(c)2008 MAGNOLIA PICTURES ALL RIGHTS RESERVED
様々なカテゴリーから選ばれた日本未公開のドキュメンタリー映画を紹介する人気番組『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』(TOKYO MX)。映画評論家・町山智浩とオセロの松嶋尚美のコンビの司会ぶりも人気のこの番組が『松嶋×町山 未公開映画祭』として期間限定でWEB公開を開始。さらにそのなかから選りすぐり9本の作品が激情公開が決定。『リアル!未公開映画祭』から今回は、アメリカのプロスポーツをステロイドという薬剤から検証する『ステロイド合衆国~スポーツ大国の副作用』を、スポーツジャーナリストの二宮清純氏とスポーツ&音楽ライターの玉木正之氏が語る。
作品情報
『ステロイド合衆国~スポーツ大国の副作用~』
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アーノルド・シュワルツェネガー、ハルク・ホーガン、シルヴェスタ・スタローン等に憧れ、ステロイドを使用し続けている監督自身の兄と弟のエピソード。また、プロスポーツ選手や医療係のエキスパートたちへのステロイドに関するインタビューを通して進行するドキュメンタリー。「ステロイドの使用はアメリカ社会を反映している」という真実を暴く。
2008年/アメリカ/105分
監督:クリス・ベル
製作スタッフ:ジム・チャルネッキ
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プロスポーツは国威発揚のための手段となり得る
── 二宮清純
本作品『ステロイド合衆国』は、ステロイドをテーマにスポーツ大国アメリカの真の姿を描いた、秀逸なドキュメンタリー作品である。
監督のクリス・ベルは、少年時代にプロレスラーのハルク・ホーガン、俳優のアーノルド・シュワルツェネガーやシルヴェスタ・スタローンらに憧れてパワーリフティングの選手になった男。プロスポーツ選手や医療・薬物関係の専門家へのステロイドに関するインタビューを通じてドキュメンタリーは進行していく。監督自身、現在はステロイドは服用していないのだが、彼の兄と弟は現在でもステロイドを服用する常習者であり、そういった部分で非常にリアリティのある作品となっている。
作品の中では多くの専門家がそれぞれの立場から意見を述べているのだが、「ステロイドは悪」という単純な意見だけを取り上げるのではなく、賛成派や反対派の意見を第三者的な視線から冷静に紹介している。また、近年話題にのぼることの多いステロイドだが、一言で「ステロイド」と言っても医薬品を含めて実は様々な種類がある。「ステロイド」という言葉だけが独り歩きしてメディアを通じて正しく理解されていないという現状も、客観的に取り上げている。
そんな『ステロイド合衆国』が秀逸な作品であるという理由、それはこの作品が、ただのステロイドを追った作品に留まっていないという点にある。現代アメリカにおけるステロイドの実情やステロイドにまつわる様々な事象、及びステロイドに関わる人々の姿を追うことで、この作品はアメリカ合衆国という国家の実像を浮き彫りにしているのだ。
作品の冒頭でも取り上げられているプロレスは最たるものだが、近年メジャーリーグにおいてバリー・ボンズやマーク・マグワイヤが「テロに負けないアメリカ」としての象徴として扱われたように、プロスポーツは国威発揚のための手段となり得る。そうである以上、アメリカンスポーツを語るということは、アメリカ合衆国という一つの国家を語るということに他ならない。
ステロイドやスポーツという狭い範囲の事柄を追うだけでなく、ステロイドという一つのテーマを深く掘り下げることでアメリカ合衆国の実像を暴き出すのが、この「ステロイド合衆国」という作品である。アメリカンスポーツに興味がある人だけではなく、誰が見ても面白く、また非常に考えさせられる作品だと言えるだろう。(談)
(『松嶋×町山 未公開映画祭』ホームページより)
■二宮清純 プロフィール
スポーツジャーナリスト。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。
近著に、「プロ野球の一流たち」(講談社現代新書)「野村克也 知略と戦略」(PHP研究所)富家孝氏との共著『一流アスリートの「身体脳力」』(青春新書インテリジェンス)河野太郎議員との共著「変われない組織は亡びる」(祥伝社新書)などがある。
[HP]http://www.ninomiyasports.com/sc/
携帯サイト[二宮清純.com]http://ninomiyaseijun.com"
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スポーツに囲まれた現代人必見のドキュメンタリー
── 玉木正之
『未公開映画祭』に並んでいる39作品をすべて見たわけではない。が、この素敵なドキュメンタリー映画の数々には、一つの傾向のようなものがあるようだ。
それは、製作者側の個人的な立場や、個人的な意思、また個人的な感情が、見事に作品のなかに取り込まれている、ということである。
そういう作り方は、日本のメディアでは珍しい。
あるいはマスメディアだけの特徴かもしれないが、フリーランサーとして40年近くメディアで仕事を続けている小生も、個人的な立場や意思や感情は、不必要なものとして、いや、それ以上にプロとは言えない素人の手段として、できるだけ排除するのが常だった。
ところが『未公開映画祭』に並んだ作品には、たとえば『ビン・ラディンを探せ!』でイラク、アフガン、パキスタンを歩き回る監督(『スーパーサイズ・ミー』の監督スパーロック)は、自分たち夫婦に子供が産まれるのをきっかけに、「子供を守りたい」という個人的な事情から、「ビン・ラディンを探そう」とするのである。
その結果アメリカで喧伝されているのとは大違いのイスラム社会やイスラム教徒の普通の人間としての一面を見出す。そのとき、「個人的事情」と「社会的事情」の関係が、じつに見事にシンクロし、描き出されるのだ。
『レリジュラス~世界宗教おちょくりツアー』で、監督が自分の母親の信仰を紹介しながら宗教のあり方に疑問を呈するのも、『イエスメン~大資本と戦うお笑いテロリスト』の2人組が、自らWTOの人間になりすますのも、『スーパー・ハイ・ミー』でスタンダップ・コメディアンが、自らマリファナを1か月間も吸い続けるのも……。それらの試みが単なる個人的事情に留まらず、社会的事情にジャンプアップする瞬間、ドキュメンタリー作品としての見事な輝きを放つのだ。
そんななかで『ステロイド合衆国~スポーツ大国の副作用』も、なかなか見事なドキュメンタリー作品である。
スポーツマンの3人兄弟の真ん中の男が、薬物を使って「大きく魅力的な筋肉を作ること」に疑問を感じ、それを実行し続ける兄や弟へのインタビューを敢行する。
さらに息子たちの薬物使用を知ってショックから涙する母親の感想を交える一方、アメリカのスポーツマンたちの薬物使用の実態に鋭く迫る。
シュワルツネッガーやスタローンなどの「筋肉美」と「強さ」を誇るアメリカ社会の現実、遺伝子操作によって肉(筋肉)を異常に肥大化させた牛の存在、そしてカール・ルースへの直撃インタヴュー(ソウル五輪で金メダルを剥奪されたベン・ジョンソンだけでなく、繰りあげ1位になった彼も、薬物に手を付けていたのだ!)などまど、「素人」ならではの切り込み方の鋭さが、随所で遺憾なく発揮されている。
そしてステロイド使用の賛否両論も、きちんと並べて紹介しているのも、有識者の意見よりも、素朴な疑問を優先させた「個人的事情」を出発点に据えているから、といえるだろう。
この映画に描かれているのは、言わばアメリカの恥部ではある。が、テーマは、アメリカ人だけの問題ではない。
オリンピック、ワールドカップ、ゴルフ、テニス……等々、毎日至る所にスポーツが存在するようになった現代社会に暮らす現代人にとって、この映画は必見のドキュメンタリーである。
(『松嶋×町山 未公開映画祭』ホームページより)
■玉木正之 プロフィール
1952(昭和27)年、京都市生まれ。スポーツ&音楽ライター。横浜桐蔭大学員教授・静岡文化芸術大学客員教授・立教大学大学院非常勤講師。毎日放送『ちちんぷいぷい』、東海テレビ『スーパーサタデー』、NHK『クローズアップ現代』NHK-BS『ブックレビュー』、BSフジ『プライムニュース』などにコメンテイターとして出演。2010年9月にはNHK教育テレビ『歴史は眠らない・柔の道』4回シリーズに出演。主な著書は『スポーツ解体新書』(朝日文庫)『続スポーツ解体新書』(財界展望社)『スポーツとは何か』『ベートーヴェンの交響曲』『ロマン派の交響曲』(以上・講談社現代新書)小説『京都祇園遁走曲』はNHKドラマ新銀河でドラマ化された。主な翻訳書に『和をもって日本となす』(R・ホワイティング著・角川文庫)『日本式サッカー革命』(S・モフェット著・集英社)など。
公式サイト:http://www.tamakimasayuki.com/
★リアル!未公開映画祭イベント情報
開催にあわせて、渋谷アップリンクにてスペシャルイベントを開催!毎回、多彩なゲストをお迎えします。
『ジーザス・キャンプ』
2010年12月25日(土)13:30の回
ゲスト:辛酸なめ子さん(漫画家・コラムニスト)×島田裕巳さん(宗教学者)
予約・イベント詳細はこちら
『ビン・ラディンを探せ!』
2010年12月25日(土)18:30の回
ゲスト:松江哲明さん(ドキュメンタリー監督)×岩田和明さん(映画秘宝)
予約・イベント詳細はこちら
『ステロイド合衆国』
2010年12月26日(日)13:30の回
ゲスト:板垣恵介さん(漫画家)
予約・イベント詳細はこちら
『フロウ』
2010年12月26日(日)18:30の回
ゲスト:吉村和就さん(グローバルウォータ・ジャパン代表、国連環境技術顧問)
予約・イベント詳細はこちら
『カシム・ザ・ドリーム』
ゲスト:下村靖樹さん(フリージャーナリスト)
2011年1月8日(土)20:30の回
予約・イベント詳細はこちら
『金正日花/キムジョンギリア』
ゲスト:土井香苗さん(国際NGO ヒューマン・ライツ・ウォッチ 日本代表)
2011年1月8日(土)13:30の回
予約・イベント詳細はこちら
『ジャンデック』
ゲスト:佐々木敦さん(批評家)×湯浅学さん(評論家)
2011年1月9日(日)20:30の回
予約・イベント詳細はこちら
『クルード』
ゲスト:藤岡亜美さん(スローウォーターカフェ有限会社代表 / 環境NGOナマケモノ倶楽部共同代表)
2011年1月9日(日)13:30の回
予約・イベント詳細はこちら
『ビーイング・ボーン』
ゲスト:堀口貞夫さん(産婦人科医)
2011年1月10日(月・祝)13:30の回
予約・イベント詳細はこちら
『リアル!未公開映画祭』
2010年12月25日(土)より渋谷アップリンク・ファクトリーほか全国順次公開
TOKYO MXで絶賛放映中の人気番組『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』で紹介された、政治、宗教、人種、教育、ビジネスなどなど、様々な題材を扱った日本未公開の海外ドキュメンタリーの中から厳選した9本を劇場で公開!
『リアル!未公開映画祭』公式サイト
『ステロイド合衆国~スポーツ大国の副作用~』上映日時:
12/26(日)13:30、12/27(月)16:30、12/28(火)18:30、12/30(木)12:30、1/2(日)14:30、1/3(月)18:30、1/4(火)16:30、1/6(木)18:30、1/8(土)18:30、1/10(月・祝)18:30
★『ステロイド合衆国』イベント情報
日時:2010年12月26日(日)13:30の回『ステロイド合衆国』
場所:渋谷アップリンク・ファクトリー
ゲスト:板垣恵介さん(漫画家)
予約・イベント詳細はこちら
★追加上映が決定!
『カシム・ザ・ドリーム』1/15(土)1/19(水)各日13:00~
『ステロイド合衆国』1/18(火)13:00~ 1/20(木)11:15~
『ジーザス・キャンプ』1/16(日)1/19(水)各日11:15~
『ビン・ラディンを探せ!』1/15(土)1/18(火)各日11:15~
『金日正花』1/16(日)1/20(木)各日13:00~
『クルード』1/12(水)11:15~
『ジャンデック』1/12(水)13:00~
『フロウ』1/13(木)11:15~
『ビーイング・ボーン』1/13(木)13:00~
場所:渋谷アップリンク・ファクトリー
▼『リアル!未公開映画祭』予告編
松嶋×町山『未公開映画祭』
1作品ワンコインで72時間、VOD配信中!
『ステロイド合衆国』もVODにて配信中。『未公開映画祭』は、1作品ワンコイン500円で購入することができ、全39作品フリーパス(10,000円)や、5作品選べるコース(2,000円)も用意されている。
松嶋×町山『未公開映画祭』公式サイト
・『ステロイド合衆国』VOD配信購入はこちら
・一括購入ページはこちら
書籍
『松嶋×町山 未公開映画を観る本』
過激でアブない危未公開映画を大公開!
TOKYO MXでオンエア中(金曜23:30~24:30)の「松嶋×町山 未公開映画を観るTV」がついに単行本化!NO.1映画評論家にして人気コラムニストの町山智浩とお笑い界の"迷言女王"ことオセロの松嶋尚美が過激でアブない未公開映画をおもしろまじめなトークで大公開!! 町山氏セレクトによる未公開のドキュメンタリー映画を松嶋さんとの軽妙なトークで浮き彫りに。さらに、映画から見えるとんでもない"世界の現実"を説き明かす! 町山氏の書き下ろし解説&ふたりの特別対談付き。
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