骰子の眼

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東京都 ------

2010-07-01 17:15


「理想はやっぱり“ただ居る”をやり続けること」 女優・キムラ緑子インタビュー 【前編】

劇団M.O.P.の最終公演『さらば八月のうた』への出演も決定している、女優・キムラ緑子氏インタビューの前編
「理想はやっぱり“ただ居る”をやり続けること」 女優・キムラ緑子インタビュー 【前編】

厳選シアター情報誌「Choice!」との連動インタビュー企画“Artist Choice!”。「Choice!」本誌にはインタビューの他にもさまざまな映画・演劇の情報が満載です。

今回は8月に、約25年在籍した劇団M.O.P.の最終公演『さらば八月のうた』への出演が決まっている、女優・キムラ緑子氏のインタビュー前編。後編は、8月上旬更新予定です。




余計なことをした自分に気付いてショック

どんな役でも変わらない気持ちで演じます──。これまでしてきたたくさんのインタビューで、何人もの役者の口からその言葉を聞いてきた。それが嘘でなかった人も少なからずいたと思う。でも、気持ちだけでなく技術でもそのふたつを成立させられる人は、とてもとても少ない。キムラ緑子は、いつもブレなくそれを見せてくれる貴重な女優だ。

「えー、本当?本当ならうれしいですけど」

美人なのに人懐こい、外に開かれた笑顔。

「でも作品そのものがしっかりしていれば、どんな役だって根付いて見えるんじゃないかと思うんですが」

何も秘密はありません、とばかりにカラリと言うが、もちろん現実はそんなに簡単でないことを、私達は実感として知っている。短い登場シーンで強い印象(強烈なインパクト、ではない)を残して「あの人、誰?」と思わせる役者がのちのち売れていくわけだが、しっかりしていない作品でもそういうサクセスケースはあるし、作品がしっかりしているからと言って、隅から隅までそうした役者で埋められていることなどないからだ。

だからやっぱり、根付きの深さが違うという点で、キムラ緑子は別格だと言わなければならない。たとえば『命』(02年)という映画があった。キムラの役は、豊川悦司演じる演出家の病室にほんの一瞬だけ訪れる、ベテラン劇団制作者。『嫌われ松子の一生』(06年)では、父親との関係が主人公・松子の性格に大きく影響を与えたという設定の、松子の母親役。作品紹介のあらすじには登場しないそれらの人物が、キムラ緑子という演じ手を通すと、途端に重要性を帯びてくる。ウソであるはずの映画の時間を本当にする。スクリーンには映っていない物語の時間を、ちゃんと想像させてくれる。

「背景が見える感じ?ああ、うれしいですね。言ってもらって嬉しいのは “そこにいる感じがする”という言葉です。薬屋さんなら薬屋さんでずっと働いてきた人に見える、みたいな」

観客にとっては観たい、役者にとってはそうありたい、監督にとってはありがたい。そんな演技はどこから生まれるのだろう。

「印象に残るとしたら声じゃないですか。“あの太い声の女の人、誰?”みたいな(笑)。違う?でももしかしたら、芝居がちょっと濃いのかもしれませんね。たとえば舞台で、誰かとデュエットするとか、同じ振り付けをするとか、全員で並んで歌うとか、そういう時、たまにね、必要以上に頑張っちゃう自分を見つけたりするんですよ。何かちょっと、余計なものをくっつけてみたくなるんでしょうね。見つけた時は落ち込みましたよ。“うわ、私、ダメだわ”って。理想はやっぱり“ただ居る”をやり続けることですもん」

無自覚と自覚の間で、反省と努力を繰り返す──。つまりそれは、プロフェッショナルであるということだ。それを実際の演技に落とし込むことが、きわめて難しいわけだが。

「……必死でやるしかないんですけど(笑)。真ん中の役でも、そうでない役でも、基本はやっぱり一緒ですよ。その人の人生を一生懸命考えて、こんな人だったらこういう喋り方するなとか考えていく。でもやっぱり、だいたい台本通りにやっていけば出来上がっていくんですよ」

キムラ緑子


自分の生理に正直に、相手を喜ばせる

その具体的な作業手順を、最近の出演作を挙げて教えてくれた。

「山田洋次監督の『おとうと』という映画にワンシーン出たんですけど、私の役は(笑福亭)鶴瓶さんが演じる鉄郎と付き合っている、頭がちょっと緩い女の人だったんですね。せりふが少しだったので、あまり細かく(役のプロフィール的なことは)書いてない。“この中でどうしようか?”と考えて私がやったことは、まずメイクさんにお化粧を濃く頼んで、髪はバサッとしてもらう。それから左利きの人にしてみたんです、文字を書くシーンがあるから。左利きだと多少、書き方も仕草もたどたどしくなるかなと。あとはもう、お金欲しいから来たとか、あの人が大好きだからいるとか、台本に書かれている気持ちみたいなものを核に持ってせりふを喋ったんですね。だから……本当に基本的なことを心がけているつもりです」

ほらやっぱり秘密なんてないのよ、と言わんばかりに照れまじりに「基本」という言葉を口にするが、演じる役と作品の世界に溶け込んで生きる努力を、当たり前にしていることがわかる。もしかしたら、そういう作業が単純に好きなのだろうか。

「好き、とは違うかな。役をつくる作業は苦しいです。散々、すったもんだします。まったく違う方向に行ったり、何も浮かばなかったり、浮かんでもできなくなったりとか、いろんなところに行ってジタバタして、最終的になんとか間に合う感じですね。舞台だとその期間が長い分、七転八倒や遠回りしたりもたくさんしますよね。もしかしたら、役者はそういう人が多いんじゃないかと思いますけど、私、体がすごく正直なので、腑に落ちないと本当に気分が悪くて吐きそうになるんです(笑)。だから自分の生理(と役)がつながるまでは、身体も心も本当につらいですね。そこから脱出するためには結局、何度も何度も稽古するしかないんですけど」

もちろん、自分の気持ち良さだけを求めて、ひとりの世界で自問自答を繰り返すのではない。悩めば監督や演出家に積極的に質問するなど、常に気持ちを開くことを心がけている。

「監督や演出家さんが言ってくれることは絶対に試します。その人が男性であれ女性であれ、演出家の好む女になりたいタイプなので(笑)。やってみてそれが合わない、納得できないと思ったら、それも言います。“私は違うと思うんだけどな”と思いながら、黙って言われたことだけするのも苦手なので。……言わなくても、私が気持ち悪そうなのが伝わって、向こうから“違うこと試そうか”って言ってもらったりもしますけど(笑)。でもいずれにしても、やってみて、自分が納得できたことを向こうも喜んでくれたら、最高にうれしくなる。演出家を喜ばせたいんです。劇団(M.O.P.)の演出家と夫婦だったこともあって、その癖がついてるのかもしれません(笑)」

約25年在籍していたその劇団が、この8月で解散する。キムラ緑子の原点をつくった劇団M.O.P.について、次回で聞く。

★インタビューは後編に続きます。後編は8月上旬更新予定。

取材:徳永京子 撮影:平田光二


キムラ緑子’sルーツ

つかこうへい作品。
マキノはつかさんが好きでお芝居をしてて、
私はそれを観て衝撃を受けてお芝居を始めました。

◇劇団つかこうへい事務所 [1974-1982]
劇作家・つかこうへいにより旗揚げ。風間杜夫、平田満、加藤健一、柄本明、萩原流行、石丸謙二郎、根岸李衣などの人気俳優を続々と世に送り出し、演劇界に「つかブーム」を巻き起こした。“新劇臭”を払拭した作品世界は特に若者層から熱狂的に支持された。74年、「熱海殺人事件」で岸田國士戯曲賞、80年、「蒲田行進曲」で紀伊國屋演劇賞を受賞。82年解散。

キムラ緑子(きむら・みどりこ)プロフィール

1984年の劇団M.O.P.の旗揚げ以来、看板女優として、『HAPPY MAN』『エンジェル・アイズ』『阿片と拳銃』などに出演。劇団以外にも、テレビ、映画、外部公演と幅広く活躍。十三夜会賞・個人賞(93年)、第32回紀伊國屋演劇賞個人賞(97年)、第12回読売演劇大賞優秀女優賞(05年)など受賞歴も多数。




公演情報

劇団M.O.P. 最終公演
『さらば八月のうた』

日程:[東京公演] 2010年8月4日(水)~16日(月)
劇場:紀伊國屋ホール
作・演出:マキノノゾミ
出演:劇団M.O.P.全メンバー 他

劇団M.O.P. 最終公演 『さらば八月のうた』
撮影:林建次



厳選シアター情報誌
「Choice! vol.14」2010年7-8月号

「Choice! vol.14」2010年7-8月号

厳選シアター情報誌「Choice!」は都内の劇場、映画館、カフェのほか、演劇公演で配られるチラシ束の“オビ”としても無料で配布されています。

毎号、演劇情報や映画情報を厳選して掲載。注目のアーティストをインタビューする連載“Artist Choice!”の他にも劇場・映画館周辺をご案内するお役立ちMAPやコラムなど、盛りだくさんでお届けします。
公式サイト

◇ステージラインナップ

・パルコ劇場公演『空白に落ちた男』
日程:7/24(土)~8/3(火)
劇場:パルコ劇場

・ナイロン100℃『2番目、或いは3番目』
日程:6/21(月)~7/19(月・祝)
劇場:本多劇場

・DuckSoup produce 2010『透明感のある人間』
日程:7/3(土)~11(日)
劇場:ザ・スズナリ

『真夜中のパーティー』
日程:7/4(日)~19(月・祝)
劇場:PARCO劇場

『ファウストの悲劇』
日程:7/4(日)~25(日)
劇場:Bunkamuraシアターコクーン

・劇団、江本純子『婦人口論』
日程:7/15(木)~25(日)
劇場:東京芸術劇場劇 小ホール1

◇シネマラインナップ

『ルンバ!』
公開日:7 /31(土)~
上映館:日比谷 TOHOシネマズ シャンテ

『SR サイタマノラッパー2~女子ラッパー☆傷だらけのライム~』
公開日:6/26(土)~
上映館:新宿バルト9

『ぼくのエリ 200歳の少女』
公開日:7/10(土)~
上映館:銀座テアトルシネマ

『バード★シット』
公開日:7/3(土)~
上映館:新宿武蔵野館

『恐怖』
公開日:7/10 (土)~
上映館:テアトル新宿

『トルソ』
公開日:7/10 (土)~
上映館:ユーロスペース

『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』
公開日:7/17 (土)~
上映館:新宿武蔵野館

『何も変えてはならない』
公開日:7/31 (土)~
上映館:ユーロスペース


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