骰子の眼

music

東京都 渋谷区

2010-08-23 23:24


HMV渋谷の劇的な幕切れにはなむけの雑音を贈った非常階段インストアライブ・レポート

単行本『A STORY OF THE KING OF NOISE』の刊行を控えた彼らが、閉店直前のHMV渋谷店を多幸な空間に変えた。
HMV渋谷の劇的な幕切れにはなむけの雑音を贈った非常階段インストアライブ・レポート

ここ数年で苦戦を強いられ続けてきた音楽業界におけるCD販売、そのなかでもHMVはユーザビリティに優れたオンラインショップの評価が以前より高かった。2000年代後半の時点で、HMVの総売り上げに対するネット店舗の割合は3分の1を超える高いパーセンテージを誇っており、相次ぐ店舗の閉店と引き替えに、ネットでの販売に移行することで生き残りを図ろうとしていたように見えた。2010年3月にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下CCC)が全株式を持つ大和証券SMBCPIからの買収に名乗り出たニュースも大きく報じられたが、CCC運営のツタヤオンラインの売り上げを上回るHMVのイーコマース売上を見込んでの買収交渉だったとされる。しかしCCCが最終的に買収を断念したことからも、CD販売の落ち込みによる負債は予想以上に大きかったようだ。そうした騒動のなかで発表された渋谷店の閉店は、「場」としてのCDショップが持つ役割の一部が、整理されないままに失われつつあることを象徴しているのかもしれない。閉店に際し、渋谷店で連日ライブイベントが乱発されたこと、そしてそれらがいずれも多くの動員を記録したことは、とても示唆的である。なぜならそれは、ネットには決して引き継がれ得ないものだからだ。

午後1時半、いよいよ閉店を翌日に控えた2010年8月21日、HMV渋谷店は異様な熱気に包まれていた。
ワゴンセール中心となりスカスカした印象の一階、最後の掘り出し物を求めて素早く手を動かす人びとの脇をすり抜けエスカレーターで上階へ。もはや覚悟の決まったHMV店員の粋な計らいでこの日は14時から2階HAL CALI、3階非常階段のインストアライブ同時開催というお祭りである。
3階へ辿りつくと、気温がグッと上がった。開演30分前ながら、すでにステージを十重二十重に人が取り囲んでいるのが見え、高揚感が肌で感じ取れる。店内のモニターにはいわゆる「聖水ライブ」にてゴカイや納豆の混ざった牛乳が撒き散らされる様子や、昨年新宿LOFTでの原爆スター階段ライブで飛び交う臓物や豚の頭が繰り返し映し出されている。ようやく前方の空きスペースに滑りこんで振り返ると、後ろの方まで人でいっぱいになっている。暑い。結局せまいスペースに300人超の大入りで、入場制限がかかったそうである。

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「出演者通ります!」店員たちに導かれいよいよJOJO広重、T.美川、コサカイフミオ、JUNKOが登場。演奏開始と轟音と叫声が鳴り響く。歓声が飛び交い、体感では1分もしないうちにモッシュ。ギュウギュウの前列がさらに混沌としてきた。JOJO広重が(いつものように)嬉しそうに客に弦を弾かせる。体ごと預けてかき鳴らす。胴上げもされてる。モッシュは激しさを増し、気づけばギターの音は出ていない。シールドが抜けたのだろう。暑い! もみくちゃになってまったく見えないけれど、もはや完全に客席とステージの区別はなくなったようだ。こぼれたビールで床がヌルヌルする。歓声が起こっているから、JOJO広重が客を煽っているのだろう。非常階段としてはかなり音は小さめだったが、誰もそんなことは気にしていない。喉が渇く。みんな楽しそうに汗だくである。「ありがとうございました!……PA飛んじゃった!」と嬉しそうにJOJO広重のあいさつ。割れんばかりの歓声と拍手。10分ほどで演奏終了。あっという間だった。

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オレは今年の7月に江古田でソロのライブやって4人しかお客さん来なかった程度の男だよ。
いくら無料とはいえ、非常階段のライブに入場規制がかかるほどの観客が集まり、ノイズを演奏し、モッシュが起こり、ワーワー騒いで絶叫して、『今度はおしっこするぜぃ!』なんてアホまるだしの50過ぎのおっさんの吠えるアジテーションに若者が拳を振り上げて「うおー!」と答えるなんて、絶対にHMV渋谷には"ありえない光景"ですよね。
(JOJO広重 BLOG「HMV渋谷閉店を考える」より)

彼はライブに先立って「みんながCDを買わなくなったから、ここ(渋谷店)は潰れるんです……でも、みんながCDを買わなくなったおかげで、こうして非常階段がライブできるんです」と言っていた。「役割を終えて何かにつながっていくので、それ(閉店)で良いと思います」とも。JOJO広重自身もまた、一昨年社長としてアルケミーレコードの実店舗を閉め、アップリンクと提携するという決断をしていることは周知の通りである(昨年にはオンラインストアも閉店)。HMV渋谷店と非常階段は、直接的にはおそらくほとんどなんの関わりもなかったけれど、ミュージシャンも観客もスタッフも渾然一体となった多幸な空間が最後に立ち現れることになった、そのことに不思議な因果を感じる。

何年か前にこのブログに書いたね。今の「音楽」は一旦終わる。でも次の「音楽」が始まる。
8月21日の非常階段HMV渋谷インストアライブは、もしかしたらその古い音楽が終わる瞬間だったのかもしれない。その現場にたくさんの人が立ち会った出来事だったのかもしれない。そしてノイズ演奏して盛り上がってモッシュして絶叫して、それがyoutubeにあがった瞬間が、新しい音楽とやらのスタートした瞬間かもしれない。そのことを実現したのは非常階段ではなく、集まった何百人かの音楽ファンのみなさんだと思いますよ。
(JOJO広重 BLOG「HMV渋谷閉店を考える」より)

31年目に突入している非常階段は、来月には30年史を描いた単行本『A STORY OF THE KING OF NOISE』が刊行され、ライブ・イベントも目白押しである。HMV国内1号店として1990年にオープン(98年に現在の場所に移転)したHMV渋谷店は、昨日20年の歴史に幕を下ろした。お互いの長い歴史の中での一瞬の邂逅は、多くの人の記憶に刻まれたことだろう。ここからまた、始まることがたくさんあるはずだ。

(文:山崎なし[メランコフ] 構成:駒井憲嗣 撮影:山川哲矢)

『非常階段 A STORY OF THE KING OF NOISE』
2010年9月3日発売

共著:JOJO広重、美川俊治、JUNKO、コサカイフミオ、野間易通
3,000円(税込)
K&Bパブリッシャーズ



『原爆スター階段 | LIVE AT SHINJUKU LOFT 2009.10.10』
2010年9月3日発売

ULD-569
2,625円(税込)
【復刻Tシャツ付BOXセット(数量限定)】
ディスクユニオン限定で発売!!
ULD-570
4,725円(税込)
ALCHEMY RECORDS / UPLINK RECORDS

単行本『非常階段 A STORY OF THE KING OF NOISE』
& DVD『原爆スター階段|LIVE AT SHINJUKU LOFT 2009.10.10』
発売記念トークイベント&サイン会

日時:2010年9月3日(金)20:00スタート
場所:disk union 渋谷中古センター2階(03-3461-1809)
出演:JOJO広重(非常階段)、野間易通(編集者)

・渋谷中古センターで『非常階段 A STORY OF THE KING OF NOISE』(K&Bパブリッシャーズ)か『原爆スター階段|LIVE AT SHINJUKU LOFT 2009.10.10』(ALCHEMY RECORDS / UPLINK RECORDS)のいずれかを購入されたお客様限定でサイン会参加券&ポストカードを差し上げます。
・トークイベントは入場フリーになります。お気軽にお越しください。


『ヴィヴァ・ネガティヴァ!─ ア・トリビュート・トゥ・ザ・ニュー・ブロッケーダーズ (ヴォリュームIV:日本編/CD2枚組)』
2010年9月3日発売

解説:美川俊治 / Incapacitants,非常階段
ULR-023
2,625円(税込)
ALCHEMY RECORDS / UPLINK RECORDS

★上記の各作品の購入はジャケット写真をクリックしてください。Amazonにリンクされています。


『BLANK MUSEUM』原美術館
2010年8月26、27、28、29日

2010年8月28日(土)“LOOKING FOR THE SHEEP day1”

Performance:飴屋法水たち、東野祥子、ホナガヨウコ企画
LIVE:伊東篤宏+山川冬樹、勝井祐二(音楽)+迫田悠(映像)、日比谷カタン、山本精一+JOJO広重 (ゲスト:穂高亜希子)
Navigator:のぎすみこ(ひつじのさんぽ)、大石麻央(動物マスクの人体彫刻)
14:00開場/15:00開演/20:00終演
料金:前売5,500円/当日6,000円

※チケットはアップリンク店頭、e+(イープラス)にて発売中

27日はソールドアウトいたしました

詳しくはhttp://www.webdice.jp/blankmuseum/まで


山崎なし
「自分で作るフリーペーパー メランコフ」編集長。

webdice_メランコフ2号

メランコフ
http://www.melankov.com/
オンデマンド・フリーペーパーとして2010年春スタート。pdfファイルをダウンロードし、プリンタで印刷、ホッチキスで製本すれば自宅で簡単にフリーペーパーを作ることができる。編集部の制作による季刊「メランコフ本誌」と随時募集が行われている読者からの企画を募集し掲載する「SCRAPS」により構成されている。最新号の大阪特集ではあふりらんぽ解散直後のインタビューほか、石井モタコ(オシリペンペンズ)、neco眠るなどのロングインタビューを掲載。JOJO広重(非常階段)「Compose Ourselves」も好評連載中。


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