骰子の眼

stage

東京都 豊島区

2010-08-22 22:57


異文化の衝突でさえ「ハッピーな場の共有」に変える。快快[faifai]×B-Floorによる『スパイシーサワー アンド スウィート』レビュー

2010年8月13日(金)から15日(日)に東京芸術劇場で行われた『スパイシーサワー アンド スウィート』のレビューをお届け!!
異文化の衝突でさえ「ハッピーな場の共有」に変える。快快[faifai]×B-Floorによる『スパイシーサワー アンド スウィート』レビュー
写真:加藤和也

2009年7月、野田秀樹の芸術監督就任以来、多彩なプログラムを上演している東京芸術劇場。
2010年8月13日(金)から15日(日)にかけて、野田自身が長年交流を続けていたという
タイ演劇界とのコラボレーション『スパイシーサワー アンド スウィート』が上演された。
タイの劇団B-Floorによる『Flu O Less Sense』と、
快快[faifai]×B-Floorによるコラボ作品『どこでもdoor/Anywhere Door』の二本である。

先に上演されたのはB-Floorによる『Flu O Less Sense』。「fluorescent(蛍光灯)」をもじって付けられたというこの作品は、全体的に暴力の匂いがどこかしらに漂う、シュールな趣の作品であり、今年日本でも散々報道されたタイのバンコクのデモ騒乱が脳裏に浮かんでしまった人も多いのではないだろうか。

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写真:加藤和也

プロジェクターによって左右に映しだされた、時に暴力的な画像と出演者達の機敏なアクションの反映、そしてあらかじめ舞台の四隅に配置された皿を巧みに使用した、奇抜で目を引くパフォーマンスで不思議と観客を自分達の世界へ巻き込んでいく彼ら。

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写真:加藤和也

ドラムの効いた印象的な音楽と激しいダンスを組み合わせた圧倒的なクライマックスでは、誰もが自分のなかに存在するであろう暴力の血の存在に気付かされてしまう。日本では、決して体現する事ができないその暴力に対するテンションと距離こそ、タイという異文化との出会いであり、そもそも他国の表現を体感する意味ともいえよう。

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写真:加藤和也

さて一方、快快[faifai]である。

決まりきったしきたりやあらかじめ予定調和されたすべての表現の枠に捕われないこのハッピー集団が、少しばかりシュールな匂いのするタイの劇団とコラボレートするというのだから、注目であると同時に少しばかり不安を感じていた人もいるかもしれない。

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写真:加藤和也

だがもちろんそんな心配は杞憂に終わる。
『どこでもdoor/Anywhere Door』と題されたこの作品で、快快[faifai]×B-Floorはあらゆる場所へ観客を連れて行ってくれる。自動販売機をモチーフにしたタイと日本の愉快な同時体験、観客の身体をも巻き込んだヨガ、黒いビニール袋を被ったゴキブリ達との激しくも笑える対決、タイと日本のダンスや唄の交流の妙、はたまた観客に予め渡してあったタイの紙幣で観客席からお香、帽子、サンダルを買うことができるという驚きの観客参加型の買い物企画まで。

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写真:加藤和也

一番印象的だったのが、快快[faifai]とB-Floorの面々が共に海へ旅行した写真素材やエピソードをまるごと使いながら、両メンバー同士の交流を観客に語っていくという、所謂「ハッピーな場の共有」であった。
二つの国の人々がひとつのモノを創りあげていく過程で、少なからず互いの文化の衝突はあったと思われるが、そこをも楽しむ過程として作品に取り込むこの強靭な肯定精神。そしてそこに確かに広がる幸福感。
その場に居合わせたもののみが感じること出来るこの幸福感と肯定こそ、いまのアート界に必要な要素なのではないだろうか。

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写真:加藤和也

それにしてもタイのB-Floorの面々のパワーたるや凄まじいものであった。台詞を一言叫ぶにしても、舞台をちょっと端まで走るにしてもエネルギーがそこら中に満ちあふれているように思えたほどだ。快快[faifai]×B-Floorのコラボというよりも、時に二つの劇団のパワー対決なのかと思えたくらいである。

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写真:加藤和也

ハッピー集団、快快[faifai]が今回の目まぐるしいコラボで「ハッピーな場の共有」を観客に示したことによって、今後もまた一回り枠の大きい新たなシアワセのサークルを描く事ができるのは間違いないと確信した。

(文・中村 慎)


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写真:加藤和也

■『Spicy, Sour, and Sweet』

会場:東京芸術劇場小ホール1

●B-Floor/『Flu O Less Sense』

演出:ティラワット・ムンウィライ(KAGE)
出演:ドゥダオ・ワッタナパゴン、ナーナー・デーキン、ワランユー・イントラカムへン、サルット・コーマリッティポン、ササピン・シリワニット、オーンアノーン・タイスリウォン

●快快×B-Floor共同制作/『どこでもdoor』

作:北川陽子(快快)
演出:篠田千明(快快)
共同演出:ドゥダオ・ワッタナパゴン
出演:天野史朗、大道寺梨乃、千田英史(Rotten Romance)、中林舞、山崎皓司、ジャールナン・パンタチャート、ドゥダオ・ワッタナパゴン、ワランユー・イントラカムへン、ナーナー・デーキン、ササピン・シリワニット、サルット・コーマリッティポン

■B-Floor PROFILE

1999年、97年の『赤鬼』タイバージョンにも出演し、バンコク・シアター・ネットワーク(BTN)の一員でもある演出家でパフォーマーのティラワット・ムンウィライ(通称KAGE)と、作・演出で俳優でもあるジャールナン・パンタチャート(通称JAA)の2人を中心として、俳優・演出家・デザイナー等の集団として、設立。B-Floor独自の即興的な“Theatre Labs”(シアター・ラボ、演劇的実験)という手法を用い、コンテンポラリー・ダンス、マイム、仮面劇、器械体操、武道等を組み合わせることで、肉体の可能性を表現するという試みを行うグループ。

■快快[faifai] PROFILE

2004年結成(2008年4月1日に小指値〈koyubichi〉から快快に改名)。メンバー10人+サポートメンバーによる東京のカンパニー。ステージ、ダンスにとどまらず、常にたのしく新しい場を発信。私たちが生きている今をポップにパッケージングする、ハッピーオーラ集団。今の複雑さに向かいながらいつのまにか幸福感に満たされてゆく作品性は、たくましい都市と人そのもの。2009サマーツアーでは、代表作「My name is I LOVE YOU」でヨーロッパ各国を巡る旅へ!NHKとのコラボドラマから、銭湯イベント、東京/アジアでのパーティオーガナイズ、spectacle in the farmやFestival / Tokyo09秋への参加、NADiff/a/p/a/r/tでの展示、 BCCKS「天然文庫の100冊」シリーズからの書籍リリースまで、活動の幅は広がりつづけている。
公式サイト

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