骰子の眼

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東京都 渋谷区

2010-10-20 21:08


「〈音のない記憶〉としての写真を見て感じていただけら」カメラマン・宮沢豪の作品から紡がれる新たな『眠り姫』のストーリー

4年目のアンコール上映を迎えた映画『眠り姫』とともに、アップリンク・ギャラリーにて写真展を開催中
「〈音のない記憶〉としての写真を見て感じていただけら」カメラマン・宮沢豪の作品から紡がれる新たな『眠り姫』のストーリー
「光と音について」より 撮影:宮沢豪

カメラマン・宮沢豪が写真展「光と音について」「ホッテントットエプロン-スケッチ」を渋谷アップリンク・ギャラリーにて開催する。大学で出会ってから二十年来の友人でもあるという七里圭監督による、視覚を越えた映画体験として熱狂的な支持を集める『眠り姫』上映に会わせた個展。宮沢氏の写真の魅力と映画の世界観の双方を味わうことのできる内容となっており、彼のリリカルな写真の世界からは、映画とはまた別の物語を味わっていただけるだろう。

人間の存在の不思議に写真を撮ることで近づけるのではないか

「写真を撮りはじめた最初の目的は植物の生態記録のためだった。でもそのうち人物や風景ばかり撮るようになった。人間の存在の不思議や見ることや考えることそのものに写真を撮る事で近づけるような気がしていた。
それからしばらくして、ぼんやりと映画をやりたいなと思うようになった。映画を見るのが好きだったし、写真や8ミリで撮影することが好きだったので、ムービーカメラマンになりたいと思うようになった。
それで大学に行くと映研に入った。同期にひとつ年上の七里君がいた。請われて彼の8ミリ映画に出演したが、僕は撮影に遅刻ばかりしていて、多分そうとう嫌われていただろうと今にして思う。ごめんなさい(笑)。
その後ひょんなことからファッションカメラマンの助手になり、(意に反して)なんとなく写真でお金をもらえるようになってしまった(でも初仕事は瀬々さんのピンクのポスター)。雑誌などの撮影仕事をこなしながら、『七瀬ふたたび』(TV作品、1998年)『のんきな姉さん』(2004年)『眠り姫』(2007年)『ホッテントットエプロン-スケッチ』(2006年)と、七里君に呼ばれるがままに僕はスリリングな〈現場〉に駆り出されていったのだった。『七瀬』ではモノクロ写真のインサートを入れたりして面白いことをやらせて貰った。しかしそのためにデイリーでプリントをあげなければならず、眠れぬ日々が続いたのも楽しい思い出である。
最後に、『光と音について』と題名をつけたのは、映画に対する僕の羨望と嫉妬、そして〈音のない記憶〉としての写真を皆さんに見て感じていただけらとの願いからである」

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「光と音について」より 撮影:宮沢豪

「光と音について」 について

「これらは人影のない映画『眠り姫』にインスパイアされて撮影された連作です。
〈光と音〉とはすなわち映画を意味している訳ですが、〈静止した映像〉であるところの写真の持つ意味をいま一度考えなおそうと目論んだ作品群です」

写真には音はついていない。(あたりまえだ)
厳密にいえば光さえなくて、光のあとがあるばかりだ。
しかし人は(撮影している僕も含めて)写真に光を見る。
さらには、においや味こそ感じないけれども、時には風のそよぎのような、うちよせる波のざわめきのようなものを聞いた気になったりもする。
*     *     *     *
僕は、ふと暗室の片隅で、そんなことをぼんやりと考える。
(『眠り姫』上映会場[2005年北沢タウンホール]での写真展テキストより)
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「光と音について」より 撮影:宮沢豪
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「光と音について」より 撮影:宮沢豪
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「光と音について」より 撮影:宮沢豪
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「光と音について」より 撮影:宮沢豪

「ホッテントットエプロン-スケッチ」について

「本写真展は、映画『ホッテントットエプロン-スケッチ』のスチール(記録写真)で構成されています。スチール写真を撮影するにあたって監督の七里さんにまず言われましたのは、『作品集を作るつもりでやって貰いたい』という意味のことばでした。
こう言われてしまっては写真家として嫌が応にも奮起しない訳にはいきません。
当時既にデジタル写真が当たり前だったのですが、慣れ親しんだフィルム撮影→ネガポジプリントすることに決め、135サイズと6x6のネガカラーフィルムで全カットを撮影しました。
話は20年前に逆のぼりますが、80年代終わり(最後の昭和!)から90年代はじめにかけて、僕たちはある大学の映画サークルに在籍していました。早大シネマ研究会というところでしたが、とにかく映画をたくさん観るのが常識というかあたりまえというか、ひどい人になると年間7~800本という猛者もいたくらいで、なにしろ映画を大量に観る人たちの集まりだったのでした。ここでひとつことわっておかなければいけないのは、映画館のスクリーンで映画を鑑賞するというのが大前提で、テレビはもとよりビデオやレーザーディスクで見た分はその本数にカウントされないのでした。もちろんDVDもYouTubeもまだありませんでした。逆にいうと当時の東京には今よりも数多くあった映画館で、ありとあらゆる映画が昼夜問わず上映されていたからこそそういう芸当が出来たわけです。
同じスクリーンに映写する8ミリ映画の製作もシネ研では盛んに行われていて、僕はどちらかというとそっちの方により興味をそそられていました。既に卒業されていましたが、高橋洋さんの「夜は千の眼を持つ」や西山洋一さんの「なくなるまで」、井川耕一郎さんの「ついのすみか」、島田元さんの「リトルウィング」なんかを観て、いたくコーフンした記憶があります。彼らの流れを汲む「青空」の小林英彦さんや山岡隆資さんの映画にスタッフとして、またなぜかキャストとして参加出来たのは良き思い出です。
そんなわけでその頃の僕は授業もそっちのけで同級生や先輩たちの撮影現場に足しげく通っていたように思います。

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「ホッテントットエプロン-スケッチ」より 撮影:宮沢豪

いっぽう、同期の七里君はといえば、現在の作風に繋がるような作品群をCANON1014XL-Sカメラとコダックのスーパー8フィルムで着々と撮っていました。「フラワー」の後だったか撮影中だったか、ある時僕が七里君に「恐るべき子どもたち」や幸田文の「おとうと」っぽい「姉・弟もの」の脚本を書いてくれるよう頼んだことがありました。なんとか承知して貰い折角骨折って書いてもらったその本は、残念ながら僕の怠惰と力不足のせいで日の目を見る(?)ことは結局無かったのですけれども、もしかしたらその残滓が時を経て醸成し、「夢で逢えたら」「のんきな姉さん」へと昇華していったのかもと勝手に想像するとちょっと嬉しいのですが。
学校を出てからは、彼が助監督として関わった現場に何度かスチールマンとして呼んでもらったりしながら、2002年の「のんきな姉さん」では宣伝スチールも任せてもらいました。「ホッテン」ではスチールマンとしてのみならず広く映画製作に関わらせてもらう貴重な経験もしました(詳しいお話はホッテンのサイトに少し書かせてもらっています)。七里君からは「宮沢の作品集を作るつもりで」と叱咤激励されて撮影した成果の一部を今回展示させてもらいます。
最後に写真展の題名について。06年の写真展の副題に付けた「untitled film still about a missing girl」とはシンディー・シャーマンの代表作とそのオマージュである七里君の短編「Untitled for Cindy」へのオマージュで、シャブロル風に言えば「二重の鍵」にしたつもりです。


宮沢豪写真展「光と音について」「ホッテントットエプロン-スケッチ」

日時:2010年10月20日(水)~11月8日(月)12:00-22:00(入場無料)
*10月20日(水)~11月1日(月)は「光と音について」、11月2日(火)~11月8日(月)は「ホッテントットエプロン-スケッチ」
※11月2日(火)は展示入替のため、20:00-22:00
会場:アップリンク・ギャラリー
(東京都渋谷区宇田川町37-18トツネビル1F)[地図を表示]


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映画『眠り姫』

2010年10月23日(土)~11月5日(金)アップリンクXにて連日20:50より上映
料金:¥1,500/学生・シニア¥1,000
トークショー決定!!
初日10月23日(土)鈴木了二(建築家)×七里圭監督
11月3日(木)佐藤雄一(詩人)×七里圭監督

映画『眠り姫』
監督・脚本・撮影:七里 圭
原作:山本直樹
出演(声のみ):つぐみ、西島秀俊 ほか
(2007年/80分)
公式サイト


映画『ホッテントットエプロン-スケッチ』

2010年11月6日(土)~11月12日(金)アップリンクXにて連日20:50より上映
料金:¥1,200/学生・シニア¥1,000

映画『ホッテントットエプロン-スケッチ』
監督・脚本・撮影:七里圭
主演:阿久根裕子、ただてっぺい 、井川耕一郎 他
音楽:侘美秀俊
企画:愛知芸術文化センター
製作:愛知県文化情報センター
エグゼクティブ・プロデューサー:越後谷卓司
(2006年/70分)
公式サイト


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■宮沢豪(みやざわつよし) プロフィール

1969年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部仏文専修卒業。アシスタント、毎日新聞社暗室マンアルバイトを経て'96年よりフリーカメラマン。
写真展
「影を撮む」(7回開催)1998~2003 ガレリアQ(新宿)
「光と音について」(映画「眠り姫」上映との共同企画)2005 北沢タウンホール(下北沢)
「An untitled film-still about a missing girl」(映画「ホッテントットエプロン-スケッチ」より)2006 アキバ3Dシアター(秋葉原)
「眠り姫~光と音について」(映画「眠り姫」へのオマージュ) 2007 ギャラリールデコ(渋谷)
「影を撮む」2008 ギャラリー街道(杉並)
「眠り姫~光と音について」シネマアートン下北沢
「影を撮む」2010 サードディストリクトギャラリー(新宿) アーカイブ
著書
「スローワーク、はじめました。」谷田俊太郎と共著/主婦と生活社 2005

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