パパ・ウェンバ (c)Toru SAKAI
6月9日(水)、アップリンク・ファクトリーで、“『ソウル・パワー』meets『ベンダ・ビリリ!~もう一つのキンシャサの奇跡』上映記念合同トーク・イベント”が開催された。出演者として、ブロードキャスターのピーター・バラカン氏、そしてともに物語の舞台となるコンゴ共和国・キンシャサに暮らした経験のある、カメラマンの酒井透氏とJICAの飯村学氏を迎えた。現在公開中の『ソウル・パワー』と今秋公開の『ベンダ・ビリリ!~もう一つのキンシャサの奇跡』をバラカン氏が解説する【第一部】と、キンシャサという都市と音楽について3氏が語る【第二部】の二部構成で開催。
【第一部】『ソウル・パワー』meets『ベンダ・ビリリ!~もう一つのキンシャサの奇跡』
【第一部】では、『ソウル・パワー』の予告編映像や本編映像からミュージシャンたちの華やかなステージシーンを上映。ピーター・バラカン氏が、ジェームス・ブラウンを始め、B.B.キング、ザ・スピナーズなどのアーティストのバックグラウンドや音楽性について語った。ピーター・バラカン:
映画『ソウル・パワー』は大変面白い内容です。ご存知の方も多いかと思いますが、1974年にモハメド・アリとジョージ・フォアマンのボクシングの試合がありました。英語では“ランブル・イン・ザ・ジャングル”と呼ばれています。日本語では“キンシャサの奇跡”と呼ばれていたことを、ついこの間まで知りませんでした。アメリカ人は韻を踏むのが好きなもんでね、“ランブル”と言うのは喧嘩のことです。とどろく音というのが本当の意味ですが、喧嘩という意味でよく使われます。“ランブル”と“ジャングル”はちょっといい加減な韻の踏み方ではあるけれども、アフリカのイメージなんでしょうね。そういう風に呼ばれていました。
そして、トランペット奏者のヒュー・マセケラとレコード・プロデューサーのスチュワート・レヴァインという人がもう既に友達になっています。一緒に“Chisa”というレコード・レーベルを作って、ヒュー・マセケラのレコードやジャズ・クルセイダーズのレコードなど、色々なレコードを出していて、スチュワート・レヴァインはプロデューサーとしては有名な人なのでが、ずっどヒュー・マセケラの友達でもあるんです。この2人にね、アフリカン・アメリカンとアフリカのミュージシャンの両方で大きなミュージック・フェスティバルを作りたいというアイデイアが沸いてきて、ドン・キングという伝説のボクシングのプロモーターがこの“ランブル・イン・ザ・ジャングル”をやることを知り、じゃあそれにぶつけて、同じザイールのキンシャサでできないものかと持ちかけたんです。
左からモハメド・アリ、ビル・ウィザース、ドン・キング。映画『ソウル・パワー』より
ドン・キングは既にザイールの独裁者、モブツを説得して、場所を提供してもらうことになっていたんですね。そのミュージック・フェスティバルにも同じ場所を提供すると言われたのだけど、フェスティバルに関しては全くお金が出ないものだから、フェスティバルの運営側で投資する人たちを見つけてやることになったのです。だから本当は同時開催のはずなのですが、ジョージ・フォアマンが、試合の直前に目の怪我をしたんです。試合が1ヵ月半ほど延期になりました。しかし、フェスティバルは3日間だし、色々な出演者が集まらなければいけないので、1ヵ月半延期だなんてとても無理の話で、フェスティバルだけが予定通り早く開催されたのです。本来の、劇的なボクシングの試合との同時開催だったら、フェスティバル自体も大きな話題になっていたのですが、先にやってしまったものだから、ほとんど気付かれずに、ほぼキンシャサのお客さんだけが注目した形になったと思います。
スピナーズ。映画『ソウル・パワー』より
スピナーズというのは60年代から活動していたグループなのですけども、70年代が一番人気のピークですね。70年代の黒人のグループは独特のファッションと振り付け、これは僕もちょうど74年だったと思う、東京に来たばかりの頃に、新宿厚生年金会館でこのスピナーズのライブを見てビックリしました。絶対にロックの世界ではありえないけど、これは70年代はこれなんです。この、お客さんの熱狂ぶりには、映画を見るだけで盛り上がってしまうんだけど、この映画のコンサートの雰囲気はすごいものだったんですよね。ザイールのお姉さんたちもすごくかっこいいし、B.B.キングが出るときなんかね、おばちゃんたちもノリノリになっちゃうんだよね。これもまたかっこいい(笑)。
そしてこのフェスティバルの客席に、“スタッフ・ベンダ・ビリリ”のメンバーが何人いたか分からないのですが、モブツはね、自分の人気を維持するために、身体障害者にかなりの気を配っていたらしいですね。コンゴには相当数の身体障害者がいるわけですけど、彼らのために便宜を図って車椅子をちゃんと持ち込めるようなコーナーを作って、ベンダ・ビリリのメンバーのうち何人かが観て、ジェームス・ブラウンに感激した、というのは言うまでもないことだと思います。後に、彼らの音楽にも相当な影響を及ぼす事件だったと思います。
左から、ピーター・バラカン氏、JICA飯村学氏、カメラマン酒井透氏
【第二部】キンシャサ・パワー!
【第二部】には、カメラマンの酒井透氏とJICAの飯村学氏が登壇。まずはバラカン氏による今年9月中旬~10月中旬に来日公演を行う、スタッフ・ベンダ・ビリリのドキュメンタリー映画『ベンダ・ビリリ!~もう一つのキンシャサの奇跡』(9月シアターイメージフォーラムで公開)の解説のあと、飯村氏がコンゴ共和国という国とキンシャサという街についての概要を説明。2007~09年に滞在していたという飯村氏は、縦横100kmに1000万人もの人々が暮らすこの街の風景の写真を見ながら、生活、政治、歴史などについてユーモアを交え語った。「キンシャサはアフリカ一デカい街で、アフリカで唯一時差がある国。これまでJICAの業務として数多くの国を訪れてきたが、こんなにアドレナリンが出る国はない」。キンシャサ、コンゴ共和国に留まらず、アフリカの紛争の歴史、宗教、政治など話は幅広く膨らんだ。
(c)Toru SAKAI
1985年~86年にキンシャサに滞在していたカメラマンの酒井透氏は、アフリカ音楽に魅了されキンシャサに。当初6ヵ月の滞在予定が1年余りになったという。来日経験もあるコンゴ共和国のミュージシャン、パパ・ウェンバを始め、ヴィヴァ・ラ・ムジーカ、ショック・スタール、 T.P.O.K. JAZZ、オルケストル・ヴェヴェなどのミュージシャンたちを追い、写真を撮り、交流を深めた話を自身が撮影した写真を見ながら披露。所持金がゼロになりそれでも楽しいからと帰りたくなく、現地で覚えた踊りでおひねりをもらい生活したという話や、キンシャサのディープな音楽事情について語った。
客席からは「コンゴでは部族間の争いはある?」「日本とコンゴ共和国の関係は?」「情報操作はされている?国外の情報は入る?」「ソウル・ミュージックは現地でどれくらい人気?」など、多くの質問が上がった。
フランコ(c)Toru SAKAI
最後に飯村氏は「キンシャサの音楽は多様な民族から多様な才能が集まるので、パイが多い。どんなに貧しい生活の中でも必然的に優れた音楽が出てくる」、酒井氏は「キンシャサという街と人はとにかくパワフル。モハメド・アリが“キンシャサの奇跡”を起こしたのはきっと、そこでの人の熱狂が味方についたからでは」とそれぞれ語り、トークショーは幕を閉じた。
映画『ソウル・パワー』は、6月12日よりシネセゾン渋谷、吉祥寺バウスシアター、新宿K'sシネマ、川崎チネチッタで公開中。
映画『ソウル・パワー』
2010年6月12日(土)より、シネセゾン渋谷、吉祥寺バウスシアター、新宿K's シネマ、川崎チネチッタほか、全国順次公開予定
監督:ジェフリー・レヴィ=ヒント
出演:モハメド・アリ、ジェームス・ブラウン、B.B.キング、ビル・ウィザース、ミリアム・マケバ、他
配給・宣伝:アップリンク
アメリカ / 93分 / 2008年 / カラー / ドルビーSRD / 英語、フランス語、他
公式サイト
公式twitter