クラスターのディーター・メビウス(左)とハンス・ホアキム・ローデリウス(右)
2004年のオープンより、旧来の概念を打ち破るブッキングやラインナップを続け、次世代のムーヴメント発信地として音楽ファンから絶大なる支持を集める代官山UNIT。そのUNIT6周年を記念するイベントとして、ドイツのクラスターの来日が実現した。ロックそして電子音楽の分野で実験的な創作とコラボレーションを続け、その後のアンビエントやハウス/テクノ・ミュージックに多大なる影響を与えた伝説のユニットが、日本のエレクトロニック・ミュージック・アーティストとともにUNITのアニヴァーサリーを祝う。UNIT、UNICE、SALOONの3フロアをまたいで行われるこのイベントを記念して、今回はクラスターへのインタビューが実現。片割れディーター・メビウスとともに先鋭的な作品を発表し続けてきたハンス・ホアキム・ローデリウスが答えてくれた。
ノイズだけではなく、意味に関連性のある音楽をやるべきだと、
私たちはアクショニスト(活動家)であることをやめた
──70年代初頭にドイツにクラウトロックが生まれたきっかけは、学生運動やアメリカからのポップアートやカウンターカルチャーからの影響によるものとされていますが、当時電子音楽の機材面での発達とともにあなたがたはどのようなものからインスピレーションを受けていたか、もうすこし具体的に教えていただけますか?特に学生運動については、具体的に思想的な部分や音楽性にどのような作用があったのでしょうか?
そう、全てのドイツの文化は当時の時代やムーヴメントに影響を受けている、いわゆるフラワー・ムーヴメントに。でももちろんそれだけじゃなくて、ドイツの歴史に関わる、ヒトラーとその彼が引き起こした第二次世界大戦、ホロコーストなど、他の理由もあって、ドイツの文化は大至急再形成と再構築を行う必要に迫られていた。
私はもともと戦争直後にはドイツのロシア占領地区に住んでいたこともあって、軍隊に駆り出されなくてはならなかったし、その軍にも見放され、監獄に入れられていた。その経緯もあって理学療法士/マッサージ師の勉強を始め、私にとっては全てが幾分異なる世界である西側へと移住することになったんだよ。
ファースト・アルバムにしてジャーマン・エレクトロニクスの重要作『Cluster 71』
1960年に西ベルリン(当時米英仏の3ヵ国占領地域であり、したがって、西ベルリン市民は名目上西ドイツの統治下になく、徴兵もなかった。ベルリンの壁構築は1961年)へ移住した時、自分が作曲家/音楽家になりたいと気付くまでの最初の10年ほどは理学療法士として働いていた。若い頃とてもひどい日々を過ごした共産主義システムのもと、私自身は燃え尽きたような状態だったから、当時の西ベルリンの政治状況も私にとってはあまり興味を引かれるものではなかったし、だからデモにも参加していなかった。でも学生運動のイデオロギーは支持していたんだ。
なんにせよ、これらのことは、自分がミュージシャンになろうと決めたことにあたって影響を与えている。どう、とははっきり言えないけれど、自分が生きていこうとするうえで、自分が現実世界の一部であろうとするうえでたくさんの意味を持っているんだよ。
──『Cluster II』など、音楽性とともに各作品のアートワークも独自性が発揮されていましたが、ビジュアルについてはどのようにコンセプトを作り上げていったのでしょうか?
メビウスと出会う前、彼はデザイナーだった。だから彼はそれからもデザイン/ヴィジュアルワークを続けていっただけだよ。
1972年にリリースされた『Cluster II』
──Cluster名義のみならず、Cluster & Eno、Moebius, Plank, Neumeier、Harmoniaなど様々なコラボレーションを行い、それぞれ特徴的なサウンドやテクスチャーを生み出してきましたが、一貫して変わらなかったものというと、どういった要素になると思いますか?
コンラッド・シュニッツラーとのKlusterが始まった時、そのコンセプトはノイズの出るもの、ノイズみたいな音の出るものならなんでも使って即興していくことだった。メビウスと私がKlusterを抜けた時だって、そのコンセプトを変える理由は何もなかったよ。でも、単にノイズを組み合わせていくだけではなくって、もっと意味に関連性のある音楽をやるべきだと考えていたし、そのためにもオーディエンスに理解してもらえるよう、真剣に音について向かい合っていかなければならないと考えていた。だから私たちはそこでアクショニスト(活動家)であることをあきらめ、それからゆっくりとClusterが今世界で知られているような音になったんだ。
ブライアン・イーノとのコラボレーション作品でありアンビエント・ミュージックの名盤として知られる『Cluster & Eno』(1977年)
今までやってきたコラボレーションについては、実際のところまた別の方法論ということになるかな。スタジオワークだったし、つまり、パーソナリティを共有するもので、これらのプロダクションはすべて即興から始まったけれど、でもプロダクションに関わっている全員が自分のできることをこのゲームに持ち込むから、最終的にはもっと複雑で精巧なものになっている。それに一緒に演奏して作業していることの測深がスタジオでの非常に重要なツールとしてメインのルールだしね。
Clusterは以前から、そして今も変わらず、ゼロのところから始まっているし、ライヴにしろスタジオにしろ、演奏から生まれる音楽そのものの関連性のみを注視している。始まった頃からそんなに変わった事柄というのはなくって、変わったといえば機材/楽器じゃないかな。
──2009年のShackletonのリミックスも話題となりましたが、現在あなたがたが特に交流を深めている若い世代のアーティストはいらっしゃいますか?またダブステップ、ディスコダブなど近年のエレクトロニック・ミュージック /ダンス・ミュージックのムーブメントについてはどのように感じていますか?
若い世代だからといって特別な人はいないけど、もし名前を挙げるとなると、ずいぶん長いリストになるだろうね。最近のエレクトロニック・ミュージック/ダンス・ミュージックについても同様で、やっぱりすごく長いリストになってしまうよ。ただ、今は他の音楽を聴く時間を作ることが以前ほどできていないんだ。たくさん家族がいるし、自分でやっているちいさなフェスティヴァルもあるし、メビウスとライヴやレコーディングするだけでなく、チェロ、ヴァイオリン、ハーディーガーディー、バックパイプ、ニッケルハープ、サックス、キーボード・プレイヤーとか、いろいろな集まりの人たちとやっているしね。だから、そのフェスティヴァルが唯一他の人の音楽をしっかり聴ける機会かもしれない。でも、そこまで爆音で聴く、ということでなければいろいろ聴いているよ。
メビウスがコニー・プランク、マニ・ノイマイヤーと組んだメビウス・プランク・ノイマイヤー名義による『ZERO SET』(1982年)は現在も多くのアーティストから賛辞を寄せられている
──SOUL JAZZ RECORDSからのコンピレーションをはじめとしたイギリスでのクラウトロック再評価の機運は、日本にも伝わってきていると感じます。いまクラスターのサウンドが求められているその原因はどこにあると感じますか?また、現代を生きるアーティストとして、現在の音楽シーンに向けてどのような新しいビジョンを提示したいと思っていますか?
現在、SOUL JAZZからのコンピレーションの他、ハンブルグのBureau BがClusterバックカタログのほぼすべてとメビウスと私のソロ作品を連続で再発してくれているし、オハイオのNepenthe-recordsも私とメビウスの作品、それにその周辺作品を再発した。アメリカの重要レーベル、Important RecordsもClusterとKlusterの過去にやったライヴ音源をリリースしてくれている。だから今、Clusterにすごく注目が集まっているのは感じるよ。私自身はメビウスとの作業にしても自分のソロにしても、いまだにやりたいようにやっているだけなんだけどね。ビジョンとかはこういうことを始めた最初から何も変わってないんだ。自分のやっていること、やってきたことは気に入っているよ。それが私の人生だから。
2010年リリースされ話題を呼んでいる『Deutsche Elektronische Musik; Experimental German Rock and Electronic Musik 1972-83』。クラスターをはじめとしたドイツのエクスペリメンタル・ミュージックがコンパイルされている。
──今回の来日公演は、日本のエレクトロ・ミュージック・シーンの新世代やダンス・ミュージックのオーソリティとの競演になります。それ以外にも2008年のELEKTRONISK JAZZJUICEではにせんねんもんだいと同じステージに立っていたりすますが、日本の電子音楽/ダンスミュージックのアーティストについてどのような印象をお持ちですか?
日本のアーティストとライヴが一緒になったりした時はいつでも素晴らしい経験をしているし、彼らの音楽を楽しんでいるよ。大阪/京都/東京でのショウはすごく楽しみだし、以前にも会っている人たちもいるからまた会えることを嬉しく思うよ。
──7月3日のライブ・パフォーマンスはどんなセットを期待できそうでしょうか?
私たちが言えるのはたった一つだけ。ベストなショウができるよう最善を尽くすってこと。みなさんライヴで会いましょう。お寿司を食べに行きたいね。
(構成・文:駒井憲嗣)
★本文中の各作品の購入はジャケット写真をクリックしてください。
Amazonにリンクされています。
クラスター プロフィール
ベルリンのアート/音楽集団Zodiak Free Arts Labを母体として1969年に結成。同時期に活動していたクラフトワークらと共にクラウトロックを産み出したパイオニア。マシーンによる神秘的で革新的な音楽言語を創造し、"kosmische"(コズミック=cosmicのドイツ語)と形容されるサウンドの流れを決定づけた。初期はハンス・ホアキム・ローデリウスとディーター・メビウスに加え、タンジェリン・ドリームのオリジナル・メンバーであったコンラッド・シュニッツラーとのトリオ編成であり、この時期の作品はKluster名義で発表。彼の脱退後はClusterとして活動している。デュオとしてのみならず、ブライアン・イーノやドイツ音楽シーンの最重要プロデューサーであるコニー・プランク、元クラフトワークでノイ!のオリジナル・メンバーでもあるミヒャエル・ローターらとのコラボレートにより自身の音楽を発展させている。また、ローデリウスとメビウスはミヒャエル・ローターとのトリオ・ハルモニアを結成、『Musik von Harmonia』(1974年)『De Luxe』(1975年)の2枚の作品は、現在の音楽シーンにまで繋がるエレクトロニック・ミュージックの歴史的名作として確固たる評価を獲得している。2010年、英国の名門レーベル Soul Jazzより発表された決定盤的ドイツの電子音楽コンピレーション『Deutsche Elektronische Musik; Experimental German Rock and Electronic Musik 1972-83』ではクラスター、ハルモニア、ローデリウスやメビウスのソロ楽曲などが収録曲のうち圧倒的多数を占め、多方面で話題と再評価の渦を巻き起こしている。
http://www.myspace.com/theonlyclusterthatmatters
http://www.myspace.com/roedelius
http://roedelius.com/
http://www.dietermoebius.de/
UNIT 6th Anniversary Premier Showcase feat.Cluster
2010年7月3日(土)
会場:代官山UNIT [地図を表示]
開場/開演 21:00
※IDチェック実施のため、20歳未満の方、写真付き身分証明書をお持ちでない方のご入場はお断りさせて頂きます。
料金:前売4,000円/フライヤー持参の方4,500円/当日5,000円
【出演】
UNIT
SPECIAL LIVE:Cluster (from Germany)
LIVE:Boris、evala (port / ATAK)
Boris(UNIT出演)
DJ:Fumiya Tanaka (Sundance / op.disc)、KENJI TAKIMI (LUGER E-GO / CRUE-L)、TEN (STERNE / ERR)
VJ:SO IN THE HOUSE
SALOON (B3F)
"DREAM MATCH"powered by Jah-Light Sound System
SOUND NAVIGATOR :Jah-Light、Nessill、Shinis
MESSENGER:Sonshi-MC
SOUND NAVIGATOR:DJ:Yoshiki(Runch / op.disc)、Yone-Ko(Runch / CABARET)、Kazuhiro Tanabe(420TOUR / MOKMAL)、Ko-Jax(grasshopper / picasso)、DJ Masda(toboggan / CABARET)、Miyabi(PLUS / Phenomana)
evala(UNIT出演)
UNICE (B1F CAFE)
"delight emotion floor"
DJ:L?K?O、INNER SCIENCE、タカラダミチノブ (HONCHO SOUND)、Ametsub(nothings66 / PROGRESSIVE FOrM)、Hiyoshi(Global Chillage Tokyo)
VJ:majio
Fumiya Tanaka(UNIT出演)
【前売チケット】
チケットぴあ 0570-02-9999 [P] 109-436
ローソンチケット [L] 78168
e+
都内各レコードショップ:
[渋谷]TOWER RECORDS渋谷店、diskunion渋谷CLUB MUSIC SHOP、diskunion渋谷ロック館、GANBAN、HMV渋谷店、Lighthouse Records、TECHNIQUE
[新宿]diskunion新宿CLUB MUSIC SHOP、diskunion新宿プログレッシヴ・ロック館、LOS APSON?
[お茶の水]diskunionお茶の水CLUB MUSIC SHOP
[吉祥寺]diskunion吉祥寺店
[下北沢]diskunion下北沢店、JET SET、warszawa
[高円寺]small music
協力:ドイツ文化センター
主催/制作:株式会社 スタンダードワークス
お問い合わせ:UNIT
その他詳細は公式サイトから
関連企画
『CLUSTER@ICC』
クラスター講演会 ドイツ電子音楽のパイオニア、クラスターの40年史
日時:2010年7月2日(金)19:00
出演:クラスター(ハンス・ホアキム・ローデリウス,ディーター・メビウス)
会場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] 4階特設会場 [地図を表示]
定員:200名(当日先着順)
入場無料/日英同時通訳つき
主催:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]
企画協力:UNIT、安永哲郎事務室
『UNIT 6th Anniversary Premier Showcase feat.Cluster』
に2組4名様をご招待
【応募方法】
webDICE会員の『webDICE編集部』アカウントまでメッセージをお送りください。
(ログインした状態でのみメッセージ送信が可能です)
■メッセージ送付先
webDICE編集部
http://www.webdice.jp/user/283/
■件名を「UNIT6周年」としてください
■メッセージに下記の項目を明記してください
(1)氏名 (2)郵便番号・ご住所 (3)電話番号 (4)ご職業 (5)性別 (6)応募の理由
※『webDICE編集部』アカウントにメッセージを送るにはwebDICEのアカウントを取得する必要があります。登録がまだの方は以下ページより、新規ご登録ください。
webDICE新規登録ページ
http://www.webdice.jp/signup.html
■応募締切り:2010年7月1日(木)23:00
※ご当選の方には7月2日(金)中にメッセージにてご連絡を差し上げます。