクトによる未公開のドキュメンタリー映画を松嶋さんとの軽妙なトークで浮き彫りに。さらに、映画から見えるとんでもない"世界の現実"を説き明かす! 町山氏の書き下ろし解説&ふたりの特別対談付き。
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