骰子の眼

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2008-04-12 17:50


映画『靖国』上映中止に抗議の緊急記者会見

4月12日に封切りするはずだった『靖国』の上映を見送る映画館が相次いでいる問題で、リ・イン(李纓)監督らが10日、参議院議員会館(東京)で記者会見を開いた。
映画『靖国』上映中止に抗議の緊急記者会見

映画『靖国 YASUKUNI』を上映予定していた映画館が中止に追い込まれた背景には、自民党の稲田朋美衆院や有村治子議員によるさまざまな戦略があったといわれている。なかでも有村議員は作品の主人公である、刀匠・刈谷直治氏が出演を了承していない如きの発言をした。こうした発言は表現の自由、言論の自由を大きく脅かすものとして、急遽「映画『靖国』への政治圧力・上映中止に抗議する緊急記者会見」を開いた。リ・イン(李纓)監督の他、ジャーナリストの田原総一朗氏、映画監督の是枝裕和氏ら14名が出席した。

リ監督は、「去年の8~9月頃から上映館が決まっていたのに、ここにきて上映中止になったのには非常に驚いています。この映画は日本、中国、韓国の力を合わせて作品。これこそ日本の国際化の時代の中のひとつの成果ではないかと思う。今回のことは日本の国際イメージにとってもマイナスになるのではないか」と語った。

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また、本作の出演者である刀匠・刈谷直治氏が自分の映像をカットするよう求めているという報道についても、「刈谷夫妻からは昨年4月に了承をもらい、上映がんばってくださいと言われました。なのに、有村治子参院議員が電話した後に、刈谷さんが変心した。国会議員がなぜそこまで出演者に介入するのか、どこまでの圧力をかけたのかわかりませんが、一国会議員がそこまでやっていいものなのか。この作品を上映させないために働きかけているというふうにしか受け取れません」と非難した。


以下、出席者によるコメント。

鈴木邦男(作家)

すべての責任は僕にあります。申し訳ございません。さきほど監督に謝罪しました。僕は最初からこの映画にかかわっていて、非常にいい映画と思ってましたから。右翼の人たちに「お前も反日か」と言われましたが、僕は公開した上で、それを見て反日だろうとなんであろうと賛成する反対するというのがいいと思って右翼の人たちに接近しましたし。でもダメでした。まったく伝わらなくて残念です。中止になったことを聞いてくやしくて涙が流れました。それは誰が悪いというわけでなくて、僕が悪いんです。40年間、右翼活動をやっていてそれくらいの力しかなかった、まったく無力だった、という意味で自己批判をしたいと思います。

その上で、生意気だから皆さんに言いたいけど、今いろいろと責任者探しや犯人探しをしています。週刊誌が悪い、国会議員が悪い、自己規制が悪い。いや、そんなことはない、俺たちはただ750万の助成金の問題に限らず中止しろといったことはないと皆言っています。じゃあ、誰が中止させたのか。第一に僕に責任があると思う。と同時に、少しずつは皆に責任はあるんじゃないのか。週刊誌はあおっているわけではないし、国会議員も中止をいったわけでもないし。でも右翼の人たちは従順ですから、真面目ですから、はなから週刊誌や国会議員を100%信じている。そういう人たちが言うんだったら間違いない。でも俺たちには言論の場がないと。だから街宣車で抗議するしかないと。もっともっと言論の場が与えられたら街宣なんかやらなくてもいい。だったら、そういう場を与えてあげたらいいじゃないですか。マスコミの皆さんも何十人で映画館の前に行って、右翼の街宣車がきたら皆でマイクを突きつけたらいい。そうすれば信念のある、本当の思想でやってる人たちは有難いと思って堂々と議論するでしょう。

また、映画館がだらしがないという人がいます。しかし、それは可哀想ですよ。右翼は怖いですよ、はっきりいって。じゃあ誰が守るかといったら、言論に命をかけているマスコミの皆さん方が守ってあげるしかないと思います。タレントが離婚したら何十人も集まるわけでしょ。そんな余力があるのなら、映画館の前に待機してあげたらいい。街宣車が1台きたら皆で囲んで話をきく。新聞やテレビなどのメディアの人たちは、右翼の人たちに言論の場を与えるから皆が怖がるような街宣はやめてくれといったらいいじゃないですか。簡単な話じゃないですか。国家や権力の問題だとか、そういう問題ですか? 違うでしょ? そんな小さな問題なのにかかわらず、大きくしている。問題自体を皆で考えてもらいたい。責任は僕にあります。ですから、攻撃するのか批判するのか。殴るんなら殴ったらいい。その上で考えてもらいたい。

あと、750万の助成金を文化庁が出したということはすごく誇りにすべきことだと思います。100歩譲ってそれが反日映画とするならば、そんな反日映画に対してもお金を出すって言うのは日本の誇りですよ。日本の余裕ですよ。日本の寛容さを示すものですよ。いま日本に誇りなんてほとんどないでしょ。唯一の誇りだと思うし、唯一僕が愛国心をもてることだと思います。


野中章弘(ジャーナリスト)

この映画は監督をはじめスタッフの方々が10年間かけて、靖国というものを通して日本人の、そして日本という国の精神構造、文化的な土壌、思想的な源というものを考えて作られたものです。そういう意味では監督の意図というのが非常に明確に現れた上質なドキュメンタリーです。こういう作品がでてきたということは、製作者が中国人であることとは関係なしに、我々自身が靖国というものを通して、日本をどう考えるのかということの貴重な問題提起になった作品だと思います。

今回の件は、表現の自由というのを持ちだすのもはばかれるような、お粗末な話だと思います。この映画をみていない人たちが一部の週刊誌に反日と書かれたことだけで行動してしまった、と。こういう問題は何かというと、右翼が街宣をかけたということだけで全部が崩れてしまった、つまり、踏みとどまることができなかったということですね。これは映画館の問題ではなくて、日本がそういうふうに何か圧力を受けたときに踏みとどまれないということ。自分たちのプライド、映画館のプライドといったものがどんどん後退をしてしまっているということではないでしょうか。

上映できないということ自体に、この僕らが生きている社会の言論の危機だと思っています。ですから、必ずこういうことが二度と起こらないように議論を行わなければならない。なぜ起きたのかということをジャーナリストとして、日本国民としてひとりひとりがきちんと考えていく、そういった事件だっただろうと思います。

斉藤貴男(ジャーナリスト)

稲田さんや有村さんとか、なんて恥ずかしいことをしてくれるんだろうとつくづく思いました。およそ出演者にまで圧力をかけ始めるというのは、これは一体いつの時代だろうと考えざるを得ません。つくづく最低な世の中になってしまったなと思います。なにが伝統と創造の会なのか。こんなものが日本の伝統であっていいわけないじゃないですか。日頃アメリカの言いなりになって、アメリカの戦争に兵隊や金まで出すような連中が、なにが愛国心なのか。ふざけるのもいい加減にしてほしいですね。

こういう場所に集まるのは皆フリーの方たちなんですよね。なんでフリーばかりなんですか。新聞やテレビや雑誌の社長が並んで一緒にやるべきですよ。なんで、僕らばかりやらなければならないのか、彼らは一体なにをやってるのか、一体なにがテレビや新聞の商売なのか。マスコミ悪い。しかし、実はマスコミも政治もさせてるのは国民です。敢えて言いますが、ああいう連中に票を入れる人が悪いんですよ。だって、それは支持してるし、やってくれっていっていることですから。それで、自分たちの言論どころか思想信条の自由まで自分で首を絞めて。もういい加減にわかんないと、僕らはまともに生きていくこともできなくなるんですよ。僕らの思想だとか自由とか尊厳とか、そんなものが全部連中に支配されて、結局どういう世の中になるのか、僕ら自身も、ここにいないああいう人たちもいい加減真面目に考えてもらいたいと思っています。

篠田博之(「創」編集長)

メディアがこれだけ一致して声明をだしたっていうのは、個人情報保護法のとき以来久々なんですよね。これはきちんと議論していくというひとつのきかっけになったのかなと思います。今回の件は、ある意味では今の日本の状況を象徴している事件なんです。上映中止になったのは相当な街宣攻撃があったのかと一般の人は思うんですけど、実はそうでもない。にもかかわらず、連鎖反応でこれだけ広がっちゃうというのは極めて日本的な状況なんですね。ですから、何がどうなってどうなったのかをきちんと検証しないといけない。メディアに関わる人たちがちゃんと検証してどうすればいいのかっていうのを考えていただきたい。他人事とせずに、言論や表現に関わる人たちが皆で考えなくちゃいけない事件だなと思いました。

配給会社のアルゴ・ピクチャーズによると、5月から東京を始め全国で公開する予定。劇場への妨害行動を防ぐために、上映する劇場名は現段階では伏せておくという。

(取材・文:牧智美)

<関連リンク>
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コメント(2)


  • takaki   2008-04-13 21:56

    件の有村治子議員の動画はこれですね。
    http://www.nicovideo.jp/watch/sm2909817
    強い憤りを感じます。

  • Gaku   2008-04-20 01:02

    映画「靖国YASUKUNI」出演者・刈谷直治氏へのインタビューです。
    http://jp.youtube.com/watch?v=Rv9qMLG98SY&feature=related

    こちらは文化庁による助成の是非を問うてる稲田朋美氏へのインタビューです。http://jp.youtube.com/watch?v=TpYnh9kQlgo&feature=related

    こちらは映画を製作するにあたって刈谷氏を紹介した協力者トム岸田氏へのインタビューです。
    http://jp.youtube.com/watch?v=Dy4fmkucHB4&feature=related

    これらを見ると、監督の言い分は非常に疑い深い内容に思われますし、
    他の方のコメントも、勝手にポイントを表現の自由という所に絞り、勝手にエスカレートした感じがします。

    もちろん表現の自由で、監督は制作発表するのは自由ですが、
    メインの出演者である刈谷氏をだます様な形にして(真偽は私には分かりませんが、刈谷氏本人は自分の出演シーンを全てカットしてほしいとはっきり発言しています。)ドキュメンタリーとして撮ったのは詐欺行為に近いと思います。