>タイトルにもなっているように、1999年から2000年にかけて新右翼の一水会代表である木村三浩を取材していた金子監督は、その一水会で元恋人が仕事をしていたこともあり、右傾化していく日本の状況とその中心人物たちに磁石のように吸い寄せられていく。自らの政治的思想とは別に、彼の思いがけない人間的魅力に惹かれていることに気づいた監督は、続けていた撮影と取材をいったん中止することになる。その後、元恋人の死を契機に当時の社会的な新右翼の潮流を振り返ることで、今作は90年代の新右翼の隆盛に対して、ひいては当時の日本の社会について一定の距離を取りながら検証を行っている。
我が者顔で他国を行脚していく木村の姿や街宣の様子など、そうした一水会に近い者しか描写することのできないシーンを繋げながら、そこに監督自身の心のぶれと葛藤がその空白の撮影期間を持って、10年後の回想がナレーションとして重なる。ある理想をもって運動に参加すること、そしてその理想が実現しなかったときの虚無感や挫折といったものは、今作で主題とされる政治思想についてだけでなく、学生運動や生活の権利、あるいは企業で働くことに至るまで、あらゆる場面で直面する私たちの問題ではないか。この映画に共感を覚えるとすれば、単なる一水会のドキュメンタリーとしてではなく、極私的だった今作の制作の出発点から、単なる右翼/左翼の問題を超えて広く問題を捉えている点においてではないだろうか。
映画『ベオグラード1999』
渋谷アップリンクにて公開中。ほか、全国順次公開
監督・撮影・編集:金子遊
出演:木村三浩、ヴォイスラヴ・シェシェリ、ヴォスラヴ・コシュトニツァ、一水会活動家の皆さん、西部邁、鈴木邦男、見沢知廉、雨宮処凛、野村秋介ほか
録音:牧野壽永
撮影助手:忠地裕子
現地コーディネイター:ドラガン・ミレンコヴィッチ
音楽:セルビア民族楽団、セルビア日本友好協会
協力:一水会、セルビア急進党、NASYOほか
製作:ベオグラード1999製作委員会
配給・宣伝:幻視社
2009年/カラー/video/80分
公式サイト