photographs(c)Raymond Depardon / Magnum Photos
マグナム・フォトの会員であり、ピューリッツアー賞受賞など数々の栄誉に輝くパリ在住の写真家レイモン・ドゥパルドンは『モダン・ライフ』において、南フランスに位置するセヴェンヌ村で農業を営むひとびとをカメラを向けている。彼の出自である農村に赴き、それぞれの生活を送るひとたちの姿を、淡々と描いていく。ドゥパルトンはカメラの外から彼らに呼びかけ、本音を聞き出そうという大げさな駆け引きもなく、食卓で彼らからのおもてなしを受けたり、里山での生活の楽しさや苦労にじっくりと耳をかたむけながら、長回しを続けていく。実に根気よく、静かに対話を繰り返していくような丁寧な手法は、ともに長きにわたりこの地に身を置くプリヴァ兄弟の対照的な性格や、「将来農民は必要とされなくなる」というなかば諦めにも似た言葉を引き出していく。
photographs(c)Raymond Depardon / Magnum Photos
都会人がこよなくあこがれる「田舎の生活」というフレーズ、実際今作においても羊を飼う暮らしを熱望し移住してきたものの、夢と現実のギャップに悩む夫婦が登場する。ドゥパルトンの透徹したまなざしは、心のどこかで「おだやかな暮らし」を渇望する私たちに静かに現実を差し出す。ほとんどの登場人物はカメラに向かって、つまり観客のわたしたちに向かって、日々の暮らしから生まれる細やかな感情の動きを話しはじめる。音楽やドラマティックな演出を極力廃した、その一貫してよどみのない流れのなかで、被写体との距離感やドゥパルトン自身の心の動きがそのまま画面に現れるシーンには心動かされずにはいられない。大地にしっかりと根を生やす人間の素の感情をそのカメラと対話によって引き出すその人間くささこそが、ドゥパルトンのカメラマンとしての、そして映画作家としての真骨頂であると言えるだろう。
photographs(c)Raymond Depardon / Magnum Photos
映画『モダン・ライフ』
6月26日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
監督・撮影:レイモン・ドゥパルドン
製作・録音:クローディーヌ・ヌーガレ
音楽:ガブリエル・フォーレ
編集:サイモン・ジャケ
提供:新日本映画社
配給:エスパース・サロウ
協力:マグナム・フォト東京支社
2008年/フランス/90分/35mm/カラー/シネマスコープ/ドルビーSRD
公式サイト