骰子の眼

world

2010-07-19 23:00


キューバ紀行 第4回:ハバナ市内の沈黙によるデモ行進でこの国の〈不自由〉と〈自由〉を知る

約2ヵ月にわたるキューバ滞在から帰国したwebDICEコントリビューター山本さんが、肌で感じた『革命の国』を文章・写真そして動画で綴る
キューバ紀行 第4回:ハバナ市内の沈黙によるデモ行進でこの国の〈不自由〉と〈自由〉を知る
San Lazaroという通りから撮った1枚。手前の古い車は乗り合いタクシーで、1回1人10ペソ(約40円)。その奥のピンクのバスは市バス。市バスは始点から終点まで乗っても40センターボ(約2円)。P1、P2……または5番、22番、195番……というような番号で行き先が分かれており、必ず正面に番号が表示されている。2台連結型もあり、車体はだいたい中国製だった。

6月19日に日本に帰ってきた。モノがないキューバからモノがありすぎる日本に戻るからには、さぞかしショックを受けるだろうと思っていた。なのに、やっぱり26年も住んでいる国、頭のスイッチが切り替わってすんなりと馴染んでしまった。でも変な癖だけが残っている。キューバでは犬の糞が道路のそこらじゅうに落ちているので、足下を確認せずには道路を歩けない。日本に戻って10日経った今でも、地面をしっかり目視しながら歩いてしまう。人間って面白い。
これからは、日本にいるだけにネット環境も快適。動画も交えてキューバを紹介していきたい。


ライブカメラ風のマレコン通りの映像。8分程度あるので、キューバの風景に強く興味のある方、すごく暇な方は見てみて下さい。

離婚・再婚はあたりまえ

私が滞在していたカサパルティクラルのおばちゃんと旦那さんは、再婚同士の夫婦だ。それぞれに前夫・前妻との子供がいる。ある日、旦那さんの前妻との息子と、おばちゃんの甥が、一緒に大工仕事をしていた。キューバでは離婚再婚はごく普通で、隣の家のおばあちゃんは、3回結婚したそうだ。そしてみんなそれを堂々と話す。
日本にはまだまだ離婚や再婚を恥じるような風潮があると思う。と言うより、離婚や再婚しないことが一般的であり理想である、というような雰囲気を感じる。キューバの離婚と再婚に対するこの自由な意識はとてもうらやましい。実際に私の両親は別れているので、日本ではたまにそれをコンプレックスに感じることがある。離婚も再婚も受け入れられるというのは、当人同士はもちろん、その子供たちも気負うことがないのだ。日本人も、じめじめ考えないで離婚したいなら離婚したほうがいい!

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私の滞在したカサの旦那さんは料理も掃除もたくさんする。この写真のスープは旦那さんが作ったもの。
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5月第2日曜はこちらも母の日だった。夫婦で出かける姿をよく見た。

予想通り、おばちゃん達はパワフルだ。とにかく話すのが大好き。大阪のおばちゃんに似ていて、あれやこれやと話題が出てくるし、「帰ります」と言わなければ延々と続いていく。
また、カサのオーナーのサラは「ゴミを捨てに行ってくる」と言って、2時間ぐらい帰ってこない。さすがにゴミ捨てに行って2時間って、何かあったんかな?と思ってベランダからマレコン通りを覗くと、サラが通りで友達と立ち話しているのが見える。ゴミ捨てとおしゃべりは必ずセットだった。
前々回のメーデーのところでも少し触れたように、女性の地位向上が叫ばれているキューバ。ハバナでは女性が働くのはごく普通のことで、どこのオフィスに行っても女性と接する機会が多い。警察や軍にもかなり女性が多い印象がある(日本と比べれば、の話だが)。
また、いつもぎゅうぎゅう詰めの市内バスでは、女性であるというだけで席を譲ってもらえることがある。優先順位は、
1.小さい子供を連れたお母さん・妊婦
2.おばあちゃん
3.一般女性・小学校低学年ぐらいの子供(男女関わらず)

といった感じだ。
不思議なことにおじいちゃんは足腰が弱っていてもなかなか座れない。

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銃を抱えた女性をモチーフにしている、キューバ女性連盟のロゴ。「祖国のための団結」

キューバ政府に反抗する女性団体「Las Damas de Blanco」

実はハバナに、政府に反抗する女性団体がひとつ存在する。「Las Damas de Blanco」(ラス・ダマス・デ・ブランコ)と名乗る彼女たちは、投獄されている男性の妻、娘、母、姉妹などで結成されている。投獄されている男性たちは政治活動家やジャーナリストで、国家侮辱罪として逮捕された。
彼女たちは毎週日曜、ハバナ市のMiramarという地域にあるサンタ・リタ教会でミサに参加した後、教会の周辺をデモ行進する。(一部、ミサには参加せずデモ行進のみ参加しているメンバーもいるようだ)。
私たちが通常想像するデモとはかけ離れていて、沈黙で行なわれる静かなデモだ。キューバは現政権に対して意見を述べることができない国。沈黙で歩く姿は、最初は異様にも思えたが、キューバの言論の不自由を思い出し納得できた。
直接的に言葉を発して活動をすると、逮捕されてしまうのかもしれない。

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デモ行進の前に、まずは教会前で集合写真を撮影する。

沈黙のデモ行進。

キューバ滞在が長い日本人留学生に、外国人でさえもこういった運動に参加していると圧力がかかる、と聞いた。なので、あまり彼女たちと接触はせずに撮影程度に行動を控えておいた。(だが、私が行った数週間はすごく落ちついたデモで、警察は一切現れなかった。なのでもう少し接触しておいた方がよかったとも思った)。
10分ぐらい教会の周りを歩いた後は、教会の前に戻り、「Libertad」(リベルタ=自由を)と叫ぶ。考えてみれば、Libertadという言葉は、フィデル達が起こした革命=現キューバ政府により、「キューバはすでにLibertad(自由)だ」という意味でも使う。うまいなあ、と思った。


最後は教会の前で「自由を!」と叫ぶ。

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デモ行進の後に、教会の隣の公園でミーティングを行なっている。

Las Damas de Blanco ウェブサイト(スペイン語のみ)
http://www.damasdeblanco.com/

2010年2月には、投獄されていた政治活動家、オルランド・サパタ・タマヨがハンガーストライキで死亡している。先日も、ファン・ファン・アルメイダという活動家の男性が、ハンガーストライキを開始していた。キューバ国内のテレビや新聞などでは報道されないが、実は政治活動家が存在し、キューバ政府に民主主義を求める動きがある。
ただ、私はハンガーストライキはこの時代の最善の方法だと思わないし、自由のために戦う人たちがいるならば、今一番有効なインターネットを利用してほしいしインターネットを使って支援したい。「キューバはインターネットさえも不自由なのでは?」と思うが、実はインターネットで発信し続ける活動家もいるのだ。先ほどの女性団体、ダマス・デ・ブランコのウェブサイトはスペインで作成・更新されている。ヨアニ・サンチェスという女性活動家は、twitterやブログでキューバの現状をリアルタイムで世界に発信している。

ヨアニ・サンチェス ブログ Generacion Y
http://www.desdecuba.com/generaciony/

それに、実はキューバの学生達の間でNARUTOやワンピースなどの日本アニメが人気で、インターネット経由で見ているらしい。私の知っているキューバ人は「医者や弁護士はインターネット接続できるけれどもメール通信とキューバのイントラネットしか閲覧できない」と言っていたが、自由にインターネット閲覧できる人もいるようなのだ(それが違法なのか合法なのか、情報が交錯していてわからなかった)。
キューバ国民にとって、情報統制、経済システムなど今後どうなっていくのが良いのか、私はわからない。たった2ヵ月間外国人として滞在しただけでえらそうなことは言えないが、私はいろんな視点からものごとを考えたいし、多くのものごとについて人と議論する権利は欲しい。
これらの活動を日本語で記しておいたことが、今後キューバ人の自由に少しでも影響すればと思う。

キューバのエンターテイメント・ピエロのショー

その国の特徴を表すことが多い娯楽。モノが少ないキューバにも、意外と娯楽がたくさんあった。映画館では映画だけでなくいろんなイベントが開催されるし、ライブハウスもたくさんある。ハバナには一応動物園や水族館があるし、博物館や美術館も非常に多い。遊園地もある。テレビ番組も意外とバラエティに富んでいて、ドラマはキューバ、ブラジル、アメリカ(現在は『FRIENDS』が放送されていた!)など、映画は日本映画も中国映画もアメリカ映画も放映する。音楽番組はもちろん、バラエティ番組もあるし、教育番組もあるし、ディズニーを含む幼児向けアニメーションから日本アニメまで、ありとあらゆる番組が放送されている。
キューバの娯楽、まずはその一部を紹介したい。
ある日、何が上映されるのかよくわからないまま映画館に入ってみたら、子供向けのショーが行なわれていた。

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客席の女の子をステージに呼んで、笑いを取るピエロ。

ピエロが出てきて、客はみんな家族連れ。日曜日のお昼、映画館で子供向けのピエロのショーをやっているのだ。一方的にショーをするのではなく、ピエロは「客いじり」をするし、実際に子供をステージに立たせたりする。双方向のエンターテイメントが繰り広げられていた。家族連ればかりのなか、大人ひとりでいるのがつらかったので早々に退場したが、本気で楽しそうな子供を見てほっこりした。子供は3ペソ(約12円)、大人は5ペソ(約20円)と、映画よりもはるかに高いので、生活に余裕のある家族しか楽しめないのかもしれないが……。

キューバのエンターテイメント・水族館

ハバナ市の都心部には、動物園も水族館もある。日本ではそのどちらも数年行っていないが、キューバの動物園?キューバの水族館?と想像するだけで、探偵ナイトスクープ的な面白さがあるような気がして妙に行きたくなってきた。
キューバ滞在が残り数日になったとき、『The Cove』が今日本で話題になっていることだし、イルカショーをやっている水族館へ行ってみた。日本の水族館のイルカショーと言えば、子供が大喜びして夢にあふれている……(ようなイメージがある)。でも、さすがキューバ。探偵ナイトスクープ的なツッコミどころはなかったのだけれど、期待を裏切らず質素だった。
まず水族館自体は、10分で廻ることができるぐらいの水槽の数と規模。ウミガメはたくさんいるが、魚は熱帯魚と小ぶりのエイ1匹、エビ少し、カニ少し、ぐらいで、閉鎖している水槽が多かった。
ならば、イルカショーに期待するしかない!と思ったのだが、それも、淡白なショーだった。イルカの生態について説明した後、イルカにダンスをさせたり(キューバらしい)、少しジャンプをさせて、終わりだった。これじゃ、イルカショーのお兄さん・お姉さんになりたい!と夢をもつ子供は少ないだろう。日本のイルカショーのように、インストラクターがイルカと泳いだりしない。ショー自体15分程度であっさりと終わってしまった。日本で育った私が小さい頃に見てきた水族館のイルカショーは、欧米に倣った資本主義のイルカショー。今までのイルカショーの概念が崩れた気もするし、今思えばなかなかよい経験だった。
キューバのイルカショーは、イルカに多くを求めない。

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イルカの生態についての説明は、長かった。

イルカショー後半の映像。イルカへのごほうびの餌は、切り身の魚だった。最後の大技をきめたときだけ、魚1匹を与えられていた。


アシカショーも行なわれていた。

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ハバナ市のMiramarにある国立水族館。入場料はキューバ人は大人7ペソ(約30円)。外国人の大人は7CUC(約700円)。高い。子供料金はチェックし忘れてしまった。家族連れだけでなくカップルや友達同士のキューバ人も来ていたが、やはり生活に余裕のある人たちが来ているように感じた。

キューバの文化と言えば音楽と映画。次回は音楽と映画についてたっぷり紹介しようと思います。

【追記】
2010年7月7日、キューバ政府は政治犯52人の釈放を決めた。この52人とは、まさしくLas Damas de Blancoの女性たちの家族だ。
キューバ、反体制派52人釈放へ 欧州に融和姿勢(asahi.comより)
http://www.asahi.com/international/update/0708/TKY201007080277.html? ref=goo
カトリック教会が発表したようで、キューバ政府からの発表ではない模様。キューバ政府メディアによるニュース記事では、政治犯52人の釈放に関しては触れていない。
そしてその直後、いきなりフィデルの近況の写真が公開され、続いてTV番組に登場した。
カストロ前議長、11カ月ぶりにテレビ出演 キューバ(CNN.co.jpより)
http://www.cnn.co.jp/leader/AIC201007130005.html
実はキューバにいても、ニュースや新聞でフィデルの顔を見ることがないので、日本人同士で「もしかしたら、もう、すでに……」と、良からぬ予想をしていたりもした。だが、大変お元気そうで、相変わらずの痛烈アメリカ批判に少しほっとした。
政治犯釈放直後に、フィデルのメディア露出。来たる7月26日は革命記念日。多少の緩和をしつつも、まだまだ共産党政権と社会主義は続けるというアピールでもあっただろう。しかし、今回この52人の釈放で、キューバ政府は国民に少しだけ譲歩し少しだけ変化した。
1人の活動家が既にハンストで死亡しているのは誠に残念だが、それでも私は、キューバ政府の少しずつの変化に、拍手を送りたくなるのだ。今の中国が、北朝鮮が、ミャンマーが、このように変化することはあるだろうか。

(取材・文・撮影:山本佳奈子)

【関連記事】
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■山本佳奈子 プロフィール

http://www.yamamotokanako.net/
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1983年兵庫生まれ、尼崎育ちの尼崎市在住。現在26歳。高校3年のときにひとりでジャマイカ・キングストンを訪れて以来、旅に魅力を感じるようになる。その後DJ活動、ライブハウス勤務などを経て、2010年、念願だったキューバ旅行を実現させる。
世界のすべての人々の最低水準の暮らしが保証されること、世界の富を独占する悪徳企業が民主の力によって潰されることを切に願っており、自ら一つのメディアとなって情報発信することにも挑戦している。

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