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2010-07-12 18:51


武田花、三好和義、星野道夫などの作品を展示―木村伊兵衛写真賞全受賞作公開、第2期!

35年周年記念展の第2期を、川崎市市民ミュージアムで開催中。
武田花、三好和義、星野道夫などの作品を展示―木村伊兵衛写真賞全受賞作公開、第2期!
北島敬三「New York」より 1981-1982

見どころ!川崎市市民ミュージアム 学芸員 林司

10月3日まで展示している第8回(1982年度)から第16回(1990年度)までの作品が撮影された当時の日本は、1980年代後半から1990年代前半のバブル経済まっただ中にありました。1991年2月のバブル崩壊までは、写真界もカメラや感光材料メーカーが次々と新製品を開発したのはもちろんのこと、豪華なグラビア雑誌や有名写真家が撮影した広告写真が街を飾り、写真家の収入も右肩上がりの好景気でした。また、1980年頃からは日本でも写真作品を専門に展示するギャラリーが誕生し、油絵や日本画だけでなく、写真も美術コレクターの収集対象になっていきました。

今回の展示で一つポイントをあげるとすると、第9回(1983年度)は、その後の日本写真界を代表する写真家が数多くノミネートされていながら、「受賞該当者なし」となったところです。候補者には早くから天才と呼ばれていた田村彰英や、ライフワークとして水俣病を記録し続けている桑原史成、ベトナム戦争を撮影し2007年には紫綬褒章を受章している大石芳野、世界を代表する国際的なフォトジャーナリスト集団マグナムの日本人メンバーである久保田博二といった、豪華な顔ぶれが並んでいました。

木村伊兵衛写真賞の受賞当時は、アウトローでマイナーだけれども光っている存在として認識されていた受賞作家たち。それまでの写真界の既成概念を覆してきた彼等のスタイルは、20年後、30年後経った今では、写真界のメジャーでありバイブル的な存在となっています。著名な写真家達の原点を、この展覧会でご覧下さい。

北島敬三
第8回(1982年度)

1954年長野生まれ。荒木経惟、深瀬昌久、森山大道らが主催の「WORKSHOP 写真学校」の森山大道教室に参加し、写真を学ぶ。1976年に、森山大道らとイメージショップ「CAMP」(東京都新宿区)の設立に参加し、現像したての写真を、すぐに展示する手法の写真展「写真特急便・東京 Tokyo No.1-12」「写真特急便・沖縄」(1979年・1980年/CAMP)を開催。これにより、1981年に日本写真協会新人賞を受賞する。その後、巨大都市ニューヨークを、エネルギッシュに鋭くとらえたスナップ『New York』(82年 白夜書房)で、第8回木村伊兵衛写真賞を受賞した。

該当者なし
第9回(1983年度)

多方面から推薦のアンケートを募集するため、新人だけではなく、すでに写真界で活躍している写真家の名もあがっているが、該当者がなかった。以下選考委員のコメント。

「“創造的な新人”の登場を待つ」安部公房(作家)
「推薦された諸氏の今後を見つめる」石元泰博(写真家)
「伊兵衛さんの味わいの継承を」渡辺義雄(写真家)
「十年目にあたり原点にたちかえる」相沢啓三(アサヒカメラ編集長)

田原桂一
第10回(1984年度)

1951年京都生まれ。1972年に打楽器奏者であるツトム・ヤマシタが率いるパフォーマンス集団「レッド・ブッダ・シアター」の照明係として渡仏し、以降パリに移住する。1973年よりフリーの写真家として活動。1977年に「窓」でアルル国際写真フェスティバルで大賞を受賞し、これをきっかけに、繊細な光の写真家としてフランスを中心に注目を浴びるようになる。1985年に写真集『TAHARA KEIICHI 1973-1983』で木村伊兵衛写真賞受賞。近年は、光の彫刻や、インスタレーションも手掛けている。

木村伊兵衛写真賞_田原桂一
田原桂一「ECLATS」より(1990-91)

三好和義
第11回(1985年度)

1958年徳島生まれ。学生時より作品が高く評価され、高校時代に銀座ニコンサロンで個展「沖縄先島」を開催。東海大学文学部広報学科に在学中から、日本広告写真家協会の特選や、日本写真家協会銀賞など数多くの賞を受賞。1981年に大学卒業と同時に株式会社楽園を設立。以降、沖縄、タヒチ、モルイディブなど、世界各地で「楽園」をテーマに撮影を続けており、1990年後半からは、京都や奈良といった神社仏閣や日本庭園にも取り組み、切手にも写真が使われている。現在我々が雑誌や広告で目にする、南国リゾート風の写真の、原型を作った写真家である。

木村伊兵衛写真賞_三好和義
三好和義「RAKUEN」より スリランカ(1984)

和田久士
第12回(1986年度)

1947年和歌山県生まれ。1967年に日本大学芸術学部写真学科入学。アメリカの様々な家を撮影することで、多民族国家を表現した写真集『アメリカン・ハウス―その風土と伝統』(講談社)で木村伊兵衛写真賞受賞。受賞の10年後の1997年には、長年に渡って取材した続編『ヨーロピアン・ハウスその風土と伝統』(朝日新聞社)を出版している。1990年代から本格的に建築写真に取り組むようになり、明治以降の名建築を撮影した「皇室の邸宅」「元勲・財閥の邸宅」(2006年・2007年JTBパブリッシング)や、洋風建築だけではなく「古写真で蘇る 日本の名城」(2008年JTBパブリッシング)といった被写体も手がけている。

木村伊兵衛写真賞_和田久士
和田久士「アメリカン・ハウス ―その風土と伝統―」より(1985)

中村征夫
第13回(1987年度)

1945年秋田生まれ。高校卒業後、20歳のときに独学で水中撮影を学び、水中造形センターのカメラマンを経てフリーとなる。世間一般には、カラフルで絵葉書やカレンダーに使用されるような水中写真が多い中、海の環境問題にも正面から取り組んでいる中村征夫の『全・東京湾』は高く評価され、木村伊兵衛写真賞を受賞した。その後も、空港建設で揺れる石垣島白保の珊瑚礁や、干拓堤防建設で問題となった諫早湾のなど、社会性のあるテーマにも果敢に取り組んでいる。

ハナビラクマノミとセンジュイソギンチャク-1s
中村征夫「ハナビラクマノミとセンジュイソギンチャク」(1986年)

宮本隆司
第14回(1988年度)

1947年東京生まれ。1973年、多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業後、建築雑誌の編集者を経て、1976年にフリーの写真家となりカナダに渡る。バンクーバーでは建築ではなく人物を主に撮影していたが、1980年からはインドネシアやシンガポール、香港など、植民地時代の欧風建築を撮影。1982年からは、東京の下町の劇場や、中野刑務所、日比谷映画劇場、つくば科学万博といった解体途中の建物を撮影し、1986年に個展「建築の黙示録」を開催。 1988年に写真集「九龍城砦」「建築の黙示録」を出版し、 木村伊兵衛写真賞を受賞した。

木村伊兵衛写真賞_宮本隆司
宮本隆司「建築の黙示録」より浅草松竹映画劇場(旧帝国館)東京(1984)

星野道夫
第15回(1989年度)

1952年千葉県生まれ。1976年、慶應義塾大学経済学部卒業後、動物写真家田中光常の助手を務める。1978年、アラスカ大学野生動物管理学部に入学、同時に撮影活動を開始。以来アラスカの野生動物と自然、そこに暮らす人々を撮り続け、日本国内のみならず「National Geographic」「Audubon」等の海外誌でも活躍。1986年、第3回アニマ賞受賞。 「Alaska 風のような物語」(「週刊朝日」連載)、「Alaska 北緯63度」(1989年オリンパスギャラリー)で第15回木村伊兵衛写真賞受賞。1996年に、ロシア・カムチャッカ半島でヒグマの事故により逝去。

武田 花
第15回(1989年度)

1951年東京生まれ。父は作家の武田泰淳。高校卒業後、写真学校に通うがすぐにやめ、東洋大学仏教学科に進学。高校卒業当時に父よりカメラを買ってもらい、当時から街の猫を追って撮影していた。大学卒業後は、史料複写や週刊誌の写真取材にたずさわる一方、町並みや猫のいる風景を写真雑誌に発表。写真集『眠そうな町』(1987年現代書館)を出版し、穏やかな昼下がりのようで、どこか怖さを感じさせる作品が評価され木村伊兵衛写真賞を受賞。母の武田百合子は『富士日記』に代表されるように、優れたエッセイストで、武田花も父母の才能を受け継ぎ、写真集の中にそえられた文章には定評がある。

木村伊兵衛写真賞_武田花
武田 花「眠そうな町」より(1987-89)

今 道子
第16回(1990年度)

1955年、神奈川県鎌倉市生まれ。創形美術学校で版画を学ぶ課程で写真に興味を持ち、卒業後東京写真専門学校に進学。キャベツとストッキング、鯖と枕といった意外性のある組み合わせの静物を撮影した作品や、魚や鳥、野菜などから下着や靴などをかたどった作品など、グロテスクでありながら上品に美しくまとめられた作品が評価され、木村伊兵衛写真賞を受賞する。幼少時に家族で住んでいた古い西洋館や、父親が収集した骨董品、幼稚園から高校まで過ごしたミッションスクールでのキリスト教の思い出、地元鎌倉で出会った人々などからの影響が、作品に反映されている。

木村伊兵衛写真賞_今道子
今 道子「烏賊+スニーカー」(1989)

【関連リンク】

・木村伊兵衛写真賞、歴代受賞作を一挙公開!第1期として石内都、藤原新也、岩合光昭などの作品を展示
http://www.webdice.jp/dice/detail/2473/


木村伊兵衛写真賞 35周年記念展【第2期】
開催中~10月3日(日)川崎市市民ミュージアム

会場:川崎市市民ミュージアム[地図を表示]2階アートギャラリー
料金:無料
時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)
休館日:毎週月曜(祝日の場合は開館)、祝日の翌日(土日の場合開館)

第3期【第17回~第22回受賞者】10月9日(土)~2011年1月16日(日)

受賞者:柴田敏雄(1991年度)、大西みつぐ(1992年度)、小林のりお(1992年度)、豊原康久(1993年度)、今村光彦(1994年度)、瀬戸正人(1995年度)、畠山直哉(1996年度)

第4期【第23回~第29回受賞者】2011年1月22日(土)~4月10日(日)

受賞者:都築響一(1997年度)、ホンマタカシ(1998年度)、鈴木理策(1999年度)、長島有里枝(2000年度)、蜷川実花(2000年度)、HIROMIX(2000年度)、松江泰治(2001年度)、川内倫子(2001年度)、佐内正史(2002年度)、オノデラユキ(2002年度)、澤田知子(2003年度)



企画展【最新受賞作品と木村伊兵衛作品を展示】
2010年11月13日(土)~2011年1月10日(日・祝)

受賞者:中野正貴(2004年度)、鷹野隆大(2005年度)、本城直季(2006年度)、梅 佳代(2006年度)、岡田 敦(2007年度)、志賀理江子(2007年度)、浅田政志(2008年度)、高木こずえ(2009年度)
同時展示:木村伊兵衛作品

川崎市市民ミュージアム公式サイト

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