骰子の眼

dance

埼玉県 さいたま市

2010-06-22 21:21


「ホフェッシュ流の謎かけがちりばめられた作品」―さいたま芸術劇場プロデューサー・佐藤まいみによるレビュー

いよいよ今週末に上演される新作『ポリティカル・マザー Political Mother』を中心に“ホフェッシュ・シェクターの魅力”に迫る
「ホフェッシュ流の謎かけがちりばめられた作品」―さいたま芸術劇場プロデューサー・佐藤まいみによるレビュー
(c)GABRIELE ZUCCA

いよいよ今週末=6月25日(金)~27日(日)に上演されるホフェッシュ・シェクターの新作『ポリティカル・マザー Political Mother』。舞踊ジャーナリストの岩城京子によるレビュー、ホフェッシュへのインタビューに続き、日本初演を実現させる、さいたま芸術劇場プロデューサーの佐藤まいみ氏に、これまでの2作品、そしてイギリス・ブライトンでの初演を見ての想いを語ってもらった。


“ホフェッシュ・シェクター”、この名を記憶せよ

ニューヨーク・タイムズ紙が2008年の7月に「“ホフェッシュ・シェクター”、この名を記憶せよ」と書いた。ホフェッシュ・シェクターという耳なれない名前をはじめて聞いたのはその少し前のこと。ロンドンのあるプロデューサーがイギリスで今目が離せない期待の振付家だと語ってくれたときだった。聞き取りにくい名前だったので2、3度聞き返したせいもあり記憶に留まってしまった。その後ほどなくヨーロッパ、アメリカのダンスフェスや劇場プログラムでその名前を見かけるようになる。要チェックである。どんな舞台なのか見に行かねば。

最初に見たのが『Uprising/In your room』と題されたダブルビル。ホフェッシュの名前をイギリス国外にも広く知らしめた2作品の同時公演である。『Uprising』は25分ほどの短編。男性ダンサーのみ7人の作品、インダストリアル風に強烈な音量で反復するリズムが舞台をいっぱいに満たすそのなか、男同士の喧嘩が始まって、仲直りして肩叩き合って、でもそれが小突き合いになっていって、といった状況の中で刻々と変化する関係性がフィジカルにダイナミックに展開するのだが、最後に意外な展開が待っていた。6人の男たちが仲良くかたまって肩組すると残った一人がその上に飛び乗り小枝にくくりつけた赤い小さな旗を片手で掲げるのだ。そしてごく控えめに旗を振るのである。いきなり最後に出てくる小さく振られる赤い旗。幕が降りてからあれはなんだったと考えてしまった。あれはなんだったの?(これがまさにホフェッシュならではの表現だと気がつくのは3作目の『Political Mother』を見てからである。)

sGABRIELE ZUCCA (50)_low
(c)GABRIELE ZUCCA

押し付けがましくないのに、とても力強い作品

『In your rooms』は45分ほどの作品。男性ダンサー6人に女性ダンサー4人、そこにライブ音楽のためのミュージシャン8人が舞台上に加わっていた。『Uprising』とは別の作品として作られたものだが、舞台に流れる空気は同質である。続き物としても見ることもできると感じた。はじまりからプリミティブで野性の匂いを発散するような動きのエネルギーだ。この作品には出だしに台詞(録音されている)がまず出てくる。一人の若い男が自分が今生きている世界をどのように感じているかを語っているようだ。男は都会に迷える子羊みたいである。ここではスカートをはいた女性のほうが強そうで迷っていないように見えた。今の日本の若者の現実にも近い。しかし解釈も結論も観客にゆだねている。押し付けがましくない。なのにとても力強い作品なのだ。見ていてふと観客は自分が問いかけられているのだと気づく。

ssimona boccedi (20)_low
(c)simona boccedi

この2つの作品を見て、これまでダンスではみたことがないような、ホフェッシュ流の謎かけがちりばめられた作品に惹かれてしまった。

さて、彩の国さいたま芸術劇場で6月25日から公演が始まる最新作『Political Mother』は、ひと月前の5月20日、ブライトン・フェスティバルで世界初演されたばかりの作品である。作品を見る前にさいたまでの上演を決めたものだから、ブライトンまで見に行ってきた。

新作『ポリティカル・マザー Political Mother』の衝撃

幕が開くと舞台中央、鎧を着けた一人の騎士のような出で立ちの男性がやおら剣を抜いていきなり切腹するシーン(横一文字切りではなくただ突き刺す)で始まった。そこに阿波踊りみたいな仕草で踊りながら2人のダンサーが登場、ほどなく舞台中段奥に横一列に控えた軍楽隊のようないでたちのドラマーたちが闇の中に突如浮かび上がり太鼓を大音量で連打し始めるや、その上段に政治家風の人物が現れ拳を振り上げつつマイクに向かって大声で何語だかわからない言葉で演説する。強烈なオープニングだった。前作同様ダンサー10人、ミュージシャン8人の構成。ロックコンサートのような有無を言わせぬプリミティブな迫力の出だしである。ホフェッシュはドラマーでもあるが、これら音楽のパートも創っている。ダンスの動きは阿波踊りとかアフリカンダンスみたいに多くはプリミティブなのだが、シチュエーションの設定はホフェッシュ特有である。文字や言葉もいきなり具体的に出てくる。独特な構成なのである。しかしさりげないやり方なので見る方は、え、何で?どうするつもり?というように想像力をとても刺激されるのである。

sGABRIELE ZUCCA (32)_low
(c)GABRIELE ZUCCA

ホフェッシュはひとつのはっきりしたメッセージを伝えているのではない。ああではないか、こうではないかと想像させる手がかりを、あちこちにちりばめてくれるのだ。全体的にはパワフルでエネルギッシュなのにどこかで時々力を抜く、肩すかしする、みたいなところもあってそこがなんともクール。今後も目が離せないアーティストである。

(文:佐藤まいみ/彩の国さいたま芸術劇場 プロデューサー)

■ホフェッシュ・シェクター PROFILE

ダンサー、振付家、作曲家。イスラエルを代表する世界的ダンス・カンパニー、バットシェバ舞踊団にてダンサーとして活躍。同時にドラムとパーカッションの訓練を始め、その後フランスのAgostiny College of Rhythmで学ぶ。ダンス、演劇、ボディ・パーカッションなどを融合した様々なプロジェクトに関わりながら自身の音楽的実験を展開。2002年、イギリスに移る。自ら振付、作曲を手がけた処女作『Fragments』(03年)で早くも注目を集め、04~06年、ロンドンの重要なダンス拠点、ザ・プレイスのアソシエイト・アーティストとなる。プレイスの委嘱で06年、『Uprising』を創作。7人の男性ダンサーによって踊られるこの作品は、ホフェッシュの代表作となる。そして翌年、『In your rooms』(07年)の成功により、一躍UKダンス・シーンの先導的地位を確立した。08年にカンパニーを結成。同年の英国ダンス批評家賞最優秀振付賞を受賞。現在、サドラーズ・ウェルズ劇場(ロンドン)アソシエイト・アーティスト。ブライトン・ドーム(ブライトン)にカンパニーの創作拠点を置く。
公式サイト


flyer-cut

ホフェッシュ・シェクター
『ポリティカル・マザー』
6月25日(金)~27日(日)彩の国さいたま芸術劇場

振付・音楽:ホフェッシュ・シェクター
出演:ホフェッシュ・シェクター・カンパニー(ダンサー10名 ミュージシャン8名)
時間:6月25日(金)開演19:30、26日(土)開演15:00、27日(日)開演15:00
※6月25日(金)の公演終了後にホフェッシュ・シェクターによるポストトークを開催
会場:彩の国さいたま芸術劇場[地図を表示]
料金:
【一般】S席5,000円 A席3,000円 学生A席2,000円
【メンバーズ】S席4,500円 A席2,700円


※その他詳細は彩の国さいたま芸術劇場公式サイトから


【関連リンク】

・現代人と社会のあいだの摩擦を、美しい原始的エネルギーに昇華―拳をふりあげたくなる圧巻のダンス
(ホフェッシュ・シェクター 作品レビュー)
http://www.webdice.jp/dice/detail/2465/

・陶酔と覚醒の繰り返しを観客に強いてくる気鋭の振付家ホフェッシュ・シェクター日本初公演!
(ホフェッシュ・シェクター インタビュー)
http://www.webdice.jp/dice/detail/2488/

レビュー(0)


コメント(0)