骰子の眼

cinema

東京都 ------

2010-08-31 23:00


“なにか、壊れる音がする。それって、ずっと残る” ─女優・美波『乱暴と待機』について語る【前編】

本谷有希子原作、冨永昌敬監督作品である映画『乱暴と待機』に出演する女優・美波インタビューの前編
“なにか、壊れる音がする。それって、ずっと残る” ─女優・美波『乱暴と待機』について語る【前編】

厳選シアター情報誌「Choice!」との連動インタビュー企画“Artist Choice!”。「Choice!」本誌にはインタビューの他にもさまざまな映画・演劇の情報が満載です。

今回は10月9日に公開される、本谷有希子原作を冨永昌敬監督が映画化した『乱暴と待機』に浅野忠信らと出演する女優・美波氏のインタビュー前編。後編は9月下旬更新予定です。




俳優は関係性を立証しなければいけない

映画『乱暴と待機』が素晴らしい。今年のベストワンかもしれない、と正直な感想を、ごく控え目に伝えると、美波は「ねえ?」と素直に表情を輝かせ、そのまま作品について語り出した。

「四人だけ、なんですよね。それだけに密に詰まってて。空間も詰まって、人も詰まってて。そのすれ違いが繊細に映されたんじゃないかな。四人だけだと、その人の不器用さ、エグさ、滑稽さに共感できると思うんですよ。あの空間……人数って、すごく大きいなと思いました」

「密に詰まってて」が「蜜が詰まってて」と聞こえた。素敵な表現だと思った。実際、この映画には「蜜」がたくさん詰まっている。美波はその蜜の一部なのだが、彼女自身がその蜜を享受している。そのいささかもためらうことのない、オーガニックでスポンティニアスな語りが、心地よく響いてくる。

自身の出演作について話すことが、そのひと自身についての表現につながることがある。作品論でも監督論でもない。演技論でも俳優論でもない。『乱暴と待機』について話す美波のすがたそのものから、彼女という人間がくっきり浮かび上がってくる。

四人の男女が蠢く愛と憎のストーリーである。それぞれのキャラクターの「芯」と「面」の触れ合わなさが、すぐそばにいる感覚で伝わってくる。そんな映画。

「明らかにその『芯』が、みんな、噛み合わないから、いくら『面』で合わせようとしても、絶対に合わない。だから、もどかしい。こういうことでしか、一緒にいられない。この四人が合わない、ということを立証しなければいけないと思った。それを理解しておく必要がありました」

理解と立証。演技をこのように形容する人はあまりいない。理詰め、のようでいて、そうではない。デジタルではなくアコースティックなひたむきさで、彼女は立証しようとする。何を? 立証すべき何かを。


わからないことほど繊細に楽しんで

「(挙動不審なヒロイン)奈々瀬の行動の基になる根源の考え方は、わからない。でも彼女は、彼女の基準で生きているから。でも、彼女も、それでいい、とは思ってない。どこか、甘えて生きてきてもいる。それでいいとは思ってないけど、どこかぐだぐだ。たとえば、何でも臭いを嗅いでしまうひとがいるでしょう?他人から見たら、それは気持ち悪いってわかってるけど、ちょっと嗅ぎたいんだよね、っていうような。これはおかしい、これは違うって、わかってるけど、でも、たまらない、っていう」

言葉が飛翔する。話すこと、伝えることを、平明に信じているから、話題が越境することが突飛にならない。ナチュラルに共感回路を刺激してくる。演じ手という存在が、言葉を生業としている人であるという当たり前の事実に不意打ちをくらう。

客観的認識と圧倒的主観。それらがせめぎ合うというより、平行線のまま存在すること。美波の人物に対する視座は、冷静なように見えて実はあたたかい。

「本来であれば、自我が芽生えて、通過する地点。社会に出る上での通過点、それが超えられてない。自分にも似ているところがあるけど、一応、超えてはいるので、超えられてない奈々瀬を演じるのは、すごく楽しかった。でも、繊細なところだから、はみ出さないように、すごく気をつけてはいた」

ちょっとだけ上から。低空飛行するように紡ぎ出されるその表現。
ある場面、演じた人物が迎えた推移を悔やみ、そして心を痛める。役を自分の支配下に置かず、寄り添い、いたわるようなまなざしが無意識に宿っているからだろう。それは俳優としての生理や技術ではなく、ひとりの人間としての性質や反応に近い。

「なにか、壊れる音がする。それって、ずっと残る」

美波は、付き合っている。映画の撮影が終わり、作品が完成したいまも。奈々瀬という女性と。そんな気がする。そうでなければ、こんなふうには話せない。

演技だが、それは経験なのだ。

取材:相田冬二 撮影:平田光二 ヘアメイク:小濱福介(D&N) スタイリスト:井伊百合子


美波's ルーツ

ハーフということもあり、他の人との違いを気にしていた。
自分が傷つくことも、相手を傷つけることもあるアイデンティティ。

美波(みなみ)プロフィール

2000年に映画『バトル・ロワイアル』でデビュー以来、舞台、映画、ドラマ、CMなど幅広く活躍。若手実力派女優として注目される。主な出演作は、舞台『エレンディラ』NODA・MAP『ザ・キャラクター』、映画『さくらん』『デトロイト・メタル・シティ』、ドラマ『有閑倶楽部』など。9/4(土)から舞台『ハーパー・リーガン』に出演する。




映画情報

映画『乱暴と待機』

『乱暴と待機』(2010/97分)

2010年10月9日(土)テアトル新宿 他にて公開
監督・脚本・編集:富永昌敬
原作:本谷有希子
出演:浅野忠信、美波、小池栄子、山田孝之
配給:メディアファクトリー・ショウゲート
(C)2010『乱暴と待機』製作委員会
公式サイト





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「Choice! vol.15」2010年9-10月号

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◇ステージラインナップ

『シダの群れ』
日程:9/5(日)~29(水)
劇場:Bunkamuraシアターコクーン

・さいたまゴールド・シアター第4回公演『聖地』
日程:9/14(火)~26(日)
劇場:彩の国さいたま芸術劇場 小ホール

・表現・さわやか『アラン!ドロン!』
日程:9/1(水)~14(火)
劇場:駅前劇場


◇シネマラインナップ

『乱暴と待機』
公開日:10/9(土)~
上映館:テアトル新宿

『ブロンド少女は過激に美しく』
公開時期:9月
上映館:日比谷 TOHOシネマズ シャンテ

『悪人』
公開日:9/11(土)~
上映館:シネクイント新宿ピカデリー


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