骰子の眼

music

東京都 ------

2010-04-01 16:30


「二人でひとつ、裏表な関係が子供っぽい中でも凄く美しくて」─『ソラニン』音楽担当ent・ホリエアツシインタビュー

浅野いにお原作の漫画を映画化した本作。音楽を担当するのはストレイテナーとしても活動する、ホリエアツシのソロプロジェクトent。
「二人でひとつ、裏表な関係が子供っぽい中でも凄く美しくて」─『ソラニン』音楽担当ent・ホリエアツシインタビュー

ゼロ世代を象徴するといってもいいだろう漫画家・浅野いにお氏のコミックスを原作にした映画『ソラニン』が2010年4月3日公開する。若者の日常を切取り、明日への不安や希望を“音楽”を中心にして描いた本作は、彼の作品の中でも特に映像化が望まれていたものだ。

映画音楽を担当するのは、これまでインディーレーベルより1stアルバムをリリースし、ひっそり活動していた、バンド・ストレイテナーのホリエアツシ氏によるソロプロジェクト、ent。ストレイテナーで一線を走り続け、今も音楽と向き合い続ける彼の目に『ソラニン』で描かれる若者の姿はどう映るのだろうか。



自分ひとりでつくるとすべて自分のさじ加減

── ソロプロジェクトであるentの活動について教えてください。

entはストレイテナーでこぼれたアイディアを捨てずにとっておいて、バンドではできないことをやっています。バンドのファンよりもエレクトロニカなんかが好きな人たちに聞いてほしくて、流通のさせ方もあえてどインディーに1stをリリースしてます。

── 1stアルバム『Welcome Stranger』はレコードショップのLinus Recordsが運営しているPreco Recordsからリリースされていますよね。

もともとLinus Recordsには客として行っていたんですけど。店長さんがブログでストレイテナーを評価してくれてるのを見て、お店で声をかけて仲良くなりました。「ポスト・ロックとかエレクトロニカ好きなんですね」って言われて。僕からしたら、そういうお店やってる人がストレイテナーを聴いてくれてるのに驚きました。コアぶってメジャーなものは聴かないっていうのではないところに共感したのがPreco Recordsからリリースしたきっかけです。

Linus Recordsは現在、ウェブショップにて営業中
→ 『Welcome Stranger』の解説はこちら


── バンドで音楽をつくるのと、ひとりでつくるのは違いますか?

バンドで曲を作るって奇跡みたいなもんなんですけど、自分ひとりでつくるとすべて自分のさじ加減で、リズムをつくって並べたものを入れ替えたりできるので、責任感がないというか。バンドだともう一回スタジオに来て「ここ、ブレイクする感じで叩いて」とか、そんな横暴なことなかなか言えないですから(笑)。


普段から映画を見ながら
ギターを弾いてたりしていて

── 映画『ソラニン』の音楽を担当するに至った経緯を教えてください。

三木監督とプロデューサーさんに『ソラニン』の世界観とentの曲があうということで、お話を頂きました。その時、ちょうど原作の漫画も読んだばかりで、こんなに映画化されるべき漫画もないと思っていたので嬉しかったです。

── 映像にあわせて音楽をつくるという作業はいかがでしたか?

割と素直にできましたね。今回求められた音楽が、entそのままだったので凄く楽だったんです。

映画は好きで、ハリウッド映画はもちろん観るし、フランス映画、ジブリとかディズニーも観るんですけど。普段から映画を観ながらギターを弾いてたりしていて、いい曲出来ちゃった時とか、映画の内容完全にとんでる事もあったりして。『シックス・センス』のラストを見事に見逃しましたよ(笑)。

今回、映画『ソラニン』のサントラがリリースされるんですけど。映画の中では数十秒の断片で使われている曲もサントラ版では一曲に仕上げています。歌が入っていなかった曲も、後から歌を録って、ちゃんと展開を加えて、ビートを乗せてます。映画は映像ありきなので、アルバムとして聴き応えは十分ではないかもしれないけど、格好良い曲は格好良く仕上がっています。

ソラニン_sub02
(c)2010浅野いにお・小学館 / 「ソラニン」製作委員会  写真:太田好治

二人でひとつ、
裏表な関係が子供っぽい中でも凄く美しくて

── 『ソラニン』では夢と現実に葛藤する若者の姿が描かれていますが、そんな彼らに共感されましたか?

映画になると実際の人間が演じているので、原作の漫画を読んだときよりも表情がダイレクトに伝わってきて、自分でもびっくりするくらいに感動しました。種田の何考えてるか分からない部分を高良君はうまく演じていると思っていて。そういう部分は自分にもあるんですけど、種田よりももっとタフぶってたので。

── 確かに、種田は芽衣子にだいぶ依存していますよね。

誰かに依存してたまるもんかっていう(笑)。
『ソラニン』の中に描かれるあの関係は美しくもあるんですけどね。二人でひとつ、裏表な関係が子供っぽい中でも凄く美しくて。それはそれでいいなとは思うんですけど、自分は結構歳を重ねたのでこっからああいう感じは味わえないのかなと。

でも、自分の両親を見ていると近いのかなと思います。全然食えない時代に結婚して、本人たちは苦労だと思ってないかもしれないですけど、苦労して…。…やばい。今、虎舞竜の歌詞が出そうになりましたけど、そんな感じの20代を送ってるんですよね。『ソラニン』で両親を思い出すという(笑)。

ソラニン_sub01
(c)2010浅野いにお・小学館 / 「ソラニン」製作委員会  写真:太田好治

ライブハウスでお客さんいなくても
やり続けるってのが鉄則ですからね

── バンドで音楽をやっていくという面で、ご自身の思い出と重なる部分などありましたか?

これは種田にアドバイスなんですが、いきなりメジャーじゃなくて良かったかなって。今はどうか分からないですけど、インディーズってそんなに敷居高くないので、一人でやってるようなレーベルも多いから。少しでも光るところがあれば育ててみたいって思ってくれる人もいると思うんですよ。

僕らも最初は何をやっていいか分からなくて、なかなか前に進めない感じはあったけど、めげずにやってました。発表の場を探すっていうのが大切で、ライブハウスでお客さんいなくてもやり続けるってのが鉄則ですからね。


(インタビュー:世木亜矢子、大場小麦 文:大場小麦)



ent プロフィール

「ent」はホリエアツシのソロプロジェクト。1998年にオリジナルバンドSTRAIGHTENERを始動。90年代UKロック、2000年代USインディーの影響を受けつつも独自の音を鳴らす楽曲性とライブパフォーマンスが高い評価を得る。ボーカル、ギター、キーボード、殆どの曲のソングライティングを担当。 バンド活動の傍ら、エレクトロニカやポスト・ロックなどの幅広いサウンドに感化され、海外のインディーアーティスト達の音楽に向かう自由な姿勢やスタイルに共感し、2006年頃から一人で作曲を開始。2009年2月に1stアルバム"Welcome Stranger"をリリース。エレクトロの精巧さとアコースティックの温もりを兼ね備えた、パーソナルでセンチメンタルなオルタナティブサウンドを鳴らす。
公式MySpace




『ソラニン』
2010年4月3日(土)、全国ロードショー

出演:宮﨑あおい、高良健吾、桐谷健太、近藤洋一(サンボマスター)、伊藤歩
原作:浅野いにお 『ソラニン』(小学館ヤングサンデーコミックス刊)
脚本:高橋泉
監督:三木孝浩
公式サイト

自由を求めて会社を辞めた芽衣子と、フリーターをしながらバンドを続ける種田。未来に確信が持てず、寄り添いながら東京の片隅で暮らす二人。だが、芽衣子の一言で、種田はあきらめかけた想いを繋ぐ。種田はバンド“ロッチ”の仲間たちと新曲「ソラニン」を完成させ、レコード会社に持ち込むが、反応のないまま日々は過ぎていく。そんなある日、種田がバイクで事故にあってしまう。遺された芽衣子は…。





リリース情報

ent 『ソラニン サウンドトラック feat.ent』

劇中で使用された音楽をベースにしながら、それぞれを楽曲として完成させて収録したサウンドトラック

2,100円(税込)
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ent 『Welcome Stranger』

1,890円(税込)
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ストレイテナー 『CREATURES』

2,800円(税込)
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