骰子の眼

art

2008-02-19 11:00


メイプルソープ写真集裁判、最高裁猥褻の基準見直し!映画からボカシがなくなる!?
  • 陰茎を中央に配置する形で撮影した写真であって、極めて露骨に陰茎を強調する写真/国の説明

2月19日最高裁判所において、アップリンク発行のメイプルソープ写真を浅井隆(アップリンク代表取締役)が国内に持ち込もうとして国が輸入禁止をした処分の取り消しを求めた行政訴訟に勝訴しました。

【以下、判決に至るまでの経緯/記:浅井隆】 
1987年にアップリンクを設立し、映画の輸入、配給業務を開始しました。第二回東京国際映画祭(87)で上映されたデレク・ジャーマン監督作品『ラスト・オブ・イングランド』は映画祭では無修正で上映されましたが、アップリンクで配給するために再度輸入手続きをする際には男性器が写っているシーンは関税定率法21条により輸入禁止処分を受け、やむを得ず該当箇所にいわゆるボカシを入れて輸入し、上映しました。その後も、映画の内容には関係なく、性器が見えるということだけで輸入禁止の処分を受け、ボカシの作業を自主規制で行い、輸入する映画作品がたびたびありました。

1992年に土屋勝さんがホイットニー美術館で催されたメイプルソープ展のカタログを DHLで輸入しようした際、関税定率21条により輸入禁止処分を受け、行政訴訟を起こしたことを知りました。
メイプルソープの写真でさえ輸入禁止になるという日本の文化状況、それならメイプルソープの写真集を日本で出版しようと思いました。輸入がだめなら和書としてきちんと出版しようと言うことです。

まず、アメリカのランダムハウスから日本販売の権利を取得し1994年11月にアップリンクより国内での販売を始めました。そして国内での販売を5年間行い、警察の取締まりを受けることなく販売をしたという実績を作りました。そして1999年10月にアメリカに商用で見本品として一旦持ち出し国内に持ち込んだ際、税関にこの写真を没収されました。関税定率法21条により輸入禁止の処分にするという通知が後日きました。

このことは想定済みのことで、猥褻事件で被告にならず、私自身が原告になり国を訴えるにはどうすればよいかということを土屋さんのケースで知りました。和書の発行においても、一旦国外に持ち出し、輸入禁止の処分となれば行政訴訟を起こすことができると考えたのでした。その際に、裁判を有利に運ぶためには、まず国内での販売実績を積み、国内の風俗を乱していないという事実をまず築く必要があるため5年間発行を続けました。土屋さんのホイットニー美術館のカタログは最高裁で輸入禁止と処分を受け、アップリンクのメイプルソープ写真集は問題なく国内で販売を行っている。なにかおかしなシステムだなと思いました。
その矛盾を国に問いただしたいという思いがあり裁判を起こしました。

2000年にはギャガ配給の大島渚監督『愛のコリーダ』の宣伝を協力する機会を得ました。1976年製作の映画が、2000年の時点でも多くのボカシをしての上映を余儀なくされ、映画監督の意図した映像を日本の観客に観てもらうことができないのは非常に残念で憤りを覚えました。
この裁判に勝訴することにより、映画をボカシた状態での上映や、写真集の一部を黒く塗りつぶしたり、ヤスリで局部を削っての出版がなくなる時代になることを望みます。

【最高裁判決までの時系列年譜、判決、上告、答弁の原文】
1994年11月1日 アップリンクよりメイプルソープ写真集発行
1999年2月13日 最高裁判所、別のメイプルソープ裁判の土屋原告の上告を棄却
1999年9月21日 浅井、アメリカより帰国の際、成田空港の税関で写真集を没収
1999年10月12日 東京税関成田税関支署長、輸入禁止処分
1999年11月6日 浅井、東京税関長へ異議申し立て
2000年3月2日 東京税関長、異議申し立てを取り消し
2000年4月2日 浅井、大蔵大臣に対して審査請求
2000年5月22日 警視庁から呼び出しを受け、警告を受け販売を見合わせる
2000年6月28日 大蔵大臣、審査請求を棄却
2000年9月12日 東京地方裁判所に国の処分の取り消しを求め提訴
2002年1月29日 東京地方裁判所判決、原告勝訴

[判決文]http://www.uplink.co.jp/ex/pdf/mapplethorpe/h14chisai.pdf

2003年3月27日 東京高等裁判所 原告敗訴
[判決文]http://www.uplink.co.jp/ex/pdf/mapplethorpe/h15kousai.pdf

[上告受理申立理由書/原告]
http://www.uplink.co.jp/ex/pdf/mapplethorpe/h15riyuusho.pdf

[上告に対する国の答弁書]
http://www.uplink.co.jp/ex/pdf/mapplethorpe/h19touben.pdf

2008年1月22日 最高裁にて弁論

[原告の弁論要旨書]
http://www.uplink.co.jp/ex/pdf/mapplethorpe/asaibenron_saishu.pdf

[国の弁論要旨書]
http://www.uplink.co.jp/ex/pdf/mapplethorpe/1-22kunibenron.pdf

2008年2月19日 最高裁判所 原告勝訴
http://www.uplink.co.jp/ex/pdf/mapplethorpe/h20saikousai_0219.pdf
http://www.uplink.co.jp/ex/pdf/mapplethorpe/h20saikousai_0219A.pdf

【判決を受けて】

この写真集を猥褻でないと言い切ったのは、画期的な判決でした。
その理由として、全体のページ数に対する輸入禁止とした作品のページ数19/348ページ、モノクロの写真であること、作品の構図、一人の写真家の作品を1冊にまとめた編集、そして写真集の芸術性の点で輸入禁止すべきでないという判決でした。
また、土屋さんの裁判と同じ写真が3点ある訳ですが、その3点を含む、それらよりももっと性器がはっきり写っているものの輸入を許可したのは画期的であり、その理由として輸入禁止の処分の時点が異なるとあげています。土屋さんが輸入禁止処分を受けたのが、1992年、今回のケースが1999年。この7年間に最高裁の判決を覆すほどの時代の変化はなにか、それは判決文に触れられていませんが、インターネットのブロードバンド化の時代に他ならないと思います。
今まで、映画を輸入する際。税関は2時間の映画で性器が見えるのが30秒であろうと、その芸術性などは考慮できないので、一律に性器が見えているかいないかという判断基準で輸入を禁止してきました。
今回は、その全体の芸術性を認めたわけです。
映画における通関にも今回の判決がよいように働けばと思います。
ただし、今回司法が芸術性を判断したということは、今後、これは芸術性がないから猥褻だというケースがおこる恐れもあります。
また、実際に法を実行する税関においては今後どのような基準で輸入禁止かそうでないかを判断する作業も非常に難しいと思われます。
個人的には、今後、税関においては、芸術性の判断が難しいので猥褻に関するもの輸入は全て許可し、国内の法律で取り締まるということに取りあえずはなってほしく思います。
この判決の今後の影響ですが、個人的な感想としては、映画祭で上映されるような映画で局部が見えているからというような一律の理由で輸入禁止するということがなくなり、写真集などでも、局部を黒く塗りつぶしたり、ヤスリで削っての輸入、出版がなくなる方向に大きく猥褻の基準が変わったと思います。

【問題となった写真の点数】
・土屋裁判ケース、ホイットニー美術館カタログ 3点が輸入禁止
・今回のケース 
書名『ロバート・メイプルソープ写真集: MAPPLETHORP』
版型:31.2センチ×30センチ四方の大型豪華版
ページ数:384ページ
作品数(サムネイルを除く):261点/288点(サムネイル含む)
輸入禁止を受けた写真点数(サムネイルを除く):18点/20点(サムネイル含む)
土屋裁判と重複している写真数(サムネイル除く):3点/5点(サムネイル含む)

レビュー(0)


コメント(2)


  • NH   2008-02-22 00:31

    芸術なんていう普遍的なモノと、国家なんていう被文化拘束的なモノの戦いですから難しいですよね。本来土俵が違う訳で。

    役人のやることだからマッピング的にならざるをえないんじゃないのかなぁ。以前は「性器 ⇒ 猥褻」のマッピングだったのが、性器描写以外の部分で「○○がある(ない)⇒ 猥褻じゃない」というマッピングに代わるだけだったり。

    うむ、やはり土俵つーか、地平が異なる気がする。

  • DJ0219   2008-02-24 12:18

    おめでとうございます!
    (勝訴の日が、デレク・ジャーマンの命日とは何だか嬉しいです。)