骰子の眼

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東京都 渋谷区

2010-11-05 18:47


【『スプリング・フィーバー』福島香織】中国の同性愛者の市民権はいまだ一部にしか得られていない─中国における恋愛の社会的制約

中国在住経験のあるジャーナリスト・福島香織氏が、中国の同性愛事情とゲイ、レズビアン・コミュニティをめぐる問題についてレビュー。
【『スプリング・フィーバー』福島香織】中国の同性愛者の市民権はいまだ一部にしか得られていない─中国における恋愛の社会的制約
映画『スプリング・フィーバー』より、ゲイの青年ジャン・チョンに扮するチン・ハオ

中国の同性愛者の市民権はいまだ一部にしか得られていない
──中国における恋愛の社会的制約
福島香織(ジャーナリスト)

純愛に性差など関係ない。落ちるときは本能に従うだけだろう。けれど、恋愛は実際には社会的な制約、価値観に縛られているのは言うまでもない。
ロウ・イエ監督の『スプリング・フィーバー』の背景には、中国の同性愛に対する根強い差別観、そしてメンツ、結婚というものの重さがある。

中国では2001年に中国精神医学協会が「同性愛を精神疾患に分類することをやめる」と公式に発表するまで、同性愛は「病気」だった。あるいは西側の爛れた文化に汚染された「変態」であり、公序良俗に反するものとして時には警察に犬のように追われ、取り締まられる対象でもあった。そういう長い迫害時代を経て、01年以降、徐々に同性愛者の人権擁護問題が中国社会でも取り上げられるようになった。05年には上海復旦大学で中国初の同性愛者の人権研究のゼミが開かれ応募者が殺到したことがニュースとなった。06年には中山大学(広東省広州市)で本土初の同性愛者の結社が認められた。07年には同性愛問題を論じるネットテレビ番組が放送され、カミングアウトしたレズビアン歌手が司会を務めた。その頃、ようやく北京では、バーやディスコで、ファッショナブルなゲイカップルが仲良さげにしているのを見かけられるようになったし、ゲイ・ナイト、ゲイ・パーティと呼ばれるイベントも行われていた。インターネット上ではゲイコミュニティがいくつもあり、昔のように公園を徘徊しなくても相手を見つけるのに不自由しない。ゲイやレズビアンを最先端の文化のように憧れ、そのファッションをまねる若者すらいた。学者たちは中国人口の3%、4000万人のゲイがいると述べ、中国における同性愛者の市民権は得られたかのようにも見えた。
しかしそれはあくまでも北京や上海などの国際都市のほんの一部の世界で、一歩そこから外れると、彼らにとっては本当に息苦しい社会が残っている。私は北京で同性愛カップルを何組も知っているが、親や職場にカミングアウトしているケースは聞いたことがない。

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映画『スプリング・フィーバー』より、探偵ルオ役のチェン・スーチョン(右)とその恋人リー・ジンを演じたタン・ジュオ(左)

北京市内であるレズビアン・コミュニティのメンバーと意見を交わしたとき、こんな話を聞いた。「私の両親は共産党幹部。おそらく私が同性愛者と知れば、恥をかかされたといって激怒して家から一歩も出されない。そのくらいメンツを傷つける」「中国では結婚し後継ぎを生まなければならないというプレッシャーがすごく強い。特に私たちの世代は一人っ子政策のもと、兄弟姉妹がいないから、そのプレッシャーを一身に受ける」……。社会保障制度が十分に整っていない中国では、子供が築く家庭は自身の老後の頼みでもある。いつまでも結婚しない子供のために、親が勝手に結婚相手を探してきて、結婚させるという話は今なお、当たり前のようある。春節(旧正月)休みに帰郷するとき、結婚相手役として親に紹介されるアルバイトの募集がインターネット上で流れるのも、結婚のプレッシャーと関係がある。そのコミュニティには親を安心させるために結婚したこともある人も少なくなかった。

映画中、既婚者のワン・ピンは男の恋人ジャン・チョンとの関係を妻に口汚くののしられる。妻の言葉を聞けば、夫婦間に愛情が生まれた形跡がない。なのに、妻はなぜそこまで夫に執着するのか。そして、ジャン・チョンから別れを告げられたワン・ピンはなぜ自殺してしまうのか。あまりに極端なリアクションは、中国の同性愛迫害の歴史とメンツ意識、結婚し子供を持たねば一人前でないという社会通念の厳しさを知らなければ共感できないだろう。
この物語は中都市・南京が舞台だ。もし彼らの出会いが北京や上海であれば、もう少し幸せなドラマの結末があっただろう。

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映画『スプリング・フィーバー』
2010年11月6日(土)より、渋谷シネマライズほか、全国順次公開

初日プレゼント
11月6日(土)初日ご来場のお客様に抽選で、中国への往復航空券やロウ・イエ監督の『ふたりの人魚』DVD、カフェ・レストラン「タベラ」の半額割引券が当たります。

プレゼント詳細

(1)その場で当たる!
カフェ・レストラン「タベラ」の半額割引券を各回50名様にプレゼント。
上映終了後に劇場前で当選発表します。
※引き替えには座席指定の鑑賞券が必要です。
(2)抽選で、中国への往復航空券、『ふたりの人魚』DVDが当たる!
初日にご覧になったお客様から抽選でプレゼントいたします。
●北京または上海への往復航空券を1名様
●ロウ・イエ監督作『ふたりの人魚』DVDを10名様
※応募方法:シネマライズに設置してある応募用紙に必要事項を記入の上、応募BOXに投函してください。
※尚、当選は発送をもってかえさせて頂きます。
※空港使用料、出入国税、燃油サーチャージの合計金額約1万円はご当選者様のご負担となりますことを予めご了承ください。
(協賛:IACETRAVEL)

【STORY】
現代の南京。女性教師リン・シュエは、夫ワン・ピンが浮気をしているのではないかと疑い、その調査を探偵ルオ・ハイタオに依頼する。尾行の結果、夫の浮気相手はジャン・チョンという“青年”であった。
尾行されていることに気づいていない夫ワンは、妻にジャンを"同級生"だと紹介する。妻に、ジャンを家族のように見てくれれば便利だと考えたからだ。しかし、ある出来事をきっかけに夫婦関係は破綻し、ジャンの心は、ワンから離れていってしまう。
一方、尾行するうちにジャンのことが気になり始めた探偵のルオは、ジャンに近づく。次第に惹かれあうふたり。しかし、ルオにはリー・ジンという恋人がいた。
ジャン、ルオ、リー・ジン。それぞれの想いを胸に、奇妙な三人の旅が始まった……。

第62回カンヌ国際映画祭脚本賞受賞
監督:ロウ・イエ
出演:チン・ハオ、チェン・スーチョン、タン・ジュオ、ウー・ウェイ、ジャン・ジャーチー、チャン・ソンウェン
脚本:メイ・フォン
プロデューサー:ナイ・アン、シルヴァン・ブリュシュテイン
撮影:ツアン・チアン
美術:ポン・シャオイン
編集:ロビン・ウェン、ツアン・チアン、フローレンス・ブレッソン
音楽:ペイマン・ヤズダニアン
製作:ドリーム・ファクトリー
ロゼム・フィルムズ
配給・宣伝:アップリンク
中=仏 / 115分 / 2009年 / カラー
公式サイト
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