骰子の眼

art

東京都 渋谷区

2010-12-01 19:15


アフリカの困難な歴史や政治的混乱の中で、逞しく作品を生み出し続ける同時代の若手アーティストたちを紹介する『access AFRICAN ART』開催

厳しい文化的状況を打ち破る色彩感とパワーを秘めた作家について、主催のAfricArt design黒木 皇さんに聞く。
アフリカの困難な歴史や政治的混乱の中で、逞しく作品を生み出し続ける同時代の若手アーティストたちを紹介する『access AFRICAN ART』開催
エマニュエル・ンクランガ

同時代を生きる若手アフリカンアーティストたちの作品が一同に会した『access AFRICAN ART-東アフリカ・アート・ビエンナーレ出展作家を中心に-』が12月13日(月)まで渋谷のアップリンク・ギャラリーで開催されている。タンザニア・ダルエスサラームで行われている東アフリカ・アート・ビエンナーレ出展作家を中心に構成。展示を企画したAfricArt designの黒木 皇さんにそれぞれのアーティストについて、そしてアフリカのアーティスト事情について解説してもらった。「僕が見て、心を揺り動かされるような輝きを放つもの、反応したものだけ選んでいます。まだまだ知られていないアフリカを知ってもらうために、多様なスタイルとカルチャーをそれぞれに解釈して消化して、発信してほしい」という黒木さんの思いのもと構成された展示は、アフリカの文化を知る格好の手がかりとなることは間違いない。




ANWAR SADAT(アノワール・サダット)

01_ANWAR0

彼の家族はアーティスト一家で、それもあって画家になったそうです。医者志望だったこともあって、女性を描くときは医学的なことも鑑みたものが出ていたり、首の長い女性を描くことが多くて、それは未来を覗くということを暗示していると言っていました。彼のモチーフは人物と自然で、すごい色鮮やかで、ただ派手というよりは、きれいで色彩センスが抜群なのが特徴です。自らの創作活動に忙しい中、ウガンダの孤児院のアート教育に協力してくれていて、毎週木曜日にカンパラの孤児院でボランティアとして子供たちに絵を教えてくれています。

01_ANWAR1
アノワール・サダット「IN THE WILD」

1985年ウガンダ生まれ(ウガンダ人)
Makerere University/medical school mulago 卒業
1986年に始まったウガンダの内戦で多くの人々が亡くなり負傷した。ANWARは戦争の傷を克服するために医者の道を選択したが、すぐに限界を感じる。死よりも、重い恐怖の存在を知ったからだ。自分や家族に対して何も出来ないという失望感が、死よりも恐怖なのだ。そしてANWAR は、心にアプローチしてゆける芸術の道を歩むことになる。
現在は、AfricArt design(アフリックアート)と恊働でHIV/AIDなどによる孤児へのアートクラスも実施している。
【主な展覧会】
・2010:「In the wild」AFRIART GALLERY , Uganda.
・2007:「Inner beauty」 AID CHILD GALLERY ,Sheraton hotel,Uganda
・2006:「Strength of a woman」, Netherlands
・Beauty in Africa, museum of African art, S.KOREA




COLLIN SEKAJUGO(コーリン・セカジューゴ)

02_Collin0

ルワンダのアート界では彼を知らない人はいない。イブカ・ルワンダというアートスタジオを立ち上げて、ルワンダのアートの先頭を走っています。他にもスタジオがいくつかできはじめてきましたが、彼のスタジオで学んで独立していくことが多く、彼の元から多くのアーティストが輩出されています。彼の絵は躍動感があって、実力的にもひとつとび抜けていると思います。街でお金をせびっている子供たちはたくさんいますが、アートであれば、集まって、その瞬間だけでも楽しむことができる、とストリートチルドレンに伝統舞踊を教えていたり、インスタレーションをやったり、パフォーマンスもしたりと万能です。

02_Collin1
コーリン・セカジューゴ「Dancing」

1980年ウガンダ生まれ(ルワンダとのハーフ)
ルワンダの芸術界のトップランナー。アートセンター「IVUKA arts Kigali」の創設者。2011年にはウガンダにおけるレジデンス事業を本格的に始動する予定(AfricArt design提携事業)。
また「RwaMakondera Children’s Dance Troupe」というルワンダの伝統的なダンスプロジェクトを主宰するなど、現地の子どもへの芸術教育にも力を注ぐ。
Collinが生み出す芸術は、社会的良心や治癒(ヒーリング)に関するものあり、壊れた社会が抱える問題への関心を喚起させます。Collinはアートワークを通して、社会を形成するもしくは破壊する要素における概念を表現しており、そしてそれは社会的変質のためのデモンストレーションである。
【主な展覧会】
・2010: 「AS RWANDA TURNS」, Goethe Institut, Kigali ,Rwanda
・2010:「Dialogue Among Civilizations」, Durban Art Gallery, Durban ,South Africa
・2009:「Musicals」, Closer Look, Chicago ,USA
・2005:「IZUBA」, American Embassy, Kigali ,Rwanda
・2005:「WESM ART FESTIVAL」, Lilongwe ,Malawi




Daudi Karungi(ダウディ・カルンギ)

03_Daudi0

今回紹介するアーティストのなかでいちばんビジネスとして成功していて、プロモーションもうまくて、自分でギャラリーを持っています。そこで若手のウガンダのアーティストの発表の場としてエキシビションを一か月おきくらいにやっています。ウガンダってアーティストを続けていくことがすごく難しく、結婚して子供を産んで、家族を食べさせていかなくてはいけないので、40歳くらいで芽が出ないと、先生や、関係ない別の仕事に就かざるをえない。なぜDaudiがここまで続けてこられたか、それは、彼が創作や作品への想いを自身の言葉で人々に伝える力を持っており、その結果、多くの人が彼の作品が生み出された背景や文脈を理解し購入するようになっていったんだと思う。そうして、アフリカの厳しい環境の中を生き抜いてきたという気がします。

03_Daudi1
ダウディ・カルンギ「love fetches water」

ウガンダ生まれ(ウガンダ人)
Margaret Trowel School of Industrial and Fine Art MTSIFA of Makerere University 卒業
Daudiは国内外でウガンダの芸術振興の為に尽力している。2002年にウガンダ人アーティストの作品を展示するAfriart Galleryを設立し、2010年には国内のアートカルチャーを紹介する冊子STARTを創刊している。
【主な展覧会】
・2008: New Grounds exhibition at Susan Elley Gallery New York.
・2007: East African Art Biennale EASTAFAB 2007, Dar es salaam, Tanzania.
・2007: Crossing Africa East to west, Copenhagen and Hobro, Denmark
・2005: Everyday people Solo exhibition, Aid child Gallery.
・2005: Southern Graphics Conference, Washington DC, USA.




David Kigozi(ディビッド・キゴゼィ)

04_david0

彼のアトリエは郊外の丘の上にあって、いつも目の前にいる鶏や山羊、そして花などを常に描いています。自然に対する敬愛がひとつの彼の主義になっていて、ウガンダは樹木の伐採が問題となっているんですが、それに対抗するアートイベントで反対を呼びかけるなどしています。

04_david1
ディビッド・キゴゼィ「Cock in the Mums」

1975年ウガンダ生まれ(ウガンダ人)
Kigoziは自然に対し常に敬意を払う。彼の作品は、彼が過ごす日々、日常に基づいています。アトリエ(首都カンパラ郊外の丘にある)からみえる、色鮮やかな花々・走り回る鶏や山羊、そして遊ぶ子どもたちを描き続けます。アフリカでも進行する都市化、自然破壊。
彼は描き続ける何気ない日常風景に、幼少時代と変わらない自然を求めているのではないだろうか。




Emmanuel Nkuranga(エマニュエル・ンクランガ)

05_Emmanuel0

毎週彼は土曜日に孤児院にアートセラピーを行っています。絵の具を持って、みんなで同じモチーフを描いたり、なりたいものを描いたり、孤児たちと一緒にお絵かきをします。ルワンダはギャラリーも美術館もないのでファインアートに触れる機会がほぼない。でも、そもそも生まれもってダンスも音楽も好きだし、子供たちも小さいころからゴミを集めてものを作ったりしているので、身近にアートがあります。彼が活動するイブカ・ルワンダのスタジオでは、子どもたちの歌やジャンベを叩く音で溢れています。

Emmanuel2
エマニュエル・ンクランガ「Walk of Life」

1987年ウガンダ生まれ(ルワンダ人)
「IVUKA arts Kigali」の創設者Collinにその才能を見出され若くしてルワンダを代表するアーティストのひとりに成長している。
1994年ルワンダ内戦(大虐殺)の際はウガンダにおり自身は被害を受けなかった。
ウガンダで育ったあと本国ルワンダに移り住み、内戦による孤児などへの精神的サポートを行っている。
Emmanuelをはじめ、ルワンダには孤児や女性サポートをライフワークとしている画家が多い。
【主な展覧会】
・2010:「Vernissage Ruanda」 Vorderseite,Berlin,Germany
・2010: 3rd East African Art Biennale, at Goethe institute ,Kigali,Rwanda
・2010:「Isoko colours」 Laico hotel, Kigali,Rwanda.
・2010:「UN art competition」hotel de mille coline Kigali,Rwanda.
・2009: ivuka arts at American Embassy,Kigali,Rwanda




ERIA NSUBUGA “SANE”(エリア・スブガ “サネ”)

06_SANE0

唯一と言っていい、既に日本にファンがいるアーティスト。アフリカでアーティストとして生き延びる術かもしれないですけれど、彼の作品は他のアーティストのよりも小さいものが多く、またブッシュ前アメリカ大統領や現在のウガンダの大統領であるムセべニ大統領の風刺を絵で表現したり、いろんなスタイルを使い分けています。ウガンダの作家のほとんどが首都のカンパラで創作しているんですけれど、ずっと静かなところで制作したいと、珍しく郊外のエンテベというビクトリア湖の湖畔の街で創作しています。カンパラにいないとなかなかアーティストとしての生活は難しいのですが、彼は学校で美術の先生をしながら活動を続けています。

06_SANE2
エリア・スブガ “サネ”「School Assembly」

1979年ウガンダ生まれ(ウガンダ人)
Margaret Trowel School of Industrial and Fine Art MTSIFA of Makerere University 卒業
政治や社会、歴史の問題に多くの関心をよせ、批判的に自身の作品に反映させている。
それは政治的支配層や過去の植民地政策への非難に終始するわけではなく、アフリカの人々へのメッセージという意味合いが強い。
【主な展覧会】
・2010: SOLO EXHIBITION, GALERIE AKKU, AMSTERDAM, THE NETHERLANDS.
・2009: GALLERY 122, HANG IT, NORTHEAST MINNEAPOLIS, MINNESOTA, USA.
・2007: 3rd East African Art Biennale, Dar Es-Salaam, Tanzania .
・2003: East African Art Biennale, Dar Es-Salaam, Tanzania .




Jjuuko Hoods(ジューコ・ホッズ)

07_Jjuuko0

ジューコは、アノワールと一緒にイブカ・ウガンダで活動をしています。彼はイブカ・ウガンダのディレクターをやっていて、ウガンダの若手を引っ張っている存在です。ディレクターというのは、エキシビションをやるにあたってギャラリーと折衝したり、イブカ・ウガンダをパブリッシングにどう出していくかとか、次のアーティストを大学生の頃からスタジオに呼んで育成するとか、そうしたマネージメントを行っています。マーケットに人が集まって女性たちが商売をしている様子など、彼は現地の日々の生活を鮮やかに描き出します。

07_Jjuuko1
ジューコ・ホッズ「Market Day」

1980年ウガンダ生まれ(ウガンダ人)
Makerere University卒業
アートスタジオ「Ivuka arts Uganda」ディレクター。Jjuukoは、現代性と伝統的思考の両方を統合することによって現代のアフリカ芸術を変化させることを試みている。またバーククロスというウガンダ伝統的な素材(木の皮から生成)をキャンバス代わりに使用するなど素材への探究心も旺盛だ。
現在は、AfricArt design(アフリックアート)と恊働でHIV/AIDなどによる孤児へのアートクラスも実施している。
Jjuukoの作品は12月に日本で発売の書籍『集合知の力、衆愚の罠』(英治出版)の表紙を飾っている。
【主な展覧会】
East African Art Biennale(Dar es salaam, Tanzania)などの国際展をはじめ、その他国内外で個展、グループ展多数。




Mary Naita(マリー・ナイタ)

08_Mary0

唯一の女性ですが、ウガンダではかなりビッグなアーティストです。アフリカで女性は子供を何人も産むので子供を育てるので精一杯。そのなかで、アーティストとして活動するのは相当珍しいのですが、マリーはその数少ないひとりです。自分の子供はひとりなんですけれど、親戚の子供が家にいて4人くらいを育てている。なので集中して創作するのは朝6時くらいから8時くらいの子供に手を取られない時間だけなんです。アフリカでは女性の地位が低いので、よほど才能があって誰かに認められることをしなければ無理なんですが、彼女はもともとスカルプチャーを専攻していて、ウガンダにあるメインのモニュメントはほとんど彼女が作っています。今回一緒に展示するディビッドは弟です。

08_Mary1
「マリー・ナイタThe bridal car」

ウガンダ生まれ(ウガンダ人)
Makerere University卒業
アフリカではまだ少ない女性アーティストでママさんアーティスト。
ウガンダ国内の主要なモニュメントを手がける彫刻家。隣国ルワンダでも多くのプロジェクトを行うなど国際的に活躍している。彫刻制作で培った技術・感性は躍動感と繊細さが同居する絵画作品をも生み出し続けている。ウガンダの若手作家にとって憧れのアーティストである。

(取材・文:駒井憲嗣) Copyright (C) 2010 AfricArt design All Rights Reserved.



■黒木 皇(KOH KUROKI) プロフィール

アートディレクター/アートプロデューサー/美術家/旅人。
同時代のアフリカンアーティストのマネジメント・プロデュース事業やアフリカでのアーティスト・イン・レジデンスなどの日本・アフリカ間の芸術交流事業を行うアートマネジメント事務所・AfricArt design(アフリックアート)主宰。
1982年、福岡県福岡市生まれ。これまでに約50カ国を旅して世界のアートに触れている。特にアフリカに関しては、年数回訪問し現地のアーティスト達との交流を続けている。またウガンダの孤児院での生活をきっかけに孤児へのアート教育をライフワークとする。現在はアフリカンアーティストのプロデュース、アフリカでのアートプロジェクト、日本・アフリカ間の文化芸術交流事業などを中心に活動している。
http://www.africartdesign.com/




『AFRICAN ART-東アフリカ・アート・ビエンナーレ出展作家を中心に-』

日時:2010年12月1日(水)~12月13日(月)12:00-22:00
会場:渋谷アップリンク・ギャラリー
(東京都渋谷区宇田川町37-18トツネビル1F)[地図を表示]
渋谷東急本店右側道200m右側
入場無料

レビュー(0)


コメント(0)